鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

63 / 69
第六-7話

「………さてとリッティ、あいつが船から出てきたら我らの役目を果たすとしよう。局長との戦いには、きっと我らの霊力が役立つであろうからな」

 

 

 

第六-7話

 

 

 

ザザザザアア…………!

 

 

 

「はいよ、お嬢さん。熱いから気を付けてね。そら、ほかのみなさんも」つ

 

「………ありがと」つ

 

「……」つ「……」つ「……」つ

 

コク…………

 

 

「美味しいわ。えっと…」

 

「ゲンといいます……仮の名前ですが。大将のお仕事を手伝ってましてね………みなさんかなりこっぴどくやられたみたいですな。どうか大将を恨まないでくださいよ」

 

「……分かってるわよ……私たちは敵なんだから。この船、ドコに向かっているのか教えてくれるかしら?」

 

「我々の本拠地ですよ。それとね、お嬢さん」

 

「? 何かしら」

 

「あなたがたはもう敵じゃありません。ウチの大将は、ここにいらっしゃる五月雨さんをはじめとする艦娘のみなさんに並々ならぬ好意を寄せていましてね。おなじ艦娘のあなたがたを、敵視なんてするもんですか」

 

「それ、本人から聞いたわ。不思議な男ね……」

 

「大将の前で、ご自身を敵だなどと言わないでくださいよ? あの人はマイペースに見えるが、人から遠ざけられると傷付くんだ。くれぐれもお願いします」

 

「そう……善処するわ。それで、私たちはどうなるの? やはり監禁かしら」

 

「………………イヤダ。コロサレル……アイツ、コワイ」カタカタ

 

「その積りなら先程の戦闘で我ら全員、今ごろは海の藻くずだろうよ。あんなカラクリ爆弾などではなく、本物の信管入りを使ってな。まったく……冥土が見えたぞ。まだ力が戻らぬわ」

 

「…………ソウナノカ」

 

「そうよ。下らないこと気にするのはおよし。頭領がなんとかしてくれるさ……ね、それ飲まないなら頂戴? カラダの震えが止まらないの」ゴクゴク

 

「……ダメダ。コレアタシノ」ゴク……

 

「監禁などとんでもない! なんの心配もありませんよ、安心してください。それにしても……毎晩、妖精のみなさんと何やら造ってると思ったら………なるほどねぇ。……隣のお嬢さん。そう、あなただ。あなたはさっきまで、背中に巨人を従えておいでだったようですが。見当たりませんな」

 

「いつも出しっぱなしというわけではない。それでは霊力がもたぬ……うむ、美味い」ゴクリ

 

「お口に合ったようで何より。それでは、私はこれで……」

 

「待って。ひとつだけ聞いていいかしら?」

 

「勿論ですよ。何でしょうお嬢さん」

 

「あなたって、まるで若旦那に仕える先代番頭みたいな口振りね。仕事を手伝ってるって言ってたけど、手伝うというよりまるで見守ってるみたい。彼のこと……誰かから頼まれたの?」

 

「………これは驚いた。少しばかりお喋りが過ぎましたかねえ。はい、その通りですとも……大将に惚れ込んで、すべてを託した男がいましてね。あいつとゴロー……いまこの船を操舵してる男ですが……そして私の三人は昔からの遊び仲間でね……」

 

「先代の、提督ね」

 

「ご明察……あの男は私らに言ったんです。あのガキならきっとやってくれる……霊感も霊力もない俺にはもうムリだがアイツは違う、あとは子守りを頼むぜ、ってね」

 

「……そう。あの提督が、そんなことを……」ポツリ

 

 

「軽巡……棲鬼………?」

 

「お静かに……五月雨。どうやら重要なお話のようですから」ボソッ

 

「あ……すみません初霜」ヒソヒソ

 

「いいえ。ほら、ここはひとつ静聴すると致しましょう……」

 

 

「あいつは独りで仕事を抱え込む性格でね……私とゴローには滅多に任務の話なんてしなかった。天龍さんも同じでしたな……そんな彼がある日、とある話をしてくれたことがありました」

 

「どのような?」

 

「あなたのことですよ。嵐の吹き荒(スサ)ぶ中、とある島であなたと一度だけ言葉を交わしたことがある、と」

 

