よろず短編集 作:機械学習はいいぞおじさん(仮)
「炭治郎、鬼殺隊が鬼と戦うために、様々な呼吸法と型を用いていることは知っているな」
「はい、ダルシムさん」
「お前には私が使っていたヨガの呼吸を教える。私の技を全て叩き込んでやるから覚悟しなさい」
「はい!よろしくお願いします!」
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ヨガの呼吸とはインドか伝わった古代の格闘術で、約四千年も前に発祥したものだと言われている。
その特徴は筋肉や関節を自在に操り、あらゆる動作を可能にするというもので、それ故に、どんな姿勢であっても戦えるように考案されたものらしい。また、攻撃にも防御にも応用が利くため、この呼吸を習得することは戦いにおいてかなり有利となる。
さらに、呼吸を極めることでテレポートをしたり火球を生み出したりと、超能力じみたこともできるようになるらしい。
(余談だがダルシムのヨガの呼吸は、ヨガの流派の中でもかなり特殊なものだったりする)
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そして今、俺の前にはその呼吸法の開祖である男が立っている。
俺はこれから彼に教えを受けるのだ。正直言ってとても楽しみだ。何しろ今まで全く知らなかった格闘技の技術なのだから。
「ではまず最初にヨガの基本のポーズを取るところから始めるぞ」
そう言うとダルシムさんは床の上で正座をし、そのままゆっくりと仰向けになった。どうやらこれが基本の姿勢らしく、両手両足を広げてリラックスしているように見える。
「これは『太陽礼拝』と言う。ヨガにおける基本的な瞑想の形であり、肉体の隅々まで気を通すことができる最も簡単な形でもある」
「なるほど……確かに全身に力が入っていてとても気持ちよさそうな感じですね」
「うむ、やってみろ」
俺は言われた通りに真似をしてみる。
「こうですか?」
「違う、もっと力を抜いて自然体になるんだ。頭を下げすぎているし、腕を伸ばしすぎていてバランスが悪い。そうだな……まずは両腕を横に伸ばして寝そべってみろ」
「はい」
言われるままに手足を伸ばすと、ちょうど両肘と両足の裏がくっつくような体勢になった。これなら楽だしいいかもしれない。
「それが一番楽だろう?では次は足先に力を入れずに爪先で立ってみてくれ」
「はい……」
言われて足先に力を込めないようにする。
すると少しだけ体が浮いた気がした。
「今度はゆっくり立ち上がるんだ」
「わかりました」
俺は右足を前に出しながら左足を曲げる。
次に左足で体重を支えつつ、右足だけで立った。
「ふぅ……結構疲れますね」
「最初は誰でもそんなものだ。ではもう一度やってみよう」
それから何度も繰り返した。その度に少しずつ慣れてきたのか、安定して立つことができた。
ただやはりまだ重心の位置が悪くフラついてしまうので、もう少し練習が必要だろう。しかしこれだけでもだいぶ体力を使うことがわかった。
これを毎日続けるというのは大変そうだ。
「よし、今日はこのくらいにしておこう。明日もまた同じ時間にここに来なさい」
「はい!ありがとうございました!」
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それからひと月が経ち、ヨガの呼吸の鍛錬はポーズをとることから本格的な動き方へ変わっていった。
今では太陽礼拝と言ったヨガのポーズも十種類以上できるようになっている。もちろんそれだけではない。柔軟体操や筋トレなども行い、より効率的な体の動かし方を習った。
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そして一週間後、遂に最終段階に入った。
それは精神統一のための呼吸法だった。
「炭治郎、今から私が言うことを繰り返し唱え続けろ。心の中でだ。いいか、繰り返すぞ…….」
「はい!!」
「ヨガ!」
「ヨ〜ガ〜」
「ヨガ!」
「ヨガ〜」
「ヨガ!」
「ヨガ!」
「ヨガ!!」
「ヨガ!!!」
