よろず短編集 作:機械学習はいいぞおじさん(仮)
四十数名もの行方不明者を出した無限列車。それが今夜運行を再開すると言うのだ。明らかな罠の気配を感じつつ、炎柱──煉獄杏寿郎および炭治郎一行は駅で無限列車の到着を待つ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
数刻後、遠くから汽笛が聞こえる。
(お兄ちゃん……)
不安げな表情で自分の手を握り締める禰豆子に、炭治郎は大丈夫だと笑いかけた。そんな二人に善逸も伊之助も何も言わない。
ただ黙って二人は手を握っていた。その顔には緊張の色がある。
「やめろよお前ら! 俺まで怖くなって来るだろ!」
そんな二人の様子を見て、一人だけいつも通りな男がいた。
「何言ってんだ紋次郎!?」
「誰だよそれは!? いいか? 俺は炭治郎だからな?」
「いやだって今お前、声震えてたじゃん……」
「うるせえぞ弱味噌!!」
「誰の声が小さいって言ったこの猪頭!?」
「あーもう落ち着けって二人とも! ほら、匂いが来たぞ!」
炭治郎の言葉に二人はハッとして耳を澄ませる。
確かに音と臭いが近付いてくる。
────無限列車の到着だ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「やあ、僕はトーマス。事故は起きるさ✩*.゚」
無限列車先頭車両。機関車前面に張り付いた丸い顔は挨拶をすると無邪気に炭治郎達に微笑みかけた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
鬼滅の刃 無限トーマス編
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「列車が喋った!?」
「!!?? 鬼の仕業か?!」
「落ち着け竈門少年、機関車は昔から喋るものだろ?」
「んなわけないでしょ!! ていうか煉獄さんはなんでそんな冷静なんですか!?」
「うむ、実は俺も初めて見た時はかなり驚いたのだが……」
「いや驚くところそこ!? 機関車自体が鬼とかそういう話ですか!?」
「ところで、乗るなら早く乗ってください」
機関車のトーマスがそう促すと、五人は慌てて乗車した。
五人が座席に着くと同時に扉が閉まり動き出す。ガタンガタンと音を鳴らしながら走る列車の中は薄暗く、窓の外では夜空が流れていった……。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「あの、トーマスさん」
炭治郎は列車先頭車両部に移動するとトーマスに聞き取りを開始した。
「はい?」
「俺たちはこの汽車に乗っていた人達を助けに来たんですけど……」
「知ってますよ、でも無理です。既に死んでいますから」
「……えっ」
さらりと言われた言葉に一瞬思考が止まる。
だがすぐに我に帰った炭治郎は叫んだ。
「どういうことですか!?」
「そのままの意味ですよ? 彼らは全員亡くなりました。あなた達が来る前に。なにか客車で暴れる人がいたみたいですよ? おかげで僕もしばらく車庫でお休みもらうことになったし……」
行方不明者達の生存は絶望的。なら今はこの列車に乗っている乗客を守ることが優先だ。炭治郎はトーマスに礼を言うと、駆け足で杏寿郎の元へと戻った。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
(お兄ちゃん……)
不安そうな表情を浮かべる禰豆子を見て、炭治郎は安心させるように笑う。
そして隣に座っていた伊之助に声をかけた。
「おい嘴平! お前は反対側の車両を見に行ってくれ!」
「はぁ? なんでだよ権八郎?」
「いいから頼む!」
「ちっ……わあったよ!」
舌打ちしながらも伊之助は言われた通りに走り去った。それを見届けてから炭治郎は再び前を見る。未だ鬼の気配はない。しかし嫌な予感だけはずっとしていた。
「うまい!うまい!うまい!」
そんな緊張感の中、杏寿郎が弁当に舌づつみを打つ声だけが響いていた。
「竈門少年、緊張していても始まらないぞ? この弁当を食べたまえ」
「あ、ありがとうございます……」
差し出された弁当を受け取り、口に運ぶ。
