鬼斬り ~艦これ改に捧ぐ~   作:日明月

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第八話

ふたりの姿はいつの間にか、見えなくなっていた。最後にふたりがこちらを見て、笑顔を浮かべていたような気がした。

 

 

 

第八話

 

 

 

ガサガサ……パサッ

 

 

 

かつて日本軍により、本土決戦基地として建設された施設が隠された山で昨日、サチから託された手紙の山。それらをひとつひとつ丁寧に、愛用の机の上へと並べてゆく課長。

 

「これはお前に宛てられている。ほら、受け取れ」つ

 

俺に? まさか局長とサチは会ったこともない俺に、前もって手紙を書いておいてくれていたのか……? にわかには信じ難い。

 

「……ちょっと宛名を確認します」つ

 

「好きにするといい。驚くのも無理はないからな」

 

手渡された長形封筒のおもてに書かれている達筆な文字は……歴史交流局広報課特務分室室長殿、か。驚いたな。本当に、俺に宛てられた手紙だ。

 

「…課長は局長に会ったことがあるんですか?」

 

「お前が俺に、兵士の方々の魂の件を教えてくれた日の翌日にな。無論それ以前にも、何回も会っていたさ」

 

「局長に報告を?」

 

「そうだ。かなり驚いた様子だったぞ。俺は内心、小気味よかったがな。大した奴だよ……お前は」ニヤリ

 

「局長は報告内容を信じてくれましたか?」

 

課長はもう俺が、姫グループと鬼グループのみんなを第八艦隊で匿っていたことを知っている。鎮守府の規程を利用して上層部への報告を先延ばしにしていたけれど、戦いの終わった今となってはその必要もなくなったので、この部屋に入室してから直ぐに伝えたんだ。課長は少し驚いていたけれど、彼女たちの身の安全を確保するために情報を秘密にしていたんだと伝えたら、納得してくれた。ペナルティは勿論一切ナシだ。

 

「しばらく考え込んでいたよ、局長にとっても青天の霹靂だったんだろう。彼は鬼をすべて倒すため、この国史庁の設立を目指していろいろと尽力したんだからな。第一室長やウチの部長も関わっていたが」

 

「この戦いで、大勢の深海棲鬼が犠牲になってしまいました……俺の過ちです」

 

「そうだな。だが俺たちはな、ただ前に進むしかないんだよ。過去に犯した過ちを決して忘れることなく、だが今を生きているということも忘れずに、ひたすら前へ前へと進むんだよ。それとな、お前の過ちは俺たちの過ちでもある……ひとりで抱え込むな」

 

「はい……」

 

「そんな顔するなよ、リックル殿やリッティ殿を救ったのは事実なんだからな。そうだ、最後に局長からの指令を伝えておくぞ。お前に局長補佐を命ずるとのことだ」

 

「ちょっ……課長!?」

 

「俺に文句を言うな。決めたのは局長なんだからな。ちなみに新しい局長は第一室長だよ……だがな、あの男には最早、後ろ楯となる人物が誰も居(オ)らん。それに引き換えお前には俺たち人事課の面々がついている。この意味が分かっているだろうな?」

 

課長の鋭い視線がこちらに向けられる。

 

「はい。ポストは補佐であっても、事実上の局長としての権力は俺の掌中にあるということですね」

 

「その通りだ! 室長は第一艦隊の提督を引き続き兼務することになるからな、組織での影響力は未だ健在というわけだ。それゆえ新局長を務めるのは必然の流れなんだが、決して安泰というわけではない。もしもお前が艦隊の艦娘をすべて……おっと、鳳翔殿だけは不可能だったな。彼女以外を第八に連れていけば、彼はもうお仕舞いだ」

 

「やろうと思えば可能です……交流プログラムの権限がありますから。でも、それはしません。彼の艦隊で働き続けたいと思っている艦娘がまだ居るんです」

 

「お前ならそう言うだろうと思っていたよ」

 

