鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第六-9話「任務達成」

「あなたの最後の敵、鎮守府の……歴史交流局の局長はね、人間じゃないの」

 

……………え?

 

「私たち、いろいろ調べたの。彼は霊体よ………詳しくは分からないけど。でもね、人間ではないのは確かよ」

 

 

 

第六-9話「任務達成」

 

 

 

ガタン! ……ドサドサァッ!

 

 

 

ズドドド!

 

 

 

「司令!?」タタタッ

 

「げふっ………大丈夫だよ、雪風。埃はすごいけどね。それよりほら見付けたぞ」ガサガサ

 

「もぅ……それよりじゃありません。こっち向いてください司令」スッ……

 

ハンカチで俺の顔についた汚れを拭き取ってくれる雪風。5ヵ月前の戦闘後に抱擁してくれたのを思い出す。なんだか指揮官というより手のかかる子どもにでもなったような気分だ。

 

「はいおしまい。本当に、だいじょうぶなんですか……?」ジーッ

 

「ああ。雪風こそ大丈夫なのか? 一気に艦娘が増えたからイダやハヤとの打ち合わせで大変だろ」

 

「お二人とも頑張ってますから! 雪風が弱音をはくわけにはいきません!」ニコリ

 

「ワーホリにはならないでくれよ………って、さんざんこき使ってた俺が言えたことじゃないな」

 

いまの雪風は明石のお茶会にも毎回出席できてる。俺が何かとみんなに頼るようにしてから、彼女の仕事量が減ったためだ。でも何故かその割には、俺を手伝ってくれることが以前よりも増えているような………?

 

「そんなことありません。これからもどんどんお手伝いしますからね」

 

「ありがとう。そうそう、話はかわるけど、あの船……トキシラズだったか。何か収穫はあった?」

 

「いいえ、残念ながら。司令のご指示通り、あくまでもみなさんの艤装を船尾に運ぶ下船準備をしながら調べましたので……」

 

「不審に思われたら面倒だからね。些細なことでいいんだよ、例えば見慣れないものがあったとか」

 

「見慣れないもの………あ」

 

「どの部屋?」

 

「操舵室です」

 

「どんなもの?」

 

「写真です。のどかな村が撮られていました」

 

「写真か。一枚だけポツンと?」

 

「あ、いいえ。ウインドゥの直ぐ手前に平らな箱とノートがあって、その箱の中にあったんです。ペンやマジックと一緒に」

 

随分ヘンテコな置き方だな。写真ならやっぱり壁に留めたり写真立てに入れて机の上とかだろ……。もしかして、ふだんは懐にいれてる写真を見ている最中に俺たちが先手を打ったタイミングが重なって、あわてて部屋から出ていく時に箱の中へポイッと?

 

「村に何か特徴は?」

 

「ええと……特には。いくつかの民家と、その遠くに山並みが……。室内に入って、もっと近くで見ておくべきでした……」

 

「いや、目立たないようにと指示を出したのは俺だからね。雪風は気にしなくていいよ。報告ありがとう、俺たちはこの書類を調べて局長の居場所を突き止める。引き続きみんなのサポートよろしくね」

 

「了解しました、司令!」

 

 

 

 

 

ガサガサ……パラリ

 

 

 

「ずいぶんと貯めこんだものじゃのう。ここは昔、軍事施設じゃったのか?」

 

「俺も詳しくは知らないんだ。でも白ペンキであちこち塗られているのを見ると、まるで往時の面影をムリヤリ消し去ろうとした感じがするね。ちなみにこの束はずっと昔からあるわけじゃなくて、第八艦隊がうぶ声をあげて以来アチコチから運び込まれた物品のひとつだよ」

 

「なんじゃ、そうなのか。お主が埃まみれになったというからてっきり年代物かと勘違いしたわい」

 

「面影を消し去る……たとえば、地下室かしら?」

 

「リッティもだいぶここに慣れてきたみたいだな。当たりだよ。前は本当に酷かったからな、あそこ」

 

ふだん冷静な響が動揺してた程だ。あそこにだけは滅多に近付こうとしなかったな。

 

「いまは違うじゃない。あなたが手を加えたらしいわね?」

 

「仲間に手伝ってもらったんだよ。俺ひとりでやったわけじゃない」

 

 

サラ………

 

え………。リッティが俺の髪を……撫でてる?