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「よし、今日の修行はここまでだ」
「はい!!本当にありがとうございました!!」
ダルシムさんが帰っていくのを見届けると、俺は早速瞑想を始めた。
そして一時間程経った頃だろうか、俺は不思議な感覚を覚えた。
まるで自分の中にもう一人誰かがいるかのような……。
そう言えばダルシムさんが言っていた。ヨガの深い集中は内なる自分との対面から始まると。その言葉の意味がようやくわかった。
そしてその瞬間、俺は自分の内側から湧き上がる何かを感じた。
その正体はわからないが、とても温かいものだった。俺はそれを手繰り寄せるように、ゆっくりと意識の中に落とし込んでいく。
するとその温もりはだんだんと大きくなり、やがて俺の全てを包み込んだ。
その心地良さに身を委ねていたその時、俺の脳裏にある光景がフラッシュバックしてきた。
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そこは雪山のような場所だった。地面も空も真っ白で、周りには吹雪が吹き荒れている。
そして目の前には大きな岩があった。俺の手よりも大きな石だ。
その表面には奇妙な模様が彫られている。
俺はその石を知っていた。これは……ヒノカミ神楽の型が描かれたもの。
つまり、この大岩に刻まれたものは日輪刀の素材ということだ。
では何故こんなものがここにあるのだろう?
そう思った時、背後から声をかけられた。
『それに触れてはいけない』
振り向くとそこには一人の老人がいた。
白い髭を生やし、黒いローブのようなものを着ている。
『それは私の血族の者にしか扱えない』
『貴方は?』
『私はかつて鬼舞辻無惨を追い詰めた始まりの呼吸の剣士の子孫。名を継国巌勝と言う』
『!』
『お前に頼みがある。どうか私の技と呼吸を受け継ぎ、日の呼吸を継いでくれ』
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(何なんだ今のは……)
そこで俺の瞑想は終了した。
だがあれは何だったんだろうか。
それにあの人は一体何だったのだろう。
俺に何を伝えようとしていたのだろう。
(まぁいい……今はそれよりも)
瞑想を終えた俺は瞑想によって得られた情報を整理し始めた。
まず瞑想中に浮かび上がってきた記憶。おそらくこれは幼い時に聞いた、父さんの昔話の記憶だろう。竈門家は代々続く炭焼きの家系だ。だから俺にも小さい頃から様々なことを教えられてきた。
その中で特に印象に残っているのは父さんの仕事についてだ。
母さんや弟妹たちはよく知らないみたいだったが、俺だけは知っている。
うちの父さんの先祖は若い頃に一人で山に住み、木を切り、炭を作って暮らしていたらしい。そんな生活を何年も続けているうちに、ある日突然、ある人物と出会ったそうだ。
それが今から200年以上前のことで、どうやらその人物が件の"ヒノカミ神楽"を作った張本人であるようだ。
そしてその人物は、なんとその時代に既に存在していたとされる最強の生物・鬼の王、即ち鬼舞辻無惨と戦って見事勝利したのだそうだ。
それ以来、彼は子孫たちに自分の剣技を全て伝え、後の世のために残したのだという。その後、彼の子孫である俺たちの祖先は、更に独自の呼吸法を編み出し、戦い続けた。
そして遂には全ての呼吸の源流となる呼吸法を生み出し、その名を『日の呼吸』と名付けた。
そして時は流れ、大正時代。
祖先は新たな呼吸法と、その奥義を一つの形にまとめた。それが全集中の呼吸の原型となった呼吸法であり、現在俺達が使っている『水の呼吸』『風の呼吸』などの元となっているものだ。
その呼吸法は、戦国の時代に生み出された始まりの呼吸、即ち『日の呼吸』を真似たものだという。ちなみにこの呼吸法が編み出された時代を戦国時代と呼んでいる。
つまり、あの夢で見た老人は戦国時代の人ということになる。しかし……なぜ今になってそんな昔の人のことを思い出したんだろう。しかもそれが記憶ではなく、実際に体験したような感覚で思い出せるなんて。