美味しいはずの料理なのに味がよくわからなかった。
────その時だった。
「……ッ!?」
突然車両が揺れ、ガタッという音が響く。同時に何か重いものが倒れるような音も聞こえた気がする。
その瞬間、炭治郎の顔色が真っ青になった。
「れ、煉獄さん……」
震えた声で名を呼ばれ、杏寿郎はどうしたと振り返る。その目に飛び込んで来た光景に、彼は思わず息を飲んだ。
「竈門少年!?」
そこには頭を抱えて震えている炭治郎の姿があった。顔色は悪く、額には汗が滲んでいる。明らかに尋常ではない様子に、杏寿郎は咄嵯に彼の元へと走った。
「大丈夫か!? しっかりしろ!」
「……煉獄さん、凄く嫌な臭いがします……多分とても強い鬼が……すぐ近くに……」
炭治郎の言葉に杏寿郎は目を丸くした。鬼の臭いどころか鬼の存在すら感じられないからだ。
だが炭治郎の様子は真剣そのもの、嘘を言っているとは思えない。ならば一体どこに鬼がいるのか。考え込む彼に、ふと一つの可能性が浮かぶ。
まさかと思いながらも、彼は恐る恐る口を開いた。
「竈門少年、鬼の位置は分かるか?」
「いえ、まだ分かりません……」
「そうか……ちなみになんだが、もしや君にしか分からない場所にいるということは無いだろうか?」
「え、それは……」
言われて炭治郎はハッとした。そうだ、確かに自分しか知らない場所に潜むというのはあり得る話かもしれない。
それに気づいた途端、炭治郎の中で一気に恐怖心が増した。先程まではどこか漠然とした感覚だったが、今ははっきりとわかる。
──自分の近くに鬼はいると。
「どうした、竈門少年」
「煉獄さん、客車です!この客車全体が鬼なんです!!」
必死の形相で叫ぶ炭治郎に、杏寿郎は瞬時に状況を理解した。客車全体が鬼。つまり自分たちは鬼の胃袋の中にいるようなもの。そして同時に、多くの乗客が人質に取られているに等しい。
(これは厄介だな……)
下手に動くわけにもいかない状況に歯噛みする。
だがこのままではいけないことも分かっていた。
(どうすればいい……)
考えている間にも時間は過ぎていく。
すると、また車両が大きく揺れた。今度はさっきよりも大きく、そして長い時間だ。
(まずい!)
このまま列車が脱線してしまえば被害はさらに大きくなるだろう。乗客を守りながら戦うのは難しい。
なんとかせねばと思った矢先、ふと杏寿郎はあることを思い出した。
「竈門少年!」
「はいっ!」
「君は確か水の呼吸を使っていたな?」
「はい」
「よし分かった」
それだけ言うと、彼は立ち上がった。
「ちょっと待ってください煉獄さん!! どこに行く気ですか!?」
慌てて炭治郎も立ち上がる。だが杏寿郎はそれを手で制すと静かに言った。
「俺はこれから鬼の首を斬ってくる。その間この場は頼めるか?」
「……っ! そんなこと出来るわけないでしょう!?」
「いや、俺ならできる」
そう言って刀を手に取り、車両を駆け抜けて行った。
「煉獄さん!!」
「竈門少年、乗客を守れ」
「っ!?」
「俺は鬼の首を斬り次第、すぐに戻る」
「……」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、炭治郎は何も言えなかった。
そのまま背を向けると、杏寿郎は駆け出した。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
炭治郎達が迫る触手を斬り払いつつ乗客を守ること数刻、車両が激しく揺れたかと思うと触手は動かなくなった。杏寿郎が鬼を仕留めたのだとすぐに悟る。
「皆無事か!?」
「はい、怪我人はいません!」
「なら良い!」
返事を聞き、安堵の息をつく。だがその直後、再び車体が揺れた。
「!?」
慌てて視線を巡らせる。すると先頭の方からトーマスの声が響いた。
「緊急停止します!」
直後、ドンっと鈍い衝撃が走る。
それと同時に、トーマスの甲高い汽笛が響き渡った。
「うおおぉおぁあああ!!!!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「うーん、困りましたねぇ」
トーマスは呟いた。
その目に映るのは横転した自分以外の車両と、多くの怪我人。