「!!」

 

「理由は分からないが、軽巡棲鬼はなにか得体のしれないモノに操られている。根っからの悪ではない……話をしてみて確信した、そう言いましたよ。確かにね」

 

「え……!?」///

 

「尤も、教えてくれたのは後年になってからですが。ふと気まぐれでも起こしたんでしょうな」

 

「あの人が………そう」

 

「ですからね、お嬢さん……大将の気持ちを、どうか汲(ク)んでやってください………あいつが自分のすべてを叩き込んだお方です、きっとあいつの思いが大将の心のどこかに残ったんですよ。くーちゃんのお陰で真実に気付いたと言ってますがね、あの子の言葉に耳を傾けたのは、あいつの教えがあったからに違いない……そうでなくば、聞き流しておしまいだったでしょう」

 

「くーって?」

 

「艦娘です…大将のお仲間ですよ。彼女だけでなくあなたたちも艦娘なんだと断言する大将の気持ちを、どうか……お願いします」

 

「それは…………」

 

「いやいや、この場で返答なさらずとも結構ですよ。少しずつでいい……大将の気持ちをわかってくれればね。さてと、そろそろゴローの奴と交代してやらなくちゃ。この船に乗られた人はみな、快適だったと口を揃えます。みなさんもどうか、おくつろぎになってください。五月雨さん……あとはよろしく」ガタッ

 

「はい。お任せを」ニッコリ

 

 

パタン……

 

 

「ふふ……提督ってもしかして、実はすごい人なのかも知れませんね」

 

「そうですね五月雨。人見知りするアユムさんが懐いた理由、少しわかった気がします」ニッコリ

 

「だいぶ鎮守府に近付いてるはずです。オヘライベの乗り心地を堪能できるのもあと少し……速くて大きくて、良い船でしょう?」

 

「はい、とっても。………不思議な心地です……かつては艦船であった私たちが新たな肉体を得て、いまではこうして……船に揺られて海行(ユ)かば。そう思いませんか……五月雨?」

 

「そうですね、同感ですよ初霜」ニッコリ

 

 

 

 

 

「だあああああッ!」ガバア!

 

「ぐううううッ!?」

 

ザバアアン!

 

「天龍!」

 

「…信じられない……」

 

「天龍が……苦戦して……る…」|||

 

 

………バシャアッ!

 

 

「……ぐふっ! げほっ!」ザザッ!

 

「さあ……そこをどきなさい。私には果たさねばならぬ役割があるのです。あなたがたと同じように」

 

「……断る。我らが指揮官はな、軽巡棲鬼らを艦娘だと言ったんだ。彼のジャマしようとしているお前に、追跡させるワケにはいかねーんだよ鳳翔!」

 

「そうですか。ならば力ずくで通るとしましょう」スウッ……

 

 

「……いや、オレはここまでだ。負けたよ」

 

 

ピタリ

 

「ううっ………天龍お姉様……」

 

「ほらほら夕雲、天龍は堂々と闘ったんだからさ。そんなカオしないの」ポン

 

「ええ、そうね……秋雲……」

 

「夕雲のお姉様はもう一人いるでしょ?」

 

 

 

「負けを……認めるのですか? ですがあなたは確かに先程、断ると言いましたよ」ジーッ

 

「言ったさ。だがさっきのはな、オレ独りだけでお前をどうにかしてやるって意味じゃない」

 

「………?」

 

「オレたち全員で、お前の追跡を阻止するって意味だぜ! 加古おおおッ!」

 

ザザザザザアアッ!

 

「いくよ鳳翔! ここから先は通さないからねえええええッ!!」

 

ガバアアッ!

 

「ッ……なかなかの踏み込み!」ズザアアッ!

 

ガッ!

 

「! くっ……」

 

「おらあああああッ!」ザザア!

 

グルン………ザザア!

 

「………フン。やるねぇ! アタシの体落(タイオトシ)から回転で逃げ切るなんてさ!」ズザザザ

 

「……当て身ありの柔道とは……面白い。古(イニシエ)の柔(ヤワラ)こそはあらゆる技を内包する究極最強の武術。あなたに遠慮は無用ですね……」ズキッ…

 

「ねぇ若葉、いまの加古、なにかしたの~?」

 

「技にはいる直前、右手で鳳翔を掴みながら鎖骨あたりに右肘を当てたようだな」

 

「うわ~。アグレッシブだね」

 

「性格だな。やはりこの稽古は加古の独壇場か」

 

 

ザザザ!

