鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第五-39話「任務達成」

「……お前の言い分は分かった。後はこっちに任せとけ。今日のイベントの報告書、忘れるなよ!」

 

 

 

第五-39話「任務達成」

 

 

 

ピンポンパンポ~ン

 

 

 

「本日はご来場くださり誠にありがとうございます。みなさまにお伝え致します……現在、時刻はちょうど四時でございます。あと三十分でイベントを終了させていただきます。お忘れ物などなさいませんよう、お気をつけになってください………」

 

場内アナウンスだ……もうそんな時間なのか。司令部の人たちには一通り挨拶したし、あとはタルトだけだな……料理を担当してくれた業者スタッフによると、数人の男のグループと一緒にこっちへ向かったって話だったけど……だんだん周りに木立や芝生といった緑が多くなってきたな。第六艦隊の鎮守府だった頃には休憩や気分転換の場所として使われていた区画なんだろう。

 

「……………さ………レイだよね……」

 

 

「ほん…………そうだね。まるでモデ…………………」

 

複数の男のものと覚しき話し声だ。近いな……こっちか。……ん? 遠くに見えるあの山……そうだ、艦隊のみんなや妖精さんたちと一緒にココへ来た時、俺と雪風が隠れていたのがあの辺りだったな……。つい先月のことなのに、何だかもうずっと前のことみたいだ。

 

「ふふ……ありがとうございます。でもみなさんのほうこそ、ちゃんとリフレッシュできましたか?」

 

「すげぇ元気でたよ! メイドさんのお陰さー」

 

「俺も俺も。マッサージすっげえ上手でビックリしたし! またやってほしいわー」

 

タルトはリラクゼーション担当だったな。かなりの力仕事だが、いくら陸上制約があるとはいえ戦艦のタルトなら問題はない………ひとり、ふたり……男は5人か。全員若いな、アユムとあまり変わらない感じだ。タルトは………居た。男たちの輪に囲まれて談笑している。

 

「もしも次回の開催があればまたお越しくださいね。おもてなし致します」ニッコリ

 

「マジで!? そんなら俺さ、絶対来るし!」

 

「僕も僕も。楽しみだなあ」

 

「メイドさんに会えるイベント………もしも次やらなかったら主催者は単なる無能……許しませんフヒヒ」

 

聞こえてんぞこのヤロー。だがしかしタルトの魅力が分かるってのはナイスだ。

 

「………無能じゃありません。タルトにとても優しくしてくれるんですよ?」

 

「え……メイドさんさー、タルトって名前なの? なんかプロっぽくね」

 

「なぁメイドさんもしかしてさ、主催者ってメイドさんのオトコなわけ?」

 

「なんですと! それは聞き捨てならん!」

 

「たりめーだろ。こんなにキレイでしゃべりが上手いんだぜ。オトコがほっとくワケねーじゃん」

 

「な、なるほどな。拙者としたことが……」

 

「ね、お姉さんドコのお店から来てるの? やっぱり東京のほうとか?」

 

「え………あの。その……お店?」キョトン

 

ポン。

 

「あ………」///

 

「なあコイツの質問に答えてやってよー。俺も聞きてーしさ」

 

「あ、なに気安く肩なんか触ってんだよ。俺だって」ギュッ

 

「ああっ……だ、ダメ……です」///

 

「まあまあそう言わないでよ……メイドさん、さっきはほんとキモチよかったよ。ありがとう」ギュッ

 

「ど……どういたしまして……。喜んでくれたならタルトも嬉しい……」///

 

「そりゃもう。うわ……手ぇスベスベだね。すげえキレイ」ギュッ

 

「あは……あ、あり……がとぅ」///

 

「ん………メイドさん何だか顔が赤いような。大丈夫でござるか?」ピトッ

 

「……………!!」ビクン

 

「どうよ?」

 

「ふむ。熱はないようでござる……」

 

「タルトを……心配してくれてるの……? はぁ……はあ……」///

 

「お、おいメイドさん平気? なんか様子がヘンだぜ……どうなってんだ」|||

 

「ああ……目が…とろけてるような」|||

 

「ちょ………メ、メイドさん?」|||

 

「なに引いてんだよ。僕たちをリラックスさせるためにこんなステキな場所まで連れて来てくれたんだよ? 芝生に寝かせてあげようぜ……ほらメイドさん、ここに」ファサッ

 