 

「謙遜しちゃって。あなたって、戦闘では容赦しないクセに普段は別人みたい」サラサラ

 

7月にはいったばかりで今は梅雨。あと3週間もすれば本格的な夏の到来だ。でもリッティの指は少しひんやりとしていて気持ちいい。

 

「自分を見失いたくない。それだけだよ」

 

「おいリッティ、我らも手伝うぞ。とんでもなく賑やかになったからのう、この辺りで存在感を印象づけておかねばならん」ピョン! スタッ

 

「お、おい! 足を痛めたらどうするんだよ。危ないだろ」

 

リッティの肩からイキナリ机の上に飛び降りた泊地水鬼。なんだか行動がどんどん大胆になってきてないかこの艦娘。

 

「これくらい平気じゃよ。さあさあそれよりも、さっさと仕事を片付けようではないか」パラパラ

 

「そうね。座っても?」

 

「手伝ってもらうんだ、勿論だよ。確認しなくていいからね」

 

「ダメよ。これは任務の一環であなたは指揮官なんだから。私はあなたの部……いいえ、仲間たちから睨まれたくはないわ」ガタッ

 

ここではもっと身近に接してほしいんだけどな……でも言われてみればリッティの言い分は尤もか。

 

「悪い。軽率だった」

 

「気にしないで。この一覧表の中からいちばん怪しいものを選べばいいのね?」

 

「そうだ。ふたりは局長の正体を察知するほど霊的なカンが良いからな……頼りにしてる」

 

「あらあら。これは気合いをいれなくちゃね」パラリ

 

黒のドレスに身を包んだリッティの顔に笑みが浮かぶ。最初は頑(カタク)なに振る舞う彼女だったが、今ではこんな表情を見せてくれるようになった。深海棲鬼だって本来は艦娘。怒りや憎しみから解放されればみんなと何も変わらない、同じ仲間だ。

 

「任せておけ。ところで頭領たちはどうしておる?」パラパラ

 

「まだ会わせてやれなくてすまないと思ってる。入渠は完了した。いまは四人とも快復して相部屋で過ごしてもらっているよ。みんなよく食べてくれるってハヤが……ウチの炊事スタッフが喜んでたぞ」

 

「そうか。良かった」///

 

心底うれしそうな泊地水鬼。仲間思いなんだな。

 

「なあ。前から考えてた名前があるんだけどさ、付けてもいいかな?」

 

「へっ?」キョトン

 

「もうリッティと同じ仲間なんだ。な、いいだろ?」

 

「えと………それは構わぬが。よいのか?」

 

「職長たちにも付けたからね、もう名無しはひとりもナシにする。自分で名乗りたいのがあるなら別だけど」

 

「いや、お主に頼む」

 

「分かった、嬉しいよ。それじゃ……ディーネだ。水鬼だから水の精霊、ウンディーネから拝借したんだけど……どうかな?」

 

「ふむ。精霊とな。ディーネか……うむ、頂戴したぞ! 感謝する」ニッコリ

 

「良かったわねディーネ。私は離島棲鬼の離島からリッティ。不思議ね……長い付き合いなのに、なんだかとても新鮮な心持ちだわ」

 

「ほう、お前の名はそんな由来だったか。確かにいままでとは違うな。お互い、別人に生まれ変わったのかのう」

 

「リッティにはもうひとつの意味を込めてある」

 

「あら、そうなの? 教えてちょうだいな」

 

「ビッグって単語をビギィに変えると立場の高い人って意味になるんだ。それにならって、リトルって単語をリッティに変えてみたんだよ」

 

「リトル? 小さいとか少しって意味よね」

 

「それだけじゃないよ。もうひとつの意味が………」

 

 

パタパタ……バタン!

