心透かしのジョーカー 作:馬汁
この学院の体育祭は、面白い。
こういった行事は外部へのアピールへとつながる。宣伝で三司さんが引っ張りダコになっている様に、この様な催しものも重宝されている。
だから行事に力が入れられているのだろう。安全面に十分考慮しつつ、保険まで配備した上でアストラル能力を活用した種目も行われている。
アストラル能力の使用が認められている種目は、全て『能力自由形〇〇』と書かれている。
こちらでは、有効性や安全性を考慮しつつクラス内から代表で選ばれ、選ばれた者達が競い合うのだ。
例えば、能力自由形100m走では。
「がんばれー!」
「う、おおおお!」
ある者は地面を隆起させて、一種の発射台の様に活用して初速を得ている。
「やらせるかぁ!」
風を操り、自らの身体を押し出して加速していく者もいる。
純粋に身体能力を強化し走るものも居るが、彼も負けていない。
あの様に、ゴールラインを目指して各々の能力を活用していく
「ふぉお。壮観だな……」
《女子の汗を流す姿とは違った凄さがあるな……》
「ああいった競技とは無縁の能力だが……傍観者としては、中々素晴らしい能力だな」
「ん? アストラル粒子が見えると何かあんのか?」
「美しいのだ。各々が纏い、或いは放つアストラルの輝きが、競技を彩る。あの様な光景を目にしたのは初めてだ……」
赤に、緑に、青に。
虹色の様に輝く粒子は、思わず私も目を細める程の物だった。
「喜んでいる様でなによりだ。……うわっ、アイツやっべえな。残像が見えた気がしたぞ」
「素晴らしい……」
「それはそれとしてなんて顔してるんだ、お前……」
《きもちわりいな》
灰が引いた。そんな変な顔をしていただろうか。
能力が使われているだけあって、加えて参加人数が少ないのもあり、その種目は直ぐに終わった。
少々残念だが、他にもある。
オリジナル種目、能力自由形、タスク・ラン。この種目は能力自由形の中でも見どころが特に多い。
まず通常の300m走のトラックの上で競う事になるが、一定距離ごとに、障害と共にタスクが与えられる。10m離れた所のペットボトルを一定数倒す。空中のバスケットに一定数のボールを入れる等……。
勿論能力を利用し達成することも、或いは役立てない能力であるのならば身体一つのみで挑む事も出来る。
「くっ、もう少し活かせるはずだ! そう、そうだ! お前は未だ限界に至っておらぬ。うぉぉ!」
「うっせえ!」
「あ、すまぬ」
「騒ぎすぎだぞ」
《しかも雄たけびなんか上げてるし……》
「そうだよ透。そこまで騒いだら近くの人の迷惑になっちゃう」
「おお恭平。言え言え、言っちまえ」
……ああ。
少し興奮していた様だ……。2人揃って苦情を寄こす程の失態に、猛省するべきだと気を持ち直した。
「これは、失礼した」
「気持ちは分からないでもないけどね。能力をこういった風に見る機会はあんまり無かったから」
「でしょ?!」
「ステイ、カルム。お前キャラぶっ飛んでるぞ」
……っと、思わず口調がぶっ飛んでしまったか。これは失念した。
「大人っぽいのやら子供っぽいのやら……」
「成人を迎えようと、幼少の頃に抱いた想いは何時までも忘れぬ物だぞ」
「取って付けた様な達観した事を言うんじゃねえ」
ククク、と笑い飛ばして、また競技の方に目線を戻す。
最高学年の者達は、特に能力の扱いに慣れている。見ていて安定感と安心感がある。パフォーマンスまで交えている者さえ居る。
能力を生かしたパフォーマンスとは、豪華だ。思わず私は拍手を送った。
「また子供みたいな目に戻ってる……」
「気持ちは分かるけどね。と、わわ。あれ凄いね、派手だよ!」
「でしょでしょ!」
《またかよ?!》
「お前わざとやってるだろ! 何時もの口調に慣れてるから気持ち悪いんだよ」
おや、また口調がぶっ飛んだらしい。
「……またか」
「いや不思議そうな顔すんなっての。確かに凄かったけども……」
