よろず短編集   作:機械学習はいいぞおじさん(仮)

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おじぎをするのだ(AA省略)


ハリー・ポッター おじぎをするのだ その1

「お辞儀をするのだポッター」

 

ヴォルデモート卿の声が響く。

 

「いいかポッター、お辞儀の角度はこうだ」

「こうですか先生」

 

ハリーはできるだけ深く頭を下げた。しかしヴォルデモート卿が言ったとおりにうまくいかず、額の傷痕を床に打ちつけてしまった。それでも、なんとか言われたとおりにした。

 

「そうだ。それでよい……では練習を続けろ」

 

ハリーは再び深々と頭を下げて見せたが、今度はもっと上手だった。しかし、またしても額を打ちつけた。

 

「もう一度やってみせろ!」

ヴォルデモート卿が大声を出した。

 

「はい!でも――」

「ポッター、いいかお辞儀とは礼節だ。わかるな」

「はい先生、わかります。でも僕――」

「ポッター、俺様はお前を魔法界のどこに出しても恥ずかしくない男子にしようと決意した。それがこの俺様にとってどれほど重大なことかわかっているのか?お前は今まさにその第一歩を踏み出したのだぞ?」

「すみません……」

 

ハリーはまた謝った。そして今度は、もう少し上達してみせた。

 

「よし、よくやった。だがまだ駄目だ。敬意を払う態度にはなっていない」

「どうすればよろしいでしょうか、先生」

ハリーが聞いた。

 

「それを教えようとしているところなのだ」

ヴォルデモート卿が答えた。

 

「さあ、もう一度やってみせろ。次はもっとうまくやるのだ。俺様に恥をかかせてはならぬ」

「はい、わかりました」

 

ハリーはそう言うと、今度はもっと滑らかにお辞儀をして見せ、床に頭を打つことなくやり遂げた。しかし、顔を上げるときに勢いあまって顎から胸までぶつけて、仰向けに倒れてしまった。

 

「ポッター……勢いが良ければよいというものではない……」

「すみません!」

ハリーは急いで起き上がりながら、もう一度謝った。

 

それからはもう、お辞儀の仕方で何時間も練習させられた。だんだん慣れてきて、今度は額をぶつけずにすんだ。しかし、お辞儀をしているうちに体が痛くなった。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

ハリーは自分がひどく疲れていることに気づいた。

 

「ポッター、今日はこれくらいにしておこう」

ヴォルデモート卿が言った。

 

「しかし、明日もまた来なくてはなりませんか?」

ハリーは息を切らしながら聞いた。

 

「当然だ。お前が立派な紳士になるにはあと十日ほどかかるだろう」

「わかりました……ありがとうございました……」

ハリーは弱々しく言って、立ち上がりかけた。

 

しかしお辞儀のし過ぎか弱った足腰がもつれて、そのまま後ろにひっくり返ってしまった。そして、後ろ向きのまま滑って、壁にぶつかった。

 

「ポッター、大丈夫か?」

「すみません、だいじょうぶです……」

 

ハリーは体を起こしながら答えた。そしてやっと立ち上がった。

 

「立て続けの練習は体にこたえるようだな」

ヴォルデモート卿が静かに言った。

 

「おっしゃる通りです……」

ハリーは弱々しい声で答える。

 

「では、今日はこれで終わりにする。また明日来るが良い。今日はしっかり休むように。いいな?」

「はい……わかりました……」

 

ハリーはふらつきながら部屋を出ていった。扉のところで振り返ると、ちょうどヴォルデモート卿が机に向かって何か書き物を始めるところだった。

 

その夜、ハリーはベッドに入ってからもなかなか寝つけなかった。ヴォルデモート卿が本気で鍛えてくれていることには感謝していた。だけど、なぜあんなに厳しくするのか理解できなかった。

ヴォルデモート卿はハリーに魔法のことを教えてくれた恩人である。それにホグワーツ入学までの六年間、ずっと先生として面倒を見てもらったわけだし……。

なのにあの人は、いつも僕のことを叱りつける――。

 

――僕が悪いんだけど――。

――僕がもっと礼儀正しくすればいいだけなんだ――。

――でも――。

――どうしてこんなにたくさんお辞儀をしなくちゃならないんだろうか?