 

「!?」

 

「周りをよく見なくちゃダメじゃん鳳翔っ! 鈴谷だよ……お久し振りいッ!」ガッ!

 

「くっ……背後!?」

 

ザザアッ!

 

「おおっとッ……この体勢から跳ぶかなフツー。よっと」ヒラリ

 

ザバアン!

 

「あぶないあぶない……でもね、鳳翔」

 

ザザザザ………ザアッ!

ザザッ……

 

 

「これは……囲まれましたか」

 

「おお~? 加古に囲まれたってか! やるなあ鳳翔!」パアアァ

 

「いや、黒潮……。鳳翔はべつにギャグで言ったワケじゃないし」

 

「えぇ~、そうなん!?」

 

 

「やるじゃん鳳翔。ちょっと驚かせてやろうとしたのにさ。鈴谷ごとジャンプしてさあ、背中から海面に叩きつけようとするなんて! その敢闘精神…ゾクゾクしちゃうゥッ!」ニヤリ

 

「鈴谷……本当に、お久し振りですね。あなたこそ器用な真似を……まるで猫のよう。金剛への挑発は、褒められたものではありませんでしたが」ジッ

 

「そんな積りじゃなかったんだけどさー、あまりにも勝ちすぎて、お鼻が天狗になってるみたいだったから……つい、ね」

 

「つい、ですか」

 

「そ。ついでに言うと鳳翔、アンタもね。左手の指輪……キレイだね。何だかすごいチカラ感じるよ……それが強さの秘密?」

 

「………さあ。どうかしら」

 

「あらら。まあイイけどさ。えっとぉ、天龍に勝つなんてオドロキだけど、でもね……それだけで鈴谷たち全員を相手にするなんてちょっとムボウだよね! 第一艦隊ってさ、みんな天狗なの?」

 

「な……!?」

 

「……あのさあ鈴谷、提督のコトバ忘れたの? ひとりひとり、順番に鳳翔と稽古するんだよ~」

 

「私と……ケイコ、ですって?」キョトン

 

「わかってるよ加古。だから言ったでしょ、ちょっと驚かせようとしただけ。こっちのペースに引き込むためだよ!」

 

「そういうことは成功してから言うの! しょうがないなぁ鈴谷は」

 

「えへへ、そこはまあ……でもさほら、見てよ加古。やっと自分の立場に気付いたみたい。もう追跡するのはムリだよ……鈴谷もみんなもコテンパンに倒さない限りはねっ!」

 

「そういうことですか。この包囲は私を潰すためではなく、……稽古。まったく、変わった指揮官なのですね……特務分室室長殿は」

 

「個性的だと言ってほしいね! いっくよおおおおおおおッ!!」ザバアッ!

 

 

 

 

 

「ねえ。あなたのこと……何て呼べばいいのかな。軽巡棲鬼じゃなくて、ちゃんとしたお名前おしえて」

 

「五月雨、だったな……私に名前などない。好きに呼べばいい」

 

「そうですか……じゃあ提督に新しい名前をお願いしてみませんか?」

 

「…唐突ね。彼にはそんな役割もあるのかしら」

 

「役割というか趣味かな。深海棲姫……姫のほうね……あの人たちの名前、ほとんど提督がつけたのよ」

 

「さきほど擦れ違ったワ級どもの中に紛れ込んでいたわね……いまいましい顔があったわ」

 

「そっかぁ……宿敵同士だもんね。でも提督ならゼッタイにそんなの許さないよ。彼にとってはあなたたち全員、おなじ艦娘なんだからね」

 

「でしょうね……でも、私はもう………」

 

「?」

 

「いや………何でもない。気にしないで」

 

 

「………あなたたちはカラダの中に戦士の御魂(ミタマ)を宿しているんだよね? 私たちとおんなじ」

 

「………そうよ。気がついたら私たちはいつの間にかこの時代に存在していたの。魂と共にね。彼らは国に帰りたいと願っているわ……だけど私は失敗した」

 