ヨガの呼吸を極めると超能力じみた能力を得ることが出来ると言う。もしかしたらその一端に触れたのかもしれない。
明日ダルシムさんに聞いてみよう。
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「───と言うことがあったんですよ」
「ほう……そのようなことが……」
翌日、俺はいつも通りダルシムさんの元を訪れ、昨夜の出来事を話していた。
「それで、どう思われますか?」
「うむ……俄には信じ難い話ではあるが、お前は嘘をつくような人間ではないしな。恐らく真実なのではないかと思う」
「やはりそうですか……」
「ただ、私も古い時代のことはあまり詳しくないからな。もしよければもう少し詳しい人に尋ねてみるというのはどうだろう?」
「詳しい人?それは誰のことです?」
「うむ、実はな、ここから東に行ったところに寺がある。そこにいる住職ならもっと色々わかるかもしれぬ」
「わかりました!行ってみます!」
「うむ、気をつけて行くんだぞ」
「はい!」
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ダルシムさんと別れてから数時間ほど歩き、目的地に到着した。
「ここか」
そこにあったのは立派な寺院だった。大きさはそれほどでもないが、歴史を感じさせる佇まいだ。
俺は意を決して寺の戸を叩いた。
「ごめんください」
「はーい」
しばらくすると、一人の少女が現れた。年齢は十代半ばくらいだろうか。腰まで届く長い黒髪に赤いリボンをつけており、どこか大人っぽい雰囲気を感じる。
服装は和服で、肩からは紫色の花柄が入った羽織を掛けている。
「あら?見慣れない顔ですね?どなたかしら?」
彼女は俺の姿を見ると、不思議そうな表情を浮かべて言った。
「えっと……俺は竈門炭治郎と言います。こちらにおられるという僧の方を訪ねて来たのですが……」
そう言うと、彼女の瞳が大きく開かれた気がした。そして次の瞬間には、彼女に手を握られていた。
「まあ!!貴方がダルシム様のおっしゃっていた方ね!!ようこそおいで下さいました!!」
「は……はい」
「さあさあ、入って!!中でお坊さまが待っていますわ!!」
俺はそのまま引っ張られて建物の中へと連れ込まれたのであった。
「初めまして、私がこのお寺に住むの沙恵(さえ)と申します」
「は、はじめまして!俺は竈門炭治郎といいます!」
「ふふふ、そんなに緊張なさらないで。楽にしてくだされば結構ですよ」
「は、はい」
「では早速本題に入りましょう。お話はダルシムさんから伺っております。なんでも日輪刀に関することを知りたいとか。一体どのような事を知りたいのでしょう?」
「はい!実は俺のご先祖様に日の呼吸というものを使った人がいて、その方は戦国時代に鬼舞辻無惨と戦ったことがあるそうなんです。そのことについて何かご存知ないかと思いまして……」
すると彼女から驚きの言葉が返ってきた。
「まあまあ……では炭治郎さんはご自分の家系が、始まりの呼吸の剣士の血を引いていることを知らないのですか?」
「はい……ご先祖が戦ったというところまでは知っていましたが……」
「そうでしたか……それは失礼しました」
「いえ、それよりどういう意味でしょうか?俺の家系が何か特別なのですか?」
「はい、まずはそこから説明させていただきます。よろしいでしょうか?」
「はい!」
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それから沙恵さんは語り出した。
始まりの呼吸と呼ばれる呼吸法が生まれた経緯を。そしてその呼吸法の継承者が生み出した『日の呼吸』がどれだけ凄まじいかを。
始まりの呼吸の剣士が作り出した『日の呼吸』は、鬼舞辻無惨を追い込むほどの力を持っていたのだという。しかしその剣士は、最後に自分しか使えない『日の呼吸』を後世に残そうとした。そしてそれを弟子の一人に託したのだという。
その弟子の名は継国縁壱。
彼の作った型こそが、現在の全ての呼吸の源流である『日の呼吸』なのだ。またその時代には既に『日の呼吸』以外にも数多くの呼吸が存在していたのだが、『日の呼吸』はそのどれよりも優れていたのだという。そしてその後継者もまた優れた才覚の持ち主だった。