――。

――ああ、頭がクラクラしてきた――。

――おやすみなさい――。

――おやす……。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

次の朝、ハリーは目を覚まして、まず額の傷痕をさすった。

それから、ベッドを下りて着替え、顔を洗い、歯を磨き、髪をとかした。

そして昨夜の残りのチキンスープを食べてから、朝食の時間までまた練習した。今度は、あまりお辞儀の姿勢が崩れず、傷痕を床に打ちつけずにすんだ。しかし、まだ少しぎくしゃくしているようだったので、もう一度やり直してみた。

そうしてまた一時間、お辞儀ばかりやって過ごした。

昼、ヴォルデモート卿が訪ねてきた。昼食の後片づけが終わると、ハリーはまたお辞儀の練習を続けた。

午後いっぱいかけて、ようやくかなり自然な姿勢でできるようになり、ヴォルデモート卿も満足げにうなずいた。

そして、夕食後また練習が続いた。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

そして夜になった――。ハリーはまた夢を見た。

 

ヴォルデモート卿と初めて会った日のことだ。家を飛び出して泣いていた幼いポッターの目の前に、ヴォルデモート卿が煙のように突然現れた。

 

「ポッター、俺様はお前を立派な男子にしてやりたい。お前の死んだ両親との約束でもあるからだ。だから、お前には魔法界での生き方を徹底的に教え込むつもりだ。俺様の命令に従う限り、お前は魔法界の誰からも讃えられて生きていけるであろう」

 

その言葉どおり、ヴォルデモート卿はハリーにいろいろなことを教え込んだ。闇の魔術に対する防衛術、変身術、薬草学……そして呪文の訓練…… ハリーはいつも期待に応えようとした。

しかしヴォルデモート卿の要求水準は高く、ハリーはなかなか思うように上達しなかった。

 

それでも、ヴォルデモート卿は満足したようにいつもハリーを見守っていた。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

それから幾分か時が過ぎ、ホグワーツへの出発の日、ハリーはいつもより早く目覚めた。

目が冴えて、とても眠れそうもなかった。まだ薄暗い中、ハリーはこっそり寝室を抜け出した。

ヴォルデモート卿が眠っていることを願って、ハリーは忍び足で廊下を歩き、台所へ向かった。テーブルの上には、昨日ヴォルデモート卿が作ったサンドイッチがまだ置いてあった。

 

ハリーは皿から一つ取って食べながら、ゆっくりと暖炉の前へ歩いていった。ヴォルデモート卿の分は残しておかなくてはならないと思ったので、二つしか取らなかった。

 

それからハリーは、炎の中に消えていく包み紙を見つめた。

ハリーは、これまで何度もこの炎を見てきていた。

 

しかし、今夜だけは特別に見えた。

暖炉の中からハリーに向かって呼びかけるように、炎が揺らめいている。

 

「ポッター、全て食べて構わんぞ。それとも俺様の作ったものが食べられないと言うのか?」

 

背後からヴォルデモート卿が声が聞こえる。ハリーの後ろに音もなく立っていた。ハリーは驚いて飛び上がった。

 

「そんなことはありません、先生!」

 

ハリーは振り向いて、慌てて答えた。

ヴォルデモート卿は椅子に座って足を組み、ニヤリと笑っていた。

 

「ポッター、何をしようとしているのだね?」

ヴォルデモート卿が聞いた。

 

「ちょっと外に出てみたかったのです、先生。夜明け前が一番きれいだろうと思って」

ハリーが言い訳がましく言った。

 

「なるほど。だが、今はまだ早すぎる、それに今日は出発の日だ。ゆっくり休まねばならぬ」

ヴォルデモート卿が言った。

 

「すみません、先生。すぐ戻ります」

ハリーが急いで謝った。

 

「かまわない。好きにするがよい。だが、もう戻るのだ」

「はい」

ハリーは急いで立ち上がって玄関に向かった。

 

ヴォルデモート卿がついてくるのかどうか確かめる勇気はなかった。玄関の扉を押し開け、外に出る。

ハリーは空を見上げた。

 

東の空が白々と明けはじめている。雲も月もない、静かな夜だった。ハリーは、家の周りを一周ぐるっと歩くことにした。

 

次はいつ帰って来れるか分からないが、存外思い出してみるとヴォルデモート卿との生活も悪くなかった。しかし、ヴォルデモート卿に言わなければならないことがいくつかある。

たとえば、ハリーがもっと背が伸びたら、あの黒いローブを着てみたいということなど。

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

数時間後、出発の朝日が昇る。ハリーは最後にお辞儀をして、家の方を振り返りながら、そろりそろりと歩いた。

 

そのとき、ヴォルデモート卿の声が聞こえた。

 

「ポッター、忘れるな」

ハリーは凍ったように足を止めた。

 

「お前はもう立派な魔法族だ。魔法界のどこに出しても恥ずかしくはない」

ハリーは振り返った。

 

しかし、そこには誰もいなかった。

ただ、庭の草木が風に揺れるだけだった。




カオス成分は薄めですが、綺麗に話が着地したので勝利です。
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