「ヤツラノセイダ。キニスルナ、トウリョウ」

 

「やつら……? あ……第一艦隊………。……初霜、この会話をこれ以上つづけてもよろしいのでしょうか……? 私は秘書艦でもありませんし」

 

「五月雨、あなたの懸念はよく分かります……これは明らかに提督の専管事項。ですが忘れましたか? あなたは今、護衛に関して、その提督の命令により彼に次ぐ権限を与えられているのですよ」

 

 

軽巡棲鬼と三体の大型艦を、第一艦隊の攻撃および捕獲から護衛する任務を命じる。今よりこの任務に関しては俺に次ぐ指揮権を一時的に与える。絶対に奴らの手に渡すな!

 

 

「あ…………」

 

「別行動になるのですから提督が臨時の指揮官を任命なさったのは当然です……つまり提督不在の目下、この船内に於ける命令系統の最上位者は五月雨、あなたですよ……あなたが指揮官なんです。護衛のことだけで頭がいっぱいになるようではダメ。あなたが考え、決断し、この船を守るのです」ニッコリ

 

「私が……指揮官。すみません初霜……分かりました! では……別室で待機中の艦娘みんなをこちらへ! そしてゴローさんもお願いします!」

 

「了解しました」タタッ……パタン

 

 

「……ヨクワカラン。メンドクサイナコイツラノソシキハ」キョトン

 

「敗北した我らの言うことではなかろう。組織とはこういうものだ」

 

 

「ごめんなさいみなさん。こんな取り調べみたいなマネ……でも、そんな積りはありません! 聞くべきことだけを聞いたらそれで終わり! 鎮守府に着いたらすぐに入渠の準備をします……みなさんに負担を掛けるコトなんか、今のうちにさっさと終わらせておきたいの!」

 

「なぜそんな……申し訳なさそうな表情をしているの? いま彼女が言ったでしょ、私たちは敗者。遠慮など無用なのに」キョトン

 

「提督ならそんな扱いはしません! 戦いは終わったんだから敗者とか関係ないんです! 私たちにはみなさんを保護し、丁重に遇(グウ)する義務があるの!」

 

「……ほんと、あなたたちって変わってる」

 

「ソウカ? ……マアヤツラトハスコシチガウカ」

 

「そうね。ま、どうでもいいんじゃない……快復できるんならそれでいいし」

 

「お任せください! 私たちのお風呂、きっと気に入りますからね!」///

 

 

 

 

 

バシャアン! ザブウンッ! ザバアアンッ!

 

 

 

「あぐうぅッ!」ザブン!

 

 

ズザザザザザ………!

 

(……これが第一艦隊か。流石に手強い……でも)ザザザザ

 

(はい。火器の操法ならば手練(テダ)れ揃いでも体術がやや劣ります)ザザザザアッ

 

(………見えた。空母群)

 

(では……!)ザアッ!

 

 

 

((……加賀さん。こちらの編隊はいまだ目標を視認すること能わずとの報告……そちらは如何ですか?))

 

((こちらも同じよ赤城。………恐らく快速艇に乗り込んだのね))

 

((そんな……あれだけの人数を収容し得(ウ)る大型船が、私たちの艦載機を振り切るほどの速度を……?))

 

((全員が乗船する必要はないわ……軽巡棲鬼たち四体と護衛隊の隊長、そして護衛の得意な艦娘が数名……あとは操舵手と機関整備士が居れば充分。せいぜい十名ってところね。ほかの艦娘は特務室長に合流したのでしょう……))

 

((蒼龍、飛龍))

 

((我々も同様です赤城。どうしましょう……?))

 

((どうしようもないよ蒼龍。十人くらいの収容規模なら時速三十海里(約55km)は出せるでしょ。あ、艤装があるからもうちょい大きな船か……速度はすこし落ちるかも。ま、確かにこちらのほうが速いよ? でも距離を縮めてるうちに追いかけっこはオシマイでしょ))

 

((う~……………))

 

((……残念だけれども飛龍の指摘は正しいわね。先手を打たれたのは痛いわ………あれで一気に突き放された))

 

((…………………))

 

((特務室長は型やぶりな指揮官であるとの報告でしたね。すでに機関の改造など施しているかも知れません))

 

((………前言撤回、します))

 

((そうね。これだけ追跡を続けているのに航跡すら見えないのだから。伊勢……聞こえる?))

