心透かしのジョーカー 作:馬汁
その日から、私は眠りの探偵と呼ばれるようになった。
普通ならおふざけ9割で呼ばれる様なあだ名だが、殆どの人間に広まってしまっている。
「聞いたぜ。バレー部を復活させたんだってな」
「知っている。よもや良好な関係に留まらず、活動の大幅な見直しも両立させるとは……」
あのバレー部は、あの後からジワリと汗を誘う程の熱血的な活動を始めた。
どうやら私が見つけ出した新入部員に影響されたらしい。何故だ。
それでも既存の部員から不満が出る事は無く、むしろ清々しい汗を流す日々に楽しささえ覚えているらしい。何故だ。
人の心を理解しても、予測することは出来ない様だ……。
「透がやったって聞いたぜ」
「私は一日人間観察し、バレー部に歓迎されるであろう者を名指ししただけだ」
「十分すげーだろ、それ」
……まあ、これぐらいなら特技の範疇に留まるだろう。
だが問題は、これからだ。
《そうだ、探偵と呼ばれるくらいなら、少しの頼み事は聞いてくれるかなー》
どうやら、私はクラスの相談役に近い役割を背負わされてしまったらしいのだ。
「あ、倉井君。ちょっと良い?」
「何用だろうか」
「体育祭の行事の話で、宮本先輩を探してるんだけど……」
知ってる訳無いだろう。そんな事。……普通の人間であれば、だが。
「教室に居なければグラウンドの野球部。でなければ教師の元へ訪ねているだろうな。その順に探してみると良い。急ぎでは無いのだな?」
「うん。見つかんなくても大丈夫、ありがとー!」
「……大活躍だな? 探偵さん」
「これで6回目だ……」
頭を痛めてまで探す程じゃないが、痛めない程度に
少なくとも名前を挙げてくれた時に、その者がどの部に属しているかを教えるくらいが出来ないと困る。
最も、真面目な相談をする程当てにしている訳では無さそうだが……。
「頼られるのは良い事なんじゃないか?」
「嬉しくない」
「そうかねえ。女子からの人気も出そうでちょっと妬けるぞ」
《今んとこ一番の友達が、俺より先に彼女とか……キツいぜ》
「俺を取られるのが嫌だというのか?」
「うっせえ腐女子に聞かれたら厄介になりそうだから止めろ! んな事一ミリも考えてねえ」
「クク……」
そんな今、普通に友人として接してくれる灰には感謝している。彼は私にとって一番の精神安定剤である。
《妙な噂で忙しそうにしているが……うーん、しかし》
これ以上私に寄ってきそうな相談事は無いかと、周囲の思念を読み取っていた所、二条院さんが何やら用事を抱えているのを見つけた。
《でもなあ。マトモに話したことがある男子はこの人だけだし……ええい、止むを得ん!》
「……ちょっと良いだろうか、倉井君」
「二条院さんか」
「ん、どうしたんだ? また相談事か」
《うお、早速と美人が……って、そんな事思ったらまたBLとかなんだの言われそうだな……》
因みに手遅れである。ふとした時に、私と灰とのカップリングで妄想する思念が私に届いてくる。
実際の所被害が多いのは私だが、それはそれとして。
まずは二条院さんの相談事である。
「少し、寮の方で手伝ってもらいたい事があるのだ。花島君も良いだろうか?」
「男手が要るのか?」
「そんな所だ」
私に予定はない。授業以外に勉学に割くべき時間も無く、趣味の為に残したい時間も、頼み事次第で切り崩す程度には拘るものではない。
「私は問題ない。灰はバスケ部であったな」
「だな。放課後は時間取れないぞ」
二条院さんを見るが、それで問題ない様だ。
「しかし、何があった?」
「寮の空き部屋に家具を運んでほしいらしい。手の空いている教員の方も一人しか居ないとの事だったから、倉井君に助力を願った次第だ」
「なるほど」
「恭平にも声を掛けよう。彼は小柄だが、あの食べっぷりだ。力こぶもさぞ大きいだろう」
「違いない」
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「これを運べば良いの?」
「ああ。負担を掛ける様で悪いが、毛布と言った類は私が持とう」
「構わぬ、その為の男手だろう。私は恭平と一緒に持つ。すいませんが、貴方は」
「ええ、ではこのダンボールはこちらで。いやあ、来てもらって申し訳ない」
