(国防省ファイル記載の軽巡棲鬼ならびに港湾水鬼、および二体の深海棲鬼をこちらに引き渡すよう求めます……)
やっぱりそう来るよな。でも……こちらの方針には変更ナシなんだよ!
(その者たちは、我ら第一艦隊にとって積年の宿敵。あなた方にこれ以上の負担を掛けることは本意にあらず……後は我らに託されたく存じる次第です)
第六-4話
シーン………
青く澄みわたる大空の下にひろがる広大な大海原の一角は静寂に包まれている。今この場を支配する緊張感が強過ぎるからだ……向こうの艦娘たちは距離の所為で表情が分からないけど、誰も身動きひとつせずジッとこちらに正対している様子を見れば充分だ。でも艦娘は視力が高いから、もしかするとお互いの表情は見えているのかも………。
(こちらの要求は伝えました……返事をお聞かせ願います、特務分室室長殿)ジーッ
プレジャーボートは部下の艦娘たちよりもこちらへ突出しているので、金剛の表情はある程度だけど分かる気がする……いまは穏やかな感じだ。さっきから聞こえてる彼女の声も、とても落ち着いてるな……。でも
(拒否する)
(………………)
あああああ言っちゃったよおおおお! これで金剛の表情も豹変するだろうけど、人々の魂が宿る鬼グループを第一艦隊に引き渡すのだけは断じてダメだ!
(もう戦闘なんてコリゴリなんだよ! これ以上、誰かが沈められるのなんて見たくもねぇ! 軽巡棲鬼たちはウチの艦隊で手当てしたのちに人事課へと委ねるんだ!)
ここまでブチまけちゃったらもう後にはひけないよな……もう緊張なんてしてる場合じゃない。こんな時はみんなに頼るぜ!
(雪風!)
(はい司令!)
(お前からも言ってやってほしい。頼むぞ俺の秘書艦!)
(分かりました! 金剛、聞こえますね? 雪風です!)
(ええハッキリと。雪風……久し振りですね)
(お久し振りです。えっと、金剛は私に……いいえ、私たちみんなにとって特別な存在です。あなたは帝国海軍の誉(ホマ)れ高き軍艦にして、私たち全ての艦船の姉でもいらっしゃいます……でも)
(…………)
(いまの私は司令の秘書艦なんです! 第一艦隊のみなさんならとっくにご存知のハズです、私たち第八艦隊の戦う理由を! あなたとの思い出話はまた次の機会です、今は帰ってください! お願いです!)
(……………)
(ありがとう雪風。金剛、彼女のことも覚えているよね……もう一人だけ、金剛と共に戦った艦娘の言葉を聞いてほしい。 鈴谷、頼むよ!)
(任されたよー! 金剛! おっ久し振りー! 鈴谷だよー!)ノシ
(す、鈴谷……アナタまで第八艦隊に? いや、今は特務艦隊ですか。私たちの要求をアナタも拒絶するというのですか鈴谷?)
(ん~、情報のアップデートが遅れてるって感じ? ダメだよ金剛、そっちはどうせ資金もヒトも設備も豊富なんでしょ? なのに鈴谷たち第二艦隊がこの前、提督んトコに移ったってコトも知らないなんて! これからはちゃんとしなくちゃだよ~! ちょっと気が緩んでるんじゃない?)
(なッ!)
言ったああああ! 最強艦隊の戦艦にハッキリ言い切っちまったああああああああ! 鈴谷なら俺のこの甘っちょろさを一刀両断して気合いを入れてくれると思ったんだ……ありがとう鈴谷! もうこうなったらトコトンやるしかねええええ! ハラ括(クク)るしかねえんだ、やれ、やるんだ俺えッ!!
(それとねえ金剛!)
まだあんのかよ!? いいぜ、何でも言ってやれ! なんだか体の奥からチカラが湧いてきたし!!
(まだ何かあるのですかあッ!?)