その者は名を継国家の長男・巌勝と言った。
彼は日の呼吸を継承しつつ他の呼吸も極め、やがて独自の流派を生み出すに至った。これが後に世に知られることになる全ての呼吸の始まりとされている『月の呼吸』だ。
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以上が、彼女が知っている限りの『始まりの呼吸』についての知識らしい。
「では俺の家系は、始まりの呼吸の使い手の子孫ということなんですね」
「はい、そういうことになります。そしてそのことは炭十郎殿も知っていたはずなのですが……何故炭治郎さんには伝えなかったのでしょう?」
「父さんは体が弱くて、子供の時はほとんど床に伏していたそうです。だから父さんは自分のことで精一杯で、伝える余裕がなかったのかもしれません」
「なるほど……確かに言われてみると納得できます。すみませんでした。では次に日輪刀についてお話しします」
「お願いします」
「はい。そもそも日輪刀とは、始まりの呼吸を生み出した剣士の使っていた武器の名前になります。それは鬼殺隊にとって最も重要なもので、鬼を唯一殺すことのできる特殊な鉱石で作られた剣です。その剣を持つ者だけが鬼と戦う資格を持ち、その刀で鬼の首を斬ることで、鬼を倒すことができると言われています。ただし、鬼の中には日輪刀以外では死なない者もおり、その場合は太陽の光を浴びせるか、もしくはその鬼を殺すことのできる唯一の格闘技であるヨガの呼吸を用いるかしなければなりません。このあたりは先程お話したことと同じになるのですが、ここで一つ注意しておかなければならないことがあります」
「何でしょうか?」
「それは日の呼吸の継承についてです。現在、炭治郎さんの家系に日の呼吸の適性を持った人は存在していません。つまり、炭治郎さんの家系は、始まりの呼吸の剣士の血を引く者でありながら、日の呼吸の適正を持っていないということになるわけです」
「え!?じゃあ俺はどうすればいいのですか?このままだと鬼の餌食になってしまうんじゃ……」
「大丈夫ですよ。それに関しては安心してください。ヨガの呼吸のための鍛錬を続ければ、自ずと日の呼吸のための体作りが出来ます。それにもし日の呼吸が使えなくても、ヒノカミ神楽を使えるようになるだけで十分戦力となります。日の呼吸を完璧に使うためには、まずはヨガの呼吸とヒノカミ神楽を習得する必要があるのです。だからどうか焦らずゆっくりと頑張っていって欲しいと思います。私も出来るだけ協力していきますから」
「わかりました!ありがとうございます!」
「それともう一つ、大事な話があります」
「?」
「日の呼吸の継承者がいない今、日の呼吸の剣技を受け継ぐものが現れない限り、日の呼吸は失われる運命にあるということです」
「それは……つまり俺の代で日の呼吸は途絶えてしまうかもしれない……と」
「はい……残念ながらそうなります」
「……」
俺は言葉が出なかった。自分が継ぐはずのものが消えようとしている。それは俺の今までの人生を否定することと同義だ。
でも俺にできることは何もない。ただ黙っていることしかできない。それがたまらなく悔しかった。
「……大丈夫ですよ」
「え?」
「運が良かったと言うにはあまりにも運命的ですが、炭治郎さんはダルシム様から師事を授かり、こうしてここにやってきてくれました。それだけで十分すぎるくらいの幸運なんですよ」
「しかし……」
「今は悲観するより先にやるべきことをやるべきだと思います。そうしないと、本当に何もかも終わってしまいますよ」
「……」
「私もできる限りの協力は惜しみません。一緒に頑張りましょう」
「……はい」
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ダルシムさんの元に戻ると、俺は彼に仔細を伝えた。ダルシムさんは最後まで静かに話を聞いていたが、話が終わると、こう言った。
「……そうか。お前の家の祖先がそのような人物だったのか。私もその方の名を聞いたことがある。確か名は継国厳勝といったはずだ」