自分が着てるパーカーを芝生に……かよ。あの男、どうやらリーダーっぽいな。優しいトコあるじゃないか。

 

「そ、そうであるな。メイドさん、拙者につかまって……ほら寝かせるでござるよ」

 

「はぁ…はぁ……はいぃ…ありがとう…ございますぅ」

 

むにゅん

 

「あぁ…ッ」///

 

「うほっ!」

 

タルトを支える腕に豊満な胸が触れたもんだから奇声を発しやがった……リアクションと本能がゼロ距離で直結してるなアイツ。

 

「うっせーよ……何ヘンな声だしてんだよ」

 

「な、なんでもないでござる!」ドキドキ

 

「ほらほら大きな声ださないで……メイドさんビックリするだろ」

 

「あ……不覚。メイドさん許してくだされ」

 

「い、いいんですよ……少し楽になりました………みなさん……ありがとう」///

 

「けどよ心配だぜ。俺、さっきんトコ戻って誰か他のメイドさんに伝えてくるわ。お前らメイドさん見とけよな」

 

「わーってるよ、さっさと行け。しっかり頼むぜ」

 

「おう」ザザッ

 

 

どうやらタルトの男好きが発動しちゃったみたいだな……それにしても気のいい連中だ。よし、そろそろ行くとするか。

 

ガサガサッ

 

「あん?」

 

「おやぁ……どちらさまでござる?」

 

「あ、えっとこれは、なんでもなくてその……」

 

「メイドさんの具合が悪いみたいで……ここの関係者ですか?」

 

「ああ、そうなんだよ。会場を見回りながらその子を探していたんだけど……どうやらお世話になったみたいだね。ありがとう」

 

「よかったあ。ツレがメイドさんの仲間を呼びに行ってるんです。メイドさん、あなたを探してる人が来てくれたよ。ほら」

 

「え……?」

 

(タルト、具合はどうだ? イベントは大成功だよ、お前たちのお陰でね……ありがとうな)

 

「あ…あぁ…て…ていと…」///

 

「帝都? なにやら古風な単語がでてきたでござる」

 

!? ちょっ……! それは俺たちの正体を知らない人の前では言っちゃいけない禁止ワードだろ! やべえ!

 

ズザザザザ!!

 

 

ギュウウウッ!!!

 

 

「あはあぁあん!!」///

 

「うほおおおお!」///

 

「いやだからオメーそれやめろっての」

 

「うわスッゲ……見えなかったわ」|||

 

「僕も。それに……なんて情熱的なハグ」ジーッ

 

(タルト落ち着けえええええ! それダメだから! ほかのどんな呼び方でもいいが提督はダメだ!! あとモチロン司令もな! な! な!)|||

 

「あ……はいぃぃ………あはあ……ご主人様あ………」///

 

念話で話し掛けてんのに素で返事してる……こりゃかなり興奮してるな……。

 

「フヒヒご主人様キター! それでこそ真のメイドさん!! キタ━(゚∀゚)━!」

 

「なんで涙目で喜んでんだよ。つーかメイドさんなんかスゲー元気になったな」

 

「ああ、チカラみなぎってるじゃん……フラフラだったのに」

 

「残念……僕らじゃムリかあ……すごくタイプなのになぁ」

 

このメンバーならみんなに良い影響を及ぼしてくれそうな気がする。鎮守府の中だけじゃなく、もっともっと広い範囲の人々と付き合わなくちゃダメなんだ……よし決めた。

 

「また来てくれるんだろう? 他のメイドだって魅力的な子がたくさん居るんだからね」

 

「そ、それはもちろんでござる! ということは次も!?」

 

「ああ開催するよ。約束する」

 

「うおぉやったぜ! 俺、ゼッテー来るし! オマエラはいいわ」

 

「ざけんな。俺だって来るにきまってんだろ」

 

「我が守護霊たるニンフよスプライトよピクシーよ。愚かなるこの者どもを滅ぼさんと欲(ホッ)す。我が願い聞き届けよ……我にチカラを……以て邪悪なる者どもに裁きを………」フオオオ

 

「んなコトで妖精に頼ってどーすんのさ。えっと……ツレがメイドさんと一緒に戻ってくると思います……担架ありますよね」

 

