心透かしのジョーカー   作:馬汁

13 / 31
Ep.12 ・ 二面の何方を表と見るか。

「協力してもらっちゃって悪いね」

 

「いえ、私の手が求められるのであれば、喜んで協力致します。こちらこそ宜しく願います」

 

《本当に武士……というか、歌劇風の口調の様だな》

 

 式部さんに付いて行って、数あるテントの内一つの下に入る。

 研究員がこのテントを使っている様だ。既に居た何人かの白衣の方々に、軽く腰を曲げて挨拶する。

 

「その人は?」

 

「アストラル粒子が見える能力を持っているので、協力に来てもらいました」

 

「粒子が見える、だと? 成程、珍しい能力だ」

《ほう、研究が捗りそうな能力だ》

 

「あんまり厄介な構い方しないでくださいよ? 私と違って、普通の一生徒なんですから」

 

「あ、ああ。分かった」

《釘を刺されてしまったな……》

 

 片手間に座るよう促されて、その通りにパイプ椅子へ腰を下ろす。

 研究員らしき面々の中に、平然と居る式部さん。白衣を身に付けているとはいえ、確かに生徒がこの中に紛れるのは変な事だ。

 

「以前から気になっていた事なのですが、式部さんはどうして生徒でありながら研究を?」

 

 私の問いかけに、うーん? と人差し指を顎に添えて、可愛らしく唸ってみせた。

 深く気にしていなかったが、留年一年目、それも春から白衣を纏っていた筈だ。

 

「自分で言うのもなんだけど、私は成績優秀なんだ。その上必要な単位はもう殆ど取ってあるから、授業に出る必要も無い。ってなワケで、代わりに研究の真似事をね?」

 

「真似事なんてとんでもない。式部はもう一端の研究者みたいなものだ」

 

「そう言ってくれると嬉しいです」

 

 ふむ、原作で聞いたものと同じような理由だが、改めて聞くと、例外的な処置という風に思える。

 本来の卒業と同時に白衣を身に付けた様な物だし……。

 

「……という事は留年しているのですね。それも意図的に」

 

「うぐっ。事実だけど、実際に指摘されると胸が痛む……」

 

「いえ、失礼しました。その訳とはつまり、乙女の秘密という事なのでしょう。これ以上の詮索は控えます」

 

「そこまで察しが良すぎると逆に不安になるんだけど。……まあ、良いけどね。私が決めた事だから」

《大事な人の目を覚まさせる為なんだから、これくらい苦難でも無い……ってね》

 

 ……この決意だ。

 鎌鼬よりも鋭く、美しく磨かれた決意。

 

 これだから私は好きなのだ。この世界の物語が。

 

「っと、万が一の為とはいえ、仕事に集中しないと。ごめんね」

 

「構いません。では、失礼して……」

 

 種目の様子を観察する。相変わらず美しい光景だと感心するが、それよりも今回は仕事である。楽しむのは程々に、警戒心を抱き注視する。

 

「ほう……」

 

 ふむ、ふむ、やはり美しい……。では無くて。

 ううむ、どうしても監視というよりは鑑賞になってしまう。

 

 ……そうだ、目線を変えてみよう。

 

 例えば彼は、見た所アストラルから炎を生み出している様だ。

 炎を扱う能力という時点で注意に値するが、彼自身もその自覚があるのか、十分な制御能力を身に付けている様だ。

 炎と言う荒々しく攻撃的な印象を抱かせる現象を操りつつも、彼のアストラルはとても整っている。それは磨き上げられた宝石の様で、秩序あるアストラルの流れは、私に尊敬を抱かせる。

 

「おお……かなり精密に能力を扱っている。集中を要するだろうに、よく並行して競技を行えるものだ」

 

「そうなの?」

 

 隣で計測用の機材を……では無く、コーヒーメーカーを弄っていた式部さんが、私の独り言に反応する。

 

「うむ。彼の炎自体は荒々しく見えるが、火種自体は微動さえ見られないだろう? アストラル粒子が視えないのであれば、その点からしか彼の制御能力の手腕を知れないが」

 

「……確かに、そうかもしれない。のかな?」

 

 彼女が目を細めて確かめようとするが、数秒かけて諦める。この距離では仕方ないだろう。

 

「酷評する様で気が引けるが、制御面で気になるのはキネシスを扱う彼女だろうか。彼女が持ち上げた物体は滑らかに動いている様だが、どうやら強さは強と弱との二つのみでしか使い分けられない様だ。代わりに力を加える時間を細かく刻む事で、力の強弱を調節している」

 

「それは全く分かんない」

 

 とは言え、結果的に上手く扱っている事には違いない。強く押す力と弱く押す力の感覚だけを覚えて、時間間隔により最終的な作用量を調節する、というのは一種の解法である。

 遠回りこそ近道だという事もある。そういう面では、彼女の制御能力はある意味完成されていると言えよう。

 

 

「キミ、もしかしたらそういう方向の仕事で食っていけるかも」

 

「と言うと?」

 

「私みたいな研究職。重宝されるし、結果も出せると思うよ? さっきの人も言ってたけどね」

《なんならその能力で色々実験したいし》

 

「……ふむ」

 

 そういえば、物語の舞台に踏み入れる事ばかり考えていて、卒業後の事は全く考えていなかった。

 しかし、アストラルの研究と言うのも興味深い。物語の終わりを見送った後は、そういった道に往くのも良いだろう。

 

「……一年目から進路を決めつけるのも、可能性を裏切りかねない。ですが、前向きに検討しておきましょう。私としても、とても興味深い」

 

「あ、そっか。入学したてだったね。なんだか年下と話している気がしなくて」

 