「継国……縁壱さんの兄の方ですか?」
「ああ、そうだ。あの御方が生きていれば、きっとお前の力になってくれただろう。だが仕方あるまい。それよりもお前のことだ」
「はい」
「日の呼吸については沙恵の方が詳しいだろう。彼女を頼るといい。そしてお前が思うまま、精進するがいい」
「わかりました!」
「うむ、良い返事だ。それでこそ我が弟子だ」
「はい!これからよろしくお願いします!!」
「うむ、こちらこそな。期待しているぞ、炭治郎」
「はい!!」
こうして俺は新たな一歩を踏み出したのであった。
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「うむ……あれからもう二年か……」
炭治郎が修行の旅に出てから、あっという間に時は流れ、気づけば俺は16歳になっていた。
「早いものだな……」
俺は独り言ちると、目の前の光景に目を向けた。
そこは一面の花畑だった。色とりどりの花が咲き乱れており、見ているだけでも心が安らいでくる。ここは俺が毎朝通っている場所であり、瞑想を行う際によく訪れる場所である。
今日もいつも通りここで座禅を組み、精神統一を行っていたのだが、その最中に俺は奇妙な感覚に襲われたのだ。
最初は花が揺れているせいで風が吹いているだけだと思っていたが、それは違った。
俺の意識は段々と遠のき、最後には完全に途切れてしまった。
遠くにいるはずのダルシムさんの気配を感じる。一体俺はどうしてしまったのだろうか?
「ん?」
目を開けて最初に飛び込んできたのは、どこかで見たことのあるような天井だった。
「ここは一体どこなんだ?」
辺りを見回す。するとそこには見覚えのある顔があった。
「炭治郎……そうか、極めたのか」
目の前には破顔するダルシムさんの顔があった。
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「ヨガの呼吸の極みのひとつに瞬間移動がある。これは自分の記憶の中にある場所に瞬時に移動するもので、お前は無意識的にこの場所へと飛ばされたのだよ」
「そうだったんですか……」
「もう少し練習すれば自在にできるようになる。頑張れ、炭治郎」
「はい!!」
「今日はもう遅い、久しぶりに私のカレーを馳走しよう」
「わあ!やったあ!!楽しみだなあ」
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「ふふ、まるで子供みたいね」
「カナエか……相変わらずここに来ていたんだな」
「ええ、だってここは落ち着くんですもの」
「そういえば、しのぶはどうした?」
「まだ帰って来ていないようだけど、何かあったの?」
「いや、そういうわけではないが……あいつは少し心配性だからな。何かトラブルに巻き込まれてなければいいのだが」
「あら、随分と気を使ってくれるじゃない」
「当たり前のことを言っているだけだ」
「そうかしら?まあいいわ。それより今日の晩ご飯はカレー以外には何にするの?」
「今日は肉じゃがを作るつもりだ」
「へー、それは美味しそう。なら私は手伝おうかしら」
「助かる。では早速始めるとするか」
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ダルシムさんとカナエさんが作ったカレーと肉じゃがを堪能した後、俺は自室に戻ってベッドの上に寝転んでいた。
「ふう、食べたなあ。それにしてもまさかあんなことになるなんて」
突然のことだったので驚いたが、別に悪い気分ではなかった。
瞬間移動───ヨガ・テレポート。使いこなせれば戦闘においてかなり有利に働くことができる。
もっと精度を上げて、いつでもどこでも使えるようにしたいところだ。そんなことを考えながら眠りについた。
次の日の朝、目が覚めると、既にダルシムさんの姿はなかった。
代わりに置き手紙があり、俺はそれを読んだ。
『炭治郎、急用ができたため出かけてくる。暫く戻る事は出来ない。よってここにヨガ・テレポートに必要な修行方法を纏めて置いた。これを参考にして日々の鍛錬に励むがよい』
