「良かった…頑張ろうね、司令官」ペロリ
……2回目かよ。
指の次は頬。でも、さすがに慣れるわ。
「そう、それでいいの。指揮官は常に冷静にね」ペロ
第四ー2話
バタン… ブロロロオォ……
車から降りて、運転席の職員と言葉を交わしてから、遠ざかってゆくのを見送る俺たち。
人目を避けるために選んだココは、雑木林の中だ。
「この辺りに来るのは五年ぶりだわ。司令官、くーちゃんはまだ起きないわね」
「ああ雷、車外の景色に興奮してたからな。その分、疲れたんだろう…朝も早かったし」
「帰りは暁だからね!」プイッ
「分かったよ、くーが膝に乗りたいって言わなければな」
「言わないわよ、だから私!」プイッ
「あらあら、怒っちゃった。ねえ、くーを連れて来てよかったの?」
「留守番だけは絶対ダメ。彼女の心に孤独感や不信感を生んでしまうからな」
「そうね、分かったわ。他のみんなは、まだなのかしら?」
「もうそろそろだろう、サービスエリアを出たのは二台とも同じぐらいの頃だったし…あれ、あっちで木曾が手を振ってるな」
(どうした木曾?)
(来たぜ、徒歩だ。車はとっくに降りたみたいだな)
(分かった)
「暁、雷。行こう、合流だ」ザッザッザッ……
「提督!」
「明石、それにみんなもいるな。少し体をほぐそう、これから長丁場になる」
「あっ、くーちゃんいいなぁ。司令官さんにだっこしてもらってるのです」
「もう起きそうだよ。…くー、着いたぞ。立てるか?」
「ん…できる」
こうしていると、あの時に感じた動悸が全然出てこないな…今の彼女は無垢そのものだ。
こうやって少しずつ慣れていこう。
「よし、降ろすからな」
スタッ
寝ぼけまなこな様子は全くない。車内で1時間は眠っていたから、元気そうだ。
「ねぇ、司令官さん。くーちゃんもすっかり馴染んだね。……帰るなんて、言わないよね」
「いきなりどうした、電」
「だって……くーちゃんは深海棲艦だったのです。向こうに友だちとかいたら、寂しくないかなって」
そうか、突然いなくなるのが心配なんだな。俺も決して楽観はしていないが、サヨナラする積りなんてねーぜ。
くーの居場所は第八艦隊だ!
…けれど。
もしも彼女の気持ちが違っていたら…?
俺は無理強いしてるのか?
「くー、お前は俺たちの仲間だ。どこにも行かないでほしい。…お前は、海に戻りたいか?」
「え? くーはどこもいかない。ここがおうち」
「あ……」///
(やったな、電……)「そうか、俺たちのそばが、居場所だと思ってくれるのか。嬉しいよ」ナデナデ
「………」ギロリ
暁のレイピアみたいな視線が突き刺さるのを背中に感じるが、スルーしておく。メデューサじみた今の彼女と、視線を合わせるような愚行など犯さぬわ!
「ん~、しれいもみんなもだけど、それだけじゃない」
…あれ?
「ここ。このとち。このひろーいくに。くーは、ここにくるためにみんなとがんばった。まけたけど、けっきょくこれた。うれしい」
ニッコリ
負けた…? ああ、2度目の会戦のことか。
「くー、お前はただ単に、この大八島國(オオヤシマグニ)……この日本に来たかっただけなのか? 攻めるとかじゃなくて?」
「せめない! おうちだよ?」
(確かに、砲撃を開始したのはオレたちからだったな。おい、どうなってるんだ?)
(分からん…判断材料が少な過ぎる、待ってくれ)
……深海棲艦は日本を攻めない、だと……だが、くーは嘘を吐(ツ)いたりしない…俺はそう思ってる。俺たちは…いや、俺たちを束ねる司令部は、何か大きな勘違いをしているのか?
これはいずれ、じっくり取り組むことにしよう。
今は第六艦隊だ。
「分かった、話してくれてありがとう。さあみんな、そろそろ始めるぞ。明石、変装のほうは…明石?」
いない…どこ行ったんだ。
ガサッ
「すみません提督、お話の間に、そこの草むらで着替えて準備してました」
「そうか、それじゃ早速……あ、明石!?」
「どうです、似合ってますか?」
「…ああ、凄く」
現れた明石は見事に変装、いや変身していた。
青のジーンジャンパーに白のベースボールキャップ(海外か?)、そして背中には大きなデイパック。これだけなら別に驚きもしないんだけど…。
「綺麗な黒髪だな。俺は普段のが好きだけど」
「まあ提督ったら」ニコッ
いや本音だぞ。
「勿論、市販じゃないよな。フェンスもビックリしたけど、変装も凄いよ。ただ、その…な」
「あら、どうしたんです? 目をそらさないで、しっかり見てくださいな」ズイッ
以前の俺なら、ここで真っ赤だな。でも木曾と響の言葉は、俺をちょっとばかり変えてくれた。
「すまん、失礼だったな…ちょっと照れたんだ。……うん、似合ってるよ」
ジージャンの胸元は大きく開かれ、白いシャツはUネックなので豊かな双丘の谷間がしっかりと見えている。そして大胆なカットオフジーンズから伸びる足が、太ももから足首まで余すところなく自己主張しながら放つ脚線美。
「凄くセクシーで、カッコいい旅行者だ。さすが明石」
「まあ……! 提督、ありがとうございます!」///
明石の意図が分かった。古典的かつ効果的な手段を明石は選択したわけだ。相手の職員がどの程度の手強さかは知らないが、結果など分かりきってるな。
「第六艦隊の鎮守府は直ぐ近くにある。行くぞみんな、フェスチバーリの開幕だ」ザッ
視界の片隅で、響がニヤリと笑った気がした。
続く
執務室を自由に模様替えできるの良いですね