「尤も、卯月たち数名はこちらに頂きました。すっかり馴染んでいますよ」

 

「ハハハハ、それは彼女たちの選択だから仕方あるまい! 室長も理解している筈だよ、お前がその気になればいつでも裸の王様にされてしまうってことをな。だから今後は、二度と張り合ってやろうなどとは思わんだろう。仲良くやってくれ!」

 

「分かりました。局長の気持ち、有り難くお受けします」

 

「話は以上だ。さてと、それじゃあ俺はお前の気持ちを頂くとするか。さっきからハラぺこで仕方ないんでな! 書類はこれから作って後日届けさせる。お前の部下として働くなんて、本当に楽しみだぜ……気を付けて帰るんだぞ」ガサガサ

 

持参したうなぎ弁当に舌鼓を打ち始めた課長の部屋を後にして、建物から玄関の外に出た俺の目に映ったのは、鎮守府司令部の緑あふれる敷地と、7月の暑い日差しを浴びながらその中を行き交う職員たちの姿だった。以前の俺だったらきっと、新しく背負う責任の重大さに尻込みしていただろう。でもたくさんの仲間が居てくれる今は、そんなことなんてまるで気にならない。俺は艦娘の黒子として精いっぱいやるだけだ。この組織を艦娘みんなが笑顔になれる場所にするというミッションを、精いっぱい……。

 

 

 

ガチャリ

 

 

 

「あっ、司令! お帰りなさい!」

 

「司令官、お帰り!」

 

「提督……お帰りなさい。お邪魔、してます……」

 

「お帰りなさい、司令官さん!」

 

「やっと帰ってきた……待ち焦がれるあまり食事も喉を通らず、この身は痩せるばかり………」

 

「くちにクリーム付いてるぞ。シュークリームか、響?」

 

「はッ!?」ゴシゴシ…ペロ!

 

あわててクリームを指で拭いて舐め取る響。

 

「おかえりしれい。ひびきはまだまだあまいね。それはふかないで、しれいにくちうつししてあげなきゃ」

 

「んなぁ!?」ガーン!

 

執務室には賑やかな雰囲気が満ちていた。この部屋は本当に広いから俺ひとりだとあまりにも寂しい。だからこうしてみんなが集まってくれるのは、とても嬉しいんだ。

 

「みんなただいま。あ、名取にもスマホ来たんだね。良かったよ」

 

「はい、響たちに使い方を教えてもらっていたんです。提督……ありがとうございます。嬉しい……」///

 

「喜んでくれたなら何よりだよ。他のみんなにも順次、配布される手筈になっているからね。タルト、ただいま。ミルディは?」

 

「ご主人様、お帰りなさいませ! あの女はご主人様のご指示通り朝からずっと、私たちのグループと鬼グループに宿る魂を解放する手伝いをしています」

 

「進捗状況は?」

 

「順調です。えびす様の森の中で、リッティとディーネが儀式の進行を担当し、あの好色は万が一のトラブルに備える役割……くーと私はもう終了したので、こちらでご主人様をお待ちしてました」ニッコリ

 

「体調はどうだ? ディーネには、くれぐれもみんなの体力を優先するよう言っておいたんだけど」

 

ずっと一緒だった魂とのお別れだ。体力的にも精神的にも、何らかの影響があって当然だろうと危惧していたので、気を付けて解放の儀式を行うように念を押しておいたんだけど……。

 

「問題ありません。私も最初は不安でしたが、まったくの杞憂でした……ご心配して下さるのですか?」

 

「当たり前だろ。俺の専属メイドとして頑張ってるタルトなんだから」

 

「ありがとうございます……」///

 

「くーも大丈夫?」

 

「うん!」

 

「嬉しそうだねタルト。でも気を抜いたら許さないから」

 

タルトに釘を刺す響。もうさっきの衝撃から立ち直ったか。

 

