心透かしのジョーカー   作:馬汁

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サブタイトルの名付け方を変えます。
既存のサブタイトルも気が向いたら改名します。しました。


Ep.17 ・ ある日に芽吹く、災厄の種子。

 約束していた勉強会は問題なく終わった。

 心を読める私が問題を見逃すことはむしろ難しいのだが、それでも終わってみれば安堵する物だ。

 

 その甲斐あって、無事に期末テストは終了。

 後に点数が返って来た時は喜びと悲しみという感情が交互して見られたが、それも終われば後は夏休みだ。それ実感した途端、点数のことなど忘れて歓喜し始めた。

 

 本人曰く無趣味だという栗原さんですら、緊張続きのテスト期間から解放された瞬間を待ち望んでいるだろう。

 

 

「夏だー!」

 

「夏だ!」

 

「「いえーい!」」

 

 我が友人たる男どもは、そんな気分をハイタッチで分かち合っている。

 今日とて恭平は年相応の笑顔をまき散らしている。可愛い。

 

「随分と嬉しそうではないか」

 

「そりゃあ勿論! 僕らの青春の4割は占めてると言っても過言じゃない」

 

《あとの6割はメシとかなんだろうな……》

 

 偉そうに青春を語って見せる彼らからは、確かに春の青臭さが感じられた。

 一ヶ月という期間をどう楽しむかは彼ら次第だが。その貴重な時を活かして欲しいものだ。

 

「透はどうするんだ?」

 

「予定は無いが、まずは面倒事を最初に終わらせてしまおうかと思っている」

 

「え? 彼女が居るんだから、一つくらい予定してる事はあるんじゃないの?」

《正直、彼女持ちって感じがぜんぜんしないし……》

 

「つっても、透だぜ?」

 

「……じゃあ仕方ないかも」

 

 わかったような顔をされた。複雑な気分である。

 

「恋人と言っても、そこには適切な距離感と言う物があるのだ。現状、私も不満は抱いていないし、彼女も同様だろう」

 

「ホントに?」

 

「ホントに」

 

「ホントかあ」

 

 しかしこのままでは、確かに私も不安を覚えてくる。

 それらしい付き合いをしていることではなく、これまで以上に女の話が周囲に知れてしまうとだ。

 彼女の予定では、しばらくした後に別れる予定であるらしい。具体的な日時は彼女の梅塩によるだろうが。

 

 当人である私たちの気持ちはともかく、周囲は多少は気に病むだろう。私の主な友人である二人も当然として、その他大勢の知り合いも気不味そうにする可能性がある。

 

 

「ねえねえ倉井クン。あと花島クンも。あと……キョーヘイ?」

《わあ、よく見ると確かに男の子っぽい様な……》

 

「周防恭平だよ」

 

「周防クン! よろしくね。それでなんだけどさ、良かったらわたしらと海行かね?」

 

 以前バレー部の相談の一件があってから、あまり話す機会の無かった大久保さんが割り入ってきた。

 そして海の提案だ。夏らしいといえば夏らしい。私としては断る理由が見当たらない。

 

「海?」

 

()()()()というと、バレー部の皆か」

 

「そそ。若い女の子だけじゃ不安だからさ、男も誘おうって話になったんだー。あとお礼もついでに」

 

「気が回るものだな」

 

「でっしょー? 私もお話したいし、倉井クンのカノジョさんも誘ってよ」

 

 成程、そういう手もあるか。しかもバレー部の者達と一緒に、栗原さんも……。

 

 ふむ、上手くいけば相談の解決に役立てるだろうか? 強制する気がない以上は、彼女がこちらの提案を拒めばそれで終わりだが。

 

「うむ、誘ってみよう。予定はまだ決まっていないのだな?」

 

「メンバーが決まってから打ち合わせるつもり。あ、ルームの招待送るね」

 

「了解した」

 

 メッセンジャーアプリで招待を受け取り、確認する。確かにバレー部の名前がルームのメンバーにあった。

 

「女の子と海……」

 

「良いじゃねえか、如何にも青春っぽくね?」

 

「そうかも……!」

 

「「イエーイ」」

 

 本日二度目のハイタッチが、教室に響いた。

 

 

 

 

「海?」

 

 放課後、校舎の出入り口で栗原さんの姿を見つけ、その事を伝えてみた。

 バレー部の皆が居るという事は、敢えて伏せている。

 

「ふうん……まあ、別に大丈夫、かも」

《特に予定もなかったし、今まで行く機会も無かったし……。確かに、目的には近づく、のかも?》

 

「よかった。グループのルームがあるから、ボクから招待しておくね」

 

「わかった。……あれ、でも、まって」

 

「うん?」

 

「そしたら、どっちになるわけ? その……口調よ。私と居る時の変な口調と、普段の」

 

 ああ。

 その事ならば、そのタイミングで適当に判断しようと思っていたのだが。

 

