よろず短編集 作:機械学習はいいぞおじさん(仮)
\テッテレー/
「鬼滅100倍!炭パンマン!」
「炭治郎くん、鬼殺隊が鬼と戦うために、様々な呼吸法と型を用いていることは知っているね」
「はい、アンパンマンさん」
「君には頭をパンに変えて炭治郎パンマンになってもらうよ」
「はい!よろしくおね……無理ですよ!」
「炭治郎パンマン、新しい顔よ!」
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小麦の呼吸とは、アンパンマンなど顔小麦族が使う呼吸法のこと。小麦粉を練り込み、頭からかぶることで身体能力を上げるという荒技である。
この修行で重要な点は、「小麦粉」つまり粉状のものをいかに効率的に摂取できるかという点だ。そのため、水に溶いた状態で口内へ流し込む方法が一般的とされる。
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しかし俺はあえて、手づかみで粉を直接喉奥へと送り込んだ。俺が俺たちが小麦だ。
「うぇっほげほっごぼッ」
むせる俺を見て、アンパンマンさんも首を傾げるばかりであった。炭治郎パンマンはこうして誕生したのだ。
まあでも、効果はあったと思うんだよね。実際かなりパワーアップしたし。なにより、俺の肉体は今や完全にパン(概念)なのだ。なんなら自分で自分を殴ってみてもいいぞ? ふふん、すごいだろう? ちなみに、小麦粉によるドーピング効果は約半日しか持たないそうだ。
また、この方法では限界まで能力を上昇させることはできない。あくまで一時的措置に過ぎないのだ。
ではどうするかと言えば……答えはこれさ。
「うおおおおおっ!」
雄叫びを上げながら、刀を振るう。すると目の前の岩物が真っ二つになった。やったぜ。
そう、これこそが小麦粉の力の真骨頂。一時的にではあるが、身体機能を飛躍的に向上させることができるのだ。ただし欠点もある。それは、その能力を発揮すればするほど空腹感が増していくことだ。
これはおそらく、人間の三大欲求の一つである食欲を刺激し、集中力を高めるためのものだろうと言われている。
だが、今はそんなことを考えている余裕はない。とにかく修行だ。強くなって鬼舞辻無惨を倒すことだけを考えるんだ。
そうして一心不乱に鍛錬しているうちに夜が訪れた。
「そろそろ休もうか」
「はい!」
アンパンマンさんの一言を受け、俺は素直に従うことにした。
食事の準備に取り掛かる。
と言っても、山菜を鍋に入れて煮るだけだ。あとは川魚を串焼きにするくらいかな。二人で並んで火を起こし、飯ごうに入れてきた米と水をぶち込んでいく。
「うまい」
思わず呟くほど美味かった。
やはり一人で食べるより誰かと一緒に食べたほうが何倍も美味しいものだ。ましてそれがアンパンマンさんのような心の友であれば尚更である。
「僕の顔もお食べ」
「ありがとうございます!」
差し出されたそれを笑顔で受け取り頬張った。うん、おいしい!
「そういえば炭治郎くん」
「はい?」
「君はどうしてそこまで頑張れるのかな?」
「え……」
問われて言葉に詰まる。
何故って、そりゃあ…………あれ?なんだっけ?……思い出せない。そもそも俺はなぜこんなにも必死になっているのか。
「よく考えてみたら不思議ですよね。なんで俺、あんなに頑張ってるんでしょう?」
首をひねる俺の横顔を眺めつつ、アンパンマンさんが言った。
「力こそパワーだよ、炭治郎くん。君の原動力はそれに違いない」
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アンパンマンさんの言葉通りだった。
俺は、強くなりたかったのだ。誰よりも強く、誰にも負けない強さが欲しかったのだ。理由なんてそれだけで十分じゃないか。
だって、俺は長男だから。家族を守る責任があるから。
だから俺は戦うんだ。
「炭治郎くん、君には才能があるよ」
アンパンマンさんが微笑む。
ああ、本当に嬉しいなあ……。俺みたいな奴のことを才能あるって言ってくれる人がいるんだもの。
「もっと自信を持っていいんだよ。僕はいつも応援しているから」
はい!と大きな声で答える。
「ところで炭治郎くん、鬼殺隊最終選抜のことは知っているかい?」
「はい、知ってますけど」
「そこに君を推薦しようと思っているんだけど、どうかな?」
「本当ですか!?」
もちろんだとも、とアンパンマンさんは大きくうなずいた。
「僕を信じてくれ。必ず合格させてみせるとも」
はい!! そう返事をして、俺は飛び跳ねたくなった。
嬉しくて仕方がなかったのだ。これでようやく、俺は家族の仇を討つことができる。みんなの無念を晴らすことができる。
そうだ、きっとそうなるはずだ。
―――だって、俺たちには正義の心があるのだから。
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【大正コソコソ噂話】
炭治郎は人間を止めることを諦めて頭をパンに変えなかっタゾ! まアそれならそれで別に構わないケドネ!
