鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-38話

「……心配しないで司令官、私たちはずっと一緒だから大丈夫!」

 

 

 

第五-38話

 

 

 

ザワザワ…ガヤガヤ…

 

 

 

「お待たせしました。お並びのみなさん、どうぞこちらへ!」

 

「いらっしゃいませー」

 

「いらっしゃいませ!」

///

 

「いらっしゃいませー。うん……ネビュラだいぶ慣れてきたね……」

 

「そうだね、りりぃ。さいしょはすごくきんちょーしてたからね」

 

「一般市民が相手なんだぞ。鬼どもを相手にしてきた身としては勝手も分からぬ」

 

「ねびゅらはがんばってるよ。くーもまけないから」

 

「ああ、今日のこの催しは提督殿のご厚意だからな。お互い頑張って役目を全うしよう」

 

 

「あのさー、優待券ってのもらってきたんだけど。コレ使えるの?」

 

「失礼、拝見します。……はい、本日15時半までに限り軽食一回分を無料でお出し致します。いつでもご利用いただけますが……さっそくお使いに?」

 

「んー、いや後にする。ありがとなメイドさん」ノシ

 

「どうぞごゆっくり」ペコ

 

 

 

「たいしたもんだ……みんな本当に頑張ってくれてるんだな」

 

「そうでしょ~。ビックリした、提督ちゃん?」ニコリ

 

「ビックリしたし何より本当に嬉しいよミルディ……これなら次回もその先も安心して開催できる。短い準備期間でよくここまで教えられたね」

 

「私、陸の上での生活が長かったですから。それにほら、あの子たちって器用だし」

 

「そうだけど……それでもやっぱり大したもんだよ。今日は初回だからゼロプライス多めだけど、次からはしっかり値段設定する。お前たちの蓄えにしっかりプラスできるようにね」

 

ギュッ

 

流れるような身のこなしで俺の手を自らの両手で包み込みながら、顔の高さへと導いてゆくミルディ。

 

「提督ちゃん……ありがとうね。私たちのために、ここまでしてくれるなんて」ギュ

 

「元はと言えば、そもそも俺がタルトたちの接待パーティーを台無しにしたわけだからな。埋め合わせはしっかりさせてもらう……ミルディやみんなが喜んでくれるなら何よりだ」

 

「もちろんよ! 私もみんなも、心の底から喜んでるもの! あのね、みんなこの国に生きる市井(シセイ)の人々との初めての交流をね、本当に楽しんでいるの……。お給料を頂いたから貯金はちゃんとできてるのに、ここまで………私たち、に…………」グスッ

 

「ミルディは感激屋さんだな。初めて会ったときはクールな印象だったよ」

 

長いあいだ張り詰めていた緊張感が緩んできたんだろうな。いまのミルディこそ彼女が他者に見せまいとしてきた本当の姿なんだ。

 

「ご、ごめんね…私…」///

 

「謝らなくていい。この前言ったろ? ミルディは厳しく振る舞うよりも本来の優しさを出して振る舞うほうが威厳あるってさ。どんどん自分を出してほしい」

 

「提督ちゃん……」

 

少しビックリした表情を見せたミルディ。でも直ぐに、はにかんだ表情に。

 

「もうしばらく頑張って。俺は他のみんなのトコも見てくるよ……直ぐに戻らなくていいよ、気持ちが落ち着いてからでいいからね。それと写真撮影には気を付けて……ネットにアップされてるのは確実だからな」

 

「うん、分かった……全員ウィッグとかで変装してるしメイド服の露出度も低いから、目立たないけど……気を付けるよ」

 

「みんなキレイだからその程度の変装じゃ魅力を隠しきれてないけどな……それじゃ、頼んだよ。また後で」

 

「うん……」ノシ

 

 

 

 

 

ドドドドドドドドド……!

 

 

 

来たか。

 

「お兄いいいいいい!!」ドゴオオン!

 

「うおおおおおお!!」ガシイィッ!

 

ズザザザザザ……!