俺はその内容に驚くと同時に感謝していた。
「ありがとうございます、師匠」
そして俺は紙に書かれている内容に目を通していった。
『ヨガの呼吸の習得には大きく分けて二つの方法がある。一つは瞑想による自己暗示によって体を変化させる方法。そしてもう一つはヨガの呼吸法を極めることによって身に付ける方法である。しかし後者の方法は一朝一夕にはいかない。そこでまずは前者の方法について話すことにする』
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瞑想とは、自身の深層心理を探求し、心を静め、集中力を高めることである。そして瞑想を行うことで得られる効果は主に二つある。
一つは肉体のリラックス。これにより全身の筋肉の緊張がほぐれ、血行が促進される。それにより脳の働きが活性化され、思考がまとまりやすくなる。また、体の内部からエネルギーを引き出しやすくする効果がある。
そしてもう一つは内なる自分との対話である。無意識、魂、もう一人の僕。呼び名は様々あるが、その正体は、その人の潜在能力であると言われている。この能力を目覚めさせることにより、人の持つ本来持つ力が解放されることになる。この力は常人を遥かに凌駕するものなので、その使い方次第では鬼を倒すことができるだろう。またこの力を正しく認識することでヨガテレポートを自在に扱うことができるようになる。
ただし、この力を悪用しようとする者が現れる可能性もある。その点には注意しておく必要がある。
ちなみにヨガの呼吸を習得するには、この瞑想が必要不可欠となる。
さあ、炭治郎よ。この二つをマスターするのだ。
追伸:この部屋は好きに使ってもらって構わない。それとこれを渡しておこう。私が昔使っていた日輪刀だ。手入れはしてあるので、問題なく使えるはずだ。
─────ダルシムより
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「日輪刀……これが俺の武器になるのか」
そう呟くと、俺は鞘から抜いてみた。美しい刃紋が朝日を反射し、思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。
「よし!やるぞ!」
こうして俺の瞑想と、より極まったヨガの呼吸法の特訓が始まった。瞑想はとにかく回数を重ねることでしか上達しない。
一日一回、必ず行うようにして、それ以外の時間はひたすら呼吸法を練習することにした。
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それから半年、俺は毎日欠かさず訓練を続けた結果、遂に瞬間移動が使えるようになった。
「できた……!」
「うむ、見事だ。よく頑張ったな、炭治郎」
突然現れたダルシムさんに俺は驚いてしまった。
「いつの間に帰ってきてたんですか!?」
「今しがたヨガ・テレポートでな。それよりも今、お前は虚を突かれ驚いただろう。このように一瞬で移動できる技は、戦いの場ではかなり役に立つぞ」
「はい!これで戦術の幅が広がりました」
「うむ、精進を続けるといい」
「はい!!」
「ところで、そろそろ教えてくれてもよろしいですか?何故俺がここに呼ばれたのか」
「ああ、そうだったな。お前にこれを渡そう、『鬼殺隊最終選抜の案内』だ」
「これは?」
「藤襲山で行われる試験のことだが、お前にはこれに挑んで欲しいと思っている」
「俺が……ですか?」
「お前の妹に掛けた封印はいつまで持つかは分からない。もうお前は立派なヨガの呼吸の使い手だ。鬼殺隊に加わり鬼舞辻無惨を討つのだ」
「でも俺なんかが……」
「お前は自分が思っている以上に素晴らしい人間なのだ。自信を持て!」
「……わかりました」
「うむ、では明日に出発するといい」
「明日?」
「そうだ、今日はゆっくり休め」
「わかりました」
こうして俺は翌日早朝、ダルシムさんの家を出発し、藤襲山に向かった。
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「おお……すごいな」
