由比ヶ浜の恋と勿来ヶ崎奇譚   作:taka2992

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バカだから麻雀牌表示できないわw


雪ノ下雪乃は豊胸グッズを抱えて貞子と化す

 

 

 連れて行かれたのは小規模な商店街の奥にあるしなびた雀荘だった。木製の階段を上がって曇りガラスのドアを開けると、制服を着て雀卓につく高校生が二人、俺たちに顔を向けた。

二人とも体が大きく、五分刈り。野球部の奴らのように見える。五分刈りにする運動部といえば、野球部とか、武道系の連中だろう。それに、目の前の二人は不良という感じではない。最初はどんな連中に会わされるのかビクビクしていたが、ひとまず安心した。

 雀卓には60代くらいの小太りのオバサンもいて、3人で麻雀をやっていた。他に客はいない。雰囲気が昭和な感じだし。タバコ臭いし。

 

「来た来た。じゃあ、私は抜けるね。飲み物持ってくるから」

 

 オバサンは店の人らしかった。俺と茅ヶ崎が席につくと、知らない一人が「さ、始めよっか」と目の前の山を崩し始めた。雀卓の中央部分がせりあがって、そこに牌を落とし込んでいる。

 

「あ、こいつは比企谷な。同じ学校」

 

「強いの?」

 

 一瞬俺を見たが、ほとんど関心がないようだった。麻雀ができれば相手は誰でもいいのかもしれない。

 

「わからん。こいつとやったことない。比企谷、右のやつは豊田、左のやつは本田だ」

 

「よろしく」

 

 俺がそういうと、二人とも「ああ、よろしくな」と俺の顔も見ずに挨拶した。

 

 茅ヶ崎を含めた3人が、普通にタバコを吸い始める。いまどき、タバコなんざ流行りませんぜ、旦那さんがた。

 店も店で、制服着た高校生がタバコ吸いながら麻雀やってんのに、何の注意もしない。良い意味でも悪い意味でも昭和的な店だった。

 山になった牌が雀卓の四辺に上がってくる。席決めもせずに、このまま開始するようだった。初めてなので俺は緊張していた。

 

「ちょっと待ってくれない? 金賭けてやるんだろ? どんなルールなのか説明しれくれないかな」

 

 俺が不安な顔して言うと、茅ヶ崎が「それもそうだな」と説明を始めた。

 

 大まかにいえば、食いタン後づけなし。赤牌(五萬、五ピン、五ソウ)はドラ。ハコテンで終了せず。点ピン(ハコテンで3000円のマイナス)、ウマは、4位が1位に2000円、3位が2位に1000円というものだった。

 頭で計算すると、ハコテンで4位を2回喰らうと1万円のマイナス。俺にとってはでかい額だ。だが、そんなこと言っている暇はなかった、ゲームはどんどん進んでいる。

 

 東1局。親は本田になった。俺は北家。山から牌を取って来ると、なかなかいい手だった。中張牌がたくさんあり、字牌が西の2個しかない。

 だが、牌が手に馴染まない。ポロポロ落としたり、ひっくり返ったり、牌が相手に見えてしまったりして失笑を買った。面倒なので、理牌(リーパイ)することを諦めた。そのかわり、頭の中に牌を記憶して並べた。

 

 7巡目でなんと、俺は聴牌した。その手がこれ。

 

{⑤9西8六三⑦二⑥西7五七}

 5筒 9ソウ 西 8ソウ 六万 三万 7筒 二万 6筒 西 7ソウ 五万 7万

 

 

 待ちは一万と四万の両面(リャンメン)。すでにドラが2つもあるのでピンフ・ドラドラの黙テンで様子を見ていた。すると、豊田が一万を出した。

 

「ロン」と言って牌を倒すと、みんな唖然とした顔をする。みんな、面子がちゃんと揃っているか脳内で牌を並べ替えている。

 

「おまえ、理牌しないで、できんの?」と茅ヶ崎が聞いてくる。

 

「手馴れていなくて、並べるのが面倒だった」

 

「初めてとか言っているけど、それ、ありえねぇだろ。まあ小さくてよかったが。親流されちまったわ。警戒警戒!」

 

 豊田が点棒を俺の前に置く。

 警戒されてしまったのがまずかった。俺は常にマークされて、聴牌してもほとんど振り込んでもらえなかった。

 ツモ上がりが数回あったが、小物ばっかりだったのでジワジワと点棒が減っていった。結局、東場と南場が終わる頃には、1万点を切っていた。さすがにやり慣れた連中は巧い。トップはやはり茅ヶ崎だった。

