鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第七-2話「任務達成」

「……これからは貴様が思い描く通りに歩めるよう計らうからな……局長として保証してやろう!」

 

とても明るくて、こちらのわだかまりなど易々と打ち砕いてしまうような言葉だった。

 

 

 

第七-2話「任務達成」

 

 

 

ジャリッ……

 

 

 

「ここは暗くて貴様の顔がよく見えん。場所を変えるからついて来い! サチ、一緒に歩いてやれ」

 

「はい」ススッ……

 

俺たちに背を向け、しっかりとした足どりでドームの奥へと進み始めた局長と、軽やかな動きで俺の隣へと歩み寄るサチと呼ばれた少女。この場所も通路と同様に瓦礫だらけなので、彼女の体から発せられる光は転倒防止のために有効だ。

 

「お兄ちゃん、すごく強いチカラあるんだね。後ろのお姉ちゃんたちのチカラと、ほかにも大勢のお姉ちゃんのチカラ……」

 

艦娘みんなのチカラか。確かにずっと一緒に過ごしているし、最近になってからは劇的といってもいいくらいに大所帯になった。彼女たちの霊力や生命力の一部を、太陽や雨のめぐみを受けて育つ草花のように吸収していたとしても不思議はないだろうな。

 

「いろいろと助けてもらっているよ。彼女たちは付喪神(ツクモガミ)……海軍艦船に宿る魂と、兵隊さんの魂が一体となった存在だ」ザザッ……

 

「素敵。とても強そう……あ、そっちは危ない」ギュッ

 

俺の手を握り引っ張ってくれるサチ。穴でもあったのかな?

 

「ありがとうサチ。局長はどこへ向かっているんだい?」

 

「お山の森。静かなところですよ」

 

 

 

バサバサバサ……!

 

 

鳥たちの羽ばたきの音が幾重にもつらなりながら木々の間から聞こえてくる。俺たちの気配で静寂の安らぎを乱してしまったことに少しだけ罪悪感をおぼえながら、局長の後に続いて森の中へと歩みを進めていった。

 

「ここらでよかろう。おい貴様、その背に負いたる荷より何か手頃なものを出してくれんか。立ち話では興(キョウ)も削がれよう」

 

座って話そうということか。

 

「すこし待ってほしい。ブルーシートを出す」

 

 

やがて俺と木曾とリッティは、局長と彼の隣のサチに向かい合うかたちで腰をおろし、ふたりが語る話に耳を傾けた。ディーネたちがかねてより察知していた通り局長はもはやこの世の人ではなく、ずっとサチと共にこの山の地下施設で過ごしていたこと……何年たっても肉体が老化しなかったなど、様々な現象を体験することにより生者ではないことを悟ったのだという。ふたりとも、ある日突然そこで目が覚めた時には記憶の大部分を失っていたのだということ。基地施設が瓦礫だらけなのは恐らく、占領軍による全国武装解除の際に調査されたのち爆破されたのだろうということ。別々の部屋で目覚めた時にやや遠くから大きな轟音が聞こえたのを覚えているとふたりは口を揃えた。そして他にもいろいろなことを……。

 

「周囲を探索してみたのだが誰も居(オ)らなんだ。ここで我らはふたり、身を寄せ合い過ごしてきたのだよ。そして数十年後、第一室長らの調査隊がここを訪れ、我らは邂逅を果たしたというわけだ。彼は組織の重鎮衆のひとりだが、あいつらは俺に義理立てして局長と呼んでくれるのよ」

 

胡座(アグラ)をかいた姿勢で背筋をピンと伸ばし張りのある声で語る局長には一種の威圧感があった。暗闇のせいでよく分からなかったその姿は黒の学生服の上にインバネスをまとったという出(イ)で立ちだ。学帽の下の表情は精悍だが、どことなくあどけなさをとどめている様子から見て、年齢はたぶん二十代前半あたり。尤も、俺とならんで歩いたら局長のほうがはるかに貫禄あるだろうな。

 

「話し過ぎたようだな……ちと疲れた。いや、気遣いは無用だ! 我らの身は飲食を必要としておらん。外(ホカ)に何か聞きたいことはあるか? 貴様らは戦いを終えた今、最後の区切りをつけんと欲(ホッ)してこの地にやって来たのであろう? 遠慮は無用だぞ」ニヤリ