 そう思ってしまうのも無理無いが……。

 間違っても、私の精神年齢が実に彼女らの親世代を越しているとは言えない。今後明かされることも無いだろうが。

 

「良く言われます」

 

 取り合えず、万能な返事で返しておいた。

 

 

 

 

 体育祭も終盤。流石にずっとテントの下で涼んでいる事も出来ず、私が出場する事になっている種目がやって来た。

 

 能力無使用の、棒取り合戦である。

 

 実は能力の使用が許されていない種目の方が、隠れて能力を使われるという不正のリスクが大きいのだが……。

 今回に関して、私は参加者側に立っている。よほど危険な能力使用出ない限り、見逃すつもりだ。

 

「「ファイト、一発!」」

 

 聞き覚えのある掛け声と共に円陣を解き、各々のポジションに付く。

 

 私に関しては、所謂パッシブ能力と言うべきものであるから、能力無使用という枠に留まることが出来ない。

 一応、勝手に発動する物は仕方ないという風なルールになっている。

 

 花島灰で例えた場合、“見える物は仕方ない”である。これだけ聞くと変態的だ。

 一体何が見えたというのだろう。

 

「それでは、用意……」

 

 アナウンスがグラウンドに響く。

 

 見える見えないは兎も角、私の場合は嫌でも聞こえるという能力だ。

 つまりと言うか、やはり、このグラウンド全員の作戦が聞こえてしまうのである。

 

「スタート!」

 

 この場合、“聞こえる物は仕方ない”という事になる。

 開始の合図から同時、全員の意識から免れていた一本を見つけて走り出す。

 

 そうすれば呆気なく一本を確保。他の棒を諦めた相手チームが寄ってくる前に、お持ち帰りしてしまう。

 

「将軍サマないすー!」

 

 取り合いに勝ったのか、少し遅れて棒を持ち帰ってきた通りすがりに、声を掛けられた。

 

「それは私の事か?」

 

 思わず問い返した言葉は、しかし届く事無く空に消えた。……将軍サマとは、初めて言われたが。

 

 

 とにかく、未だに競り合いが続いている棒に向かう。

 が……ふむ。私とて一応、青春真っただ中の少年だ。先程のノリに、ノリノリで乗っておくべきだろうか。

 

「……よし。助太刀に参ったぞ!」

 

「「おお!」」

 

「将軍来た! これで勝つる!」

 

 面白い反応である。……が、私はどこを掴めば良いのだ、これは? まさか、既に棒を握って引いている者の身体を、更に引っ張れとでも……。

 

 む、いや。これは……何もせずとも勝手に競り勝ちそうだ。

 

「っしゃあ!」

 

「討ち取ったりぃ!」

 

「バンザーイ!」

 

 ……競り勝った。私は手持無沙汰のまま、お持ち帰りされる棒を見送った。

 他の棒も既に勝負がついている。このラウンドは終わったも同然か。持ち替えられる棒を追うにしても、一定のラインを超えて陣地に入ると、もう奪う事は出来ない。

 

 ……定位置に戻ろうか。

 

「最後の棒も決着が付きました! この合戦、第一回戦は西方の陣営が勝ち取りました! しかし、この種目は三本戦、二点先取が勝利条件です! 早ければ第二回戦で決着が付きますが、果たして!?」

 

 外に耳を向けてみれば、ちょうど実況の音声がグラウンド中に響いていた。

 こちらの味方が、随分と大声で将軍だの万歳だのと雄叫びを上げていたが……。

 

「……しかし、なにやら将軍という言葉がこちらにまで聞こえていました。将軍とは一体?!」

 

 ああやはり。さっきまでの声が、実況席にまで届いてしまっていた様だ。どうか反応しないでほしかった。

 

 

「……はい、棒の再配置が完了しました。それでは皆さん、位置に付いて……。スタートです!」

 

「万歳!」

 

「出会え出会えー!」

 

「突撃ぃー!」

 

 ……その後、妙な団結力を見せた我が陣営は、見事過半数の棒を勝ち取った。結果、第三回戦を待たずに、この種目の勝利を得たのであった。

 

 

 

 

「……取り付く島も無かったな。いや、棒も無かった、と言うべきか」

 

「お前一体何しでかしたんだよ」

 

 種目も終わり、元の場所に戻ろうとした所で、灰に声を掛けられた。

 私が何かした前提なのが気に食わないが、確かな事実であると、渋々と頷くしか出来なかった。

 

「遺憾ながら、何もしてなくは無い。しかし私は悪くないぞ」

 

「本当かぁ? 思いっきり将軍っぽいセリフが聞こえてきたぞ。“助太刀に参った”、だっけ?」

 

「き、聞いていたのか」

 

 確かに、ノリに乗ったのは確かだ。しかし私は一声掛けただけである。青春少年らしく。

 

 

 そんな風に灰と話していた所で、前の方に居る男2人が何やら話しだした。

 

「所で、将軍って結局誰だったんだ? 適当に雰囲気に乗っちゃったけど」

 

「さあ? 俺もノってたけど、何も知らない。……あ、そうだ。将軍っぽい口調の人なら」

 

 前の2人が、思いついたかのように振り返る。バッチリと目が合った。

 

「倉井か?」

 

「倉井だろ」

 

「コイツが将軍です」

 

 俺を売るな。




 因みに。

 原作主人公が居ない時期のイベントを思いつく限り書いてから、原作主人公編入。という風な流れで考えてます。
 それまでにヒロイン達やサブキャラのバックストーリーも書ければと。

 原作で描写されている以上のバックストーリーを考えるのは、大分難しいですけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。