俺は目の前に広がる光景に圧倒されていた。季節は春だというのに辺り一面に藤の花が咲き乱れており、まるで幻想的な光景を作り出していた。
俺は暫らくその光景に見惚れていたが、いつまでもそうしているわけにもいかないので、気を取り直して会場へと向かった。
途中、俺と同じように集められた人たちが沢山いたが、皆一様に落ち着かない様子だった。
それも当然といえば当然の話であり、彼らはこれから命懸けの七日間を過ごすことになるのだ。緊張するのは無理もない話だった。
俺は集中するように息を吐き軽く瞑想をすると、目を開けた。そして歩き出す。
「大丈夫だ。きっと上手くいく」
自分に言い聞かせるように呟く。
俺はそのまま歩いていき、やがて会場に着いた。そこには既に数十人ほどの人がおり、俺は空いている席を探し、そこに腰かけた。
周りを見渡すと、俺と同じような年恰好の若者が多かった。
恐らく俺と似たような境遇の子たちが集まっているのだろう。
程なくして時間になり、一人の男が壇上に上がった。男は口を開いた。
「よく集まってくれた。私の名前は産屋敷耀哉という」
男の発した言葉に全員が耳を傾ける。
「ここには優秀な子供たちが数多く集まったことと思う。私たちは君たちのことを心から歓迎する。しかし、ここでは誰も彼もが対等な立場にある。そのことを忘れないでほしい」
そう言うと、産屋敷と名乗った男は再び口を開く。
「ではこれより、最終選別を開始する。生き抜くために全力を尽くしてくれ」
その言葉を合図に、最初の試練が始まる。
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鬼のいる山の中で七日間生き延びること。それが最終選別の内容だった。その為に参加者たちは各々で身を隠したり、罠を仕掛けたりする。
そして夜になると一斉に行動を開始した。
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「見つけたぞォ!!ガキィ!!」
「ひぃ!!」
目の前に現れた異形の存在に俺は恐怖を覚える。
ダメだ、集中しないと。ヨガの呼吸は心身ともにリラックスし最高の状態で最善の集中をすることが必要だ。
俺はゆっくりと深呼吸をする。そして俺は精神統一を始めた。
「ふぅ……」
呼吸を整え、意識を内側へと向けていく。そしてその時が来た。
「死ねぇええええええ!!!」
「ヨガの呼吸、壱の型『ヨガ・ズーム』!」
日輪刀をもったまま突き出した拳は、鬼の間合いの外から鬼を殴り飛ばした。手足の伸縮はヨガの呼吸の基本だ。
「ぐわぁあああああ!!!」
鬼は悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。
好機!すかさず俺は鬼の首を斬った。
「やった……!」
初めての戦闘での勝利。俺は喜びを噛み締めた。
「ふう、何とかなったな」
俺は安堵の溜息を漏らした。
「しかしまだ油断はできないな」
先程倒した鬼以外にも気配を感じる。他にも多くの鬼がいるようだ。
「取り敢えず一旦隠れよう」
そう思いその場を離れようとした時、背後から声をかけられた。
「おい、そこのお前!何者だ?なぜ一人で戦っていた?」
振り向くと、そこには狐面を被った少年がいた。その表情は伺えないが、どうやら俺のことを怪しんでいるらしい。
「俺はただの通りすがりだよ。それより君は誰なんだ?」
そう尋ねると、彼は答えた。
「俺は錆兎。鬼殺隊の剣士を目指してここに来た」
「俺は竈門炭治郎。同じく剣士を目指しているんだ」
「そうか、よろしく頼む」
「こちらこそ」
「ところでさっきの技は何だ?見たことのない呼吸だったが」
「ああ、あれはヨガの呼吸といって、秘伝の呼吸法なんだ」
「ヨガだと?聞いたことがないな」
「ダルシムさん……師匠があまり弟子を取らない人でね、だから知らないのかもしれない」
「なるほど」
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「それにしても驚いたな。まさかあの数を相手に圧勝してしまうとは」