「そうだなあ……。うん、その時だけは武士口調にしよっかな」

 

「武士口調って自分で言うのね……」

 

「まー事実だしね。その時はヨロシク! それじゃ、今日はこれだけ。また今度出かけようねー」

 

《……本当に私に好かれる気があるのかしら。いや、無いのでしょうね。はあ……》

 

 そう言い残すと、栗原さんは複雑な表情を見せた。

 何を言うのだろうか。私に好かれようというつもりで付き合っているわけでも無い。

 

 といっても、乙女心とは私でさえ難解なものだ。いくら形式的な物でも、そこに多少の何かを望んでしまうのだろう。

 

「……もしかして、二人っきりが良かった?」

 

《二人……本来なら、その方が嬉しいのでしょうね。きっと》

「……いいえ、楽しみだと思っていただけよ」

 

「そう思ってくれれば、ボクも嬉しいよ♪」

 

 笑顔を仕向けて、愛想笑いを貰う。最近は、わざとらしくも見えるが、笑みを返してくれる事が多くなった。 

 良い変化だろうか。きっと良い変化だろう。

 

 栗原さんは別の寮棟だ。ボクらはそこで別れ、部屋へ戻っていく。

 

 

 良い方向に向かっている。

 彼女自身に変化は見られないが、手段や計画は順調に整ってきている。

 

 とは言え、私がやろうとしている事は心理操作みたいなもので……、少し気が引ける。

 今更な事であるが。

 

「……失敗条件は、私が解決する前に関係の解消を持ち出された時だな」

 

 そうすれば、私が解決する手段は無くなるも同然だ。

 彼女は当分の間、そうするつもりは無いようなのだが。

 

 

 

 ……小腹が空いたな。しかし夕食の時間はまだだ。

 

 小さいカップラーメンを買っていたのを思い出して、電子ケトルを起動しようとする。が、中身が無い。

 何時もは洗面台から水を補給している。ケトルを片手に持って廊下へ出ようとする。

 

《彼の居る部屋は……うう、どこなのか知らないぞ、私は……》

 

 その寸前に、思念が聞こえて手を止める。

 扉の目の前に居たから、ぶつかってしまうかもしれない。この部屋の扉は廊下側に開くのだ。

 

 しかし、二条院さんが私を? 一体何の用事なのだろうか。

 

 扉を少し開けて、気付いてもらう。

 

「おっと、すまない。邪魔だったな。不用意に扉の前で棒立ちしてはいけないな……って、倉井君じゃないか!」

 

「二条院か、ここに居るとは珍しい。誰かを探しているのか?」

 

 それとなく、二条院さんの用事を言ってもらう。

 

「ああ、丁度君を探していたんだが、部屋を知らない事を失念してな」

 

「仕方のない事だ。しかし私に用事か」

 

「うむ。以前、倉井君には幽霊が見えるという話を思い出してだな」

 

「確かに噂になっていたな。確かにその通り、霊と思われる類の存在は見えるが……」

 

 結構前の話だ。隠密行動している最中の恭平の事を、私は幽霊だと勘違いした、という風に話した時の事だ。

 

 あれから、透明化の能力を使っていても私の視界から避ける様になったが、詰めが甘いのか時折透明な後ろ姿を目撃する事がある。

 

「と言う事は、オカルト関連の相談か」

 

「相談、というよりかは、協力に近い。その()()()という目で、何も居ない事を確認してもらいたいのだ」

《これに付き合わせるのは、少々下らない様に思われるかもしれないが……》

 

「ふむ? まあ構わぬが、何処を視れば良いのだろうか」

 

「女子のフロアの、512号室。空き部屋だ」

 

「承った。今は大丈夫だが、すぐに?」

 

「倉井君が良いのなら、今すぐでも問題ない」

 

 まあ、ちょっと部屋を覗いてから戻るだけだ。

 

 

 

 

 二条院さんが鍵を取りに行って、それを待ってから直ぐに部屋へ向かう。

 

「ところで、それは所謂、事故物件と言う奴だろうか?」

 

「厳密には違うが……以前その部屋に住んでいた者に関して、妙な噂が流れているのだ。それで、その部屋の隣に住む入寮者から相談された」

 

「噂と言うと……」

 

「以前その部屋に住んでいた者は、今は体調を崩して実家に帰っているとの事だ。だから事故物件と呼ぶ条件とは当てはまらない筈なのだが……退寮する前に起こった出来事のせいでな」

 

 その出来事とやらを説明してもらうと、どうにも心当たりのある話だった。なにせ、入学して当初から時折聞こえていた噂話であるから。

 

 どうも、以前の住民はアストラル使いであったのだが、ある日の夜に、その能力を暴走させてしまったらしいのだ。

 その能力とは、空間や物体から温度を奪い、熱の移動という法則を裏切りそのまま熱を消してしまうという能力だ。

 話では、そこだけ冬の夜よりも早く水が凍ってしまうのではと思うほどの寒さだったらしい。とは隣人の談。

 