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最終選抜前日、俺はついに小麦粉の呼吸を習得した。とはいえこれはあくまでも一時的措置に過ぎない。小麦粉の摂取量を増やしたりパン粉をまぶしたりすれば効果時間は延長されるが、あくまで一時的なものだ。
そして明日の早朝、俺たちは藤襲山へ向かうことになる。
つまり今日は最後の晩餐というわけだ。
「うまい!」
鍋いっぱいに作ったはずの雑炊は瞬く間に消えてしまった。
「やっぱりこの味は最高ですね、アンパンマンさん!」
「そうだね!」
「あの、ずっと気になってたこと聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「アンパンマンさんって一体何者なんでしょう?ただのお人好しじゃないですよね?なんでそんなに強いんですか?どうしてそんな顔なんですか?どうやって戦っているんですか?他にも聞きたいことがたくさんあります。教えてください!」
「ふふふ、炭治郎くん……僕の正体は……」
「正体は……?」
ごくりと唾を飲み込む。
「秘密さ!」
「えー!ずるいですよ!!」
「でも、これだけは言えるよ」
そう前置きして、アンパンマンさんは語り始めた。
「どんなに辛いことがあっても、決して諦めてはいけない。希望を持ち続ける限り、人は絶対に挫けない」
「アンパンマンさん……!」
感動に打ち震える。
「アンパンマンさん……!俺、頑張ります!絶対に合格してみせます!そしていつかまた会えたら、そのときはまた一緒にご飯を食べましょう!」
「ああ、約束するよ」
そう言ってアンパンマンさんは笑った。
「さよなら、僕の友達」
こうして、俺は旅立った。
今度会うときは、立派な剣士となって。
アンパンマンさんのような、強い男として。
そう決意して、俺は一歩を踏み出した。
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鬼殺隊最終選抜。それは、年に1回行われる鬼狩りのための試験である。参加者は全員、この試験のために集められた鬼を殺すことを生業とする者たち。その数は数百名に及ぶ。
彼らは7日間かけて山の中に放たれた鬼を倒し続けなければならない。生き残るために。
鬼は藤の花を嫌うため、これを目印に逃げることも可能だ。しかし、それはあまりにも危険すぎるため、ほとんどの者がやらないだろう。
だが、それでも毎年何人かの人間が死ぬ。運良く生き残ったとしても、後遺症が残り鬼殺隊を辞めざるを得ない者もいる。
鬼殺隊の抱える闇は深い。
だが、そんな中でも人々は笑顔を忘れない。
なぜなら、彼らこそが本物のヒーローなのだから。
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「うわぁあああっ!助けてぇえええええッ!!!」
悲鳴が上がる。それと同時に、血飛沫が舞った。
「あ"あ"あ"」
「ひぃいいいっ」
鬼が暴れている。
「い、嫌だ、死にたくない、死にたくな……うぎゃあああ!」
「ごめんなさい、許してくださ……あがっ」
「やめ、て……ください、お願いしま……」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
「うぐっ、うぅ……」
地面に倒れた少年がうめき声を上げる。
「あ"あ"、あ……」
彼は、もう助からないだろう。
だが、そんな彼を嘲笑うかのように鬼たちは群がり、その肉を食らう。
「痛い、痛いよぉおおおッ」
「うあああ、俺の腕が、腕がァアッ」
「もう、ダメだ、もう終わりだ」
「あははははははははははっ」
「苦しい、息ができない、誰か……」
「誰か、誰か……」
「誰か、誰か……助けてぇえええっ」
絶望の声が響く。
「……助けてやる」
ぽつりと呟かれたその言葉に、鬼たちが一斉に振り向く。
「なんだお前?」
「邪魔すんな」
「殺されに来たのか?」
「いいぜ、相手してやんよ!」
口々に言い募る彼らに、静かに歩み寄る影があった。
「小麦粉の呼吸・壱ノ型」
「おい待て、こいつまさか……!」
「小麦粉噴射」
次の瞬間、凄まじい勢いで白煙が噴き上がった。
視界が奪われる。
「な、なんだこれ!」
「くそっ見えない!」
「目が、目が見えねぇ!」