!? さっきまでの口調がガラッと変わったぞ。凛々しい姿の中身はもしかして……こっちが素顔の金剛なのか? 元気で快活な女の子って感じだ。
(あはッ、やっぱりムリして喋ってたんだ!? いいよいいよ金剛、お互いホンネで話そうよー!)パアアァ
(提督さん。アイツら今、全身に緊張感が走ったよ。一瞬で)
金剛の感情変化にシンクロしたってわけか。
(夕立、それはつまり彼女たちが臨戦体勢へと?)
(うん移行した。気を付けてね提督さん、夕立は強いけどこの艦隊には少し手を焼くかも。時雨、ちゃんと守ること)
(任せなよ。もう第三艦隊には戻りたくない。ボクはこの艦隊で生きていく)ギュッ
時雨が俺の左腕を両腕で抱きしめながら、自分の胸に押し付けている。伝わってくる………柔らかくてとても安心できる暖かさが。
(ありがとう二人とも。夕立、その強さはもう少し後になってから頼らせてもらうよ)
(もう既に手は打ってあるっぽい? 素敵)///
(司令、けっきょく彼女たちの力を借りませんでしたね……あのチカラがあればたとえ戦艦でも……。ほんとガンコなんですから)クスクス
(あの子たちはまだまだゆっくり眠らせておいてあげたい。俺の都合で眠りを妨げて顕現させるなんてできないよ。雪風なら分かってくれるだろ?)
(もちろんです、司令の秘書艦ですから!)
(聞こえたね金剛? 提督は何か策を張り巡らせたみたいだよー! それでもほんとに私たちと腕だめしするのかな? やめといた方がイイんじゃない!?)
(す、す、鈴谷あッ!)
怒っていても愛嬌のある可愛い声だな。多分、人の良さが表れているんだろう。
(さっきの続きだけどー、人と話す時はねー、そんな船の高いトコからなんてダメだから! ちゃんと同じ場所に立って話さないと相手は不愉快になるだけだかんね!! そっちのオジイチャマにも教えてあげな! てかオジイチャマ、いいトシなんだからそれくらい分かるでしょー!!)ニヤッ
(な、な、な…………!!)パクパク
まるであの時の高雄みたいに激しく狼狽している金剛。それでもやっぱり彼女には、どこか柔らかで穏やかな雰囲気が漂っている。
(……って言っといて。コッチの念話は聞こえないだろうし、金剛は特別なケースでしょ? なんとなくそんな気がする。最後に言っとくよ、金剛……今は帰りな。その方が身のためだよ)
(鈴谷アアアアッ! 分かりましたあッ! もう説得はやめにします!)タタタ……バタン!
(ありゃ)
怒って船内に戻ったか。ついさっきまでの内心の緊張が、もうすっかり消えている……艦娘がそばに居てくれれば何も怖くない。新人の頃は苦労の連続だったけど、やっと俺なりの戦い方のコツが分かってきたかな……俺は艦娘の黒子、そして鎮守府のシーフ。俺は俺らしく、艦娘を信じてりゃいいんだ!
(提督ゴメン! 鈴谷、失敗した?)
(任せたのは俺だよ、鈴谷は失敗してないし謝ることもない。ありがとうな鈴谷! 来るぞおっ!)
ザザザザザザアッ!!
動き始める第一艦隊。室長と金剛が乗るプレジャーボートはまだ停止しているが、その両舷からは艦娘たちが突っ込んでくる。先頭を占めるのは金剛とソックリの装束に身を包んだ三人の姿、そしてその兵装の迫力たるや尋常のものにあらずだ!
(ボウズ!)
(ああ! お前たちはそのまま待機だ! 艤装があるから肩車や大外刈で攻めるんだ!)
(肩車ッ……!?)
あ。
(提督、たぶん金剛だね)
(聞かれたな。でも大丈夫、こちらの手の内すべてを明らかにしたワケじゃないからね)
(まだ他にも……?)
(勿論)
阿武隈! 響! 夕雲! 秋雲! 頼むぜええ!!
ザッバアアアアアアアアアッ!!
「きゃああああッ!!」
「ぐああ!?」
((水柱!? ドコからだっ!))
