マリオン・ウェルチになりまして 作:陸戦強襲型ガンダム
今日は珍しく、ホールには私一人だった。ヘレナは狙撃手としての支援任務に赴き、ミアは例の物の完成を急いでドム・トロピカルテストタイプの改修作業に付きっきり、と何もないのは私だけということになる。狙撃にしても改修作業にしても手伝えることがないから当然なのではあるが。アルマも未だ目覚めないし。
「ハァー」
「あら、ため息を吐くと幸せが逃げるらしいわよ?」
ホールの扉が開かれ、入ってきたキリーさんがそう言う。その手には数枚の写真が握られていた。
「そうは言っても、訓練以外にやることが……」
「フフッそんなあなたの為に一つ、任務を持ってきたわ」
「任務……ですか?」
「そう。これを見て頂戴」
そう言って手渡された写真には、モビルスーツだと思わしき何かが映っていた。
「偵察機が捉えた正体不明機よ。いくつか写真はあるけれど、全て同じ場所で撮られたものだから対象は動いてないみたい。けど、このまま放っておくことも出来ないのよ」
「これ一機だけですか?」
「ええ、周囲をくまなく探したけどその一機以外は見つからなかったわ」
「成程。何時かの時と同じで敵機だったら排除、友軍機だったら転進を促せば良いんですね?」
「ええ、その通りよ。……本当はイフリートを使わせてあげたいんだけど、まだ整備が完全には終わってないの。だから、変わらずザク・ライトアーマーで出撃することになるわ。だからもし、正体不明機が貴女が全力を出さざるを得ない相手だったなら迷わず帰還しなさい」
「良いんですか?正体不明機をそのままにして」
「一旦はね」
「一旦?」
「ええ、もしそうなったらイフリートを出すわ。それまでには整備が完了するようにはしておく。貴方なら使いこなせるでしょう?」
「多分ですけど」
「それじゃ、詳細の説明に映るわね」
そういってテーブル上のモニターを起動させるキリーさん。いつか見たのと似たような地形がモニターに浮かび上がる。
「いい?正体不明機の居場所はここ。任務内容は正体不明機の確認と状況によってはその排除。ただ、全体が映ってないから確証はないけど、先日の白い悪魔擬きと似通っている部分が見られるわ。十中八九連邦機だと思われるから十分に注意の上、撤退も視野に入れておいて」
「了解です。撤退したらイフリートに乗り換えて迎撃に向かうんですよね?」
「ええ、貴女一人だから援護はないけど何とかやり遂げて頂戴」
「了解!」
思えば、日本にいた頃も含めて一人の任務は初だ。正体不明機が厄介な奴じゃないと良いけど。
*
「この辺りかな」
目的地に着いた私は、そんなことを言いながら奇妙な感覚を感じていた。敵意や殺意、悪意と言ったものは一切なく胸焼けするような巨大な感情があるわけでもない。でも、だからと言って好意的な感情も感じ取れない、そんな感覚。
あれはジム……かな?
不思議な感覚を頼りに辺りを探し、私は正体不明機を発見した。遠目からは見える色合いは間違いなくジムだ。ジム……なんだが、頭部から伸びるVアンテナがよく知ってるジムではないことを表している。果たしてあれは威圧の為の物なのか、それともああいう機体なのか。前者なら余程のパイロットが乗ってない限り問題ないだろうが、後者の場合機体性能で押し切られるとどうしようもない。
「……確認のためにも、もっと近づいてみるしかないか」
近づいていくにつれ、やはりそれがただのジムでないことが明らかになってくる。どちらかと言うとジムカラーのガンダムと言った方が近いかもしれない。しかし、こんなに近づいてるのに動く気配もないとはね。パイロットが居るのは感覚で分かるが、なんで動かないの?
「そこの連邦機!投降するなら攻撃はしない!パイロットは機体から降りろ!」
無抵抗の相手にいきなり攻撃を仕掛けるのも気が引けるから、一応オープン回線で投降を促してみる。言い方がこれで良いのかは知らないが、これで投降してくれるなら無駄な戦闘もないんだけど。
「貴方も私を連れ戻しに来たの?」
返答してきた声は、少女のものであった。どういう事?この知らない機体に乗ってるパイロットは少女なの?
