よろず短編集 作:機械学習はいいぞおじさん(仮)
「節子、それドロップやない、ハジキや!」
「兄ちゃん、ウチな。兄ちゃんみたいな頼りない男嫌いや」
節子はそう言ってハジキ──小さな女の子が持つには大きな拳銃を俺に向けた。
「ちょっ! 待てや! 何でいきなり銃を向けんねん!?︎」
俺は慌てて両手を上げながら後ずさる。
「だって……兄ちゃんは『お父ちゃん』に酷い事言ったんやろ? だから兄ちゃんの事は殺してええんやって『お父ちゃん』が言うたもん」
「いやいや、それはあのオッサンに言うた事で、俺は関係あらへんわ?」
「そんな事あらへん!『お父ちゃん』泣いてたんやからね! 兄ちゃんのせいで泣いてたんやからね!」
節子が涙目になりながら叫び、引き金を引く。
「死ねやぁあああ!!」
ダァンッ!! という乾いた音が響くと同時に、弾が飛んでくる。
「なんや殺す気かワレェ!」
間一髪、銃弾を避ける。
「ちぃいっ! 外してもうたやんけぇ!」
再び節子の指が動き出す。
どうやらこの子は本気で撃つつもりらしい。俺は逃げようと走り出そうとしたが、その前に節子がまた発砲する。今度は足元に向かって撃たれたので、転んでしまう。
すると節子が近寄って来て銃口を頭に押し付けてくる。
「大人しくせぇよ……今度こそ当てたるさかいな……」
と、その時だった。突然目の前にいたはずの節子の姿が見えなくなる。代わりに現れたのは黒いスーツ姿の男達だ。
「おいジャリ。なんやこないなところで何かましとるんや?」
「ええとこ着たのおっちゃん。これが来ないだ言うとったボンや」
「ほう。コイツかいな」
男たちの中で一番ガタイのいい男が近づいて来る。そして俺を見下ろすようにしゃがみ込むと、「お前さんが例の奴か」と言った。
「このままドタマに鉛玉ぶちかましたってもええが……おっちゃん、このボンしめてくれまへん?」
「嬢ちゃんの頼みなら仕方あらへんのう。ほれ立てやボン。しこたまサンドバッグにしてやらんかい」
男達は口々にそう言いながら笑い声を上げる。しかし、俺は立ち上がる事が出来ないまま呆然としていた。
(一体どういうことや?)
何が何だが分からない。どうしてこうなったのか全く理解できない。
俺はただ節子に、妹に帰ってきて欲しいだけなのに……。それすらも叶わないというのか?
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……………… 結局俺はそのまま拉致されて、気がつけば薄暗い部屋の中に閉じ込められていた。
コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれた部屋は狭く、トイレやシャワー室があるだけで他には何も無い。ただ一つあるとすれば、天井近くについている換気扇ぐらいだろうか。
その換気扇からもれる空気の音だけが、唯一音と呼べるものだった。
「あーあ。ホンマ、ついてへんかったわ……」
独りごちる。当然返答など帰ってくるわけもないが。
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ドンドン!部屋の外からだろうか?ドアを叩くような音がする。
「兄ちゃん気ぃ付いたか?」
「節子!はよここから出せ!」
「それは無理なお願いやで。兄ちゃんはそこで飢え死ぬまで暮らすんやからな」
「そんなアホなことあって堪るかいな!」
「……兄ちゃん、これはな、ウチをひもじい目に合わせてくれた礼や。あん時、ウチ連れておばさん家出る言い出さへんかったら、こんな目に遭わんでも済んだのになぁ」
「そやったらもうエエやんけ!ワシ精一杯やったやろ!?︎ 何が悪いねん!」
「兄ちゃん何も分かってへんわ……兄ちゃんのせいでウチ死にかけたんやで……『お父ちゃん』に拾ってもらえなかったら死んでたんやからな……だから兄ちゃんにはここで苦しんで死んでもらうことにしたわ……兄ちゃんみたいな頼りない男は嫌いやって言うたやろ? 兄ちゃんの事は殺してええんやって『お父ちゃん』が言うたもん」
「そんな理不尽な話があってたまっかボケェ!」
俺は大声で叫ぶ。