((わかりません……!))
((わからないだと! 索敵はずっと続けていた筈だろう!))
((でも……、わからないんです……。すみません、那智……))
((くッ! 私に続……))
ザバアアア!!
ザバアアアアアン!!
「あぐうう!」ズザザ!
((那智!?))
ザザアン! ザバアアッ! バシャアア!!
「…………………!!」
「ゲホッ! ゴホン!」
「イヤあああああ! なにこれええっ!」
「わたしの砲塔が! もう、あいつらッ!」
「なにキレてるの?」ザアッ
「!?」
「手加減したのが分からない? ワザと当てないようにしてあげたのに……今からでも当ててほしい? 水浸しで砲塔が使えなくなる以上にキツいコト……してほしいの?」ジーッ
「……お前……第八の!」
ガシャン! カチッ!
「…………くっ。矢張り」
「撃とうとしたね? 司令官に報告しておく。これだけ目撃者が居るから言い逃れできないよ」
「威嚇よ! 同じ艦娘を攻撃するワケないじゃないの!」
「それは分かってるよ、銃身は明らかに私以外の方を向いていた。でも関係ないね……こちらは海の噴水、そちらは威嚇とはいえ射撃を試みた。あとは総務課が判断する……指揮官の管理能力が問われるだろうね。部下の問題行動は指揮官の責任だから」
「……………」
「組討ちする? それでもいいよ」
「……お断りよっ。自信に満ちたその目は剣呑過ぎるわ! 残念だったわね、私を捕らえたいんでしょうけど、そうはいかないんだからッ!」キッ
「そう……分かったよ」ザアッ
「………ウソ。だって、索敵してたのに。なんの反応も………」
ザバアアン! ザバアッ!
「うっわー。もう………しつこいなー」
「……さっきの如月の様子を見て私も索敵してみました。でも同じですよ初雪、私も察知できませんでした」
「……綾波も? ……どーすんのこれ」
「………」
(響、行くよ~。初手はコチラの勝ち。ほらほら急いで)ザアッ!
(ん……分かったよ阿武隈。夕雲と秋雲は?)ザザア!
(もう離脱したよ~)ザザザザ………
((全艦に告げるわ……いま私は第八所属の艦と肉声で会話したの。いい、よく聞いてちょうだい……第八艦隊には索敵の効かない艦娘が居るわ。もう一度言うわよ、こちらの索敵が効かないのッ! さっきのは如月の不手際なんかじゃない、誰にも察知なんてできないのよ!!))
((!))
((そんな………))
((なにそれ。それじゃあ私たちは見逃してもらってるってこと?))
((………だろうな。これだけの数なのに私たちには全く直撃していない))
((……………))
((しかも数隻よ……名前は分からないけど、もしかすると金剛には何か聞こえてるのかも。この水柱は無論、魚雷によるものよ……魚雷同士をぶつけた爆発でね))
((………器用なマネを))
((…………))
((私は今、自分で語っておきながら自分の言っているコトが信じられないわよ……各自、警戒してちょうだい!))
((………あううぅ……))
((えっと……意味が分からないんだけど))
((………金剛、今の内容を提督へ。手遅れになる前に))
((そうだね……分かったよ))
ズザザザザ…………!
何人か突破したか……あの巫女さんトリオはどうなったのかな!
(よくやったぞ阿武隈、響、夕雲、秋雲ぉ!!)
(えへへ~)
(……褒められた)///
(ふふ……提督のお役に立てるなんて光栄ですわ)
(ま~、長波にばっかりイイとこ取られるのもね~)
(姉が妹をライバル認定だぜ。提督も罪なオトコだね)
(俺はみんなが大好きだからな。天龍、龍田、古鷹、加古! 殿(シンガリ)を頼むぞ! 投げ飛ばせ!)
(任せろボウズ!)ザザ!
(なるべくケガさせないようにするんでしょ? お任せくださいボウヤ~)ザアッ!
(提督、私を見てて!)ザザザ!