混乱に陥る鬼たち。
「小麦粉の呼吸・弐ノ型『アンパンチ』」
「ギャアアアア!」
「グハッ」
「ウゲェエエッ」
次々と殴り飛ばされていく。
「小麦粉の呼吸・参ノ型『顔面スライディングキック』」
「ぶべばっ」
「あびゃあああ」
「あべし」
さらに加速していく一方的な暴力。
「小麦粉の呼吸・肆ノ型『小麦粉フラッシュ』」
「あぢゅいいいいい!」
「おげろろろろろろろ」
太陽の光を受けて育った小麦には陽光の力が宿る。その小麦の力を借りた小麦の呼吸もまた、太陽を弱点とする鬼にとっては天敵となるのだ。
そうして数秒後、立っている鬼は一人もいなくなった。
「すごい……」
誰かの呟きを皮切りに、辺りに歓声が巻き起こった。
「うおおお!やったぞ!あいつ一人で全部倒しちまった!」
「俺初めて見た!こんな戦い方があるなんて知らなかった!」
「ありがとう!本当にありがとう!」
「かっこいい!憧れちゃうな〜!」
称賛の言葉が降り注ぐ。
だが、そんな周囲の反応とは裏腹に、当の本人は浮かない顔をしていた。
「……足りない」
足りないのだ。こんなものでは到底、満足できない。
俺はもっと強くならないといけないんだ。
俺は長男だから。家族を守る責任があるから。
だから俺は戦うんだ。
――だって、俺たちには正義の心があるのだから。
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【大正コソコソ噂話】
その後、炭治郎が鼻から小麦を補充する姿はクスリをキメているみたいに見えたので、他の参加者たちはドン引きしたゾ!
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最終選抜最終日。俺はとうとう七日目を迎えることができた。途中何度か危ない場面はあったが、どうにか切り抜けることができた。これもひとえにアンパンマンさんの修行のおかげだ。アンパンマンさんがいなければ、きっと俺は初日で死んでいただろう。それほどまでに過酷な環境だった。
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最終選抜最終日の朝、昇る朝日が生き残った参加者たちを照らす。誰もが満身創痍といった様子だったが、誰の目にも確かな希望の色が灯っていた。
――生きて帰ることができるかもしれないという希望が。
そんな彼らを遠巻きに見つめながら、俺はぼんやりと考えていた。
(これからどうしよう)
俺は強くなることしか考えていなかったのだ。だから、その後のことはまるで考えてなかった。鬼殺隊に入隊したらまず何をしよう?何ができるだろう?全く思いつかないや。
「ねえ君」
「はい?」
声を掛けられて振り返る。そこには一人の少年がいた。
「君はクスリをキメながら鬼を殴ってた人だよね?」と言われて、ようやく思い出した。
「あ、はい、俺で……違いますクスリじゃないです、小麦の呼吸っていうのを使ってました」
「小麦……ああ、阿片か何かの隠語だね、分かった分かった」
「いえ、そういう意味じゃなくてですね」
「分かってるよ、もう取り返しのつかないほど中毒になってるんでしょ」
「全然わかってくれてませんね!?」
「大丈夫、僕には分かるよ。僕は医者の息子なんだ。君の体からはひどい臭いがする。相当ヤバいね。薬漬けだよ。でも、そんな状態になってもまだ鬼に立ち向かっていくその姿勢、とても立派だと思うよ。尊敬に値する。だけどね、一つだけ言わせてもらえるかな」
そう言って、彼は言った。
「鬼は人を喰らう化け物だ。クスリに頼って現実から逃避したいのも分かる、けど戦わなきゃ現実と向き合えないんだよ。それに、そんなことをしても死んだ人は帰って来ない」
「……」
「だからさ、クスリを止めよう!まだ取り返しがつくよ」
「なんで麻薬中毒患者みたいな扱いにされてるんですか?!」
「さあ、みんな!今日中に下山すれば合格だ!気合い入れて行こう!」
「無視しないでください!」
「うおおおおっ」
「頑張ろう!」
「あああああああっ」
そうして彼らは走り去っていった。
「なんなんだあの人たち……」
俺の困惑を置き去りにして。
「まあいいか」
そう呟いて、俺はまた歩き出した。
この後、小麦(意味深)を吸いながら鬼を狩るヤバい人として有名になったりならなかったりします。