 

 次の半チャンが始ったのは、午後7時過ぎ。腹が減ったので、近くの洋食屋からオムライスをとって食べた。

 麻雀は黙々と続けられた。雑談がほとんどなく、みんな真剣な顔をしていた。これだけ熱中して麻雀やる高校生が今どきいるんだな。金賭けているんだから当たり前か。俺にはついていけないと思うよ。

 とはいっても、実際の麻雀を初体験しつつ、面白いことは面白いと感じていた。ゲームと違って、役作りがなかなか進まない。

 もしかすると、これが本当の麻雀で、ゲームは次に来る牌がプログラミングされているのではないかと思えてきた。

 それほど、ゲームの麻雀はホイホイと高い手が作れる。難易度の設定すらあるし。実際の麻雀では、欲しい牌がなかなか来ないので、イライラする。

 

 午後11時過ぎまでかかって半チャン4回やった。その結果、俺は1万5千円の負け。一番勝ったのは茅ヶ崎。3万円以上手にしたのではないか。俺の財布に入っていたのは4千円程度。なので、場代とメシ代にしかならなかった。

 茅ヶ崎は借金にしてくれたが、俺はもう、麻雀なんてコリゴリな気分だった。とにかく、レートが高すぎる。

 あいつが「これもバイトなんだよ」と言っていた意味が今ごろ理解できたわけだ。場代を引けば、6時間程度で2万5千円。時給4千円ナリ。豊田と本田の二人は友達というよりもカモということだろう。 

 

 再びバイクの後ろへ乗って家まで送ってもらった。明日は休みだから、気が楽だ。バイクから降りるとき、俺は、日曜日の取材について、場所や時間を記した紙を茅ヶ崎に渡した。

 

「来るんだろうな?」

 

「行ってやんよ。これで。ちょっと遅れるかもしれんが」

 

 茅ヶ崎はバイクのタンクをポンと叩いた。フルフェイスのヘルメットの中へ街灯の光が差し込み、するどい目が見えていた。

 

「お前、麻雀強いんだな」

 

「負けたじゃん」

 

「本当に初めてだったんだったら十分強いだろ。よくやったほうだ。初心者が俺たちとやったら、普通、5~6万は負けてただろうな、学生のやってる点5点3麻雀じゃねぇしな」

 

「そうなのか?」

 

「まあ、面子が足りないときは、またよろしくな」

 

 それには答えなかった。

 ギアがローに入るガチャンという音のあと、爆音が高まり、茅ヶ崎が去って行った。しばらくテールランプを眺めて、俺は家のドアを開けた。

 

 

  ★    ★    ★

 

 

 翌日の土曜日は午前10時まで寝た。時間に縛られずに思いっきり寝られる週末の朝はいいもんだ。だが、背負った借金を思い出すと、そんな気分も台無しだった。

 一応、茅ヶ崎の麻雀に付き合ったのは、部活動の一環だったので、「麻雀やった。日曜日は来てくれるって茅ヶ崎が言ってる」と雪ノ下にメールしておいた。

 

 その返信が午後になってもなかった。メールに気がつくと、彼女はすぐに返信を送ってくるのが常だったが。

 家の用事があるとか言っていたので、携帯を見る暇がないほど忙しくしているのかもしれない。

 そういえば、このところ彼女とは二人きりになっていない。連日、部室では顔を合わせてはいるが、どうも距離が出来たように感じる。これは俺だけの感慨なのか。それとも………。

 正直に言えば、あの部活が始まる前までは、俺の体内には雪ノ下から吸収した成分が100%満ちていた。

 だが、その後に思いがけず、ほとんど不可抗力で、違う成分が入ってきた。

 そう、思い出した……。フェロモンだ。東雲のフェロモンに当てられつつ、その成分にかなりの割合で侵食されてしまっていた。

 これが後ろめたかった。

 

 こうやって、言葉にするのが怖かった。無意識的にはわかっていたのだが、言葉にして意識化すると、もう、以前の心の状態には戻れなくなる。だから、猫耳をつけた東雲の姿を想像したりしてふざけていた。まともに考えることを避けていた。

 だが、俺は、こうやって考え、何を導き出したいんだ?