「はい響。決して気を抜くことなく、ご主人様の身の回りのお世話に励みます」

 

「ん。雪風も負けないようにね」

 

「はい! 司令の秘書艦としての意地を見せてあげますから!」ニコッ

 

「ふふ……どうぞお手柔らかにお願いします」ニッコリ

 

「響も丸くなったわね。以前のあなたが司令官にメイドだなんて聞いたら、大慌てだったんじゃないかしら?」

 

「司令官の仕事はこれからますます大変になる……もしも体を壊したりしたら大変だもの。少しでも負担を減らす役職は、ぜったいに必要だから」

 

「同感だわ。司令官、私も美味しいケーキ作って差し入れするから、ちゃんと食べてね?」

 

「ありがとう雷、嬉しいよ」

 

「それから、きそも……だよね?」

 

「もう知ってるのか。くーは耳が早いな」

 

「えへへ」///

 

「え……なになに、教えて下さいなのです」

 

「木曾には俺の専属護衛艦になってもらう。あくまでもボディーガードだから、雪風の仕事には一切関与しない」

 

「ふぅん……でもタルトのライバルになるかもなのです」

 

「負けません。専属メイド艦として!」クワッ

 

「頼りにしてるよ。俺の身の回りに関しては今まで通り雪風とタルト、場合によってはいま電が指摘したように木曾の出番かも知れない。それと書類仕事に関してはまず雪風だな……忙しい時にはみんなのお世話になる。今まで通りにね」

 

「はい、お任せあれなのです」ニコ

 

あの山で木曾が抱擁してくれた時に分かったんだ……木曾は俺のそばに居たいと思ってくれてるって。強くて凛々しい木曾だけど、いろいろとガマンしているんだって。だから、俺が木曾のためにできることは何だろうって考えた……そして思い付いたのが身辺警護役だ。これなら、彼女が秘書艦になることを認めなかった天龍でも反対はしない。そして俺と木曾は、一緒に居られる時間が増えるというわけだ。

 

「きそはなんだかほかのみんなとちがうの。しれいをまるで、おかあさんみたいにだいじにしてるの」

 

そう、まさにそこだ……子を守らんとする母親よりも強い存在なんて、この世に居るわけがないんだ。ボディーガードとしての木曾なら、天龍は賛成すること間違いなしという確信がある。なんたって彼女は、遠征の際には木曾が鎮守府で留守番してくれるなら安心して出発できるというくらい信頼しているんだから。

 

「くーのお母さんはやっぱりミルディかな?」

 

「うん、いつもやさしいの。おかあさんみたいに。たたかいではきびしいけど」

 

「ほらほら司令官、まずは座って。局長と会ったお話、きっとみんな聞きたいと思うのです。はい、響が三つも食べちゃった美味しいシュークリームよ」つ

 

「暁、うるさい」///

 

「響も座ろうぜ。ありがとう暁、頂くよ」つ

 

 

それから俺はたっぷりと時間を掛けて、局長とサチ…ふたりと過ごしたひとときの話をみんなに語っていった。いまや大所帯となった我が第八艦隊の艦娘全員にも職員のみんなにも、しっかり伝えてもらえるよう、できるだけ詳しく丁寧に……。

 

「……局長とサチさん。ほんとうに消えちゃったのかな?」

 

「いま司令官がそう話してくれたでしょ」

 

「そうだけど……でも、ディーネはふたりを誘ったのです。もしかして一緒に来てくれているかもなの」

 

!?

 

「ここはにほん……せいれいさまやみたまさまのくに。じゅうぶんありえるとおもう。いなずまに、さんせい」

 

「えへへ~ありがとうくーちゃん」ギュッ

 

「///」

 

局長はディーネの誘いをハッキリとは受け容れなかったが……でも言われてみれば確かに、断ったわけでもなかったな。あれは単に、ディーネたちを依り代とすることが可能かどうか不明だったから、明確な返答をしなかったというだけなのか……?