 

「………あなたたちはもう直ぐ、行ってしまうのか?」

 

「それを最初に尋ねるか。成る程、確かに報告の通りだな。頭は切れるが、甘さが抜けておらん」

 

「指揮官としては問題あり、と? でも俺はみんなのチカラのお陰で戦いを終わらせることができた。あとは故郷に帰りたいと願う魂を……じっくりと、時間を掛けて見送っていく。必ずやり遂げてみせるさ。俺は完璧な指揮官ではないよ、でも……そもそも完璧である必要なんてないんだ。自分の足りない部分は仲間が補ってくれるんだから」

 

「…………ほう」

 

こちらの目をしっかり見据えて興味深そうな表情を浮かべている局長。きょう会ってから、彼の注意をこんなに惹き付けたのはこれが初めてだな。

 

「それが貴様の戦い方か」

 

「そうだよ。俺だって以前は自分なりに完璧であろうとしたことがある。でもその結果、ひとりで突っ走って、大切な秘書艦を傷付けてしまったんだ。あの頃の自分を殴ってやりたいよ……俺はもう二度と、あんな愚かなマネはしない」

 

「任務を果たすことこそが指揮官の役割だ。指揮官が秘書の顔色を窺ってどうするッ」ジロリ

 

「下らないね。仲間が居るから戦える。仲間が居るから日々を楽しく過ごせるんだ。上意下達(ジョウイカタツ)に凝り固まった硬直思考のなれの果てが、仲間を仲間とも思わぬあの残忍無比な作戦だよ。その結果はむごたらしい敗戦だ! あんたも知っての通りのな!」

 

 

ギュッ……

 

 

「……木曾?」

 

両肩に感じる柔らかな手の感触。局長と同じく胡座をかいて座っている俺の背後で、さっきまで隣に居たはずの木曾が局長を見詰めている。上から聞こえてくる声の位置からすると、膝立ちの体勢なんだろう。

 

「ゴメンな、会話を邪魔しちゃって。でもお前が怒るカオなんて見たくないから、さ」

 

柔らかな声と、そして両手こめられる優しげな力加減。背後にいる木曾の表情は見えないが、見なくても分かる。ニッコリ微笑んだんだろうって。

 

「なあ局長。この子はな、数え切れない困難にぶつかりながらも挫けることなく全てやりきったんだぜ。それ以上の詰問(キツモン)はオレが許さねえ」キッ

 

木曾……。

 

「そうね……私たちにはまだまだ彼が必要よ。初対面で不躾かも知れないけれど、あなたって彼のことが羨ましいんじゃないかしら」

 

「俺が? 何故だ」

 

「仲間の力を誰よりも信じているからよ。自分の力を過信せず、たとえ相手が部下でも頼るべきときはかならず頼る……。でもあなたの生きた時代って、そういうのを軟弱よばわりしてたんでしょ?」

 

「否定はできんな。いやまったく、時代は変わったものよ」

 

「兄さん……」

 

局長を心配そうに見やるサチ。兄さん、って呼んでるのか……そういえば鎮守府で留守番してるアユム、今ごろどうしてるかな? パワフルな艦娘のみんなに圧倒されているか、やっぱり。

 

「ふふふ……」ニィッ

 

局長?

 

「………?」

 

あ、木曾も戸惑ってる気配だな。どうしたんだろう局長は……。

 

「なに……何が可笑しいのかしら?」

 

「はははは! 貴様らの返答、確かに聞かせてもらったぞ! 勘違いするなよ、この男の働きは評価していると言っただろう! もとより詰問など意図しておらぬわ!」

 

「…………調子くるうぜ」

 

「ほんとね」

 

愉快でたまらないといった表情の局長。笑うとまるで課長みたいだな……少年のような表情だ。でも年齢を計算してみれば、もしかすると第一室長よりも年上なのかも知れない。いや、きっとそうだろう。さっき局長は、室長や他の重鎮が自分に敬意をはらっているという意味のことを言ってたもんな。

 

「質問に答えよう。その通りだ、我らは行かねばならぬ……俺にもサチにも、見届けるべきことは最早ないからな。そうだな、サチ?」

 

「はい兄さん。海軍のお姉ちゃんたちの戦いを見られて……良かったです」

 

え?