(古鷹は気合い入ってるなあ……長波に同意だよ、提督。ほんと果報者だね!)ザア……!
(ああ、みんなと一緒に居られる限り俺は世界一の幸せ者だ……他のみんなは回れ右! 全速離脱だ! 五月雨!)
(はい提督、こちらは準備万端です! みんな行くわよ! 私たちの家に向けて出発! 長波!)ザザアッ……!
(任せなよ五月雨!)ザッ!
(私は暁よ、司令官のお気に入りの艦娘。ほら行くわよ。しっかり私たちにつかまってて)つ
(……………………)つ
(……信じられない。私たちの為に仲間と敵対するなど……お前たちの指揮官は普通ではない)つ
(ちょっと違うわね)
(……なに?)
(司令官にとって、第一艦隊は仲間じゃないわ。少なくとも今は)
(…………)
(まったく……何故あなたは戦艦棲姫を謀殺したの? 司令官はね、できることならあなただって仲間にしたかったのよ? 司令官を悩ませないでよね)
(強敵だった。だから策を用いた。それだけよ)
(事情があったってワケ? でもね、人は正面からの戦いの結果ならある程度は受容することができるけど、陰謀とか闇討ちってのはダメ。そういうのは人の心に強い不快感を与えるの)
(……………)
(海外にはね、狙撃手を非常に憎む兵士が治める地域もあるらしいわ。言いたいこと分かるでしょ? だからね、軽巡棲鬼)
(…何かしら……えっと、暁)
(これからは二度とそんなことしないで。司令官だって色々な作戦を立てて私たちを勝利に導いたわ。でもね、あなたのとは根本的に違う。罠とか闇討ちなんて、司令官は絶対にしない……あなたも、もうやめてほしいの)
(………わかったわ)
(約束よ。あなたと私の)
(約束するわ、暁)
「おりゃあああああ!」
ザバアアアンッ!
「……………!」ゴボゴボ………
「次はどいつだ! こんな程度なのか第一艦隊は!? 最強の名が泣くぜ!!」
「くっ! やああああああああッ!!」ガシイイッ!
「いい気迫だ! だがなあッ!」ガバァッ!
「!!」
フワリ
「焦って上半身ばかり前のめりだっ! 稽古が足りん、 出直してこいッ!」
ザブウウウウン!
((菊月まで!? 白雪! 威嚇射撃で怯ませよう! そうすれば……!))ザッ…!
((何を言うのです深雪! 私たちは所属こそ違えど、かつては同じ戦場を駆けた仲間なのですよ!?))ズザザザ
((だーかーらー、威嚇だってば! このままじゃ軽巡棲鬼が逃げちゃう! 見なよ、もうあんなトコまで!))
((私もツラいよ白雪……でもね、この四人はやばい。まさに壁だよ。一歩も進めない……ついさっき、もう誰かが撃とうとし……))ザザザア!
((何ですって!? 誰です、そんな暴挙を犯したのは!!))
((最後まで聞いてよ白雪、撃とうとしただけだってば! 水柱でズブ濡れなんだからさ、撃てるわけないでしょ!))
((敷波も深雪も! 何故そんなに平然としていられるの!?))
((平然じゃないよ! イヤだよ! でも命令なんだから仕方ないじゃない!))
((ほら、もうあんなに遠くまで! 敷波の言う通りだってば、これじゃ私たちココに釘付けのまんまだよお!))
ザッバアアアン! ザブウウン!
((また誰か投げられたよ!))
((軽巡洋艦天龍……まさに荒ぶる天龍川の名に恥じない姿……))
((……白雪))
((二人とも………ご覧なさい、あの姿を! たった一発の弾丸すら放つことなく、己(オノレ)の肉体のみを駆使して戦ってる! なのに私たち第一艦隊は……そこに付け込んで威嚇射撃などとッ!!))
((……なんで。ねえ金剛! 昨晩の作戦会議は何だったの!? いつも通り余裕で勝てる流れだったじゃないのさ!!))