夜明けはまだ遠い。
杏寿郎と炭治郎一行は無事な乗客たちと共にけが人の救助と手当にあたる。トーマスもまた無事な車両の牽引を行っていた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
突如、炭治郎の鼻が先程の鬼とは比べ物にならないほどの、邪悪な臭いを捉えた。間違い無い、奴が近くにいる。
「煉獄さん、今度こそ本当にヤバいです」
「む、何が起きている?」
「さっきの鬼より遥かに強い鬼が現れました。それも、俺たちのすぐ近くに」
「……よもや」
「俺たちは鬼殺隊です。だから鬼を殺す義務がある」
「……」
「でも俺たちは一般人を巻き込みたくない。貴方はどうですか?」
「竈門少年」
「はい」
「俺も同じ気持ちだ」
留まる乗客たちから距離をとるべく2人してして駆け出そうする。しかし、既に鬼は近くにまで迫っていた。
「危ない!」
杏寿郎は咄嵯に炭治郎を突き飛ばし、自分もその場から飛び退く。刹那、炭治郎が立っていた場所に鋭い拳が突き刺さる。
「ほう、今のを避けるか」
低い声が響いたかと思うと、次の瞬間にはもう目の前に異形の姿があった。杏寿郎は無言で日輪刀を抜き、構える。
「鬼殺隊、お前強いな。名前を聞こう」
「炎柱・煉獄杏寿郎だ。そちらは?」
「───上弦の弐、猗窩座だ」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
炭治郎はただ呆然と立ち尽くしていた。
(……どうして)
何故、こんなことになったのか。 あの後、炭治郎達は列車から離れ、少し離れた場所で待機していた。
煉獄さんは一人で戦っている。
自分が弱いせいで、煉獄さんに負担をかけてしまった。早く助けに行きたいが、ここで下手に動いても逆に邪魔になるだけ。
「お前強いな、素晴らしい提案をしよう。杏寿郎、お前も鬼にならないか?」
「ならない。それに、ここからお前の相手はアイツだ」
杏寿郎の掲げた腕が天を指さす。その先に居るのは、空を飛びながら駆けつけた機関車トーマスだ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「杏寿郎さ~ん、邪魔な車両の移動は終わりました~」
「そうか、すまないトーマス。アイツの相手を頼む」
「おまかせ~」
機関車トーマス。その実態は、時の竜神アカトシュが生み出したドラゴン血族の長兄。またの名を『世界を食らうもの』。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ぽっぽ~。汽笛を鳴らしあげ、トーマスは猗窩座に向け上空から強力なシャウトを放つ。ドラゴンのシャウトはそれ自体が強力な言霊だ。トーマスの放つ火を意味するシャウトは、巨大な火球となり猗窩座に迫る。しかしそれを容易に躱しながら、彼は愉快そうに笑った。
「あぁ面白い。この汽車に乗っている人間全てを食らおうと思っていたのだが、まさかこの俺が鬼狩りと戦うことになるなんて。しかもその相手が蒸気機関車か。全く予想外だったぞ煉獄杏寿郎。実に楽しい。実に嬉しいぞ!」
「ならば存分に楽しむといい! 俺は楽しくないがな!!」
「それは残念だ」
ぽっぽ~。トーマス、再びのシャウト。力を意味するシャウトが生み出した強力な力場が空間を歪め、衝撃波となって辺りを襲う。
「ぐぅっ!」
咄嵯に身を屈めた猗窩座だったがそれでも僅かに体勢が崩れた。
そこに畳み掛けるように、機関車トーマスは再び強力な攻撃を加えるべく力を溜め始めた。
「させるか!」
トーマスを撃ち落とすべく猗窩座はなにかの構えをとった。しかしそれを見た杏寿郎は即座に刀を構える。
「炎の呼吸、奥義……」
そして、刀身に炎を纏わせて技を放つ。
「玖ノ型、煉獄!」
凄まじい勢いの一撃は、狙い通り、猗窩座の腕を破壊した。
「くそ……やはり厄介なのは杏寿郎の方か……」
腕を押さえ悔しげな表情を浮かべながら、しかし猗窩座は構えを崩さない。
「ならばまずは杏寿郎からだ」
彼の言葉に呼応するように、突如としてトーマスの動きが止まった。
ぽっぽ~。トーマスが咆哮めいた汽笛を鳴らし、シャウトを発動する。最強のスゥーム『メテオ・ストーム』だ!