 

(ディーネ。ちょっといいか?)

 

(おや、帰ってきたのか! こちらは順調じゃよ、蛍のようでとても綺麗じゃ……まだ昼間だというのにハッキリ見えるわい! お前さんも早く来るといい)

 

それは……

 

(ただいまディーネ。すまないが遠慮しておくよ)

 

(はあ!? 何言ってんのよ! 戦いを終わらせた功労者のあなたが来なくてどうするのよ!)

 

「肩を揺らすな! 我を振り落とすつもりか、たわけ!」

 

「うるさいわね、ちょっと黙っててよ!」

 

(リッティ、ただいま)

 

(お、お帰りなさい……。えっと、だから! あなたは早くコッチに来てよ!)

 

(俺の言い分、なんとなく分かってくれてるよな?)

 

(それは……私たちの軍勢を沈めたからでしょ? この場に来て顔向けなんてできない……そう思ってるのね?)

 

(そうだよ。それにね、俺だけじゃないぞ。お前たち以外に誰か、そこに居るかい?)

 

(ううん……誰も)

 

(だろ? みんな俺と同じ気持ちなんだよ。もちろん天龍や龍田、木曾は間違いなくその近くで待機してくれてるよ……不測の事態に備えてね。命令は出していないが断言できる。でも、姿を現すことはしないさ)

 

(………どうしても、ダメ?)

 

(頼むからそんな声を出さないでくれ。決心が鈍る)

 

(こんなにお願いしてるのに……ちょっと、リックル! 黙ってないであなたも何とか言ってよ!)

 

(………随分と大きな口を叩くようになったわね。以前とは別人みたい)

 

(あら……もう忘れたのかしら? 私たちの軍勢は崩壊したのよ。あなたも私も負けたんだから。新しい指揮官は彼。あなたはもう頭領ではないわ)

 

(反論の余地はないな。いいわ、彼を説得してあげる。……ミルディ、我が宿敵だった者よ……聞こえてるんでしょ? 彼を愛するあなただもの、手伝ってくれるわよね?)

 

局長とサチの件について聞きたかっただけなんだが。どうも変な展開になってきたな。

 

(聞こえてるわよ~。もちろん手伝うけれど、あなたドコに居るの? こちらにいらっしゃいな)

 

(遠慮しておくわ。理由は彼と同じ)

 

(自分は来ないのに、提督ちゃんには来てほしいって説得しても……それじゃ多分、あなたの気持ちは伝わらないわよ?)

 

(……キャップ、聞こえるかしら?)

 

(しっかり聞こえてる。ただいま、リックル)

 

(お帰りなさい、キャップ。あのね……今ミルディが言ったこと、ほんと?)

 

(そうだな、俺を説得するのならリックルも来てほしい。同じ場所で、俺と同じ気持ちを分かち合ってほしい)

 

(……うん分かった。私も行く。だからね、あなたも来て。お願い)

 

うーん……。

 

(提督ちゃん、お帰り! 無理強いなんてする積りはないのよ……でもね、お見送りをするのは、お世話になった者として……当然の礼儀じゃないかな?)

 

(ただいまミルディ。お世話になったってのは……どういう意味なんだい?)

 

(兵士の人々の魂はね、いろんなチカラを私たちに貸してくれたんだよ。トールとディーネが復活したでしょ? もうね、ビックリしちゃったの! ほんとに嬉しいんだけど、あの子ったらヒドいんだよ! あの時は私だって一生懸命探したの知ってるクセに、ずっと私を責めるんだもん! 今朝だってね、提督ちゃんが司令部に出発したらね、急に不機嫌になって私にネチネチ………)

 

(……ちょ、ちょっと?)

 

戸惑いと驚きが入り交じったリックルの声。まだミルディの素顔に慣れていないんだな……彼女の中のミルディは今でも、凛々しくて勇猛な恐るべき戦士のままなんだろう。

 

(ミルディ。お世話になったってのは……どういう意味なんだい?)