あれから何度か鬼たちと遭遇し、その度に幾分かの余裕を残して勝利することが出来た。
「まあなんとか勝ててよかったよ。ところで錆兎はどうしてここに?」
「実は鱗滝さんのところに弟子入りしていたのだが、一年前に死んでしまったので、今は自分で修行をしている」
「そうなのか……それは残念だったな」
「いや、気にすることはない。それに俺はここで更なる高みを目指すつもりだ」
「じゃあまたどこかで会うこともあるかもな」
「そうだな」
「よし、俺はそろそろ行くよ」
「わかった、お互い頑張ろう」
「ああ」
俺は錆兎に別れを告げると、再び鬼退治に繰り出した。
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それから俺は鬼を倒しつつ下山していった。
「よし、あと少しだ」
そして麓に辿り着いた瞬間、俺の体に衝撃が走った。
「ッ!?」
突然のことだったので俺は反応することができなかった。
「よく来たなあ、俺の可愛いお人形さんよお」
鬼だ。それもかなり強い鬼だ。今まで出会った鬼の中でも群を抜いていた。その圧倒的な存在感に、俺は思わず気圧されてしまう。
「へっ、ビビッてんのか?安心しろよ、すぐに楽にしてやるからな」
鬼は鋭い爪を振りかざす。俺は咄嵯に避けようとするが、体が動かない。まずい、このままでは殺られる!ダルシムさんの教えを思い出すんだ!逸る気持ち抑え、速やか呼吸を整えると共に、俺は技を繰り出した。
「ヨガの呼吸、弐の型!ヨガ・ファイア!」
特殊なヨガの呼吸法により高濃度に圧縮された酸素は瞬く間に高温の火炎弾と化し、鬼に向かって発射される。
「な、なにぃいい!!!」
鬼は回避しようとするが間に合わず、その身に炎を受けた。
「うぎゃああ!熱い!熱い!焼けちまう!助けてくれぇえ!」
断末魔を上げる鬼。俺はとどめを刺すべく間合いを詰める。
「ヨガの呼吸、参の型!」
今度は両手両足を限界まで伸ばし、関節を自在に外して高速回転しながら敵に突進し、敵の体を切り刻む技である。
「ヨガ・ミキサー!!」
「うごぉおお!!」
回転する度に敵はバラバラになっていく。
「これで終わりだ!!」
俺は勢いよく跳躍し、上空で身体を捻ると、一気に敵を地面に叩きつけた。
「うげああああああ!!」
ドゴオオオン!!! 凄まじい音と共に地面が陥没する。
そして遂に鬼は塵となって消えていった。
「はぁ……はぁ……勝った……のか」
俺はその場に座り込む。
「俺が……鬼を倒した……」
こうして俺は鬼との戦いに勝利した。
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七日間の生き残りかけた最終選別を終え、藤襲山から帰ってきた俺は、ダルシムさんと紗恵さんに報告をした。
「よくやった。お前ならできると信じていたぞ」
ダルシムさんはそう言って褒めてくれた。
「本当に……無事で良かった……」
泣きながら抱きしめてくる紗恵さんを見て、自分がどれほど心配をかけたかを思い知った。
「すみませんでした……俺のせいで色々と迷惑をかけて……」
「謝る必要なんてありません。あなたがこうして帰ってきてくれるだけで私は嬉しいのですから……おかえりなさい、炭治郎くん」
「はい!」
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後日、俺は日輪刀を作るための鋼を選んだ。
「これが日輪刀の材料になるんですね」
そう呟くと、隣にいた刀鍛冶の男が答える。
「そうだ。お前にはどんな色が似合うかな」
「ダルシムさんのヨガ・フレイムみたいな赤がいいです」
「ほう、中々良い趣味をしてるじゃないか」
「ありがとうございます」
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暫くして、自分の日輪刀が届いた。
「おお、赤い……」
俺の選んだ色は赤色だった。
用意は整った。こうして俺の鬼殺隊での任務が幕を開ける事となった。
鬼滅の刃はテーマ的にシリアスになりやすい傾向があるようです。
個人的にはほぼほぼカオスにならなかったので、とても残念です。