 

 急に寂しくなった。無性に彼女に会いたくなった。こういう感情はあまり経験したことがない。俺にも人並みの感情があったのだなと苦笑する。

 

 午後3時になってやっと着信があった。ディスプレイには雪ノ下という文字があった。

 

「昨日はご苦労さん。うまく行ったようね。麻雀は面白かった?」

 

「面白かったが、麻雀の怖い面も知った。1万5千円も負けた」

 

「え? ……そうよね。麻雀はギャンブルよね」

 

「そんなことより、俺はお前に会いたい」

 

「何を急に言い出すのかしら。 何かあったの?」

 

「お前のことを忘れそうなんだよ。最近……」

 

 しばらく沈黙があった。彼女なりに何か思うことがあるのかもしれない。

 

「……わかった。私をたっぷり思い出させてあげる。家に来なさいよ」

 

「家って、実家?」

 

「実家じゃなくて、マンション。あの豪華なほうじゃなくて、2DKのところよ」

 

「事情がわからん」

 

「2DKのほうだったらすぐに住めるから、そっちにしたのよ。昨晩は業者に頼んで荷物運んでもらっていたの。今日は荷物の整理で朝から大変だった」

 

「なんと! そっちに住むことにしたのか」

 

「そう。豪華なほうは広すぎて、寂しいし。場所はわかっているでしょ?」

 

「行ってもいいんだな? すぐに行くぞ?」

 

「待ってる。ではあとで」

 

 珍しく両親がいたので、買い物に出てくると言って家を出た。小町は出かけていた。

 2DKのマンションには、徒歩+電車で25分くらいでついた。一階のエントランスにはセキュリティドアがない。管理人のオジサンが小窓の向こうに座っていた。

 

 目的の部屋のブザーを押すと、ガチャンと開錠の音がしてドアが開き、「いらっしゃい」と雪ノ下が出迎えてくれた。ニコリと微笑むその顔を見ると、ガサガサしていた俺の心が落ち着いた。

 

 廊下からダイニングにかけて、ダンボール箱だらけで、足の踏み場もない状態。しかし、低めのテーブルを前にしたソファには座ることができた。

 

「今、お茶出すから」

 

 運ばれてきたのは珍しく緑茶だった。抹茶のように濃い緑色で、すすってみると結構渋い味がした。

 

 雪ノ下が俺の右側に座った。短めのグリーンのワンピースに、七部丈のパンツを合わせている。ワンピースの腰から下の部分はミニスカートのように短い。それをぼんやりと眺めていた。

 

「あなたとお揃いでしょ? 七分丈のパンツ」

 

「色も同じだな。ところで………」

 

 話をさえぎられた。

 

「手伝ってくれない? 荷物の整理。あなたの話はあとでゆっくり聞くから。ね?」

 

 以前に雪ノ下が引越しをしたとき、俺も駆り出されたことがあるが、そのときは重い家具の移動専門で、ダンボールの内容をいじらせてもらえなかった。寝室の中にも入れてもらえなかった。

 しかし、今回はそんなことはお構いなしに、片っ端からダンボールを開封して、荷物を出し、指定された場所へ配置しまくった。

 一つの箱には、スキンケア関係の化粧品やら何かのスプレーやら、手を突っ込むとキンキンと甲高い音がするものが詰め込まれていた。

 

「これはどこ?」

 

 すぐ隣りで、たたまれた服を重ねていた彼女が箱を覗き込む。

 

「ん? それはあそこの低いほうの箪笥の上に置いて」

 

 その通りにしたあと、注意と赤字で書かれた箱を開けた。すると、不思議なものが見えた。

 なんだこれ? 20センチくらいの長さの箱に、男性誌のエログラビアみたいな写真が印刷されていた。女性の胸の写真。なんで彼女の箱の中にこんなエロいものがある?

 その小箱には、『バストアップ体操バンド』という文字があった。

 さらに、女性の裸の胸が大写しになった『バストアップDVD』とか、何が入っているか不明の『美乳革命』という箱とか、『驚異の豊胸法』と書かれた本や、チューブに入っているらしき『バストアップクリーム』がゴロゴロと出てきた。

 バストアップクリームには、『塗るだけで簡単にバストのボリュームがアップ!』とか書いてあった。ということは……こいつは、このクリームを胸に塗っているのか?