((仕方ありません、索敵範囲内には特務分室室長たちの姿しか認められなかったのだから! ワタシだってあの有名な作戦は知ってますが、まさかステルスフリートを再現するなんて信じられない! オーバーマイヘッドね!))
((作戦って……もしかして、アリューシャンでの救出作戦?))
((他に何があるのさ。第八艦隊……侮っていたか))
((金剛。私は……さっさと制圧できると思ってた。軽巡棲鬼を倒せばこの戦いも終わって、また昔の絆を取り戻してみんな一緒になるって! だから命令に従ったのにっ!))
((…………))
((………………))
((白雪……))
((こんなの私だって初めてだもの、もうどうすればいいのか分からない! あなたたちの気持ちも分からないッ!))ザアッ!!
((ああっ!? どこに行くのさ白雪!!))
((深雪、それどころじゃない! 天龍とは別の…………きゃああああっ!!))
((敷波!?))
ザッバアアアアン!!
「…………あ」
「仲間割れとはね! 何たる醜態かッ!!」
ザブウウウン!
「ボウヤの邪魔する者は容赦しないわ! 次ッ! かかってきなさい!!」ザザアァッ!
よし……かなり引き離したな! これなら軽巡棲鬼たちはもう大丈夫だ!!
(五月雨! みんなを連れてそのまま鎮守府へ向かえ! 迎えが来るから合流するんだ、護衛任務は駆逐艦の本領発揮だからしっかり頼むぞ!)
(了解しました提督! どうかムチャだけは……なさらないでください!)
(肝に銘じておく! 迎えは明石とゲンさんゴローさん、護衛を連れてこちらに向かってる頃だ! 打ち合わせておいたからな! トウヒャクとオヘライベを出してくれるように頼んである!!)
(まあ! バショウではなくあの二隻を!? それなら私たちは……)
(そうだ! 五月雨たちはオヘライベに乗り込め! 第八艦隊で一番の大型ボートだ、全員が余裕で乗れるからな!)
燃料もたっぷり食うから滅多に出さないけどな! 考えただけで頭痛がしそうなくらいたっぷりと! だが今日だけは特別だ、好きなだけ食わせてやる!
(分かりました、あとはトウヒャクと護衛メンバーに任せて私たちは帰投すればよろしいんですね!)
(その通りだ五月雨! 気を付けてね……みんなもな!)
(はい提督! 海風を……よろしくお願いします!)
(司令官……待ってるからね)
(私も!)
(私だって!)
(やっぱり罪なオトコだ。でもほんと面白い人……初めて会った時からね)
(私たちの新しいおうち、なんだよね? 待ってます提督!)
(みんなありがとう。時雨、行くぞ!)
(はい!)ザザアアッ!
((もう信じられない! みなさんどうしちゃったんですか!? 私たち、仲間じゃないですかあああああっ!!))ズガガガガガ!!
「きゃあああああッ!?」
ザバアアッ! バシャアアアン!! ザブウッ!!
((おっとっと………危ないクマー))ヒラリ
((………まずいにゃ。カンタンに制圧できるハズだったのに……予定が狂ったにゃ))ヒョイ………ヒラリ
((ちょっ……! やめて! やめなさい羽黒おッ!))
((白雪の言葉を聞いたでしょう! 私も同感です! こんなの間違ってる!))ズガガガガ……! ズガガッ!
((だからやめてってば! いい加減にしないと怒るよ!!))ジャキン!
((叢雲! 妹に手を出すかッ!))グイイイッ!
「くっ!?」
フワッ
バシャアアアアン!
((…………………那智))
「やっちゃったにゃ……」
「これは………もう」
((何も言うな金剛。羽黒に銃口を向けるなど断じて許さんぞ。たとえ威嚇でもな))ザザザッ!
ガガガガガ! バシャアアッ!! ザバアア!
「誰か! 羽黒を止めてえええっ!!」
((うわあああああん! もうイヤああああああ!))ズガガガガガガガガ!! ガシャン! カチッ! カチン!
((あ………))
((弾切れだ! よおおおし!))