「何を言っているのか分からない。注意を引こうとしているなら無駄なことをするな」
ニュータイプ故、周囲からは何も感じないから誰もいないのは分かっているが一応言っておく。ザク・ハンドガンを向けながら、念のため周囲の警戒もしておこう。相手も、動いていないとはいえご立派なビームライフルやビームサーベルを装備しているわけだし。特に、頭部バルカンには最大の注意を向けておこう。
「ちょっと待って、今降りるから」
警戒する私を他所に、淡々とそう言って少女は機体から降りた。この子、マイペースすぎない?一応こっちは銃向けてるんだけど……
「それで、次はどうすればいいの?」
「動くな!いくつか質問をさせてもらう」
降参を示すように手を上げる少女に、銃口を向けたまま私はちらりと謎の機体を見た。ジムカラーのガンダムなんて聞いたこともないし、少なくとも私は知らない。これは、色々と聞かなければならないよね。
「名前は?」
「クロエ・クローチェ」
「クロッ!?……んん!なぜこんな所にいたんだ?」
「施設にいるのが嫌になったの。起きてる間はずっと訓練かジオンが如何に悪いかを延々と聞かされるだけ。それが嫌だったから、私は一番好きだったモビルスーツに乗る訓練の時にこの子と一緒に脱走したの」
「……その施設の名は?」
「分からない。誰も教えてくれなかったから」
あークロエ・クローチェか。まあ、私がこうしている以上ペイルライダー……は生まれてるかもしれないけど、間違いなくHADESは搭載されてないし何なら存在すらしてない。ともなれば、しっかり受け答えしてるし、原作とは違い彼女は投薬やらで強化はされなかったんだろう。恐らくだが、記憶障害も起こしていないだろうし、それは良い事だろうがそれで何でここにいるのかなぁ?これが分からない。一応彼女が居たであろうオーガスタ研究所は同じ北米にあるけどさぁ。
「どうやってここに来たんだ?」
「分からない。逃げるためにこの子と一緒に当てもなく移動してたから、きっと偶然」
「そう……キリーさん、どうします?」
通信を繋げっぱなしだから今の会話は向こうもちゃんと聞き取れてるはずだ。ミノフスキー粒子が悪戯してなければ。
『そうね……連邦からの逃亡兵か。その様子じゃ連邦に戻る気もないでしょうし、普通に考えれば捕虜にするのがセオリーよ。ただ、彼女がジオンに亡命するのなら話は変わって来るけどね。それにその機体も気になるわ。連れてこれそうなら連れて来て頂戴』
「捕虜……そうですよね。よし、クロエ・クローチェ!これより貴女をジオンの捕虜として扱います!機体に戻り、私の指示に従って付いてくるように!!」
「わかったわ。あの施設に戻らなくていいなら、ジオンでもどこでも付いていく」
謎の機体に戻り、難なく動かしてみせるクロエはやはり訓練を重ねただけはあるようだ。形だけでしかないだろうが、ザク・ハンドガンを背部に当て進むように促す。ミア、ごめん。ちょっと仕事増えちゃったかもしれない。
*
「す、す、す、凄いですよこれ!ザクとは比べ物にならないくらいです!!」
謎の機体を一通り調査し終わったミアの第一声はそれだった。まあ連邦機だし、そりゃザクとは比べ物にならないよね。
「このデータさえあれば、終盤まで差し掛かってるとはいえ連邦機が扱うビーム兵器を私たちジオンが開発・運用する為の一助になる筈です!!でも……」
スイッチを切り替えたように興奮状態から落ち着きを取り戻したミアは、顎に手を当てながら何か考えているようだった。
「でも?」
「でも、部位によって装甲強度が違うんです。胸部はルナチタニウムなんですが、腕部はチタンセラミック合金で、脚部に至ってはザクと同じ超硬スチール合金、もっと細かく言えば他にもありますけど、これじゃあまるで装甲材の強度テストにでも使われてたみたいですよ」
「詳しくない私でも異常だってわかるよ。部位によって強度が違う機体には乗りたくもならないしね」