 

((………………))シーン

 

((………伊勢?))

 

((………………))

 

((取り込み中か………仕方ないわね。護衛のお礼を兼ねて、撤収の連絡を入れておこうと思ったのだけれど))

 

((加賀さん……それでは))

 

((ええ。我々の勝機は潰(ツイ)えた。これ以上は時間の空費よ))

 

((…………はい))

 

((分かりました……))

 

((加賀……第八艦隊の鎮守府まで飛んで一矢報いてやりませんか?))

 

((蒼龍))

 

((もしかしたらほら、下船している最中の軽巡棲鬼を仕留めることができるかも))

 

((それは……))

 

((私……悔しいです。折角みんなで今まで頑張ってきたのに。皐月の気持ち、とてもよくわかる……ねぇ飛龍、あなたはどうなの!?))

 

((そりゃ私だって悔しいよ。でもさ、金剛と那智の言葉を聞いたでしょ。私たちは、負けたんだよ……))

 

((やめて! そんなの聞きたくないッ! 私たちには任務がある! それを果たさずして誰に顔向けできるのよっ!?))

 

((………蒼龍))

 

((負けたですって!? それじゃ私たち、二度目の敗北じゃない!!))

 

((蒼龍。あなたのその諦めない心は立派です。ですが…………))

 

 

 

「やめておけ赤城。蒼龍は疲れと悔しさで我を忘れているのさ。それ以上、何を言ってもムダだ」

 

 

 

「…………!?」ザザアッ!

 

「誰ッ!」ズザザザ

 

「確かに聞こえた! いまの声ドコからっ!?」

 

「……誰も……何も居ない………?」

 

 

 

「居るさ」スウッ………

 

 

 

フワリ

 

「!!」

 

ザッバアアアアッ!

 

「蒼龍ッ!?」

 

「………あのさ蒼龍。ひとりで何やってんの?」ジーッ

 

「違う。投げられた」

 

「えっ!?」

 

ザバアッ!

 

「ゲホッ! ゲホッ!」

 

「蒼龍!」

 

「………第八艦隊の」

 

 

「そうだ。お前たちとは同じ作戦に参加した木曾だ。尤もオレは北方部隊だったが。蒼龍……もう冷静になったか? 血気盛んは結構だが退くときは退け」

 

「木曾………もしかして……ゴホッ! 金剛の言ってたステルスフリートの正体って」ゴホン……

 

「ああ。オレと阿武隈、響に夕雲と秋雲だ。風雲たちは……どうしてるのかな」

 

「………信じられない。まったく見えないよ。まだこんなに明るいのに」

 

「明るいからこそ、かもな」

 

「え………」

 

「蜃気楼。光の屈折が通常とはちがう変化をおこして視覚を混乱させることがあるだろ」

 

「……!」

 

「あの子……オレの提督は、蜃気楼に似た現象をオレたちが意識的に発生させられるんじゃないかって、教えてくれたぜ……まあ実際の原理はオレたちにも分からないんだけどな。ただ念じるだけでできるんだから」

 

「どうして……私たちに秘密を明かすの……?」

 

「もう隠す必要がないからだよ、終わりが近いからな。あの子は阿武隈が仲間になった時には既に気付いてたっけな……お前らの指揮官はどうなんだ? ちゃんと仲間の特性を把握しているのかよ」

 

「仲間………? 私たちは提督の部下ですよ。何を言って………」

 

「………成る程な。これが第一艦隊か……もったいない」

 

「?」

 

「…………」

 

「なんでもないよ……オレはもう行く。お前たちは水浴びしているんだ。一矢報いるというのなら、せめて稽古で見せてやるんだな」ザザザアッ……!

 

 

 

 

 

「うおおおおおお!」ガバアアッ!

 

 

「甘いわあッ!!」バシィ! ドガッ!

 

 

くっそおおおおお!

 

ガバッ!

 

「まだまだああああッ!」

 

 

「甘いと言っておる!」バシイッ!