((待ちなさい卯月、何する積り!?))
((決まってるでしょー、羽黒を取り押さえるの! うーちゃんが突っ込むから睦月、如月、横からカクホしてよね!))ザッ!
((ええっ!?))
((そんな………いけません、卯月!))
ガシイッ!
((あうっ!?))
((まったく……無茶をするなよ卯月))グググ
((皐月、放して! みんながケガする前におとなしくさせるの!))ジタバタ
((よく見るんだ。羽黒を))
((え……?))
((私が……みんなを守らなくちゃ……こんなのダメ……仲間にケガさせたら、もう私たち、戻れない………))
ガチャ!
((ちょっ!?))ザザザ!
((ウソ、やめてえっ!))ザッ!
((いや……20.3センチ砲……やめて……やめてよ))
((私が………みんなを……守るの))ジャキイイン! ガシャン!
ギュッ………
((あ…………誰ッ!?))
((羽黒))
((那智…お姉ちゃん……))
((よしよし………怖かったんだな? 後戻りできない過ちを犯したら……もう彼らに顔向けできないからな))ポンポン
ブラリ…………ザブウン!
「羽黒の砲塔が……」
「やれやれ、ひと安心クマー」
((重いのか? 仕方ないな、私が持っててやる))チャプ……
((お姉ちゃん……私、わたし………))グスッ
((羽黒。すまなかったな……これは前線指揮官たる私の責任だ。お前に、白雪に、皆(ミナ)に怖い思いをさせた……))ギュ
((ううん……そんなこと、ない………お姉ちゃんの所為なんかじゃないよ))ギュ
((羽黒……))
((ただ、私……この戦いが終わるの、すごく楽しみで…………ぐすっ……もう少しだったのに……それなのに、……みんな平気で……艦娘のみんなを撃とうと……うっ……うわあああああああああぁああぁぁッ!!))
((よしよし……羽黒……))
(ボウズ……アイツらの動きが鈍ってきたぞ。どんな様子だ?)
(妖精さんからの映像で確認した。艦娘のひとりが取り乱したらしいな)
(えぇっ? どうしてそんなコトに………)
(もしかするとだけどね古鷹、みんなを攻撃………いや、そんなことするワケないな。みんなに対して何らかの示威的(ジイテキ)な行動をするのが耐えられなかったのかもね)
(攻撃じゃなくて、示威的な……か。たとえば威嚇射撃とか?)ザザザザ……
(恐らくね、加古。そうだ二人とも! ちょっとこっちに来てくれ)
(? うん分かった)ザアッ!
(? はいっ)ザザアッ
(龍田、そっちはどう?)
(………えっとね、ボウヤに言うのは恥ずかしいんだけど)
? 歯切れが悪いな。いつもの龍田らしくないぞ。
(仲間割れ、してたの。もうスキだらけよ………まとめて全員、投げ飛ばしてきました……)
(えええっ! 司令!?)
(情けない……第一艦隊、この程度なのか。気にするなよ龍田)
(うん……天龍ちゃん)
(どうやら流れは俺たちに傾きつつあるかもな)
(提督……やったぁ!)
(あらあら……嬉しいですが、少々複雑な思いもございます……)
(筑摩は繊細だな。そんなことを気にするのは後にせい。今は目の前の相手に集中せよ)
(はい、姉さん……)
(天龍。結界の調子は?)
(まだまだ大丈夫さ。何か思い付いたのか?)
(この展開を見て室長は間違いなく焦ってる。少なくとも平静では居られない)
(ああ。それで?)
(当初は俺たちを適当にあしらいつつ、まずは軽巡棲鬼たちを捕らえる積りだったんだろう。だが目論見(モクロミ)が外れて艦隊は混乱している。奴はもう俺たちを相手にせず、五月雨たちを追跡するよう命じると思うんだ)
(………なら、速度の出る艦載機の出番だな。航空母艦か)
(そうだ。見えるかい天龍、ボートの後方に未だ動きを見せないグループが居るぞ……空母は恐らくあの中だろう。そろそろ動き始める!)