 

「戦いを……見たって?」

 

「そうだよお兄ちゃん。私は何回か遠出して、お姉ちゃんたちの勇姿を見ていたの。兄さんにお話を聞かせてあげるために。もうだいぶ以前だけど」

 

「楽しい時間だったぞ。海軍は俺たちの憧れだったんだ。その海軍の船が復活したと聞いて、冷静でなど居られるものか!」

 

破顔する局長。

 

「俺もそう思うよ。あんたには艦娘に対するパワハラ……あんたの時代の言葉でいえば、気合いをいれるってヤツか? それを放置したあんたとは気が合うとは思わない。でも、今あんたが言ったことには同意するよ」

 

「お兄ちゃん。組織にはね、お姉ちゃんたちを利用してね、兄さんのやり方に逆らおうとしてた人がいたの。だから、兄さんはお姉ちゃんたちに厳しく……」

 

「サチ、やめなさい」

 

「兄さん……」

 

「組織を優先するよう指示を与えたのは俺だ。彼らは俺の言葉に従っただけ。彼女らの苦しみはすべて俺の咎(トガ)よ」

 

何だと?

 

「それなら艦娘のみんなにひとこと、反抗的な派閥には注意しろ、と。利用されないようくれぐれも気を付けろ、と……それだけでいいじゃないかよ!!」

 

「ダメだって……頼む。落ち着いてくれ」ギュッ……

 

ぐッ………木曾にそんな辛そうな声で懇願されたら、なにも言い返せないじゃないか!

 

「……分かったよ。悪かった」

 

「ううん……そんなこと、ない」

 

まだ俺の両肩に置かれている木曾の手の感触。それが俺の怒りを、ゆっくりと鎮めてゆく……。

 

「貴様には不愉快な思いをさせた。だがな、彼女らは戦士だ。少々のことで音(ネ)を上げる者など皆無であるし、高雄と霞には監視も担当させた。間違いが起きてからでは遅いからな」

 

「あの二人は第三室長の手足となり艦隊の仲間を苦しめていたんだぞ」

 

「それは誤解だ。彼女らは室長を監視していたのだ。必要以上に艦娘を苦しめないようにな」

 

「時雨はもう第三艦隊に戻りたくないと言ったんだ。ひとりひとりの心ってのはな、みんな違っているんだ。あんたたち組織の長(オサ)とか頭(カシラ)ってのは誰でも似たり寄ったりだな。ひとりひとりを見るのではなく、全体をまとめて扱うから少数派のことなどお構いなしだ」

 

「そうすることが必要な時には、だな。貴様にもいつか分かるだろう」

 

「あまり彼を刺激しないで。あなたは組織を守るために、艦娘が利用されることのないよう室長に命じて彼女たちを厳しく規律で縛り付けさせた。でもね、彼に言わせればそれはね、艦娘の自然な団結をも封じ込めてしまったのよ?」

 

「…………」

 

リッティ……。

 

「 厳しい訓練と実戦の繰り返しばかり……そんな暮らしをしていれば、かつて共に戦った仲間の思い出も台無しね。同じ艦隊内だけで群れてばかりの、勝つことしか考えない戦闘人形の出来上がりだわ。不気味」

 

「いまリッティが言ったのは第一艦隊……アンタの組織の中核を成す連中のことさ。オレはアイツらと言葉を交わし、立ち居振舞いや戦いぶりも間近で観察したが……」

 

「戦闘人形だ、と。そう言いたいのか?」

 

「ああ。名は伏せるが、かなりアブナっかしい奴も居たぜ。ま、オレのスコールで多少は頭も冷えただろうとは思うけどな」

 

「そうか。スコールとはよく分からんが、お灸をすえてやったということだな」

 

「まあね……局長、アンタの言い分も分かるぜ。この子が納得するような方法では、あの巨大な組織をまとめるのはとても骨が折れるだろうな……」

 

…………………。

 

「だがな、それでもオレはやっぱり、この子の好きなようにさせてやりたい!」

 

 

「アンタはさっき言ったよな! これからは貴様が思い描く通りにしてやるとかなんとか……局長として保証してくれるんだよな?」

 

やべぇ……。

 

「木曾、嬉しいよ……ありがとな」ギュ

 

「ハハッ……やっと笑ってくれた」ニッコリ

 