「ああ、スタッフルームにちゃんと備えてあるからきっとそれ持って……んぷぅ!?」

 

「ひょええええええ?!」

///

 

「いやだからオメーさあ……いやもういい好きにしろ」

 

「…………わぁ」///

 

 

「あむっ………じゅるっ………あふう………ああ……くちゅう………」///

 

俺の首の周りにしっかり両腕を巻き付けてキスしてくるタルト。そしてその様子を見ている4人。

 

「くーたちはね、いつもこうなの………たたかったあとはね、すごくきもちがこうふんして……からだがあついの」

 

思っていた通りだ……リッティとの戦闘で体が火照っていたんだ。それが分かっていたから、このイベントで新鮮な体験をすることで欲望が昇華されるように手筈を整えたんだが……タルトにはイマイチ効果が足りなかったか。他のみんなは問題なさそうだったから、彼女も同じく何とかなるんじゃないかと思ってたんだけどな。

 

「じゅるる………くちゅ……はふ……んふ…れろ」///

 

「…………………」

 

4人とも全く声を発することなく俺たち……いやタルトの方を食い入るように見詰めている。

 

「んふぅ………ちゅるう……ご主人様ぁ……タルトのおっぱい触ってえ……」ガシッ

 

な………ッ! すげえ……ものすげぇ腕力! ウソだろ…まだ補正が上がり続けてるのかよ!?

 

むにゅう……ぐにゅう!

 

「ふひゃあ!!!」///

 

「…………すっげ」

 

「すごいや………メイドさん、その人のことそんなに……」

 

「あはぁ………うふふ。ご主人様のおてて凄く気持ちいい……あの夜は引っくり返されちゃいましたけどぉ」

///

 

ぐにゅっ……

 

「きょうは逃げられませんよぉ………ほらあ……もっとぉ……」ギュムウ…

 

まったく……戦闘では一切スキを見せないタルトなのにな。今はまるで周囲に注意を払っていない。俺の方ばかり見ている……。だから向こうから歩いてくるミルディたちに気付いていない。彼女たちに何とかしてもらってもいいが……それだとタルトが責められてしまう展開かも知れないな。それなら……

 

「タルト。ひとつお願いがあるんだが」

 

「くちゅう……ふえ……? お願い、ですかあ?」ペロ

 

「ああ。いっぺんお前をだっこしてみたいと思ってたんだ。いいかな?」

 

「ええ……私…大きいからムリですよぉ………170cm以上あるんですからぁ」

 

「知ってる。だからさ……お姫様だっこってやつのほうだよ」

 

「え…………」///

 

「それならカンタンにできるからさ。な、いいだろ」

 

「でも………それじゃおっぱい触ってくれないじゃないですかあ」

 

「タルトはイヤなのか? 俺にお姫様だっこされるのが」

 

「そ、そんな! そんなワケありません!」クワッ

 

お。普段の口調が戻ってきたぞ。

 

「さっきタルト、あの夜のこと言ってたな………俺もあの夜にハッキリ言ったぞ。タルトのことが好きだってな」

 

「! ご主人様……タルトにお、お姫様だっこ……してください……」///

 

「おほおおおおお! メイドさんよく言ったああ!」ブワッ

 

「………オメーほんとブレねーのな」

 

「もうすぐ門が閉まるね。僕たちもそろそろ帰らなくちゃ」

 

「だな。ダラダラしてたら今日の楽しさがうすれちまうわ」

 

「よし分かった、それじゃいくぞ…………よっと」

 

 

フワリ

 

 

俺がタルトを抱えあげるのと同時に絶妙のタイミングで地面を軽く蹴ってくれたから、彼女の体は軽々と舞いあがる……そして両腕でしっかり受け止めたその拍子に、ウィッグの黒の下から舞い踊る本来の寒色系の美しい髪が少し見えた。でも他の4人は気付かないだろう……辺りは夕焼けに包まれているから視界は昼間のように鮮明ではないし、タルトとの距離だってそんなに近くはない………もちろん、あくまでも物理的な意味で。精神的には……どうなんだろう? さっき一瞬とはいえ、ドン引きしてたのが気になるけど……タルトの良い友達になってくれたらいいんだけどな。そしてやがては……地域の人々も。そしてタルトとだけじゃなく、他のみんな全員とも、だ。

 

「行くぞ。さっきみたいにしっかりつかまってなよ」

 

「はい、ていと……ご主人様」ギュッ

 

「みんなも。今日は本当にありがとね」

 

「いいえ、それほどのことは……。行こう」

 

「楽しかったでござる。それにしても帝都とは結局、なんだったのやら……」

 

「あっという間だったな。ちょっとビックリしたけど」

 

「………メイドさん嬉しそうだな」

 

 

(長波、聞こえるかい?)