 

北方棲姫の抱擁タックル……相変わらず元気いっぱいだ。

 

「ふわぁ……うけとめられちゃった。お兄すごい!」ニッコー

 

「クッキー、そのメイド服かわいくて似合ってるぞ。みんなは?」

 

彼女、北方棲姫は姫グループで九号と呼ばれていたらしい。そこで試しにクッキーって名前を提案してみたら、とても気に入ってくれたので即採用。

 

「へへ~ありがと! タルトはモテモテだよ、さっきも男が大勢あつまってたんだ!」

 

やっぱりな。いくら変装してもあの美貌は隠せない。しかも第五艦隊でたくさんの男を魅了してきた話術と包容力の持ち主なんだから。

 

「ファンクラブができても驚かないよ。ここはフィッシングとランチとリラクゼーションのエリアだったな。ここの担当はクッキーとタルトに、よっちゃんとはっちゃん……あと、雷巡の副隊長たちだったな」

 

「ヘッドギア外したとこ見たの初めてだよー! 八人ともちゃんと違うおカオだった!」

 

「接客はどんな感じ? やりにくそうとか、そういうのなかった?」

 

「えーと……ううん、だいじょうぶ。ミルディが教えたとおりにできてるよ」

 

「そっか、よかったよ。クッキーはどうだい、楽しんでるか?」

 

「うん、楽しい!! 知らない人とお話したりね、お菓子やジュース持っていってあげたり………とっても楽しいの!!」///

 

本当に心から楽しんでるって分かる表情のクッキー。はやくこの戦い、終わらねえかな………そうなればみんな、毎日こんな素敵な表情を見せてくれるだろうし。

 

「提督! 我らの様子を見に来てくれたのか」

 

「司令官……お疲れ様ですぅ」

 

「あの…………お、おつかれさま……です」///

 

「よっちゃん、はっちゃん、お疲れ! ………と、ええと」

 

誰だっけ………あ、もしかして!

 

「副隊長のひとり……だね? こうして話すのは初めてだよ。調子はどう?」

 

「な、なんとか……です。あの……提督、きょうは……ありがとう。私、がんばります……」

 

「俺のほうこそ。初めての土地に連れてきたりいろいろと強引だったと思ってる。今日だって……」

 

「いいえ。新しい生活は暖かいお布団や美味しいお食事がいっぱい。そしてここで暮らす人々との出会い。とても嬉しい……。ミルディは島を離れるのが辛そうでしたが、でも……」

 

「うん」

 

「彼女もいつか、きっと実感します。この国こそが私たちの居場所なんだって」

 

「そうだな……。ああ、その通りだ。これからはみんな、ここで暮らしていくんだからな」

 

「はい」///

 

「提督」

 

「司令官……」

 

「お兄、私も?」

 

「もちろん。クッキーもみんなと一緒だ……ここでずっとだよ。タルトは何処に居る?」

 

「あれ………さっき男にかこまれてたのに。よっちゃん知らない?」

 

「いや……そういえば見当たらんな。八号、知らんか?」

 

「もぉ~。八号じゃなくてはっちゃんだってば」

 

「おっと…そうだったな、すまない。で、どうなんだはっちゃん」

 

「タルトはよく働いてるからぁ~、あちこち動き回ってるの。男の人がいっぱい居るところに行けばきっと見付かります~」

 

なんだか魚の群れを探すときに、海鳥のたくさん集まってる場所を目印にするのとそっくりだな。

 

「分かった探してみるよ。みんな、引き続きよろしく頼む。また後でね」

 

 

 

 

 

どうやら今日のイベントは成功間違いなさそうだ。お客の数はざっと見ただけでも優に100を越えているし、表情には満足そうな色を浮かべている人が多い…それもこれも、彼女たち艦娘の働きが素晴らしいからだな。

 

 

 

「よう! なかなか繁盛してるじゃねえか」

 

「あ……課長! 来てくれたんですね。ありがとうございます」

 

「デスクワークなんざやってられるかってんだ。今日は久々にゆっくりできるんだ……お前のイベントを視察するって大義名分のお陰でな」ニヤリ

 

「……課長って何だか、現役の頃の情熱をそのまま持って背広組になったって感じがします」

 

「ワハハハハそうか! そう見えるか!」wwwww

 

屈託のない笑顔。こういう時の課長はまるで少年みたいだ。

 

「なあ、いつもの制服はどうしたんだ? お前だと気付くまでに時間が掛かったぞ」

 

「あの服のほうがいいんですけどね。この会場には合わないと思ったので、今日はこの通りラフな格好ですよ」

 

「雰囲気を壊さないように、か。確かにそうしてると来場者みてぇだな……だが警戒心を忘れるなよ。敵はもうズタボロだがそういう奴は何をしでかすやら分からんからな」

 

「はい。そして……昨日の件では、お騒がせして申し訳ありません」ペコリ

 

