心透かしのジョーカー 作:馬汁
「協力してもらっちゃって悪いね」
「いえ、私の手が求められるのであれば、喜んで協力致します。こちらこそ宜しく願います」
《本当に武士……というか、歌劇風の口調の様だな》
式部さんに付いて行って、数あるテントの内一つの下に入る。
研究員がこのテントを使っている様だ。既に居た何人かの白衣の方々に、軽く腰を曲げて挨拶する。
「その人は?」
「アストラル粒子が見える能力を持っているので、協力に来てもらいました」
「粒子が見える、だと? 成程、珍しい能力だ」
《ほう、研究が捗りそうな能力だ》
「あんまり厄介な構い方しないでくださいよ? 私と違って、普通の一生徒なんですから」
「あ、ああ。分かった」
《釘を刺されてしまったな……》
片手間に座るよう促されて、その通りにパイプ椅子へ腰を下ろす。
研究員らしき面々の中に、平然と居る式部さん。白衣を身に付けているとはいえ、確かに生徒がこの中に紛れるのは変な事だ。
「以前から気になっていた事なのですが、式部さんはどうして生徒でありながら研究を?」
私の問いかけに、うーん? と人差し指を顎に添えて、可愛らしく唸ってみせた。
深く気にしていなかったが、留年一年目、それも春から白衣を纏っていた筈だ。
「自分で言うのもなんだけど、私は成績優秀なんだ。その上必要な単位はもう殆ど取ってあるから、授業に出る必要も無い。ってなワケで、代わりに研究の真似事をね?」
「真似事なんてとんでもない。式部はもう一端の研究者みたいなものだ」
「そう言ってくれると嬉しいです」
ふむ、原作で聞いたものと同じような理由だが、改めて聞くと、例外的な処置という風に思える。
本来の卒業と同時に白衣を身に付けた様な物だし……。
「……という事は留年しているのですね。それも意図的に」
「うぐっ。事実だけど、実際に指摘されると胸が痛む……」
「いえ、失礼しました。その訳とはつまり、乙女の秘密という事なのでしょう。これ以上の詮索は控えます」
「そこまで察しが良すぎると逆に不安になるんだけど。……まあ、良いけどね。私が決めた事だから」
《大事な人の目を覚まさせる為なんだから、これくらい苦難でも無い……ってね》
……この決意だ。
鎌鼬よりも鋭く、美しく磨かれた決意。
これだから私は好きなのだ。この世界の物語が。
「っと、万が一の為とはいえ、仕事に集中しないと。ごめんね」
「構いません。では、失礼して……」
種目の様子を観察する。相変わらず美しい光景だと感心するが、それよりも今回は仕事である。楽しむのは程々に、警戒心を抱き注視する。
「ほう……」
ふむ、ふむ、やはり美しい……。では無くて。
ううむ、どうしても監視というよりは鑑賞になってしまう。
……そうだ、目線を変えてみよう。
例えば彼は、見た所アストラルから炎を生み出している様だ。
炎を扱う能力という時点で注意に値するが、彼自身もその自覚があるのか、十分な制御能力を身に付けている様だ。
炎と言う荒々しく攻撃的な印象を抱かせる現象を操りつつも、彼のアストラルはとても整っている。それは磨き上げられた宝石の様で、秩序あるアストラルの流れは、私に尊敬を抱かせる。
「おお……かなり精密に能力を扱っている。集中を要するだろうに、よく並行して競技を行えるものだ」
「そうなの?」
隣で計測用の機材を……では無く、コーヒーメーカーを弄っていた式部さんが、私の独り言に反応する。
「うむ。彼の炎自体は荒々しく見えるが、火種自体は微動さえ見られないだろう? アストラル粒子が視えないのであれば、その点からしか彼の制御能力の手腕を知れないが」
「……確かに、そうかもしれない。のかな?」
彼女が目を細めて確かめようとするが、数秒かけて諦める。この距離では仕方ないだろう。
「酷評する様で気が引けるが、制御面で気になるのはキネシスを扱う彼女だろうか。彼女が持ち上げた物体は滑らかに動いている様だが、どうやら強さは強と弱との二つのみでしか使い分けられない様だ。代わりに力を加える時間を細かく刻む事で、力の強弱を調節している」
「それは全く分かんない」
とは言え、結果的に上手く扱っている事には違いない。強く押す力と弱く押す力の感覚だけを覚えて、時間間隔により最終的な作用量を調節する、というのは一種の解法である。
遠回りこそ近道だという事もある。そういう面では、彼女の制御能力はある意味完成されていると言えよう。
「キミ、もしかしたらそういう方向の仕事で食っていけるかも」
「と言うと?」
「私みたいな研究職。重宝されるし、結果も出せると思うよ? さっきの人も言ってたけどね」
《なんならその能力で色々実験したいし》
「……ふむ」
そういえば、物語の舞台に踏み入れる事ばかり考えていて、卒業後の事は全く考えていなかった。
しかし、アストラルの研究と言うのも興味深い。物語の終わりを見送った後は、そういった道に往くのも良いだろう。
「……一年目から進路を決めつけるのも、可能性を裏切りかねない。ですが、前向きに検討しておきましょう。私としても、とても興味深い」
「あ、そっか。入学したてだったね。なんだか年下と話している気がしなくて」
そう思ってしまうのも無理無いが……。