 

(バッチリだよー。そこを見渡せる丘の上に居るんだ。今日もイロイロお疲れ様、提督みてるとほんと飽きないぜ)クスクス

 

(あの4人……いや5人のこと、どう思う?)

 

(ずっと見てたけどイイ子たちだね。3人はちょっとワルを気取ってるけどその年齢ならちっともヘンじゃないよ)

 

(同感だ。他のエリアはどうだった?)

 

(問題ナシ! 秋雲が退屈だって言ってた)

 

(そうか良かった。司令部の人たちとお前たちのお陰で無事に終われる。ありがとう)

 

(提督はほんと抜け目ないねー。タルトの様子はどうだい?)

 

(どうやらすっかり落ち着いたみたいだよ。さっきは少し驚いたけど)

 

(だから言ったでしょ? タルトはしっかり発散させてあげなくちゃ)

 

(長波の言う通りだ。イベントでの経験が衝動を抑えてくれると思ったんだが甘かったよ)

 

(お店でのタルトは落ち着いてたよ? 男の客に次から次へとマッサージしてあげてもね、ちっとも興奮してなかったし)

 

(だろうな。タルトは真面目な艦娘だからな、仕事中は決して自分を見失ったりしないよ。ただ、屋外の開放的な雰囲気はマズかったな)

 

(それはこれからの課題だね。……さてと、どうしよっか? もうしばらく巡回しとく?)

 

(いや、もう終了してくれて構わない。ありがとな、長波……みんな、ありがとう。お疲れ)

 

(ん、分かったぜ。ミルディと護衛とさっきの男子がそっちに向かってるからね)

 

(ふぃ~おわったおわったー。お疲れ様~)

 

(ね、提督。なかなか個性的なメンバーじゃん? なんだか楽しくなりそう。お疲れ様ー)

 

(お疲れ様…です……それでは私はこれで………)

 

 

(提督……ずっと………タルトのこと………)///

 

(当たり前だろ。勿論、これからもね。よろしくなタルト)

 

(………………!!)ギュウウゥ

 

 

 

 

 

パクパク……モグモグ

 

 

 

「このちょこおいしい。しれえも……はい、あーん」つ

 

「お、ありがとうくー」パクッ

 

「わー大胆! くーの指ごと舐めちゃった!」

 

「最初は俺がしてたんだけどな。いまはくーもこうして俺に食べさせてくれるんだよ」モグモグ

 

うん美味え。

 

「くっきー。おたべ」つ

 

「ありがと!」パクッ

 

「うわあくっきーもだいたんだね。しれいとかんせつきす」パクッ

 

「あはは、いきおいついちゃった。うまくチョコだけ食べようとしたけどさ」

 

「いいよ、しれいはみんなのことがだいすきなの。くっきーもしれいとどんどんなかよくすること」

 

「まかせといて。それにしてもアンタ……ちょっと明るくなった?」

 

「そう? じぶんじゃわからない」

 

「クッキーの言う通りだな。くーは明るく、それに表情豊かになったよ」

 

「たぶんしれいやいなずまのおかげ。ここにきてからほんとうにやさしくしてくれたから」

 

「嬉しいよ。それ、電にも言ってあげてくれるかい? ぜったい喜ぶから」

 

「そうなの? わかった」コクリ

 

「それじゃ始めようか。こんな時間にわざわざ執務室まで来て、どんな話がしたいんだい二人とも?」

 

お互いに見詰めあう2人。どちらが話すのかアイコンタクトで確認してる。

 

「あのねしれい……ぱわはらやろーのことなの」

 

! 俺が使ってたアイツの呼び名……だ。

 

「くー、悪かった……どうやらお前の前で汚い言葉を使っていたらしい。すまん、あの男のことは第三室長とか室長と呼んでくれるかい?」

 

「ん………くーがいうとしれいはつらい?」

 