トーマスの溜め込んだ力が解放され、いくつもの火球が隕石のように天から無数に降り注ぐ。
「ちぃっ!」
猗窩座は迫る火球の群れを躱す事で精一杯だ。
「なんということだ……これが本物の竜の力か……ッ」
杏寿郎は思わず冷や汗を流す。そしてふと、先程破壊したはずの猗窩座の手が再生していることに気付いた。
(あれだけの攻撃を受けても、死なないどころか傷すら癒えるとは……これは骨が折れそうだな……)
「杏寿郎さ~ん」
トーマスの呼ぶ声が聞こえた。
「トーマス、助かった」
「いえ、それよりさっきの攻撃をもう一度撃ってもいいですか?」
「む? だが君は……」
「大丈夫です。僕に任せてください」
トーマスはそう言うと、再び汽笛を鳴らそうと大きく息を吸い込む。
「させぬわ!」
だがそれよりも早く、再び地面を蹴り砕き、一気に距離を詰めた猗窩座がトーマスを殴り飛ばした。
「トーマス!?」
トーマスの巨体はそのまま吹き飛ばされ、客車に激突した。衝撃で車体が大きく揺れる。
「トーマス!!」
慌てて炭治郎はトーマスの元へと駆け寄った。
「トーマス! しっかりしろ!!」
トーマスの身体は大きく凹んでいる。
「竈門少年、今は駄目だ」
「え?」
杏寿郎の言葉に困惑していると、いつの間にかすぐ側にいたらしい伊之助が叫んだ。
「おい、鬼野郎!! よくもトマソンをやりやがったな!?」
「うるさい、黙れ猪頭」
「なんだとテメー!! ぶっ殺す!」
「やめんか馬鹿者!」
「いでぇ!」
杏寿郎は怒鳴りつけると、そのままの勢いで伊之助の頭を叩いた。
「竈門少年、トーマスを頼めるか?」
「はい、分かりました」
「俺も行くぜ!」
「いらん!!」
「んだコラァ!!」
「いいから君たちは乗客の避難誘導をしていろ!」
「……」
「返事はどうした!」
「はい!」
杏寿郎は返事を聞くと、そのまま駆け出した。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「うーん、困りましたねぇ」
機関車トーマスは呟いた。黄金の鉄の塊であるトーマスにとって、凹みぐらいでは大したダメージとはならない。しかしそれよりも、強力なシャウトを連発したことにより、燃料が心許ない。
「炭治郎さ~ん、お願いがあります~」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
杏寿郎は走りながら刀を構えた。
(考えろ、考えるのだ)
先程の攻撃でトーマスはしばらく動けないだろう。つまり、あの鬼を倒せるのは自分しかいない。あの鬼は強い。正直勝てるかどうかも分からない。
(だがやらねばならぬ)
鬼殺隊の一員として、責務を全うするために。
(それに)
煉獄家の長男として、千寿郎に胸を張って会えるよう強くなるために。
(何より)
あの少年達を信じている。だから自分は己の成すべきことを為すだけだ。
「炎の呼吸、奥義……!」
深く腰を落とし、刀身を炎が包む。
「玖ノ型、煉獄!」
炎の如き斬撃が鬼に迫る。
しかし、その刃が猗窩座に触れることはなかった。
「術式展開」
その一言と共に、まるで時間が停止したかのように、全ての動きが静止する。杏寿郎もまた例外ではない。
「素晴らしい剣技だ。今まで出会った柱の中でもお前は間違いなく最強だ。だからこそ惜しい。杏寿郎よお前は鬼になれ。鬼になり共に高め合おう」
鬼の始祖たる鬼舞辻無惨を除いて、鬼の中で最高の力を誇る上弦の弐・参・陸の三体は『十二鬼月』と呼ばれる鬼の中でも、特に卓越した戦闘能力を持つ。彼らは皆それぞれに異なる能力を持ち、中には時を止める能力を持つ者もいると言う。
「お前の素晴らしい闘気に当てられたのか、俺は今猛烈に腹が減って仕方がない。このまま喰らえばどれほど満たされることだろう」
「断る」
「そうか、残念だ」
次の瞬間、猗窩座の姿が消え失せた。
(消えた?)
次の瞬間、背後から声が響く。
「素晴らしい反応速度だ。流石は炎柱」
振り返ろうとするが、その前に肩口に強烈な痛みが走る。
「がぁっ!」
見れば、猗窩座の拳が杏寿郎の左肩を貫いていた。
「さぁ、血を分けて貰うぞ」
痛みから表情を歪める杏寿郎。しかしニヤリと口角を上げる。
「何を笑っている」
「なに、俺の血が欲しいならくれてやる。その代わり、君の首ももらうがな」
「面白い」
杏寿郎は歯を食いしばりながら、刀を両手で持ち直す。
そしてそれを勢い良く振り下ろした。しかし、手応えはない。
「無駄だ。今のお前の攻撃が俺に当たることはない」
「……そうか、だが時間は充分稼げたようだ」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
炭治郎は辺りにちらばっていた石炭袋を集め、トーマスの機関部へと投げ込む。
「炭治郎さん、ありがとう~」
機関車全面に張り付いているトーマスの丸い顔が、ニヤリと不敵に笑うと、獣叫びのように汽笛を鳴らせる。
ぽっぽ~。太陽のシャウト『陽光の輝き』だ!