(ワクワクしてきたぜ……兵装を外して片っ端からブン投げろってことだな?)
(当たりだよ天龍。万が一に備えて装備してもらってたが、どうやらもうその心配はなさそうだ……結界が使えるならそれで充分だよ。動きにくくてストレス溜まったろ!? もう気にしなくていい! 全員まとめて海水浴を楽しませてやれ!!)
(了解だボウズ! 龍田あッ!!)つ
(任せて~、しっかり預かるわ! 頑張ってね天龍ちゃん!)つ
(お姉ちゃん! 頑張って~!!)
(行ってくる!)ザザザザァッ!
(うわぁ……凄いスピードだね。駆逐艦にも負けてないよアレ)
時速33海里……天龍が誕生した時、彼女の航行速度は巡洋艦としては世界最速だったもんな。颯爽とした姿が本当に似合う、頼りになる艦娘だ。
(提督。古鷹と加古だよ)
(うん。時雨、ちょっと待ってね)
(提督、お待たせしましたあ)ザザッ
(提督ぅ、どうしたの?)ザアアア
(古鷹、顔を近付けて……俺のほうにね)
(えっ……は、はい!)///
あれ? 古鷹……なんだか顔が紅潮して………
「あむっ……んふぅ」///
古鷹!? あ、コレ……は。
(あ~やっちゃったよ。提督、古鷹を大切にしてよね。頼んだよ)ジーッ
(提督……古鷹とキス、してるのかい?)
(なァッ!?)
ちょ……今の声は!
(あ……金剛だね。何だかヘンな声だしてんじゃん……ナニやってんだか。……ん? もしかして金剛って……)
「……ん………ぷはぁ」///
「古鷹……ドキドキしたよ」///
「……はい。私も、ですぅ……」///
ニッコリ笑ってる古鷹。どうやら俺がキスする気なんだって思わせちゃったみたいだな。ま、いいか! なんだかカラダがポカポカしてきたし。
(古鷹、兵装を加古に預けるんだ。天龍と一緒にディフェンスラインを頼む。今のは激励のキスだよ)
(はい! 了解です、提督! 加古ぉ、お願い!)つ
(はいはい………ん、しょっと……頑張ってきなよ、古鷹!)つ
(任せてぇ!)ノシ
ザザアアッ!!
古鷹の後ろ姿を見送るのはこれで2回目だな。でも異なる点が1つだけある……あの時は別れの場面だったが、今回は違う! もう彼女はドコにも離れて行ったりしないって点だ!
「あ~あ~嬉しそうなカオして行っちゃったよ。ほらほら提督、アタシはどうすればいい?」
「伝えたいものがある。額と額をくっつけるんだよ」
「ん、分かった。こう?」
「それでいい………よし、いくよ」
…………………………。
コレを使うのは久し振りだな。前回は夕雲に見てもらったんだ。
……………………。
(これは………那智と羽黒だね。ふぅん……やっぱりスゴイんだね提督。妖精さんの見たものを知覚するだけじゃなく、それを他人と共有できるなんてさ)
(那智と羽黒か……妙高四姉妹の)
(そう! 懐かしいなあ。那智は第一艦隊の前線指揮官だったのさ。たぶんだけど、今でもね。羽黒は……そうか、取り乱したってのは羽黒だね。カオ真っ赤だ。ギュッとしてあげてるのが那智だよ……とても強いんだ)
(この風格と迫力。うん、納得だな……ありがとう加古、それだけ分かれば充分だ)
(司令。ご命令を)
(五月雨たちが離脱したから戦力は低下したが、心配は要らない……仲間がこちらへと向かっている。目下(モッカ)の懸案事項は奴の次の手だ。空母が出てくるだろうからこちらも艦載機を出す)
(提督さん? えっと……第八艦隊には空母も軽空母も居ないっぽい!)キョトン
(大丈夫だよ夕立、向こうが次の手を打つならこちらも打ってやるさ。夕立、そのチカラを借りる時が来たぞ……夕立を含む元・第三艦隊メンバーは空母およびその随伴艦をすべて投げ飛ばすんだ!)