 

 

「司令官、あーそーぼー!」ガバア!

 

「司令官、おいしいケーキ焼いたの………って。あらら、暁、ストーップ! お仕事中だわ!」

 

「え……あ! ゴメンなさい!」バッ

 

「おっと、逃がさないぞ」ヒョイ

 

「きゃッ!?」

 

「手伝ってくれ。今からリッティとディーネが……」

 

「えぇっ!? やだ、司令官ひとりじゃなかったの!? わ、私……戻る!」ジタバタ

 

「ダメだ、暁にも手伝ってほしい。もう俺の膝の上はイヤになったのか? 寂しいな………」

 

「そんなワケないじゃない! ただ、その……」///

 

「あなたの負けよ暁。おとなしく司令官の言う通りになさい。はいどうぞ、大きいの焼いてて正解だったわね。もう切れ込みいれてるからね」カチャリ

 

「パウンドケーキか、美味しそうだな! ありがとう雷。暁と一緒に……」

 

「ううん、コッチに向かってる響と電とほかのみんなを止めておかなくちゃ。リッティ、えと……ディーネ、司令官をよろしくね」スタスタ…パタン

 

(すまん雷、この埋め合わせは必ずする)

 

(気にしないで、いつもお疲れ様。暁ね、イキナリみんなの居る前で司令官に会いに行こうって言い出したの……普段なら司令官の予定をバッチリ記憶してる子なのに。かなり疲れが溜まってるわね)

 

(ほんと頑張ってくれてるからな。暁のことは任せてくれ)

 

(お願いね)

 

 

 

「ほら暁、リッティとディーネが資料の中から局長の居場所を探るからな。俺がそれを見ていろいろお前に質問するよ。頼んだからね」ギュッ

 

「あんッ……わ……わかったわよ。まかせて」///

 

 

 

 

 

スタスタ……

 

「あ、テイトク! お疲れ様です!」タタッ

 

廊下の向こうから俺の姿を認めて小走りで近付いてくる金剛。あの邂逅から2週間が過ぎて、彼女もここでの暮らしにかなり慣れてきたようだと職員のみんなから聞いている。

 

「会いたかったです……提督。またお仕事?」

 

「局長の居場所を調べていた。やっと目星がついたよ」

 

「提督……それじゃ、いよいよ」

 

「ああ、いよいよだ。準備を整えて近日中に出発するよ」

 

「ごめんなさい。提……室長の護衛官を務めていたワタシが、なんのお役にもたてなかった………」

 

「第一室長が気を許していたのは鳳翔だけだ。彼は局長に関して金剛に何も知らせてなかったんだから、無理もないことだよ」

 

「いま振り返ってみると、ワタシたちって駒みたい」

 

「駒?」

 

「そう、駒です。敵を倒すだけの。あの人にとってワタシたちはその役目以上の存在意義なんてなかった」

 

「……………」

 

「でも、あの頃はそんなこと気にしなかった。深海棲艦とのバトルは連戦連勝、毎日が充実感で満たされていた………フフフ、まるで長い夢でも見てたみたい。夢からさめてみれば、後には空虚な日々が待っていました、とさ………。なんてネ」

 

「金剛……それは」

 

あとに続く言葉が出てこない。表情こそ穏やかだが、言葉から伝わってくる響きは哀切さが強すぎて。

 

「だからワタシは、こっちに来て良かったと思ってるんです! あらためて、これからヨロシクお願いします!」ニッコリ

 

「ああ、こちらこそよろしくね金剛」

 

 

ギュッ………

 

差し出された手を握る。数々の戦いで何百回もの砲撃を放ったであろうその手はしかし、とても柔らかな感触だ。霊的な存在である彼女たちにはタコやマメなんて無縁なのかな? 言葉にも、いつもの朗らかさがもどってるみたいだ……。

