心透かしのジョーカー 作:馬汁
プロローグ ・ 転生と知識。そして今。
この世界には、不思議な力がある。
その名は、アストラル。
空気中や物体、生き物に宿る粒子で、発見から研究機関によってその正体の一部も明かされた。
そのアストラルに対する干渉を可能とする人間、アストラル使いと呼ばれる者は、アストラル粒子からあらゆる事象を発生させることが出来る。
ある者は重力を操り、ある者は水を操り、ある者は傷を癒し、ある者は空間を固定化し。……アストラルを利用して発現される現象は、これまで架空だと思われていた筈の事象、いわゆる『神秘』を再現。いや、実証してみせたのだ。
しかし、今は5、60ヘルツの交流電流によって地上に光を齎す時代。結果だけ見れば魔法と同等とも言える程の科学技術が発展した社会。
そんな今。アストラルの存在が知れ渡ろうと、応用したアストラル技術が浸透しようと、アストラル使い達は、嘗ての魔女の様に恐れられてしまっている。
そして私、
世間の一部では、私のような存在に否定的な人が居る。当の私達がその正体を隠し生きる事など珍しくない。
私自身に関しても例外ではなく、今までその正体を明かす事はしなかった。
心を見、そして読み取る能力。この『読心能力』が知れ渡れば、きっと疎まれるであろう。そして悪意に満ちた怪しき眼光に怯え、生き続ける事になるだろう。
だから、これからも明かす事は無い。
私はアストラル使い。人々から身を隠し、悪意から遠ざけんと息を潜める魔女なのだ。
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「ふむ、これで打ち切りなのか」
本棚の木材と、敷き詰められた紙と紙と紙が混ざった香り。良いとも悪いとも当てはまらない、懐かしさ漂う古い本屋。
よぼよぼと言うには活気が有り余っている老人に見守られながら本棚を眺めていた私は、思わず悪態をついてしまった。
海賊、冒険をテーマとした漫画。読み進めて辿り着いた最後のページには、打ち切りを示す言葉と、感謝と思いが述べられた後書きがあったのだ。
「……これは惜しいな」
この作品、私の知る限りでは少なくとも後30巻は続く筈だったんだが……。
そうして思い浮かべるのは、この物語の続き。今や置いてけぼりにされてしまった伏線が回収されるページとページの数々。
勿論、この記憶は俺の中で摸造された訳でもなく、原作者とは異なる人間が作り出した
「世界も違えば歴史も違う、か……」
その記憶は、私が生まれる前の物。所謂、前世の記憶と言う物だった。
「はあ……」
「おお! 読み終わったのか。中々ワクワクする物語だったろう?」
《待ちわびてたぞぉ!》
「ああ。幼い頃の冒険心がよみがえった気分だった。勧めてくれた事に感謝する」
「じゃろうじゃろう! 感想が聞きたくてうずうずしておったんじゃ。語ろうじゃないか、友よ!」
《やはり気に入ってくれたか! 妙に読み進めるのが早くて心配だったが……》
確かに今日は妙に視線の圧が強かった。勧められたその日から彼の思惑は知っていたが……この長編の完読を待つ忍耐力には脱帽だ。
「友と言うには歳の差が著しいが……」
「良いではないか! ワシのお気に入りはやはり────」
……私は、この物語の続きを知っている。展開を知っている。
私は前世の記憶を持つ、転生者であるから。
そして同時に、この世界の続きを知っている。
私はこの世界の物語を知る、転生者であるから。
アストラル、鷲逗研究都市、橘花学院。そしてこの物語の主人公を中心に進む未来を、私は知っている。
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「じゃあの! 倉井くん。また来ておくれ」
「ああ」
「ほほほっ! 今度も面白いものを見繕っておくぞい」
《今度はファンタジーものが良いかのう》
「……いや、すまない。伝えるのが遅れてしまった。実は、私がここに来れるのはこれで最後なのだ」
「なんと。……ああ、そうか。遠くの学校に通うのであったな!」
《進学は祝うべきなんじゃが、名残惜しいのう……》
「そういう事だ。今になって言う事になってしまったが、悪く思わないで欲しい」
「悪いと思う物か! 祝って送り出してやるわい。確かにこの本屋も寂しくなるが、今更じゃ」
《残って欲しいが、ここは年長者として送り出してやらねばなぁ!》
「ああ。……貴方程の人格者に出会えて幸運だった。達者で」
本屋から立ち去り、歩いたところで……目線を上げて、夜空を見上げる。
私、倉井透は、この世界の物語を知っている。
それは『リドルジョーカー』と呼ばれているゲームだ。成人向けであるのにも関わらず、そのコンテンツを抜きにしても私達プレイヤーの心を掴んでみせたであろう、数々のドラマが描かれた作品。
そんな世界に、どうしてか私は転生してしまった。転生の際に神に出会う事も無かったのだから、この運命に意味があるのかは何とも言えない。
「私が再び生れ落ちて十五年。晴れて中学を卒業し、私の覚悟は岩の如く固まり、微動だにせず」
この四月から、私は舞台に上がる。私の知る物語が繰り広げられる舞台へ。
勿論、物語に関わる有名な事件は確認済みだ。時系列、時期から鑑みるに、私は主人公と同学年になるだろう。
「……くく」
思わず笑みを零してしまうが、気持ち悪いと思わないで欲しい。
私は楽しみなのだ。漫画やゲームの様に物語を傍観するしか出来なかった私が、その身一つ投じて物語を文字通り体感するのを。
「ああ、楽しみだ。待ちきれない」
今より一年と半分。その日に、物語は大きく動き出す。
十五年。いや、前世と合わせて六十四年。私が生きて来た年月と比べれば、極僅かな暇でしかない。
原作主人公の在原くんを誰とくっつけるとかは決めてないです。
本作主人公の倉井くんは
追記・
うわひっどい出来。なんでこれ投稿したんだ。
まあボチボチ改訂追記して手直ししますかね。作品を抹消することも選択肢に入れておきます。