 

さっきと同じ質問を繰り返す。

 

(え……? あ……えと……。あ、そうなの! だからね、復活させたり戦闘能力を強化してくれたり、私たちをいろいろ助けてくれたのがみなさんの魂なんだよ! 艦娘が強いのはね、魂の力が宿っているからなの。提督ちゃんが勝利したのは指揮が上手いからだけどね、魂のお陰でもあるんだよ。…ゴメンね……内緒にしてたワケじゃないんだけど、提督ちゃんは色々と大変だったから……あまりアレコレ言わないようにしていたの)

 

(成る程。艦娘はデフォルトのステータスも高いけど、それを更に飛躍的に向上させてくれていたのが魂だったわけか。それなら確かに、お世話になったね)

 

気付かなかったな……復活はともかく、戦闘の力には思い至らなかった。もしかして指揮官補正も、魂が俺とみんなの橋渡しをしてくれていたからこそ生まれたものだったのかな?

 

(うん。だからね提督ちゃん……お礼の意味も込めてね、お見送りを………)

 

そうだな……そうするべきだな、俺は。

 

(今からそっちに向かう)ガバッ

 

(良かった……)

 

(うん。待ってるよ)

 

「みんな、行くわよ」スッ

 

「はい暁。ご主人様について行きましょう」スウッ

 

局長とサチの気配が感じられないかどうか、確かめてもらいたかったんだけどな……。仕方ない、まずはこちらの方を先に済ませるとしよう。

 

 

 

ふわ……ふわ………ふわり。

 

 

 

第八艦隊の母港たる鎮守府、その広大な敷地の一角にそびえる小高い山……その平坦な頂上に広がる森の中に建立されたえびす様の赤く美しいお社を、まるで抱擁するかのように取り囲むたくさんの木々。降り注ぐ木漏れ日はまだ明るくて、森の中でも遠くのお社がハッキリ見えている。

 

ガサガサッ………

 

「おう、来たかボウズ!」

 

「帰ってきたばかりなのに大変ね~。あと少しだから、頑張って下さいね~」

 

「あとでオレの部屋に来い。な、いいだろアネキ」

 

「…ああ、好きにしろ」

 

「木曾の部屋にお邪魔するのは久し振りだな。みんなは?」

 

「お前を追って続々と集まってきてるぜ。儀式のジャマにならないよう遠慮してるんだろう、遠巻きに眺めてる」

 

木曾の言葉通り、木々の間にはみんなの姿が見え隠れしていた。あ……古鷹だ、ニッコリ微笑んでくれている……隣に寄り添っている加古はいつも通りの澄まし顔だな。あ、サムズアップだ……ねぎらってくれてるみたいだな。あっちの茂みには……夕雲と秋雲、それに長波か。3人とも笑みを浮かべながらこちらを見ている。おっ、長波が手を振ってくれてるぞ。

 

「ほら提督、リッティがずっとコッチ見てるよ。特等席で見てきなよ!」グイグイ

 

俺の手を握って、儀式の進行役を務めているリッティたちの方へと引っ張る鈴谷。今日も元気だなあ。

 

「鈴谷はココで見てるからね!」ノシ

 

「ああ。行ってくるよ」

 

 

 

ふわ……ふわ………ふわり。

 

 

 

蛍のよう、か……。淡(アワ)く緑色に光る、丸い球、たま、魂の、かたち。この緑色は……もともとの色なんだろうか。徴兵され、戦争へと駆り立てられた人々の魂は………緑ではなく、怒りの赤色に染まっている筈じゃないのか……そんな思いが一瞬、ふと浮かんできた。それとも……本当は色なんてなくて、ただ単にまわりの木々の緑色が、球に照り映えているだけなのかな。ふわりふわりと、体から浮かび上がって空中に漂っていって……今はクッキーと、港湾水鬼の番だな……ふたりの体から浮かび上がった魂の光球たちは、あまり高くないあたりをふわふわと漂いながら………消えた。