 

 彼女は、俺がそんなものを発掘してしまったのに一切気がつかないまま、服を重ねては箪笥にしまっていた。

 

 どうしようか迷った。このまま見なかったことにするか。それとも……。まいった。俺はこのまま透明人間になって、そっとこの家を出て行きたかった。

 

 俺が呆然として恐怖のアイテムを眺めていると、後ろから、

 

「キャ~~~!!」

 

と絶叫が聞こえた。この部屋にそんな悲鳴を出す人間がいるわけがない。

 彼女の肩が俺を突き飛ばし、その体がガバッと開いていた箱の上に覆いかぶさり……、

 卵をかかえるカニのように横へズルズルと移動する。

 

 頭が床につくくらい下がっているので髪の毛が覆い、表情が見えない。長い髪の毛も床をズルズルと移動する。その様子はまるで床を()(つくばる)る貞子だった。

 

 やばい……。大変なことをしてしまった。まさか、こんな地雷が含まれているとは想像もできなかった。貞子になってうろたえるくらいだったら、俺が来る前になんとかしておけよ! 注意と箱に書いてあるじゃないか!

 

「おい、大丈夫か?」

 

 震える声と体で俺は問いかけた。だが、返事はなかった。

 

 やがて、彼女は箱を廊下へ移動させて、姿を消した。

 

 しばらく時間があった。

 

 意外なことに、廊下のほうから鼻歌が聞こえてきた。そして、いつもと変わらない雪ノ下雪乃が、何事もなかったかのように部屋に入ってきた。乱れた髪も見事に直っている。

 当然、何事もなかったかのように箱の開封作業を始めた。

 

「あのぅ……?」

 

「なにかしら?」

 

「さっきのやつは……」

 

「さっきのって?」

 

 真面目な顔で言い返される。そうか。そう来るか。そう来られると俺も、ついつい追いたくなってくる。

 

「そんなに気にすることないぞ?」

 

「だから何が?」

 

 毅然とした顔だった。

 

「……わかった。俺の勘違いだった」

 

「そう。ならいいわ。あと、言っておきたいことがあるのだけれど、いくらあなたと私が仲の良いねんごろの関係にあったとしても、決して踏み込んではいけない部分もあるのよ。そうは思わない?」

 

「そう思うよ?」

 

「だったら今のことは忘れなさい。それが紳士ってものよ」

 

「わかったよ。俺とお前が史上最悪の喧嘩をしたとしても、今見たことは決してネタとして使わないよ」

 

「そう? ならよかった」

 

 鼻歌を歌い始めた彼女を見ながら、俺は想像してしまった。裸で鏡の前に立ち、二つの小ぶりな盛り上がりを確認したあと、クリームを塗り始める……。痛可愛いすぎる。

 

「ぷっ」

 

 やばい。止まらない。笑いが。

 

「くくくくくくっ」

 

 必死に腹と口を押さえるが、肺から吹き上がる空気の圧力には耐えられない。

 

「うくくくく」と小刻みに空気を吐き出しながら、俺は床に寝転んで、うつ伏せになった。床に「くくく」を吸い込ませるように。

 早くこの痙攣が治ることを願った。チラリと彼女のほうを見ると、ニコッと微笑んでいた。出た……。恐怖の微笑み。

 

「ねぇ、どうしたの? どうしたの?」

 

 彼女がうつ伏せになっている俺の上に乗ってきて、首筋近くでそう囁く。もう仕方がない。俺は開き直ることしにした。しかし、俺が開き直るのは何かおかしかないか?

 

「おっぱいが小さくたっていいじゃないかよ! だいたいお前のはそんなに小さくないだろ。もっと小さいヤツやたくさんいるし、ほとんどないヤツだっているんだぞ。気にし過ぎだろ!」

 

「とうとうそれを言葉にするのね! 昨日だってB子ちゃんとか言われたのよ。気にしないほうがどうかしているでしょ!」

 

「あいつめ、余計なこと言いやがって」

 

「もういい。豊胸手術するから」

 

「それだけはやめとけ。ばかばかしいだろ。まだ高校生だぞ? あんまり他人の目とか気にしないお前が、どうしてそのことだけはこだわるんだ?」

 

「わからない。姉さんへのコンプレックスなのかしら」

 

「そのあたりは俺には想像できないが……」

 

「ふぅ~、もう作業やる気が失せたわ。あっちでまたお茶しましょう。今度は紅茶入れるから」

 