(了解、提督さん!)
(了解だ提督。ウデが鳴るぜ……なんだか最近、カラダの調子がイイんだよな)
(はーい!)
(そして加古を含む元・第二艦隊メンバーは防衛線を張る天龍および古鷹を支援だ、遠慮なく投げ飛ばすんだ!)
(よっしゃああ! 任せてよ提督!)
(加古の独壇場になりそうだな……了解した)
(それ以外のメンバーは俺と一緒に行動だ。それから注意事項をひとつ。これは格闘戦だから、武器の扱いだけに慣れてしまってる場合には骨の折れる任務だよ……訓練だけでなく稽古もキッチリこなすなんて、時間的にも体力的にも困難だからね。みんな、ムリはしないでくれ。いいね?)
(はい、司令)
(了解です~)
(元・第二は天龍と古鷹を中心に、元・第三は摩耶と神通、そして夕立を中心に動きつつ、危ないと思ったらすぐに後退すること。結界が切れた子は問答無用、力ずくで後退させるからね。何か質問は?)
(司令、みなさんの兵装が多過ぎます。これを誰かに持っててもらうのはムリです……)
(確かにその通りだ雪風。だからね、みんなは暫く、このまま待機しててくれ)
ザバアン! バシャアアアッ!
始まったか。でも補正アリの天龍と古鷹のコンビに勝つのは至難の業だ。
(特務分室室長殿)
(金剛だね。どうした?)
(ワタシ……アナタたちを過小評価してたみたいです。ひとつだけ聞かせて……軽巡棲鬼を引き渡してもらうのは、ムリですか?)
(ああ。絶対にね)
(同じ艦娘同士で戦いたくない………それでも?)
(艦娘と言ったね。軽巡棲鬼たちも、艦娘だぞ)
(なッ!?)
(祖国から引き離されて劣悪な環境の戦場に引っ張り出されて、それでも勇気を出して戦った人々の魂。金剛に宿っているように、深海棲鬼にも宿っている。鬼の正体は怒りと憎しみだよ……あの人々の人生を踏みにじった戦時内閣に対して、のね)
(軽巡棲鬼が、ワタシたちと同じ!? 報告は本当だった……室長、アナタはやっぱり深海棲艦のことを……)
驚愕と憤怒が混ざった声。無理もない……第一艦隊は俺なんて比較にならない数の深海棲艦を沈めてきたんだ。いま俺が金剛に言ったセリフは、彼女にしてみれば同族殺しだと言われたに等しい。
(俺だって過ちを犯したよ………くーが居なけりゃ俺は今でも、真実を知らずに深海棲艦と戦っていたろうさ。自分は任務を忠実に果たしていると思い込みながら、ね)
(くー? 誰ですか?)
(彼女も艦娘だよ……俺たちの大切な仲間だ)
(………………)
(金剛。すぐ近くに第一室長が居るんだろ? 彼に伝えるかどうかは任せるけど……これだけは言っておく)
(…何ですか?)
(俺は彼を絶対に許さない。きっと何らかの理由や事情はあるかもだが、そんなの知ったことじゃない。魂の帰還を妨害し、歴史交流局の派閥内でヌクヌクとしてる連中の居場所を守るために艦娘をスパルタで管理して団結の意思を奪おうとするなんてな!!)
(違う! 違います! それは第三室長の仕業で……)
(第一と第三が密接に繋がっていたのは知ってるんだ! ヤツひとりであんなマネはできない!)
(……………そんな。ウソです……そんな)
(金剛は知らなかったのか? だったら今からでも遅くはない。直接、聞いてみるといい)
(…………)
(俺たちの大八島國では古来より、ひとびとの和が尊しと唱えられてきた。でもね、その陰ではいつも誰かが虐げられてきたんだ。そのひとつの例が第三室長であり、それに加担した第一室長だよ………さあ金剛、いくよ。決着をつけよう)
続く