心透かしのジョーカー   作:馬汁

17 / 31
Ep.16 ・ 幻影こそが汝の指標。

「あー、そういえばここ覚えてねえんだよな。ノート見ても良く分からんし」

 

「どこだ? ……ああ、それは教科書の4章に当たる」

 

「4章? 本当だ。マジで覚えてるんだな」

 

「うむ」

 

 恋人付き合いだか相談だかで忙しない日々だったが、我ら学生達は、期末試験を迎えようとしている。

 入学からそれなりの日が経ち、人によっては体格にさえ変化がある場合もある。三司さんが良い例だ。何処とは言わぬが、彼女も()()()()()な成長をしている。

 

 と、そんな事は良いのだ。無闇に話すことでもない。

 期末試験が間近となれば、恋人ごっこも一旦中断となって、私としても気楽な日々を迎えている。

 

 代わりに、という事でも無いが、友人である灰に要請を受け、試験勉強を行っている。

 引き換えは昼食の奢りだ。別に取引と言う形でなくとも引き受けたが、無償の協力がむしろ後ろめたいという事で、そういう話となった。

 

 

 一枚一枚ページを捲り、内容を確認している灰を眺めている。

 千里眼を持っていても、閉じた本のページを覗き見る事は叶わないのだろうか。

 友人として見ている限りでは、自然に発動してしまう分以上に能力を行使している様子は見られない。

 故意に発動させる事ができないのだろうか。そういうアストラル能力者も要るが、珍しい部類だ。

 

「……そういえば」

 

「む」

 

 まじまじと観察していた所を呼ばれて、眉を上げて反応する。

 

「今まで敢えて聞かなかったんだけどさ。お前中間テストどうだったんだよ」

 

 ああ、その事か。観察している所を咎められたのかと思った。

 

「中間はほぼ100、だったな。今はまだ基礎的な部分が多いから満点が実現できているが、恐らく二学期か三学期以降から応用も増えてくるだろう。教師がどの様なペースで進めるかによるが」

 

「っはぁ~、優等生。羨ましいぜ」

 

「人より二倍以上の努力によって為された数字だ。結果を羨んでも、経過を知れば不平の意を撤回するだろう」

 

「そうかよ」

《人がどれぐらい努力しているのかは知らねえけど……。にしたってな》

 

 拗ねたように言い放った彼は、どうやら才能という物を実感している様である。

 努力を継続する切っ掛けも、結局人の個性による。それを天才と呼称するのも仕方ない。

 

「まあ、努力の機会と動機が多かった、と言うだけだ。特に動機がなければ、灰の勉強を見ることなかった。……いや、そもそもこの学院に在籍する事自体叶わなかったろうな」

 

「あー……、つまりアレか。ここに入るためにめっちゃ勉強したって事か?」

 

「うむ」

 

 簡潔に言えばそうなる。

 能力関連で問題を起こし、生徒としての学力を問わず送り込まれる事もあるが、本来の入学にあたって求められている偏差値は、比較的高めだ。

 前世の記憶がなければ、相当苦労していただろう。

 

「まあ、ここに入れれば将来は安泰だからな」

《色んな企業が注目してる学院と来れば、就職先なんてむしろこっちが選べる立場だし》

 

「……であるな」

 

「おう。……ああ、これか。分かったかも」

 

 カチカチとシャーペンの芯を出し入れして、灰は再びノートへ向き合った。

 

 

 集中力を乱さない程度に流されている曲を聞きながら、窓の方を見る。空は晴れやかであり、積乱雲と呼ぶべきであろう山の如き雲が見切れている。

 

「しかし、この期末を超えれば夏か」

 

「おうおう、俺はテスト勉強で必至だってのにもう夏休み気分か」

 

「ああ、そのつもりは無いぞ。すまぬな」

 

《だろうな……》

「ま、そんだけ優秀だから助けられてるんだけどな」

 

 軽口だったりが多いが、そういう言葉を本音として言える友人は貴重で、有り難い。

 古本屋の老人は元気にやっているだろうか。

 

《……最近三司さんの胸が人工的に盛られている話、するか迷うな……》

 

 既に知ってるから黙ってあげてくれないだろうか。

 あと人の胸に対して千里眼を使うのはどうかと思うぞ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ガヤガヤと周りが騒ぐ中、私はその中心で無言を貫いていた。

 この放課後に恋愛ごっこの予定だが、その前に悩んでいる事がある。彼女の件だ。私が勝手に相談と言う形にしたのだが、それはさておき、今までの相談とは違う。

 