 

 

痛てえええ! もう何発目だよ! 動きが……速過ぎるぜ!

 

「だあああああ!」ザザッ!

 

「………ふん」スッ……

 

 

ぐるん……

 

 

!! やべぇ投げられた! これアレだっ……十数年ぶりに味わう………圧倒的力量差からのカンペキな技を食らったときの回転! ちくしょおおおおおお!!

 

ズダアアアアン!

 

 

「………!」

 

「提督の投げを……受け身で凌いだか……」

 

「提督……負けないでクダサイ」ボソッ……

 

「お姉さま……それどっちの提督?」ヒソヒソ

 

「やったあ提督! まだまだいけるよ! がんばってええええ!」

 

谷風……! そうだよ……あきらめてたまるかあああっ!

 

「うおらああああっ!」

 

バシイィッ!

 

「ぬぅ!」ガッ!

 

「パンチ!? ひっどぉーい!」

 

「うるさいよ! さっきからそっちだってバシバシ当ててんじゃん!」クワッ

 

「そんなハッキリした打撃なんて出してないもん!」クワアッ

 

「打撃は打撃でしょー!」ズゴゴゴ

 

 

「せい…やあああああああッ!!」ズシャア!

 

「っ!」

 

ズダン!!

 

「あああっ!?」

 

「フフ……さすが司令官」

 

「目くらまし打撃からの双手刈(モロテガリ)……素晴らしいわ。やはり強敵相手には奇襲も有効ね」

 

「司令官、いけーやっちゃえー!」

 

「司令官さん………」ギュッ

 

 

やべぇ。気持ちがめちゃくちゃアガるぜ……みんなが居てくれりゃあ! こんな痛みなんてどうでもいいよなあああああッ!

 

ガシィッ!!

 

「ぐう!」

 

「やだ何あれ………脚を?」

 

「……まずい。上半身ではなく脚を狙うとは……」

 

鍛え上げられた肉体……90歳を過ぎてるなんて信じられねえ力強さがビンビン伝わってきやがる! 太さはないがその固さ! 頑丈さ! 密着した皮膚をとおして伝わってくる! 丸太ではなく鉄棒………そんな感じだな!!

 

 

「いっくぜええええええ!!!」

 

ギリイイイイイ!!

 

「ぐ………があッ!?」

 

 

「提督!?」

 

「あれは……膝十字?」

 

「違う……あれは……」

 

「ヒールホールドだよ。あの人は寝技もしっかりできているけど……海外からの関節技だから驚いたかも」

 

 

「膝が破壊されるぜ! 降参しろッ!」

 

「ぐあああ!」

 

「違うだろ! 降参しろって言ってんだよおっ!」グイイイ

 

「あが……が………な、生意気を言うヒマがあるなら……さっさと折れえっ! 壊せええッ!」

 

 

なんだとお……この……!!

 

 

「……いや。やめてえ!」

 

「司令官……どうするの」

 

 

「わからず屋があああああっ! アンタら大人はいっつもそうだ! こっちの言い分に耳も貸さないで! 自分のチカラばかり誇示して年下をバカにしてやがる!! たまにはこっちの言うこと聞いてくれたってイイだろうがあああッ!!」

 

ちくしょう! このままじゃマジで壊しちまう! できるかよ金剛や那智の見てる前でそんなこと! こうなったら絞め落としの体勢に移行し………いやムリだムリだ! 落ち着け俺! 力量が違い過ぎる! 技を解いた瞬間に逆襲されるに決まってるぜ! そうなったらもうお仕舞いだ! 仕方ない……挑発して興奮させスキをつくるか!