 ソファに座って、俺はまなじりにこびりついていた涙を拭いた。腹筋が少し痛い。そして、すぐに痛い女が紅茶を運んできて隣に座った。

 

「ところで、あなたに聞きたいことが二つばかりあるのだけれど。一つは、一万五千円の借金の返済の目処はついているのかしら」

 

「なんとかなるよ。小遣いをチビチビ貯めるさ」

 

「そう……。私の押し付けたことがそんな出費につながってしまって、責任を感じているのよ。さっきのネタで脅迫して私から一万五千円をせしめてもかまわないのだけれど」

 

「それは遠まわりで、カネ出してくれるって言ってんの? 大丈夫だよ」

 

「だったらこれ以上、その件には関わらないけど。もう一つは私を忘れそうと言ってくれたわよね。それはどういうこと?」

 

 そうだ。俺は、そもそもこの件で彼女に会いたくなったのだ。しかし、ここで言うのは躊躇われる。俺の中の変な寂しさがすっかりなくなっていたからだ。だが、言わざるをえない。

 

「あんまり言いたくないが、言う。俺、最近お前を忘れそうだと言ったよな?」

 

「言ったわね」

 

「その理由について何か心当たりはある?」

 

 彼女があれこれ考え始めた。最近の記憶を総ざらえしている。

 

「わからない。でも、一つの可能性として……。私も言いたくないけど、志乃ちゃんが関係してる?」

 

「さすがに鋭いな。恐れ入った。最近、お前と二人きりの時間が減った。部活を始めてから他のメンバーといつも一緒だったし。それに、俺は東雲の秘密を暴き、問題をお前たちに丸投げして解決してもらった。そのお礼にほっぺたにキスされた。いきなり。そのときから、俺は東雲の、そう……。思い出した。フェロモンだ。あいつのフェロモンに侵されてしまった」

 

 彼女がクスクス笑い出した。やはり、こんな話、すべきじゃなかった。たぶん、女性側から見たら、笑い話でしかないだろう。

 

「要するに、志乃ちゃんが好きになってきちゃったってこと?」

 

「それは少し違う。授業中にうたた寝していると、あいつのエロい夢ばかり見る。その程度だ。俺はこれが後ろめたい」

 

「そう。あの子すごく色っぽいわよね」

 

「鋭いお前のことだから、そういう目で俺が東雲を見ていることに、どうせ気づくだろ? お前から指摘される前に告白してしまいたかった」

 

「潔癖なのか、バカなのかわからないわね。でも、志乃ちゃんがあなたのことを気に入っていることは確かよ。それがLOVEなのかLIKEなのかわからないけれど。

 そして、あなたも時々スケベな目で志乃ちゃんを見ていることには気づいていたのよ」

 

「さすがだな」

 

「ということは、選択権はあなたが握っているということよ」

 

「選択権?」

 

「あなたがその気になれば志乃ちゃんも選べるということ」

 

「ありえない」

 

「そう? はっきり聞いておきたいけれど、あなたは私と志乃ちゃんのどっちを選ぶの?」

 

「そんなの決まっているだろ?」

 

「はっきり言ってくれる?」

 

「お前だ。俺にはお前しかいない!」

 

「そう、ありがとう。だったら問題は解決したわね。悩むこともないんじゃないかしら」

 

「おかげでスッキリした」

 

「あら? 私はまだスッキリしていないのだけれど。他の女に目移りしていると告白された身にもなってくれないかしら」

 

「すまなかった」

 

「志乃ちゃんのどこがいいの?」

 

「いいというより、エロい。近くにいるだけでどんどん侵食される。怖いわ」

 

 テーブルの上の紅茶を取って口もとに運ぼうとした。ソファのクッションが大きく揺れ、彼女が動くのがわかった。

 ふと右横を見ると、俺を鬱屈したような表情でみつめていた。

 

 俺はすごい力で押し倒され、ソファの上にあお向けになった。ティーカップが床に転がり、紅茶が床にこぼれた。

 そして、彼女は両肩を抑えるようにして、俺の上に馬乗りになり……。

 

 上から見つめてくるその目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

「お願いがあるの。私をもっと汚して! 汚れた体にして!」

 

「汚してって……、体は汚れないんじゃ……」

 

 俺の両肩が思いっきり揺さぶられる。

 

「いいから! あなたの体液でめちゃくちゃに汚して! 変態行為で私をもっともっと汚して!」

 

 

 

 

 

 

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