ありがとう……お前はいつも俺のそばに居てくれるんだな。調子に乗って甘えないように気を付けるよ、天龍からも釘を刺されたからな。本当にありがとう。

 

「ああ、確かにそう言ったぞ。繰り返すが、この男の働きに就いては評価しているのだからな! 俺からのささやかな感謝のしるしだ、遠慮なく受け取れ! 帰ったら人事課に行くんだぞ、手続きはすべて完了している筈だからな」ニヤリ

 

「なんだか、楽しみになっちまうな……ありがとう。あんたと話し合うにはもっともっと時間が必要だと思う。でも、さっきからサチがそわそわしている。残念だけど、時間が……来たんだろう?」

 

「ふふふ……貴様は頭が切れるというよりも、誰かを気に掛けるからこそ洞察力を発揮するのかも知れんな」スッ……

 

ゆっくりと立ち上がり、シートのすぐ外側に並べてある靴を履く局長……霊体でもそういうトコは俺たちと変わらないみたいだ。サチが彼の後に続く。そして勿論、俺たちも。

 

「あんたがつくった組織で俺はいろいろな経験を積むことができた。いろいろ言いたいこと言ったけど、でも……ありがとう」

 

「貴様の言葉は独特だが、なかなかに楽しめた。道を違(タガ)えるなよ……言い切ったからには何がなんでも自らの信ずる道を歩め」

 

「歩んでみせる。俺は艦娘が大好きなんだから」

 

「………時代は変わるものだな。まったく」

 

穏やかな笑み。もう少し長くいろいろと語り合うことができればな……。ほんの一瞬だけど、そんな思いがした。

 

「サチ。彼に渡すものがあったろう」

 

「あ……はい」ガサガサ

 

 

「お兄ちゃん……これを」つ

 

サチが背中の風呂敷包みを解いて取り出し俺に手渡したのは、大きくて茶色の封筒だった。A4くらいってとこかな……しかもけっこう分厚いぞ。

 

「兄さんの部下のみなさんにね、お手紙書いたの。中には小さな封筒がたくさん詰まってるの……」

 

うん、確かにそんな手触りの感触だな。

 

「これをみんなに渡せばいいんだね? 分かったよ、任せてくれ」

 

「お願いします、お兄ちゃん!」ニッコリ

 

間違いなくサチのほうが本来は俺よりもずっとずっと年上なんだろう……でも、彼女の笑顔を見てるとそんなことはどうでもよくなってくる。

 

「そろそろお別れだ。二人とも、出ておいで」

 

「うむ」ヒョコッ

 

「…………///」ヒョコッ

 

「一寸法師みたいだな。随分と愛くるしい姿をしているものよ」

 

「こっちは艦娘で名前はディーネ。そしてこっちは……」

 

「艦娘の身代わりとなりて守護する妖精……いや、女神だったな。会えて嬉しいぞ、この男を守っているのだな?」

 

「…………」コクリ

 

「しっかり務めを果たせよ……心配するな、この男は決して身代わりなどさせぬよ。そうやってそばに居てやるだけで良いのだ」

 

「………」ニコッ

 

「そして、ディーネだったか。なかなかにできる霊能者と見える」

 

「恐縮じゃ。どうじゃ、お主も我々と一緒に来てはどうかの? この男もきっとそれを望んでいよう」

 

「ディーネ、そんなことが可能なのか?」

 

「死者の霊魂はいつも生者を見守っておる。それくらい知っているじゃろう」

 

「ああ。でも局長とサチは……」

 

「確かに特殊なケースよの。じゃがな、我らは魂を宿す艦娘。そう言ったのは誰じゃ?」

 

「……依り代としての素質は充分だな。局長、サチ。どうだろう?」

 

「え、えと……」

 

「それは何とも言えぬな。だが、貴様らのことはずっと見守ってやりたくはあるな。気持ちは有り難く頂いておくぞ。木曾、リッティ、達者でな」

 

「ああ」ニッコリ

 

「ありがとう」///

 

「貴様もな。しっかりやれ」

 

「…………はい」

 

 

 

「サチ」つ

 

「兄さん」つ

 

 

それが、最後に聞いたふたりの声だった。輝く光に包まれたりとか、ハデなエフェクトは何もなく……。ふたりの姿はいつの間にか、見えなくなっていた。最後にふたりがこちらを見て、笑顔を浮かべていたような気がした。

 

 

 

          続く

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