間違っても、私の精神年齢が実に彼女らの親世代を越しているとは言えない。今後明かされることも無いだろうが。
「良く言われます」
取り合えず、万能な返事で返しておいた。
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体育祭も終盤。流石にずっとテントの下で涼んでいる事も出来ず、私が出場する事になっている種目がやって来た。
能力無使用の、棒取り合戦である。
実は能力の使用が許されていない種目の方が、隠れて能力を使われるという不正のリスクが大きいのだが……。
今回に関して、私は参加者側に立っている。よほど危険な能力使用出ない限り、見逃すつもりだ。
「「ファイト、一発!」」
聞き覚えのある掛け声と共に円陣を解き、各々のポジションに付く。
私に関しては、所謂パッシブ能力と言うべきものであるから、能力無使用という枠に留まることが出来ない。
一応、勝手に発動する物は仕方ないという風なルールになっている。
花島灰で例えた場合、“見える物は仕方ない”である。これだけ聞くと変態的だ。
一体何が見えたというのだろう。
「それでは、用意……」
アナウンスがグラウンドに響く。
見える見えないは兎も角、私の場合は嫌でも聞こえるという能力だ。
つまりと言うか、やはり、このグラウンド全員の作戦が聞こえてしまうのである。
「スタート!」
この場合、“聞こえる物は仕方ない”という事になる。
開始の合図から同時、全員の意識から免れていた一本を見つけて走り出す。
そうすれば呆気なく一本を確保。他の棒を諦めた相手チームが寄ってくる前に、お持ち帰りしてしまう。
「将軍サマないすー!」
取り合いに勝ったのか、少し遅れて棒を持ち帰ってきた通りすがりに、声を掛けられた。
「それは私の事か?」
思わず問い返した言葉は、しかし届く事無く空に消えた。……将軍サマとは、初めて言われたが。
とにかく、未だに競り合いが続いている棒に向かう。
が……ふむ。私とて一応、青春真っただ中の少年だ。先程のノリに、ノリノリで乗っておくべきだろうか。
「……よし。助太刀に参ったぞ!」
「「おお!」」
「将軍来た! これで勝つる!」
面白い反応である。……が、私はどこを掴めば良いのだ、これは? まさか、既に棒を握って引いている者の身体を、更に引っ張れとでも……。
む、いや。これは……何もせずとも勝手に競り勝ちそうだ。
「っしゃあ!」
「討ち取ったりぃ!」
「バンザーイ!」
……競り勝った。私は手持無沙汰のまま、お持ち帰りされる棒を見送った。
他の棒も既に勝負がついている。このラウンドは終わったも同然か。持ち替えられる棒を追うにしても、一定のラインを超えて陣地に入ると、もう奪う事は出来ない。
……定位置に戻ろうか。
「最後の棒も決着が付きました! この合戦、第一回戦は西方の陣営が勝ち取りました! しかし、この種目は三本戦、二点先取が勝利条件です! 早ければ第二回戦で決着が付きますが、果たして!?」
外に耳を向けてみれば、ちょうど実況の音声がグラウンド中に響いていた。
こちらの味方が、随分と大声で将軍だの万歳だのと雄叫びを上げていたが……。
「……しかし、なにやら将軍という言葉がこちらにまで聞こえていました。将軍とは一体?!」
ああやはり。さっきまでの声が、実況席にまで届いてしまっていた様だ。どうか反応しないでほしかった。
「……はい、棒の再配置が完了しました。それでは皆さん、位置に付いて……。スタートです!」
「万歳!」
「出会え出会えー!」
「突撃ぃー!」
……その後、妙な団結力を見せた我が陣営は、見事過半数の棒を勝ち取った。結果、第三回戦を待たずに、この種目の勝利を得たのであった。
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「……取り付く島も無かったな。いや、棒も無かった、と言うべきか」
「お前一体何しでかしたんだよ」
種目も終わり、元の場所に戻ろうとした所で、灰に声を掛けられた。
私が何かした前提なのが気に食わないが、確かな事実であると、渋々と頷くしか出来なかった。
「遺憾ながら、何もしてなくは無い。しかし私は悪くないぞ」
「本当かぁ? 思いっきり将軍っぽいセリフが聞こえてきたぞ。“助太刀に参った”、だっけ?」
「き、聞いていたのか」
確かに、ノリに乗ったのは確かだ。しかし私は一声掛けただけである。青春少年らしく。
そんな風に灰と話していた所で、前の方に居る男2人が何やら話しだした。
「所で、将軍って結局誰だったんだ? 適当に雰囲気に乗っちゃったけど」
「さあ? 俺もノってたけど、何も知らない。……あ、そうだ。将軍っぽい口調の人なら」
前の2人が、思いついたかのように振り返る。バッチリと目が合った。
「倉井か?」
「倉井だろ」
「コイツが将軍です」
俺を売るな。
因みに。
原作主人公が居ない時期のイベントを思いつく限り書いてから、原作主人公編入。という風な流れで考えてます。
それまでにヒロイン達やサブキャラのバックストーリーも書ければと。
原作で描写されている以上のバックストーリーを考えるのは、大分難しいですけど。