「ああ。別にくーを他のみんなと区別してるわけじゃないんだ。それだけは断言する。あくまでも俺からのお願いだよ」

 

「うんわかった」

 

「クッキーもな。勝手だがこれだけはお願いするよ」

 

「いいよ、お兄のお願いだもん」ニッコリ

 

やれやれ……気を付けなくちゃ。どうやらくーは俺の言った言葉遣いを真似していたらしい。彼女はしっかりしているから、自分で考えて表現を使いわけているだろうと思い込んでいた。くっきーもくーと同様に幼い外見だから、丁寧な言葉遣いをしてほしい。勝手なこと考えてんな俺……ほんと、俺自身が気を付けなくちゃ。2人の前では特に。

 

「しれいはわるいしつちょーをやっつけた。もうみんなしってるよ。でもね……しつちょーはね、なんであきらめたの?」

 

ふうむ。

 

「諦めた……か。ずっと艦娘へのパワハラをしてたくせに、なぜ俺に負けただけでパワハラを止めたのか、それが分からない?」

 

「うん」

 

「そうなの。いきなりお兄をなぐったんだよね……すごくイヤなヤツ」

 

「クッキー。頼むよ」

 

「あ、ごめん。きたない言葉はダメ、なんだね。えっと……負けたらパワハラやめるって約束があるならさ、わかるけど。でもそんなのしてないもん。負けただけでやめちゃうなんてわからないよ」

 

「くー、クッキー。それはな、メンツとかプライドってやつなんだ。男ってのは自分のメンツやプライドをへし折られるとな、ガクッとしちゃうことがとても多いんだよ。それまでの勢いなんて雲散霧消(ウンサンムショウ)……消えてしまうのさ。第三室長はプライドを折られたんだよ。だから意地を通し続ける気力を失ったんだ」

 

「…………………??」

 

納得……してないなあ。こりゃちょっと難しいかも。

 

「えらいひとにおこられたんじゃないよね?」

 

「ああ。課長はそれを懸念していたよ……騒ぎが大きくなってしまうからな」

 

「お兄、むずかしいよー」

 

……幼稚園の先生って本当に凄いと思う。言語能力や周囲の人々との共通認識がやっと発達しはじめたばかりの世代にわかりやすく物事を教えていくんだから。

 

「えっとな、クッキー。組織ってのはとても繊細なんだ。何かトラブルが起きたらな、ちゃんとした方法で対処しないと大変なことになるんだよ」

 

「だったらえらい人が怒ればいいじゃない。そのためのえらい人でしょ。ちがうの?」

 

「そうだよ。こどもをしかるのはおとなのしごと。なんでえらいひとがなにもいわなくてしれいがいたいめをみなくちゃいけないの? ほんとにおかしい」ナデナデ

 

負傷した左腕をやさしく撫でてくれるくー。

 

「二人とも、ファンタジーの町の中でいきなりドラゴンが現れたらみんなどうなると思う?」

 

「ええー! 大騒ぎだよ、みんな逃げるよ!」

 

「だな。じゃあファイターとかシーフは?」

 

「それはふつう。だれもおどろかない」

 

「その通りだ。組織ってのはな、町と同じなんだよ。そこで働く人たちはしっかり役目を果たしたら家に帰ってゆっくり休む。それを繰り返す。そうやって懸命に働いているのにさ、ある日とつぜん騒ぎが起きたら誰だってビックリしちゃうよ。日々を平穏に過ごしたいだけなんだからな」

 

「…しれいぶのえらいひとたちは、どらごんなの?」

 

「そうだ。強大な権力と財力を持つ恐るべき存在だ。そんなのが組織の問題にいちいち対処していたら非常に目立つし、働いている人たちは何事かと驚愕すること間違いなしだ。そんなのは町にドラゴンが現れるぐらいにとんでもないことなんだ。でも、俺みたくただの室長が動くだけなら全く問題ない。それなら目立つこともないし、万が一失敗しても別の人間にやらせればいいだけさ」

 

「はたらくひとをびっくりさせちゃだめなのね」

 

「そうだよくー。組織の静けさを乱す者は絶対に許されない。そいつの選択肢は三つ。心から謝罪するか、組織を辞めてしまうか、それとも」

 

「どらごんとおなじぐらいつよいなかまをみつけてたいこうする」

 