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
夜の暗闇を切り裂くように空に眩い光が生まれた!
「馬鹿な!?夜明けはまだ先のはずだ!」
焦る声と同時に、辺り一面が白一色に包まれる。
「こんなことありえん!!」
それは、まるで太陽が地上に堕ちたかのような光景だった。人の目すら容易に焼き尽くす光が、猗窩座を包む。
「おおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
汽笛の雄叫びとともに、トーマスの放った最後の力を振り絞った。一撃が、遂に、ついに、猗窩座を捉えた。
そして一瞬の後、汽車全体が揺れるほどの爆発が起きた。
あまりの衝撃に、煉獄は思わず膝をつく。
「はあ……はあっ……は……ははははは!!」
だがそれでも、杏寿郎は愉快そうに笑い続けた。
「ははははははは!! やった! 倒した! 」
「煉獄さーん!」
炭治郎達が駆けつけてくる。
「よくやった! これで俺たちの勝ちだ!」
「はい!」
「よし、急いでここを離れるぞ!」
「でも、トーマスがまだ動けないんです!」
「なんと!?」
その時、遠くから汽笛の音が聞こえてきた。
「汽笛の音?」
「おい、あれ見ろ!」
伊之助が指差す先をみれば、そこにはボロボロになった蒸気機関車がこちらに向かってくるではないか。
「トーマス!?」
トーマスはよろめきながらも、なんとか無事に線路の上に着地した。
「よかった!」
「よくないですよー。早く帰ってピカピカに磨いてもらわないと」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!」
「とにかく早くここから離れましょう」
「そうだな!」
「……待ってくれ」
「え?」
杏寿郎が、トーマスを呼び止めた。
「どうかしましたか?」
「トーマス、頼みがある」
「え? 僕もう動けませんよ?」
「わかってる。だが、少しだけ俺の話を聞いてくれないか?」
トーマスはじっと杏寿郎を見つめると、やがて静かに汽笛を鳴らした。
「ありがとう」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
その後、隠によって乗客達は無事保護された。重傷者多数。特に煉獄は酷い状態だったため、蝶屋敷で治療を受けることになった。
だが幸いなことに、炭治郎達の怪我は軽傷であり、命に別状はなかった。
ただ一人、杏寿郎を除いて。
彼の傷は深く、左目は潰れ、内臓にも大きな損傷を受けていた。更には肋骨が折れ、背骨まで砕けている状態だ。しかし、彼は生きている。
「何故助けた」
病室のベッドの上で、杏寿郎は問いかけた。
「答えろ」
建物の外、窓から杏寿郎の部屋を覗くトーマスは暫く黙っていたが、ゆっくりと口を開いた。
「僕は、僕の使命を果たすだけです」
「ほう?」
「この世に生を受けた以上、人はみな役割を持って生まれます。誰かの役割は別の誰かのためにある。貴方にはきっと、果たさなければならない大切な役目があったはずです。それが何かは分かりませんが」
「……」
「人は常に、他の誰のために生きています。貴方もそうして生まれたのです」
「……」
「貴方は強い。だから、自分の果たすべきことを見出してください」
それだけ言うと、トーマスはふわりと浮かぶと車庫へと帰って行った。
「トーマス……」
その日、杏寿郎は初めて涙を流した。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
つづかない。
⿴⿻⿸機関車トーマス⿴⿻⿸
イギリスの古い機関車。赤いボディが特徴。性格は穏やかで優しく、子供や動物が好き。しかし実はとんでもないトラブルメーカーで、数々の逸話を持っている。
炭治郎とは親友の間柄。杏寿郎とは昔からの知り合い。杏寿郎とは友人関係だったが、今回の件でより深い絆で結ばれた。
必殺技は『太陽のシャウト』。
炭治郎達を乗せて、客車を引っ張りながら移動することが出来る。普段は優しい紳士だが、たまにぶっ飛んだ行動に出ることがある。
猗窩座討伐任務の後に柱『汽笛柱』に就任する。今回は割と大ピンチだった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
上記キャラクタプロフィールも、のべりすと先生産です。カオスかつ熱い展開になったので勝利です。