 

「……綺麗だ」

 

「ええ。本当にね……」ギュ

 

リッティの手の、柔らかな感触が伝わってくる。

 

「達者になったのは口だけではないようね。男を魅惑する術(スベ)も会得(エトク)したのかしら」ギュ…

 

「さあね」

 

「リックルか。来てくれたんだな」

 

「約束だもの。あのね、さっきのミルディのことなんだけど……許してあげてね。強大なチカラをもたらす魂を解放すると、私たちは弱体化するの。あなたはカンが良いから、余計な情報を伝えたらきっとそのことに気付くに違いない……彼女はそう思ったのよ」

 

「……そうなったらきっと悩んだと思うよ。俺の指揮は綿密に組み上げた戦術ではなく、みんなのスペックに頼っているものばかりだ。勝つためには魂を解放してはいけない。でも、兵士の人々の魂なんだから解放しなくちゃいけない……板挟みのあまり、精神が病んだりしていたかも知れない」

 

「でもミルディが黙っていたお陰で、あなたはそれに気付くことなく戦いに集中することができた。その分、彼女は辛かったんじゃないかしら……あなたに明かすことなく、黙っていたんだもの」

 

俺は驚いて、リックルの顔を見た。

 

「な、何……?」///

 

「お前がミルディを気遣っているから、ちょっとビックリしたんだ。宿敵だったミルディを、ね」ギュ

 

「ひゃんっ……。も、もう敵じゃない、から……」///

 

「…何よ、可愛い声だしちゃって。男を魅惑してるのはあなたじゃないの」ギュウウ!

 

う!?

 

「リッティ、少しは手加減、してくれ……」ズキズキ

 

「え……私、もう解放を済ませたわよ?」

 

「指揮官補正だよ。そっちはちゃんと残ってる」

 

「ご、ごめんなさい! 私ったら、つい……」バッ!

 

慌てて俺の手を放すリッティ。でも

 

「おっと! 手を離すことないだろ」ギュッ!

 

「あ………」///

 

「これでいい。なあリックル、さっきの続きだけど……これからミルディと、仲良くやれそうか?」

 

「分かんない……でも、今までのわだかまりを捨てなくちゃいけないとは思ってる……。せっかくあなたが新しい名前を付けてくれたんだもの。台無しになんて、したくない」

 

「そうか……」

 

「私も付けてもらったわよ。あなたよりも先に、ね」

 

「それは良かったな。ひとつ忠告しておこう……嫉妬深い女は嫌われるわよ」

 

「何ですってぇ!」///

 

顔を真っ赤にしてリックルを睨むリッティ。まだ鬼グループと敵同士だった頃は、まさかこうして手を繋いで……しかも深海棲鬼のこんな表情を間近で見る日がやってくるなんて、夢にも思わなかったな。

 

「リッティ」ギュ

 

「う……わ、わかった……。もう騒がないから」

 

「ん、次はミルディの番みたいだな……リックル、お前は以前、魂を無事に送り届けたことはないと言ってたよな。それってやっぱり、戦闘能力が衰えてしまうことを避けるため……だったのか?」

 

「………ごめん」

 

「………………」

 

「ごめんよ、辛いことを思い出させてしまったな……もう二度と聞かない」ギュッ……

 

「……」ギュ

 

おそらくミルディも同じ理由で悩んでいたんだろうと思う。でも戦いが終わった今となっては、もう苦悩の日々も終了だ。とは言うものの、何もかもすべてが片付いたワケじゃない……。

鎮守府の地下に広がる大洞窟……今ではすっかりワ級たちの家になっている洞窟の手前にある大部屋。くーと初めて出会った大部屋の向かい側に位置するその場所に眠る、潜水艦娘たちの魂。彼女たちを起こすのはいつが良いだろう?