「いえ、寮長ですから」
そういえば、既にその役職を得たのだったな。寮長となった二条院さんが、何処か誇らしそうな顔で毛布を抱え上げる。
私と恭平は、掛け声と共に机を持ち上げる。
「場所は512号室。一気に全て運べる程エレベーターは広くないから、順番に持っていきましょ」
「分かりました」
まずは机を運んでいる私達からエレベーターに乗り込んで、ボタンを押す。5階まで上がるのを待つが、この高さだと微妙に時間が掛かるな。
「……来てくれてありがとう。この後何か奢りたいものだが」
「どういたしまして。でも透も頼まれた側でしょ? 良いよ。恩もあるしね」
「ふむ、言われてみればそうだな」
恩と言うのは、彼が入寮して初日に起きた空腹事件だろうか。
今となっては数か月前か……。
「入学して結構な時間が経ったものだな」
「そろそろ体育祭なんだっけ?」
「うむ。アストラル能力で競う競技もあるらしいな」
「へー! って、僕には縁が無いか。でも見ごたえがありそう」
同意だ。心を読むにしろアストラル粒子を視るにしろ、競技に役立てる事は難しそうだが、見るだけでも面白そうだという期待がある。
「珍しいよねー。春に体育祭なんて」
「確かにな。涼しいから助かるのだが……よし」
到着の電子音が鳴って、慎重に運び出す。512ならばこっちか。鍵は予め開けているとの事だったな。
「……っと。一旦置くぞ」
「はーい」
手を休ませている内に扉を開けて、ドアストッパーも掛けると、また慎重に中へ運び込んだ。
後は……2人を待つべきか、もう運ぶべき物は無いのだし。
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「ありがとうございますー。はいこれ、お礼。ジュースでも買ってくださいな」
「いいえ、私は大丈夫です」
「良いの良いの。ただ働きさせるのはこっちが申し訳無いんだから」
「……そこまで言うのでしたら、頂きます」
「ありがとうございます!」
腰を曲げて丁寧に受け取る二条院さんとは対照的に、恭平はにへらと笑顔で受け取る。可愛いものだ。
「ほら」
「頂戴します」
「うむ。しかし、個性的だねぇ。噂通りの武士口調だったから、雰囲気も相まって同年代かと思っちゃったよ」
「あ、それ分かります! 普段は良いんだけど、時々落ち着いた大人みたいな眼差しで僕たちを見守ってたりするんですよ」
……そんな風な目で見ているつもりはないのだが。
二条院さんの方を見るが、私の目線を受けて困ったような顔をする。
《私も納得してしまった……》
反論できないらしい。
「……私は正真正銘、16歳の健全な少年ですが」
「確かにそうだろうけど、ねえ?」
「クラスメイトから相談事を受けているみたいだし」
それはそうだが……あれは相談と言うには少し違う。本当に相談する事は無く、簡単な意見を貰う為に声を掛けられている。
もし人々が噂を真に受ければ、本当の相談も舞い込んでくるだろうが……。
「一時の噂による影響だ」
「頼られるのは良い事じゃないか! 見た所、真剣に対応している様だしな。感心するぞ」
……そういえば、二条院さんルートの時の最終的な彼女の立場を奪ってしまっているな。
確か、彼女は寮長としての仕事の傍ら、相談室の様な事をしていた筈だ。少なくとも二年後の話だが。
学校での相談役と、寮での相談役とで住み分けが出来ているだろうか? ふうむ……。
「……今のところは、付き合ってやるつもりだ。それと私は16歳だ。間違えるでない」
「イマドキのアイドルみたいな事言い出した……」
「事実だろう。私は暇を頂く、では」
話はもう終わりだと告げる様に、静止の手も無視して自分の階へと帰って行った。
少し、考えるべきことが出来た。
「気を悪くしただろうか?」
「透はああ言ってるけど、意外と会話に冗談とか交えたりするよ」
「そうなのか?」
「うん。あの口調だと、全く冗談を言わないって思われるけどね」
「そうか……」
《私も冗談を交えた、面白い会話が出来た方が良いのだろうか……」
それは止めてほしい。私の中の二条院さんという像が崩れ去ってしまう
後ろ耳に聞いた思念に内心で返してから、階段を上がって行った。