くーは本当に頭の回転が速い。この短時間の会話でもう俺の言わんとすることを察したか……その洞察力は暁にも負けてない。

 

「それが第三室長だよ。だから途中まではうまくいっていた。でもな……ドラゴンと同じくらい強い仲間は結局、ほかにも居たんだ。俺はそのチカラを借りた。そしてあの男は処分を受けた。クッキー、くー。お前たち艦娘のお陰でね」

 

「私も艦娘……なんだよね?」///

 

「歴とした艦娘だよ、誇ってほしい……。あいつは油断してた。あんなことをずっと続けていられると勘違いしたんだ。組織をよく知ってるからドラゴンはなかなか手を出せないと油断した……まさかドラゴンのチカラを借りた凡人が来るとは夢にも思わなかったんだろう」

 

「しれいはぼんじんじゃないよ。わたしたちのしきかんだもん」

 

「ありがとな、くー」

 

「う~ん何となくわかってきたよ。それじゃあもうひとつの問題。なんであの室長はプライドなんか気にしてパワハラをやめたの? プライドってそんなに大事なの?」

 

「男ってのはとにかくメンツやプライドを気にするんだ。もっと上の世代なら矜持(キョウジ)とか誇りって言葉を使う。それを他人に折られたらね、それまでの勢いや気力を失うんだよ。逆にね、折られてないうちは凄まじい力を与えてくれるんだよ。だからプライドを折られていない人間はバリバリ働くし、他人に対して攻撃的な態度を示す者も居る」

 

「ええ~? 組織ってのは静かにしなくちゃいけないんでしょ? おかしいよそんなことしたらみんなおこるよ」

 

「いや怒らない。対立する相手を攻撃するのは社会では珍しいことじゃない。問題にならない範囲から飛び出たりしないように注意していれば、誰も怒らないんだ……たとえば誰も見ていない時に相手を攻撃する、とかね」

 

「ひどい! そんなの卑怯だよ! なんでそんなことするの!?」

 

こんな風に断言できるクッキーが羨ましいな。俺も何十年かしたら、「卑怯なヤツ」になるのかな……ったく冗談じゃねーぜ。

 

「何故ならプライドがそうさせるからだ。太陽が植物に光合成させるのと何も変わらない。プライドは人を突き動かす。プライドは人を豹変させる。そんなシロモノに心を乗っ取られた人間が大勢いるのが社会なんだよ……社会ってのはプライドという暴風が人の数だけ渦巻いてるようなトコなんだ。そして、負けたプライドはもはや暴風になれない……小さなそよ風みたいになるだけだ。その時になって初めて悟るんだよ、自分が今までどれだけ多くの人間を傷付け倒してきたのかを、ね。室長の場合はプライドをへし折られただけでなく、その場面を部下や俺や俺の仲間に見られたんだから致命的だ。ヤツは俺を最初から見下していた……ま、それがスキを生んだんだから自業自得だな。そんな相手に負けて、しかもそれを大勢に見られたんだからプライドは粉々だよ」

 

恐らく生涯級のトラウマだろうな。だが高雄と霞はヤツを見捨てたりしないって確信がある。

 

「プライドってこわいよ。まるで悪魔みたい」

 

「王さまの枕元に現れて、願いを叶えてやるから千人分の国民の魂を差し出せ……ってのと、ちっとも変わんないな。プライドもな、こんな風にささやくんだよ……あいつ生意気だから恥かかせてやれよ。あの部長に好かれたら得するぜ、部長のライバルを潰しちまえよ……こんな感じだよ」

 

「…………………こわい」

 

「うん。ひどいよね」

 

「だから二人には、そういう連中に関わってほしくないんだ。そんなのは俺の役目だよ……あいつはプライドに支配されてたから、艦娘にパワハラするなんて愚行を犯した。そうしていれば自分の居場所を確保できると錯覚してたんだよ」

 

力に憑かれてしまった者の末路だ。

 

「だからかんむすだいすきなしれいはおこったんだね……だからやっつけたんだね?」

 

「そうなんだよね、お兄? そうだって言って!」

 

 

「そうだよ二人とも。あんな奴を放置してたまるか。同じような奴が現れたら、俺は何度だってあいつの後を追わせてやる」

 

「しれい……」///

 

「言ったねお兄」ニッコリ

 