 

「小僧が……ほざくな! ぐあああ…………!」

 

「やめて! やめてったらあっ! うーちゃん怒るよ!?」

 

「卯月……黙って見ていろ」

 

「那智!? なんでよ!」

 

「提督は降参していないだろう。ならば彼とて技を解くわけにはゆかぬ」

 

「……そんなぁ……ヒドイ……よ」

 

「卯月。どうか落ち着いてください……私たちが勝負のジャマしたら、お二人はきっと………怒ります」

 

「……誰よアンタ。うーちゃんに向かってなれなれしいね」キッ

 

「卯月……うぅ……」

 

「あきれたね卯月。雪風だよ……分からないの? 私はあなたの気配……なんとなくだけど分かってたよ? この豪華な船に乗り込んで、この贅沢な広間に入室した時からずっとね」

 

「響。言い過ぎ」

 

「ん……司令官の気持ちを代弁してみた」

 

「まあ確かに司令官は苦労してるけどね……財政で」

 

「え……うそ……雪風。ほんとに雪風なの!?」

 

「はい……卯月。お久し振りです。そしてこちらは響……ちょっとコワイけど頼もしい先輩」ニッコリ

 

「……」///

 

「響!? それに雪風まで………うわああああん! 雪風え! 響いいいい!」ダダッ!

 

 

「あっ! こら卯月!」

 

ガシイッ!

 

 

「ぐぶぅえ゛!」ビクン! カクン

 

「…………うわぁ」|||

 

「う………うづき……?」|||

 

「………あ。う、卯月……すまん。もしかして絞まったのか?」

 

「…………」

 

「こ、金剛……どうしよう?」

 

「騒いだ卯月にも非はありますが……とりあえず安静に……」

 

「う、うむ……そうだな。ほら、卯月……」スッ……

 

「大丈夫……卯月は強い。すぐに目覚めるから……」ナデナデ

 

「弥生は動じないねぇ」

 

 

なんだか周りが騒がしいな……でも……対立とかそんなんじゃない……どちらかというと穏やかで、温かな雰囲気だ! やっぱり艦娘って最高だな。強い強い絆で結ばれているんだから……!

 

 

ガバアッ!

 

 

! ………っと! あぶねえ! 両腕で俺の脚を一気に外そうと………! なんて筋力してるんだよ!?

 

「提督!?」

 

大丈夫だよ時雨……ぜったいに負けるもんかよ! もう一度ロックだ!

 

ガシイッ!

 

「ぐ………」|||

 

いくぜ、口撃開始だ……急がなくちゃ。この男、マジでやべえ!

 

 

「無茶するじゃんかよ……いまのでヒザに負担かけたぞ! 艦娘を平気で沈める冷血鬼だもんな、自分のカラダにも頓着しないのかよ!!」

 

「な……何いいッ!!」クワッ!

 

よし……食いついたな。

 

「だってそうだろう! 人々の魂を送り届けるために上陸しようとした軽巡棲鬼たちを攻撃するよう命令したのはアンタだ! 防衛という名目でなあッ!」

 

 

「え……何の話………?」

 

「静かに」

 

「知らなかったとは言わせねえぜ……アンタはこの艦隊の指揮官だ! そしてパワハラ野郎の親玉だ! 魂を宿す鬼グループを上陸させたくない理由があるから組織を強固な体制で引き締めようとしたな! 軽巡棲鬼たちが同じ艦娘だと知ったらみんなはきっと救いの手を差し伸べる! それが困るからパワハラで縛り付けて何もさせないようにしようとしたんだろうがあああ!」ギリギリギリ……!

 

「ぐが………ああああ!」

 

この野郎! はやくスキを見せやがれ!

 

「………うそ。そんな……」

 

「那智」

 

「ああ……でもこれでいい。いいんだ金剛」

 

 

「小僧がッ! お前に儂の考えなど分かってたまるかあ!」

 

力強い肉体に精悍な顔つき。日に焼けた皮膚には皺が目立つが俊敏な動作や物腰がそれらを補ってなお余りある。短く整えられた髪には白いものが目立つが皮膚の浅黒さと好対照を成している……長年に亘り稽古に励むとここまで年齢を超越できるものなのか……!

 

でも

 

「艦娘にツラい思いをさせたアンタが吠えてんじゃねえッ! 言ってみろよ……アンタの考えとやらを! どうせたいした理由なんてないんだろおけどなあッ!」

 

「この餓鬼があっ! 言ってやる! そんなに聞きたければ言ってやるッ!」

 

 

……………!

 

 

「深海棲艦に宿る魂はっ! この国を守らんと奮闘なさった方々の魂なんだ! その魂をををっ! こんな! 堕落した今の時代にいっ! お迎えできるはずなどなかろうがあああああアアアッ!!」クワアッ!

 

 

 

          続く

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。