するとドアの向こうから足音が聞こえてきて、「おい嬢ちゃん。そいつまだ生きてるみたいやけど大丈夫なんか?」と言う声が聞こえる。
「平気ですわ。どうせ餓死するまでここに居りますさかい、ほっときましょ」
節子はそう言って笑うと、どこかへ行ってしまった。
残された俺は、頭を抱えて座り込んだまま動けなくなっていた。
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それからしばらく経った頃だった。
「おーおー。こないになってもうたか」
聞き覚えのあるオッサンの声がしたかと思うと、いきなり頭を蹴られる。
「痛っ!何すんじゃワレェ!」
見上げるとそこには、先日会ったばかりの男が立っていた。
「おお悪い悪い。つい癖でやってもうたわい。許してくれや」
「アンタ確か……『お父ちゃん』とかいうヤツか? なんや用でもあるんかい?」
「いや節子が『世話』なった実兄ちゅうボケの顔を見てみたかっただけや」
「なんやワレェ!喧嘩売っとるんかい!」
「別にそんなつもりはない。ただ単に事実を述べたまでや。それよりお前さん、えらい災難やのう。まさか妹に殺されるとは思わんかったやろうな」
「……せやな。ワシもここまで運がないと思ったことあらへんで……」
「せやな。せやな。……せやけどな、『俺の妹に手ぇ出したら承知せんぞ!』なんて啖呵切った割りにあっさり殺されてるやんけ。そんな事でよう威張れたもんやのう。恥ずかしゅうて人様に顔向け出来ひんわな。ま、せめてもの情けや。最後は節子の代わりにワシの手で殺したるさかい感謝せぇよ」
「……なんや、自分の娘になる子の手は汚させたくないって事か? 随分とお優しい事やな。せやけど、それやったらアンタの娘……節子はどないしてんねん? あの子は手ぇ出す気満々やないか。それに節子は自分より弱い奴には絶対負けへんって豪語しとったで?」
「それは節子の本心ちゃう。アイツはな、ただ寂しいだけや。誰かと一緒にいたいんや。まあそれも分からんくもない。この世の中はな、生きては行けへんし、行くところもあらへん。そういう人間ばかりや。せやから節子は自分が守ってやらなあかん思うとるんや。しかしな、節子にとって一番大事なんは強さや。強い者が正義や。それが例え父親であろうとな」
「ははは。そらまたえらく極端な考えやな。なんやアンタ、まるで節子を洗脳してるみたいやな」
「かもしれへんな。せやけどワシが育てたおかげで節子はずーっと強くなってるわ。今じゃそこらのチンピラやゴロツキ程度なら、素手でぶっ倒せるぐらい強ぉなっとる。まあそれでもまだ物足りなさそうにしとるんや。まあそれでも実の兄を手にかけさせるんわ可哀想やさかい、代わりにワシが始末つけてやる言うとんのや」
「なんやその言い方やと、まるで節子が俺を殺したくてしょうがなかったように聞こえるんやが?」
「その通りや。節子がお前さんに懐いとったのはホンマや。せやけどボン、お前やっっっすいプライド持っとったせいで、おばさんのとこから節子連れて逃げたやろ。おかげで幼い節子は飢えかけ死にかけやったんや。それを俺らが見つけるまでずっとな。お前さんは節子の事を考えずに、ただの道具としか思ってなかったやろ? その事に腹立ててたんや。せやからお前さんが節子の為にしたことは無駄や。むしろ余計に傷つけただけや。ホンマはな、お前さんがもっと節子と向き合ってたら、こんなことにはならなかったはずや」
「……」
「ま、ええ。もうすぐ死ぬ奴に説教垂れてもしゃーない。せめてもの情けや、骨はおばさんとこ届けたるさかい安心しぃ」
「嫌や!それだけは勘弁や!」
「往生際の悪い奴やなぁ。ええ加減諦めろや。ほな早速始めるで」
「待ってくれ! 頼むから殺さんといてや!」
「ふん。何を言おうと知らん。もう決めたことや」
そう言って男は拳銃を数発頭に撃ち込む。
「────ッ!」
痛みは感じなかったが、意識が遠のき目の前が真っ暗になる。
「ほな、さいなら」
節子が助かったのでおそらく勝利です。(勝利とは?)
ハジキ+関西弁=ヤクザの方程式が成り立ったのか、のべりすと先生によるヤクザものとなりました。