 

「それと……球磨と多摩のことなんですケド………」

 

「一応、警戒はしていたんだけどね。ビックリしたよ……でもあの負けん気はさすが、艦娘だね」

 

「自由というか奔放というか……あの二人はほんと気ままで。まさかココまで追い掛けていたなんて思いませんでした」

 

「熟練見張りの妖精さんが興奮していたよ、こんなことは久し振りだってね。でも火器は一切使わなかったよ……素敵なコンビだね」

 

「……砂浜で何人か投げ飛ばしたって、ホント?」クスクス

 

「ほんとだよ。慌てて鈴谷に取り押さえてもらったんだ……強いんだね」

 

「格闘であの二人に勝てる子は少ないですヨ。……ねえ提督ぅ、鈴谷が強いのって、やっぱり………」

 

「ああ、間違いなくヒゲの艦長さんの強さを受け継いでいるんだと思う。本当に……偉大な軍人だよね。柔道が強くて、部下思いで、あの撤退作戦を成功させて………ね」

 

傲慢で唯我独尊な軍上層部。でも、決してそれだけじゃなかったんだ。

 

「阿武隈、木曾、響、夕雲、秋雲………あの撤退作戦で、おヒゲの艦長さんと共に霧の中を突き進んだステルスフリート…………」

 

「そう。あれこそ日本のあるべき姿だよ。破壊ではなく、人々を守るためにこそ力を発揮するんだ」

 

「ワタシたち、迂闊でしたネ。アナタたちの編成は把握していたのに、あの作戦と結び付けて考えることができませんでした。艦娘は、かつての戦いの中で様々なスキルを身に付けている……わかっていたハズなのに」

 

「あまりにもチートスキルだからね。百戦錬磨の室長や艦娘でも思い付かなかったのは仕方ないよ」

 

どんなゲームマスターでもプレイヤーに与えることを躊躇するレベルだ。シナリオのバランスが根底から覆されること間違いナシの。

 

「うん……確かに、そうですね……」

 

 

 

「提督、金剛。お疲れ様です!」

 

廊下の中央で会話する俺たちに元気よく声を掛けてきたのは水上機母艦の千歳だった。第一艦隊所属でありながら、俺に対して穏やかに接してくれる艦娘だ。

 

「お疲れ千歳。金剛、少し窓のほうに………」スッ

 

「あ、ハイ提督」サササ…

 

「千歳、ココでの暮らしはどう? もう慣れた?」

 

「はい、それはもう! 職員の方々がとても良くしてくれますから」ニコッ

 

「それ聞いて安心した。何かあったら遠慮なく言ってね」

 

「はい。あの……早速なんですけれど、私たち、毎日楽しくみんなと過ごしていますが……これで良いのでしょうか?」

 

「? 勿論。そのためにみんなをウチへ連れてきたんだからね」

 

「せめて何かお仕事を……」

 

「いままで離ればなれにされていた艦娘のみんなには謝っても謝りきれない。そのスキマを少しでもたくさん埋めてほしい。仕事といえば、それがいちばん重要な仕事だよ」

 

「………」チラッ

 

金剛に視線を送る千歳と、それに対してコクリと頷く金剛。

 

「分かりました提督。ですが、ご用があればいつでもお気軽に! それでは」ペコリ…スタスタ

 

ありがとう千歳。卯月もだけど、この2週間で第一艦隊の艦娘が少しずつ態度を柔らげてくれているし、いまのやりとりで肩の荷が軽くなった気がするよ。

 

「ワァ……ほら提督、ここから第八艦隊の鎮守府がよく見えるんですね。ステキ」ジーッ

 

「うん、クラフィ職長の工廠から正門までバッチリだよ………ん?」

 

「提督? なにか………あ」

 

金剛も気付いたみたいだ。窓の外、視界の端に見える砂浜とは反対側の、もう一方の端に見えている小高い丘の頂上にある神社……そこへと至る参拝口に、小さな人影が見える。誰かな?