「構わん……お前のその顔と腕のキズ見りゃ分かる。男らしく正々堂々と何かのルールに則(ノット)り勝負を挑むならまだしも……防具すら着けずに殴るなどクソのやる事だ。お前の報告書は読ませてもらったぞ……それと、第二室長からの報告書もな。今朝、古鷹殿がわざわざ司令部まで届けに来てくださったんだ。お前のことを熱心に庇っていたぞ……何ページもな」

 

アユム……あいつ。

 

 

 

「ちょっと疲れたね……どこか休憩できる場所は…」

 

「んーそうだね。ココってけっこう広くてビックリしたよー。いつも立入禁止だったもんね」

 

お客だな……夫婦か恋人同士って感じの若いカップルだ。

 

「休憩所ならこのまま真っ直ぐの所です。食事もできますので、よければどうぞ」

 

「あ……そうなの。行ってみる?」

 

「うん行ってみよ。どうもですー」

 

「ご来場ありがとうございます」

 

立ち去るカップル。そしてふたりを見送る俺と課長。

 

「なかなかなモンじゃねぇか。お前にゃそうやって艦娘と一緒に働くほうが似合ってるのかもな……戦闘よりも」

 

「でも今は、戦闘に集中するようにしています。古鷹は何か言ってましたか?」

 

「指揮官と同じだよ……お前を庇っておられた。話が途中だったが、俺はお前たちの報告書を読む前から分かっていたよ。お前がきちんと結果を出すだろうってな。だから昨晩、アイツが青ざめたツラして俺んとこに顔出した時にな、俺は何のためらいもなく処分を言い渡すことができたんだ」

 

そうか……もう処分が……。

 

「先週の月曜日……お前に特務分室室長の任に就かせる指令を伝えたな。あん時な、最後に俺が言ったこと覚えてるか?」

 

そういえば……何か言われたぞ。ええと………。

 

 

「……さっき第二・第三艦隊と肩を並べるなんて言ったが、ありゃ間違いかも知れん」

 

今までで、最も楽しそうな笑顔を浮かべた課長。

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

噛んだよ。カッコ悪っ!

 

「今のお前なら上層部はもう、頼りない新人扱いなんてしないってこった。特に、それが貴重な存在である艦娘の意志に関わる事柄ならな」

 

???

 

「ハハハ、きょとんとしやがって。まあいい、気を付けて帰れよ。ほら指令書だ」パサッ

 

 

思い出した。あの時は課長の言ってる意味がよく分からなかったけど……。

 

「覚えてますよ。課長、今なら分かります……あの時の言葉の意味。課長は、我が第八艦隊の規模が第二・第三艦隊に並ぶどころじゃなくて、ずっと大きくなるって予言してたんですね。実際、どうやらその通りになりそうですよ……もしかして課長には分かってたんですか?」

 

「傍(ハタ)から見てりゃ分かるさ。岡目八目って言ってな……。お前はな、艦娘からとても評価されてるんだよ。だからあの人たちがどんどんお前んとこに集まってるんだ。俺たちの派閥連中もお前を評価してるが、その重みは比較にならん。あのヤロウが誰の操り人形だろうとな、お前は負けねぇよ…こちらもある程度は黒幕の正体に関して予想を立ててるけどな。俺たちと……そして何より、あの人たちがお前を後押ししてるんだぜ。頑張れよ、あと少しだからな」バシィ!

 

背中に激励の一撃。凄い力だ……あの野郎なんて比較にならないってハッキリ分かる。それでいて、ちっとも痛くなくて……心を奮い立たせてくれる。そんな不思議な感覚。

 

「はい……課長。きょうはわざわざ、ありがとうございました」

 

「他にも何人か来てるんだよ……お前のくれた優待券を持ってな。さしずめ、会場内の治安対策に、かな」ジーッ

 

バレてるよ。さすが課長だな。

 

「降参します! 帰りの道中、お気をつけて」

 

「ああ、ありがとよ……おっと忘れるとこだったぜ。お前、なんであのクソに勝った後でいろいろ問い詰めなかったんだ? お前だって言いたいことは山ほどあったんだろうが」

 

「ええ確かに……でも、あの時はそれがマズいかなって思ったんです。興奮してましたし、あのままじゃ余計なコトまで言ったかも。大切なのはパワハラを止めさせることです。あの野郎を必要以上に追い詰めちゃいけないと思いました……今も同じ気持ちですよ」

 

「…………そうか」

 

「それにアユムが……あ、第二室長が後を引き受けてくれましたから」

 

「ああ、立派な報告書だったよ。お前を庇う記述が多過ぎたけどな……お前の言い分は分かった。後はこっちに任せとけ。今日のイベントの報告書、忘れるなよ!」

 

 

 

          続く

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