「はい、こんなこと普通はしませんからね。それを踏まえると、この機体……クロエさん?が持っていた訓練用マニュアルによるとRX-78-8ガンダム8号機というらしいですが……何かの実験機だった可能性が高いですね」
え、ガンダム8号機!?実在していたのか!ジムの母体になった位しか知らないんだけど、これがそうなんだねぇ。
「実験機ねぇ。一体何の実験してたんだろうね?」
「分かりませんが、可能性としては量産機に使う装甲材の選別じゃないかと。破壊した残骸を調べた結果ですが、私たちが最初に遭遇した連邦機……情報によれば陸戦型ジムとあのビームの銃を持っていた連邦機、ジムとでは装甲の強度が違うことが分かっています。陸戦型ジムがルナチタニウムで、ジムがチタンセラミック合金だったことを踏まえると、多分ですけどジムを量産するにあたって装甲材をどこまで安価で加工のしやすいものに出来るかをこの機体を使って調べていたんじゃないかと」
「ミアが言うなら、そうなんだろうね」
「確証がありませんから、絶対とは言えませんけどね。それともう一つ、これは知らなかった方が良かった事なんですが、私たちが白い奴や白い悪魔と呼んでいるあの機体も情報によればガンダムなんです。ヒルドルブの時に襲ってきた機体もガンダムだと仮定しても、この機体がガンダム8号機である以上少なくともあと5機、連邦にガンダムがいることになります。8号機の様に何かの実験機になっているのもあるでしょうけど、気分は最悪ですよ」
「白い悪魔があと5機もって考えるとゾッとしない話だね」
まあ、1号機は焼却処分されてるはずだし、4号機と5号機は基本宇宙、7号機の出番はまだ先だから後は6号機……マドロックとさえ合わなければ私たちがナンバリングされてるガンダムと会うことはないだろうね。あれ?3号機ことG-3は今どうなってるだっけ?ホワイトベース?ちょっと思い出せないな。まあなんにせよ、アムロが乗ってないガンダムなんて私とアルマさえいればちょちょいのちょいよ、多分。
「今後、これってどうなるの?」
「ガンダム8号機ですか?データは既に送ったので、しばらくはこのままですかね。あ、もしかして乗りたかったんですか?ダメですよ、こんな危ない機体には乗せられません。改修するとしても時間がかかりますし、今は諦めてくださいとしか」
「そっか、乗りたかったんだけどなぁ」
「マリオンさんのザク・ライトアーマーはもう限界を超えてますからね。でも、このガンダム8号機を捕えたことはすごい事ですし、何か新しい機体が貰えるかもしれませんよ?」
「はは、そうだと良いねぇ」
ホント、そうだと良いんだけど。アルマにはイフリートが、ミアには彼女考案の化け物モビルスーツがある。ヘレナはザクだけど、狙撃が出来る分前衛が守ってやれば戦っていけるだろう。じゃあ私は……?そんな考えを浮かべながら、私はザク・ライトアーマーを見上げていた。
ガンダム8号機
ジムを量産するにあたってルナチタニウムの代わりになるものを探すと言う名目で作られた8番目のガンダム。脚部の超硬スチームを最低、胸部のルナチタニウムを最高とし超硬スチールより頑丈で、ルナチタニウムより安価で加工のしやすい装甲材を探す為、様々なチタン系合金が装甲に使われている。目的を終えた後は解体されるはずだったが、オーガスタ研究所が手を回し回収。最終的にはクロエ・クローチェ専用機にしようとしていたが、その前にクロエと共に脱走した。その特性上、8号機でありながら7号機よりも早く開発された。
クロエ・クローチェ
戦争孤児でありオーガスタ研究所に引き取られたところまでは原作通りだが、EXAMがなくなったことにより、HADESの負荷に耐えるためのアレコレを何一つされていない。その為、記憶障害やらの副作用は一切なくそういう意味では健康そのもの。拾ってくれた恩はあれど、訓練漬けの毎日に嫌気が差し脱走。放浪の果てにマリオン・ウェルチに捕まりジオンの捕虜となる。