よろず短編集   作:機械学習はいいぞおじさん(仮)

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筋肉は全てを解決する(あけましておめでとうございます)


キン肉マン(技のみクロス)のファンタジー戦記もの

この世界では、クロスボウの代わりにクロスボンバーが主流となっている。そのため戦争時には多くの若者が弓や弩ではなく二人一組で敵の身体に組み付き、相手の勢いを利用してそのまま地面に叩きつける格闘技を習得する必要に迫られた。また銃火器は高価であるだけでなく整備にも技術を要するため、軍隊においては近接戦闘の技術向上が重視されている。したがって柔道と相撲はこの世界でも広く受け入れられており、国技としての名声を獲得している。

 

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その日、王国、帝国、両軍ともに騎兵隊、歩兵隊、そしてクロスボンバー隊を揃えた布陣で相対していた。

 

クロスボンバー隊はその名の通り敵と組み合うことを想定した部隊であり、基本的には三人組の小隊を組んでいる。彼らは二人一組の相手に対し左右それぞれから組み付くことで動きを止め、最後に残った一人が渾身の力を込めて相手を地面に叩きつける。訓練の際にはお互いの呼吸を合わせ、相手が倒れやすいようにタイミングを調整することが重要となる。もちろん三人全員が一度に倒れる必要はなく、誰か一人でも立ち上がれればそれでよい。また、場合によっては一人を相手に二人がかりで取りつき、同時に地面へ押し倒すことも有効な戦術として考えられている。

 

今回の戦争においてクロスボンバー隊の人数は三百人とされている。これは標準的な人数であるが、実際の運用にあたっては三百人程度まで増員されることが一般的だった。

 

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両軍とも陣形を整えてしばらく睨み合いが続いた後、やがてゆっくりと前進を始めた。まずは互いに距離を保ったまま、間延びした速度で前進を続ける。やがて双方の兵士たちの間に緊張感が高まり、少しずつ息苦しくなってきた頃を見計らって、両軍の指揮官はそれぞれ合図を送り合った。

 

それを切っ掛けにして両陣営は一斉に駆け出した。兵士の一人ひとりがそれぞれ自分の所属する部隊の先頭に立ち、剣を振り上げて敵に襲いかかる。両軍の兵士が入り乱れ、激しい白兵戦が始まった。

 

歩兵隊に続くように騎馬隊、クロスボンバー隊もそれぞれ前へと進み出る。クロスボンバー隊はそれぞれの担当範囲に向かって突進し、次々と敵を薙ぎ倒し始めた。

 

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戦況は帝国軍側の方が全体的に優勢であった。帝国のクロスボンバー隊は全員馬に乗っており、機動力を活かした攻撃を行う。一方王国側のクロスボンバー隊は馬に乗れない者も多く、移動速度という点で大きく劣っていた。加えて帝国側は騎兵を中心に編成されているのに対し、王国側は歩兵が中心となっていた。このため戦況は徐々に帝国側に有利に展開していった。

 

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開戦から1時間後、王国の陣地の一角では早くも敗北ムードが漂い始めていた。元々数の上では互角だったが、帝国側のクロスボンバー隊が予想以上に強力だったのだ。既にほとんどの部隊が壊滅状態に追い込まれていた。

 

「ちくしょう! なんなんだあいつらは!」

 

そう叫びながら王国兵の一人がクロスボンバー隊員の一群に飛びかかった。しかし次の瞬間には逆に投げ飛ばされ、仰向けに倒れたところを別の隊員によって押さえつけられてしまった。もう一人の兵士が慌てて仲間を助け起こそうとするが、その時背後から現れた別の隊員に取りつかれてしまい、結局二人して地面に転がされてしまった。

 

その様子を見て他の王国兵の士気は完全に挫けてしまっていた。もはや戦意を失った者たちが次々と武器を捨てていく。

 

勝敗は既に決していた。

 

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帝国軍のクロスボンバー隊は見事な戦いぶりを見せていた。帝国側が有利な状況になったとはいえ、それでもまだ王国側もかなりの戦力を残しているはずだったのだが、どうやら彼らはもう戦う意思を失ってしまったようだった。

 

帝国側のクロスボンバー隊指揮官であるバッシュ少佐は部下たちを鼓舞するように声を張り上げた。

 

「よし、我々の勝利だ」

 

既に王国側からは敗北を認める旨の宣言が出されており、戦闘は終了している。

 

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毎年行われるこの戦争は、いわゆる国家間の交流を兼ねた軍事合同練習ではあるが、その実戦場における実戦訓練という意味合いの方が強かった。特に今回は王国側がかなり手強いという噂もあり、バッシュはいつにも増して気合を入れて臨んでいた。実際にこうして勝利を収めた今となってみれば噂などただの噂に過ぎなかったわけだが、いずれにしても彼の率いるクロスボンバー隊は素晴らしい戦果を上げたと言えるだろう。

 

特に最大の勝因と言えるのは帝国クロスボンバー隊の騎乗技術の高さにあった。本来であれば敵と接近して組み合う以上、どうしても馬の速度は落ちてしまう。ところが彼らの場合は乗馬したままでも素早く行動することができたため、その分だけ王国クロスボンバー隊よりも速く動くことができたのだった。