この戦いではたくさんの艦娘に巡り会えたけれども、日本海軍の艦娘はまだ他にも存在している……彼女たちは今、どこで何をしているのかな? これから先、巡り会える可能性はあるんだろうか。

そして、ミルディたち姫グループの真の長……彼女は今、どこに居るんだろう? ミルディは彼女のことをあまり語らないから、詳しいことはサッパリ分からない。長から軍勢を託されてからは、まったく会っていないらしいけれど……。

 

「お、いよいよミルディの出番じゃぞ!」

 

足元から聞こえる元気な声。

 

「ディーネ。今までドコに行ってたんだよ」

 

「そこの暴力女に辟易(ヘキエキ)したのでな。お前さんが来るのを待っておったのよ。じゃがな、両手に花とばかりに甘美な喧騒を楽しんでいる様子じゃったからの……」

 

ちょっとご立腹な様子のディーネ。

 

「近寄れなかったってワケか……悪かった。ふたりとも、ちょっとゴメン……ほらおいで」ザッ

 

「うむ!」ピョン!

 

跳び上がったディーネを両手で受け止めて、そのまま彼女を右の胸ポケットへと導き、直ぐに立ち上がる。

 

「やはりココは極楽じゃな~。たまらん」ニコニコ

 

「あらあら、嬉しそうね。いっそのこと放り投げてやればよかったかしら」ジーッ

 

「やかましいわ! 決めたぞ、たった今から我の居場所はココじゃ! もうお前には頼らぬぞ」

 

「あらそう、いいわよ。でもね、昨日みたいな時には……」

 

「分かっておる。協力すべき時には私情を交(マジ)えたりなどせぬわ」

 

「それなら構わないわ。ほらあなた、手を繋ぎましょ」ギュッ

 

「お前もすっかり変わったな。以前の面影がまるで見当たらないわね」ギュウッ

 

「憑き物が落ちたんじゃよ。お前と同じようにな」

 

「そうかもね……」

 

 

 

ふわ……ふわ………ふわり。

 

ひとつ……ふたつ………みっつ………もっともっと。

さすが……姫グループ最強の艦娘。

魂の数、数、数……すごい光景だ。

 

ふわ……ふわ……。

 

まだ終わらない。これだけの魂が離れてゆくのを見てしまうと、ミルディの体調は大丈夫なのかと心配になってくるな……。彼女の表情は穏やかそうに見えるが、でも……。

 

「ディーネ」

 

「安心せい、儀式はすべて我とリッティの管理下にある。間違いなど起こさせぬよ」

 

「よろしく頼むよ」

 

「任せておけ」

 

「リッティもな」ギュ…

 

「うん…」///

 

 

ふわ………ふわり……。

 

 

浮かび上がる光球の数が、少し減ってきたように思えてきた頃………。その中のひとつを目で追っていた俺が見付けた姿は………。

 

「ん? どうしたんじゃ、お前さん。さっきから何をジッと見つめているのかの」

 

「……なにか居るの?」ザッ

 

「地縛霊? この儀式に引き寄せられて……?」スッ

 

そうじゃない。悪さをするような存在ではないんだよ。それどころか………。

 

「……身構える必要はないよ、二人とも。ディーネ、リッティ………ほら、あそこだ。ミルディの背後の茂みから少し左だよ……昨日会ったばかりの二人の姿、まさか忘れてないよな?」

 

「え………」

 

「ほう。我の提案、どうやらムダではなかったか。この森には良い気が満ちている……これで、安心じゃ」

 

「見えたわ。あなたの方をずっと見詰めているわね……誰?」

 

「紹介するよ、リックル。二人はね、ずっとずっと戦ってきたんだ……愚かな戦時内閣によってズタズタにされたこの国で、あきらめることなくずっとね。俺がみんなに巡り会えたのは、二人のお陰だよ……まず、女の子のほうの名前は………」

 

 

 

          続く

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