 

「金剛、あれ誰か分かるかい?」

 

「ちょっと待っててくださいネ………あれは軽巡棲鬼です」

 

そうか、そろそろ散歩の時間だったっけ。そういえば彼女とはここ数日、会ってなかったな……。

 

「ありがとう金剛。会いに行ってみるよ」

 

「提督、ワタシは、その……」

 

「ああ、金剛は宿敵だったからね。まだ顔を合わせないほうがいいな……それじゃ、行ってくる」タタッ

 

 

 

 

 

ザッ………

 

 

 

緑豊かな丘の中腹。この先には、えびす様を祭神と崇(アガ)めたてまつる神社が荘厳(ソウゴン)たる姿で佇んでいる。その神社へと続く

石段のふもとには………。

 

 

 

「あら。もしかして私に会いに来たの?」

 

木立ちの下に立っている軽巡棲鬼。数日ぶりに目にした今日の彼女の表情は、なんだか憂いを帯びていて……艶(アデ)やかさが漂ってて少しドキッとした。

 

 

 

「うん、窓から見えた。久し振りに話がしたくてね」

 

「そう………」

 

俯(ウツム)き加減の軽巡棲鬼。会話する気分じゃないのかな?

 

「もしもひとりで居たいなら………」

 

「あ、違うのよ。ちょっとね……今までのことを思い返していただけ。ここに居てちょうだい」

 

「分かった。……なにか、気になることでもあるのか?」

 

「………………ええ。大勢の命を奪ってきた私だからな。いろいろと………ね」

 

………なんだかイヤな雰囲気だな。これはいけない。

 

「それなら俺もだよ。言っておくが気休めじゃないからな。新人の頃は、何度も夜中に目が覚めたんだぜ」

 

「でも克服したんでしょ? あなたには仲間が居るから」

 

「お前は違うのかよ。お前にもちゃんと仲間が居るじゃないか、港湾水鬼たちのほかにもリッティや泊地水鬼が。いまはディーネって名前だけどな」

 

「あら……彼女の名付け親になったのね」

 

ほんの少し見開かれる目。よし、感情が出てきたな。

 

「お前たち全員に名付ける積りだからな? イヤなら自分でなにか好みのやつを見付けておくんだ」

 

「くす………何だそれは。まるで私たちのこと、仲間みたいに思ってる言い方」

 

「みたい、じゃなくて仲間だ。那智が言ってたよ……私の手は血まみれだってな。お前もそれを気にしてるってんなら、俺がお前もお前の仲間も那智もまとめて一緒にココで暮らす」

 

「な………それ、本気で言ってるのか?」

 

「大風呂敷をひろげてると思うか? 本気だぞ」

 

「……………」

 

「……………………」

 

 

「……暁の言った通りね。あなた、ほんとに私たちを仲間にする積りだったんだ。あなたのこと困らせるな、って叱られたわ」

 

暁……ありがとな。今晩の俺のおかず、もう好きなだけ食べていいからな。

 

「それを目標に……いや違うな」

 

「え……?」

 

「それを楽しみにしてたから、ここまでこれたんだ! 俺は艦娘のことが大好きなんだよ!」

 

「………ふぅん。でも私のこと、す……」

 

 

「好きに決まってんだろ! 何回でも言ってやるよ!」

 

「!」

 

「俺はエロでスケベだけどな! 嘘で好きだなんて絶対に言わねえよ! さっきからどうしたんだよ……お前、なんだか様子が尋常じゃないぞ? 言ってくれよ、言ってくれなきゃ分からないんだよ!」

 

「私はあなたのことが大好きなタルトの大切な姉を殺したっ! 卑怯な手段で! ここで暮らすってのはアイツらと暮らすってことじゃない! ムリよ! ムリに……決まってるじゃない………」

 

涙が軽巡棲鬼の両目から流れ出している。つやつやのふっくらした頬を流れ落ちてゆきながら。

 

(なら、直接きいてみなよ)

 

「え………?」

 

(念話だよ。お前もちゃんと使えるだろ)

 

(私………誰と)

 

(タルト。聞こえるか?)