 

もちろんそれだけではここまで圧勝することはできなかったはずだが、もう一つ大きな要因があった。それは彼らが馬上での格闘術を習得しているという点だった。この世界では古くから馬上の格闘技が盛んであり、多くの流派が存在している。そして帝国クロスボンバー隊では徒歩と馬上の両方を想定した訓練を行っていたため、その技術が実践の場で役立ったのだった。

 

一方で王国の敗因はクロスボンバー隊の動きが鈍かった点にある。彼らも馬に乗ることはできたが、帝国ほど習熟していなかったためにその速度が出なかった。そのため結果的に帝国クロスボンバー隊に動きを読まれやすくなってしまったのだった。

 

いずれにせよ今回の戦争において帝国クロスボンバー隊は大戦果を挙げた。来年もまた同じメンバーで戦うことになるかもしれないが、少なくともバッシュにとっては満足できる結果だった。

 

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帝国軍の勝利が宣言されると、王国軍の兵士たちは一斉に地面に座り込んだ。今年の戦争も、特に大きな怪我なく終わった事に安堵する。そこかしこで帝国、王国ともに兵士たちが互いの健闘を褒め称え合っていた。

 

そんな様子を横目で見つつ、一人の若い騎士が馬を駆りながら王国軍本陣へと向かっていた。彼は今回の戦争において王国クロスボンバー隊の隊長を務めていた。元々は歩兵としての訓練を受けていた彼であったが、昨年の戦いの際に王国クロスボンバー隊の副隊長に任命され今年は隊長として、その役割を務めてきた。

 

今回の戦いでも王国クロスボンバー隊の働きは目覚ましいものだった。王国クロスボンバー隊も決して弱くはなかったが、帝国クロスボンバー隊が強すぎたのだ。

 

「それにしても……」

 

彼は先程の戦闘の様子を思い出していた。

 

王国クロスボンバー隊は確かに強い部隊ではあったが、帝国クロスボンバー隊の敵ではなかった。敵が馬上にいるにも関わらず、彼らは容易に敵を押し倒し、馬乗りになって相手を制圧することに長けていた。

 

もし仮に自分一人であの部隊と戦うことになったとしたら、果たしてどれだけ持ち堪えることができるだろうか? そう考えると彼は思わず身震いした。

 

「あんな連中を来年も相手にしなければいけないのか」

 

改めて自分達の置かれた立場を認識し、憂鬱になる。

しかしすぐに頭を切り替え、再び前を向いて馬を走らせ始めた。

彼が向かう先は王国軍の本陣であり、そこでは今回の戦争の王国側MVPとなったことを祝って宴会が行われる予定となっていた。

しかし彼の表情は決して明るいものではなかった。

 

何故なら王国クロスボンバー隊は来年も同じメンバーで構成されるのだから。鍛錬を積まねば。目先の宴よりも先を見据えた男の目に、油断はなかった。

 

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先程まで戦場だった平原に宴の歌々が木霊する。王国帝国共に戦の後の合同大宴会が始まっていた。

 

戦いが終われば敵味方関係ない。今年も無事、死者を出すことなく戦争を終わらせられたことに皆が喜び、酒を酌み交わす。普段は交流のある隣国同士という事もあり、両国の兵士たちは肩を組んで陽気に歌い踊っていた。

 

この戦争は合同軍事練習の名目ではあるが、元々は両国の主神である筋肉の神『キン肉神』に捧げる祭りであるとも言われている。つまりこの戦いが終わった後は合同の大宴会を開き、更に両国ともそれぞれの国に戻ったあとも、それぞれ盛大に祝うのが通例となっている。

 

しかし、今回の戦争に参加した両軍のクロスボンバー隊の面々にとって、今回の戦勝を祝うべき相手は自分の所属する部隊の指揮官ではなく、もっと別の人物だった。

 

両軍のクロスボンバー隊の面々が目指す先にいるのは、今回の戦争で最も多くの戦果をあげた男、すなわち帝国クロスボンバー隊指揮官であるバッシュ少佐だった。

 

両軍のクロスボンバー隊の兵達は全員、バッシュの下へ集まっていた。彼らは酒の入った杯を手にしながら、まるで上官に対するかのようにバッシュに対して敬礼をしていた。バッシュはクロスボンバー隊の面々に向き直った。

 

クロスボンバー隊の兵たちはバッシュの言葉を一言一句聞き逃すまいと、真剣な眼差しで彼を見ていた。

 

バッシュはクロスボンバー隊の兵たちを見回した。

そして口を開いた。

 

「筋肉神の御加護を!」

 

クロスボンバー隊の兵たちから歓声が上がる。

 

『筋肉神の御加護を!!』

 

そして次の瞬間、クロスボンバー隊の兵たちは手に持った酒瓶を掲げて一気に飲み干した。

 

クロスボンバー隊の兵たちの雄叫びが、何時までも夜の闇の中に響き渡っていた。

 




来週も、筋肉筋肉(今年もよろしくお願いいたします)
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