……ふむ。
「てへぺろ♪」
「だからヤメロォ!」
「ク、クク……」
灰の反応を愉しんで、観戦に戻る。
どうやら、今日は何事も無く終わるのを願わなくてはならない様だ。
・
・
・
「ふむ、これは予想外だな……」
どうやら、私の周辺でアストラル能力を強く、そして頻繁に使用された影響で、私の思念に干渉してしまっている様だ。
無意識な言動、例えば口調といった所に影響を及ぼすのであれば兎も角、まずは無害と言える。
しかし、本来ならば意識の影響下にあるべき動作が、私の意識から外れ自ずと動き出したら、影響は強くなっているものと見て良い。
昼の休憩時間。食堂で腹ごしらえをしつつ、溜息を吐く。
対策はある。強い自我を持つ事だ。
私の自我はこの身体と共に生まれたのではなく、前世から引き継いでいる。コントロールする術も既に習得している。
これが無ければ、今頃は自我の崩壊を起こしていただろうが……。
「楽しい体育祭、となる筈だったがな……」
まあ、楽しいのだが、懸念が心の片隅に無いと在るとでは、かなり違う。
ふむ……。
「ん? おや、倉井君ではないか。丁度いい」
「む……ああ。式部さん」
「珍しいねー、こっちの食堂なんて」
今居るのは、洋食とデザートとがある、カフェの様なお洒落なメニューが特徴の食堂だ。少し、ブドウ糖が欲しくなった気がしてこちらに寄ったのだ。
相談事の影響もあるが、脳のエネルギーが豊富な方が、自分の自我を保てる気がするのだ。
しかし、丁度いい、とは一体どういう意味だろうか。
「私に何か用があるのですか」
「うん、体育祭の種目関連でね。ちょっと協力してもらいたいことがあるんだ」
「ふむ?」
「午後からの種目、今になって安全性を懸念する声が挙がってきてね。だったら安全確保の為の人員を確保する、って話になった」
それで私に白羽の矢が立ったと。
「能力を生かして欲しい、という事か」
「まさに! 倉井君の能力は、アストラル粒子を目視することが出来る。多分だけど、実際に能力が効果を発揮するまでには見えるんだよね?」
《頭が回る子らしいし、頼りになりそう》
「うむ。能力にもよるが、ある程度予兆が見える。見てから回避、とまでは行かないが、普通よりは一拍素早く反応できるだろう」
「やっぱり! だから、能力自由形の種目をやっている時は、その目で様子を見ていて欲しいんだ」
「承知した。懸念はやはり、能力を用いた妨害による危険ですか」
《それはそうなんだけどねえ……》
確かにそうだが、公に認める事では無い、というべきか。式部さんの口は、認めも否定もせず横一文字に留められる。
「というよりかは“能力の暴発や精度による事故の予防”、と言うべきかな」
それが公式な理由、という訳だ。
「そうですね。であれば私も、微力ながら協力させて頂きます」
「うん、頼もしい! それじゃあ、お昼が終わったらテントの方に来てくれる? 私から説明しておくよ」
「分かった」
さて、量が少ないだけあって、食事は既に終えてしまった。食後のスイーツはあるが。
はあぁぁ、甘い。脳に行き渡るようだ。
アストラル使いは皆、甘いものを食べるべきだと思うのだ。義務だとも私は思うが。
「おー、美味しそうに食べるねえ」
「うむ……」
しばらくパフェを食して、なにか質問しなければいけないことは無いかと考え、思いついた一つを問いかける。
「やる事は、異常を察知した際に報告するのみで良いのだろうか?」
「それだけしてくれれば十分さ。本来の要員ではないしね」
「では、注意深く観察しよう」
「うんうん、頼もしいね」
と言っても、そうそうアクシデントなぞ起きる物ではない。が、起きた際の面倒が大きいのも事実。
様々な所から注目を集める学院の行事だ。アストラル関連の厄介事が知られれば、学院を始めとして、アストラル使い全体のイメージ低下にも繋がる。
そう思うと、監視という一見地味な仕事でも身が入ると言う物だ。