 

(はい。ご主人様)

 

「! い………いやっ! ひどい! ひどいっ………どうして、こんなことっ!」ガバッ!

 

(軽巡棲鬼の気持ちを聞いたよ。彼女は戦艦棲姫を罠に嵌めたことを心から悔いている。次はお前の番だ)

 

(はい………)

 

「いや………いやあ………」グスッ

 

 

ギュッ

 

 

「……………っ?」

 

 

草の生(オ)い茂る地面にくずおれた軽巡棲鬼を背後から抱きしめる。ビクリと身を震わせたが振り払う様子はなさそうだ……。

 

 

(ねぇ……聞こえる? 私たちの軍勢で最強の艦娘、覚えてるよね? 彼女の後ろにいつもくっついてた私、タルトよ………)

 

(…………ええ。覚えてる)

 

「その調子だ」ギュ

 

(あなたのこと……ほんとに恨んだ。毎日毎日、ずっとね)

 

(………………)

 

(でもね。いまは違うの)

 

(……………え?)

 

(ご主人様はあなたのこと仲間にしたいと思ってる。私がいつまでもワガママ言ってたら、私……嫌われる。いやよそんなの。絶対にイヤ)

 

(……………)

 

(ね………聞こえてるの?)

 

(あ………ごめんなさい。ちゃんと、聞いてる………)

 

(ご主人様はね、ほんとに凄いの。ね、お姉ちゃん?)

 

(え?)

 

 

(そうね。無人島でずっと震えてた私をその手で助け出してくださったんだから。あなたと違ってね、タルト)

 

(お願いお姉ちゃん、それはもう許して…………)

 

(ミルディもミルディだわ。長年の相棒をほったらかしにして。ね、聞こえてるかしらミルディ?)

 

タルトは無視かよ。手厳しいんだな。

 

(……………)シーン

 

(だんまりか。まったく、困った指揮官だわね。だいたいアイツは昔から……)

 

(おいトール)

 

(何でしょう、我があるじよ)

 

(この念話はみんなが聞いている。暴露話はダメだ)

 

(む………そうですか。承知しました)

 

「………………まさか」ギュ…

 

抱きしめてる俺の前腕を握りしめる軽巡棲鬼。こんな小さな手でずっと戦ってきたんだな。

 

(ディーネが復活したろ。だから閃いたんだよ。もしかしたらトール……戦艦棲姫も何処かでさまよってるんじゃないかってな)

 

(一年間、ずっとひとりぼっちよ。まったく……なんで無人島に埋葬したのやら。ミルディの島なら直ぐに会えたのに)

 

緑豊かで生命力に溢れた島だからな。殺風景なあの島じゃなく、安らぎのありそうなあの島で眠ってもらいたかったんじゃないかな。

 

(それはこれから、たっぷり問い詰めてやるんだな。今は軽巡棲鬼のことだよ)

 

(は……承知しました)

 

(こんなことって………私………わたし……)

 

(トールにもディーネにもあの人々の魂が宿ってるんだからな、驚くことはないよ……故郷に帰りたいという気持ちが奇跡を起こしたんじゃないかな)

 

政府の陰陽寮で働いてる職員ならもっと詳しく説明できるだろうけど、小さい頃にいろいろ見えてたって程度の俺じゃ、これくらいが精一杯だ。

 

(私はこの通りピンピンしているわよ。体躯が小さくなったのには閉口したが、もう慣れた………だから、お前も気に病(ヤ)むのはもう、おやめなさい)

 

(グスッ………わたし…………わたし……)

 

もう会話はムリだな……でもトールやタルトにはしっかり気持ちが伝わっただろう。今はこれで、充分だ。

 

(トール、タルト。彼女はいま話せない……続きはまた、今度な)