「お前たちにこんな話をするのは気が引けたよ。でもね、今のこの国の現実を知っておけば、不必要な厄介事に巻き込まれることはないだろうと思ったんだ。ほら、もう二十一時を過ぎてるぞ……廊下は真っ暗だから今日は俺の私室で寝るんだ」

 

「うん! しれいおやすみ」

 

「おやすみ、お兄!」

 

「お休み、二人とも」

 

「くっきーはしれいのおへやでねるのはじめてだね。おふとんのばしょおしえるからきて」トコトコ

 

「うん、お願いね」タタタ

 

 

 

 

 

パラリ……

 

 

 

今日の船便で司令部から届けられた書類。これで今日の仕事は終了だな……くーとクッキーの話し声が微かに聞こえてくる。2人が夢の世界に遊ぶのは少し先になるだろう。

 

 

 

歴史交流局広報課第三分室室長に関する懲罰および第三分室の処遇に関する報告書

 

歴史交流局総務課第一調査室

 

零和三年五月二十二日

 

 

 

本日零和三年五月二十二日に第三分室管理敷地内に於て発生したる第三分室室長による特務分室室長殴打事件に関して、当調査室は事態を重く受け止め、当該事件を調査しここに途中報告するものである。

 

……………………………………

……………………………

…………………

 

………第三分室室長は当初、その暴力性を否定し格技教練課程に基づく合同練習に於ける不慮の事故であるとの主張を繰り返していたが、調査の結果、その様な合同練習の事実はなく、第三分室室長の個人的………

………………………………

………………………

 

第二分室室長および同分室事務員の証言によれば、まず第三分室室長による殴打が実施せられ、それに対する特務分室室長の…………

………………………………

…………………………

………………………………

 

第三分室室長による同分室事務員に対する日常的暴力的・暴言的なハラスメントに関しては、当該事務員の数名による証言が……………

…………………………

…………………………………

…………………………

 

絶叫や竹刀での示威行為による威嚇は日常的に行われ、………………………

……………………………

大声による服従の強要、数時間に及ぶ教練課程、その不合理性

……………………………………

………………明らかに社会通念上許容される範囲を逸脱しており……………………………同僚に水分補給を施したる事務員に屋外運動場コースの周回を命じるがごときは、………

…………………………………

…………………………

…………………………………

……なお、第三分室に所属する事務員は今後、特務分室室長の裁量により新たなる所属先が………

…………………………………

……………………

 

 

追記

 

第二分室室長証言に於ける特務分室室長の指摘に関して

 

…………………………………………

………………………………………

…………第三分室管理敷地内入場門守衛室に於ては対応係一名のみ、別室監視係三~五名という奇妙な………

……………………………………

………………………………

…………………明らかに緊急の事態に備えることよりも、不審人物の捕縛に重きを置いた………………………………

………一種の攻撃性……………

………………………………

…………精神鑑定の必要性に関してはこれを認めず、但し継続的な観察を以て事態の………………………………

…………………………

…………………………………

……………………………

 

人事課は既に第三分室室長に対する処分を言い渡しているが、今後、事態の推移に於て変化が発生すれば、その内容は変更の可能性が…………………

……………………………………

 

……………………………………

…………………………

 

なお本書は途中報告に関するものであり、より詳細な……………………………

…………………………

 

 

 

          以上

 

 

 

…………………ヤツの処分はまだ確定していないってわけか。でも課長は、やると決めたことを中途半端なままにしておいたりする人ではない。処分が追加されることはあっても、軽減されることはないだろう。

でも………………

第三室長のパワハラはもう二度と、艦娘に対して振るわれることなんてないんだ。局長と第一室長だってこの報告書を読めば、さすがに暫くはおとなしくしているだろう。くーとクッキーの話し声はもう聞こえない………ゆっくりと休んでいるんだ。物音で起こしてしまうのは忍びない……今夜は久し振りにココで眠るとしよう。それにしても、ウチの新しい編成は随分にぎやかになったな………こうなると予想していた課長でさえ、具体的な数字を見たらきっと驚くだろう。変装しているとはいえ、タルトやミルディの姿も見てもらったし、もう薄々と気付いているに違いない。報告書を提出すれば、一連の艦隊編成はすべて終了だ。もう終わりは近いな………局長と第一室長はいったい、何をやろうとしているんだろう……?

 

 

 

          続く

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