「ふむ……」

 

 彼女にそのつもりは無いが、私にとっては責任重大だ。悩める事が出来る内に悩み、より良い正解を探る。

 知る事は容易いが、知っているが故にそれを無視する事が難しい。

 

 見えないから関わらない。見えているけど関わらない。この違いは大きい。

 

 

 ……しかし、この状況では十秒も悩むことが叶わない。片づけるべきは、今の問題か。

 

「スマン! 透! 変に話しちまって、クラスに広まっちった」

 

「構わぬ、むしろ安堵するが良い。クラスメイトの心に潜む不安を、私が取り除く機会を与えたのだから」

 

《うわナルシスト的な発言……》

「そ、そうだな……」

 

 さて、一体何人居るのだろうと、周囲を取り囲むクラスメイト達の顔を見る。

 

「ねえ透くん! 勉強教えてくれるんだって?」

 

「私にも教えてよ。この学校、科目がちょっと多いからキツくてさー」

 

「僕にも────」

 

 悲願、と言う程では無いが、協力してやらないとテスト勉強でヒイヒイ言うか、或いは点数が返ってくるときにヒイヒイ言うだろう。そういう顔ぶれだった。

 私に頼る程では無いがそこそこ勉強が難しいという人間は、もう少し離れた所で見守っている。

 

「構わぬ。しかしこの大人数だ、一人の寮室に押し込める訳にも行かぬ。寮の……第四で良いか。そこのロビーで勉強会。という事で良いだろうか?」

 

 返ってくる数名の返事は、オーケー。私は頷いて、まず集合時間を伝えてから、望む者は袋菓子や飲み物と、勿論勉強道具なども持参する様にと言って、解散させた。

 

 私に勉強会を願った数名の内2人は、能力者保護プログラムによって送り込まれた者達だった。

 面倒を視なけらばならない原因としては、納得できる。彼らの本来の学力では及ばぬ環境に飛び込んできたのだ。一日経てば一歩先に、二日経てば二歩先に行く授業内容に、相当参っていた様子だった。

 口から語りはしなかったが、私がそれを知るには口は必要ない。

 

 

「本当すまん。苦労させちまうな」

《いつも頼ってる上に迷惑かけてしまったなあ……》

 

「なに、今更だし、仕方のない事だ。「相談しやすい人間」という印象が広まった以上、灰が関わらずともこの顛末になる可能性はある」

 

「とは言えなあ……。まあ、お前が良いなら気にしない様にするよ。けど、謝罪は撤回しないからな」

 

「クク、律儀だな。そうだ、灰も勉強会に来ると良い。なに、遠慮するな」

 

「悪いな。言われたからには行くぜ」

《ったく、下手したら先生より面倒見が良いんじゃねえか?》

 

「うむ」

 

 そう頷くと、彼はいつも通りに部活へ向かっていった。テスト直前の期間は学校中の部活動が停止されるが、それは明日からになる。

 

 ……さて、勉強会の予定も明日に指定したし、今日の放課後は……。

 

「……待ったわよ。人気者だったのね」

 

 栗原さんとの付き合いごっこである。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「意外、って程じゃないけど、勉強できるのね」

 

「うん! 自慢じゃないけど、自習している分でも既に高校卒業までの範囲は網羅してるよ」

 

 食堂で待ち合わせ、顔を合わせて夕食を取る。あくまでも恋人ごっこ。しかし真面目な恋人ごっこ。

 人生長いとは言え、こんなバカげた事もあるもんだなあ、とコーンスープを一杯掬う。

 

「やっぱり、私から見たら自慢よ」

 

「いや、自慢じゃないよ」

 

 本当に自慢ではない。

 笑顔を表情から消して、じっと栗原さんの目を見つめる。すると目が合って、怖気付いたのか直ぐに目を逸らされた。

 

「ククっ……」

 

《笑い声のギャップが胡散臭い……》

 

「ごめんごめん、笑うつもりじゃなかったんだけどね。……あ、そうだ。たった今思いついたナゾナゾなんだけど、聞く?」

 

「な、なんだか唐突ね。……聞くわよ」

 

「では……コホン。努力は人々に嫉まれないけれど。才能は人々に嫉まれる」

 

「……」

《随分と、哲学的ね》

 

 ナゾナゾの前置きでしかない言葉に、栗原さんが眉を顰める。

 それを気に留めず、ナゾナゾを続ける。

 

「では、人々が羨むのは何?」

 