 

(いつでもお呼びを。我があるじよ)

 

(分かりました、ご主人様…………)

 

 

 

 

 

ザザッ………

 

 

 

ゆっくりと立ち上がる軽巡棲鬼。さっきとは違って向かい合う体勢だから、俺の両肩に左右の手を乗せながら。涙はすっかりおさまっている。

 

「もういいのか?」

 

「ええ、何だかスッキリした。もう大丈夫よ」

 

「そうか。良かったよ」ザッ

 

「本当にありがとう。でもね、やっぱりここには居られないな」

 

「おい、まだそんなことを!?」

 

「落ち着いて聞いて。もう私は冷静よ。ヤケになったりしないから安心して」

 

「それなら、なんで………」

 

「私なりのケジメ、かな。これからは私、どこかの島でひっそりと暮らすわ」

 

「お前にもあの人たちの魂が宿っているんだ。ここで暮らして、魂の願いを少しでも叶えて…………」

 

「心配するな……私には彼らの魂が宿っていない。受け継いだのは魂ではなく、怒りと悲しみだからな。さようなら……」

 

「そうはさせねえよ。お前ってさ、ほんと頑固だよな………言ったろ、仲間だって」ギュ

 

「……………」///

 

「ここに居るんだ。な?」

 

「私には魂が宿ってないのよ。だから私は、復活することができない………もしも私が、その………なにかあったら、あなたを苦しませるわよ?」

 

そんなの気にしてたのかよ。俺がいちばん苦しむのは、艦娘と離ればなれになるってことなんだよ!

 

「ウチは今や名実ともに最強の艦隊だ。お前に危害を加えようとするヤツなんて蹴散らしてやるさ」

 

「ずっと敵だった私を、守ってくれるかな……?」ギュッ……

 

「みんな素晴らしい仲間だ。これからじっくり時間を掛けて、それを実感させてやるよ。心の底から」

 

「………………うん」ポフッ

 

頭をゆっくりとこちらに委ねてくる軽巡棲鬼……サラサラの髪の感触が、くすぐったい。

 

 

 

 

 

ガタン…………。ザッ

 

 

 

「ここか………。随分と静かで、のどかなところだな」

 

「今はな。かつてはここに、本土決戦の施設が築かれたんだよ」

 

「日本のあちこちに、だな?」

 

「その通りだ、木曾。まったく、戦争ってのは人を狂わせるよな………」

 

いや、それとも最初から狂ってる人間こそが戦争を仕掛けるものなのか? 俺にはサッパリ分からない。

 

「ああ。それにしても……国鐵(コクテツ)も今やジェイレールかよ。何もかも変わっていくんだな」

 

「変わらないものだって、きっとあるんじゃないかな………行こう、みんな」ザッ

 

「ああ、分かったよ」

 

「海から陸へ、か……」

 

「人の業(ゴウ)、じゃのう」

 

ザッ……ザザッ……ザッ……

 

 

 

          続く




この1年間、小説を書くということの難しさをただただ思い知らせられました。
あの戦争でムリヤリ戦地へと追いやられた人々を非難してきた時代は何か間違ってたんじゃないか、そんな思いに駆り立てられて書き始めたのがこの作品です。
みなさんに伝えたいことのうちで、果たしてどの程度が伝わったのかはわかりませんが、なにか少しでも印象に残ることができていれば、本当に嬉しく思います。
この作品はあと数回で終了しますが、次回は年末年始を挟んで、1月13日(金)の投稿を予定しています。
そしてこれが、最後の後書きになると思います。初めて書いた小説が艦これ改という素敵なゲームの二次創作で、とても嬉しいです。みなさん、どうぞ良いお年を!

きょう89歳の御生誕日をお迎えになられた上皇さまの御健康をお祈りし、小説の題材にさせていただいた艦これ改、そして艦隊これくしょんという素晴らしいコンテンツに感謝すると共に、これからのますますの大展開を願いつつ……。
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