「……心理学の本でも読んだのかしら?」

 

「残念。ボクはそういう学術的な本にはあまり手を出さないんだ」

 

 そんな風におどけて見せると、顰めた眉を解く様に溜息を吐かれた。ボクの態度に、どう反応すれば良いのか迷っている様だ。

 

「それで、どう? 答えは分かりそう?」

 

「分かんないわよ。それに意地悪なナゾナゾは嫌い」

 

「クク……。それじゃあ答えなんだけどね、それは“自分にとって必要でない、優れた人”だ」

 

 もったいぶる様な事もせず、あっさりと正答を明かして見せると、栗原さんはまた呆れた様な溜息を吐く。

 

「……やっぱり心理学みたいな物じゃない」

 

 確かにそうかもしれない。とボクは笑う。

 

「嫉妬という感情は、人として当然だとボクは思う。それでも憧れという感情と競合しないのは、それは自分が求めている物かどうかという分岐点があるからだとも思うんだ」

 

「そう。……それで、どうしてそんな哲学みたいなナゾナゾを思い出したの?」

 

「別に。でも、なんとなくそういう所で悩んでいる気がしたから」

 

 気がしたから、ではなく、そう知っているから、なのだけれど。

 栗原さんの顔を見てみると、何か考え込むように俯いていた。

 

《相談という場数を踏んでいるだけはあるわね……。いきなり核心を突かれてるじゃない》

「はあ……。どう思おうが勝手だけれどね」

 

「じゃあ、勝手にキミの事を知っていくね」

 

「っ……、気味が悪いわよ。そういうのは仲が良くても言わないで頂戴。あなたと居ると溜息が多くなるのよ」

 

「ゴメンネ。でも、ボクも色んな人と話してきたからさ。似て異なるとはいえ、経験の中との共通項の多い相談事も経験してきたんだ」

 

《それじゃあ、なんで悩んでいるのかも、お見通しって事?》

「……何よそれ」

 

 ボクの言葉は、半分が嘘。

 だけれどボクは、私はそう言った人間を沢山見て来た。

 

 見て、そして他人事だと通り過ぎて行った。幼い感情で排他的になって、あるいは自己的になって、そして誰かを滅ぼす様子を横目にしながら。

 私は手を出さなかった。私の能力を行使する様な行為は、私の身を滅ぼすと知っていたから。

 

「話は戻るけど、アストラル使いは例外だったり、そうじゃなかったりするんだよね」

 

「なんだか曖昧ね」

 

「まあねぇ。アストラル使いは嫉妬の対象じゃなくて、憎まれている。自らも手にしたい、という嫉妬とは違い、憎んでいる彼らが手に入れても、むしろ手放したいと願う」

 

「人外、なんて言う人も居るものね……」

《……》

 

 一瞬、栗原さんの心で記憶が巡った。過去の情景、忘れる事が叶わぬ悪夢。

 ボクは穏やかに笑って、食器を置く。

 

「ま、結局は人に寄るんだけどね。自分が欲しくて手が届かない人に対しても、嫉妬じゃなくて憧れを持つ例は沢山ある。個人差っていうヤツさ」

 

「そう、よね。皆が皆そうだったら、世の中大変よ」

 

「ねー。……って、なんだかご飯が不味くなる話になっちゃったな。ゴメンゴメン」

 

「あ……あなたの所為よ。私は聞いてただけなんだから」

 

「えへへ」

 

《嘘っぽい笑い方……さっきの胡散臭い笑い声の方がよっぽどマシ》

 

 どうやらボクとしての笑いは不評らしい。これは改善点かなあ。

 

 

「さてと」

 

 空っぽになった食器を持って、返却しに立ち上がる。

 

「それじゃあまた、栗原さん。もっとたくさん、お互いの事を知っていこうね」

 

「ええ、それじゃあまた。……もうこんな重い話は無しにしてよね」

 

「肝に銘じておくよ」

 

 今の所、一方的にばかり知っているのだけれど。

 作った笑顔を残して、ボクはそこから立ち去った。




リハビリの様な感覚で書くのを赦しておくれ。
無計画に書いてるのも赦しておくれ。

だ、大丈夫。頭の中にプロットはあるから。変化自在なプロットだけど。
プロットがそんなんじゃ良くないよね。知ってる。

追記・本作の学院の勉強ってどういうシステムなのだろうと疑問。
一般的な高等教育課程の描写なんかをしてしまうと、登場人物が20歳以上でなくなるから、曖昧に描いているのだろうけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。