 当時体調を悪くしていたことから、熱の籠った身体を冷やそうと能力を使った、あるいは体調の所為で勝手に発動した、等と噂されているが、本人やその両親への連絡先を持つ者が居らず、結局原因は不明。

 

 と言う風な内容で、今まで学校中で細々と噂として語り継がれていた。

 

 

「ふむ……。そこで霊視を頼る、という事は、そのアストラル使いは今はお亡くなりになられた、と?」

 

「そうとまでは言わないが……。最近、また妙な現象が起きている様なんだ。……ここだ」

 

「ああ、この部屋だったか。そういえば家具を移動させていたな」

 

「その部屋だ。件の事件で家具も撤去されたらしい。私達はその交換をしていたわけだな」

 

 私が相談をよく受ける様になって最初の頃だろうか。二条院さんが申し訳なさそうに話しかけた時の事を思い出した。

 しかし、その時は何も無かった筈だ。恐らく今回も何もないだろう。

 

「では、拝見しよう」

 

「うむ」

 

 鍵を開けてもらって、そこへ踏み込む。と同時に左から右へと目線を巡らせる。

 

「一見は何もない様に見えるが……」

 

「私も一応探してみよう」

《ずっと任せるのも申し訳ないしな》

 

 一緒に部屋の四隅等を見てみるが、怪しいものは見当たらない。

 

「妙な現象、と言ったか?」

 

「そうだ、この部屋から物音がしたらしい」

 

「物音だと? この寮で隣の部屋から聞こえるのであれば、相当大きな物音だったのであろう」

 

「丁度その壁に寄りかかっていたから、音と振動が伝わった。と言っていた」

 

「なるほど」

 

 であれば、机等からなにか物が落ちたのだろうか。

 窓際やベッド、机の周りを探してる。私達が家具を持って来た時には、デスクライト意外何も物を置いてこなかった筈だが……。

 

 

「……む?」

 

「ん、何か見つけたのか?」

 

 二条院さんも何も見つからないと思っていたのだろう。驚いたように私に声を掛けるが、これは……。

 

「……私の小物入れだ。ベッドの足の傍にあった」

 

「小物入れ? まさか、落とし物をしていたのか」

 

「落とした事にさえ気づかなかった。私もいかんな」

 

《そうか、意外と気の抜けた所もあるのだな》

「見つかってよかったな。……しかし、こんな小物では物音なんて立たない筈だが……」

 

「いや、恐らくこれにベッドの足が乗っていたのだろう。何かの拍子で小物入れの位置がずれれば、足を踏み外したベッドの自重で、十分な物音が響く」

 

 この大きさならば大して傾かないし、その些細な傾斜に気付かなくても妙ではない。

 

「ああ、そういう事か。合点がいく話だ」

 

 これで話は解決するだろう。

 しかしこの小物入れ……いや、()()用の入れ物に関しては……。

 

「……私はこれで良いだろうか? 原因は案外拍子抜けだったが、収穫もあったのだしな」

 

「ああ、付き合ってくれてありがとう。いや、実は倉井君の眼で見てもらっても問題なかった、というお墨付きが欲しかったのだ。事故物件ではない以上、お祓いを呼ぶ事は難しかったが……。君は信用されているからな」

 

「ふむ? 私のお墨付きで納得するのであれば良いが……幽霊が見えるという話を鵜呑みにする程じゃないだろう。……そもそも、幽霊が居る居ないの話も同様か」

 

 幽霊の存在は半信半疑だったが、本当に居るかもしれない。という心理であれば、霊視に対しての半信半疑を、信用するという方向に傾けさせるのも容易であろう。

 

「まあとにかく、二条院さんのお役に立てて良かった」

 

「私こそ、協力に感謝する。……というより、倉井君は良いのか? よっぽど見当違いでない限り、殆どの相談に乗ってあげているではないか」

 

 はあ、その事か。

 確かに相談は多く受けているが、身から出た錆という事もあるし、私自身、持ちかけられた以上見逃すのが難しいという性分だ。

 

「何でも出来ると自惚れるつもりは無いが、出来る事はやってしまいたくなる。頼られて嬉しいというのもあるが、自分で取り除けない不安という物は、厄介であるからな」

 

「確かにそうだが……。んむ、それじゃあ倉井君も、何かあれば私を頼ってくれ。よっぽどの物じゃない限り、協力するぞ」

《私に今言える事はこれぐらいだが……!》

 

 有難い申し出だ。

 原作ヒロインとあまり深く関わるのは気が引けるが、純粋に嬉しいという気分で勝る。

 

「助かる。何かあれば頼ろう」

 

「うむ!」

 

 ただ、彼女に根底にある記憶には、彼の姿が強く刻まれている。滅多な事があっても、そこが揺るぐことは無いだろう。

 そういう意味では、気軽に関わる事が出来る一人であろう。




あと5話くらいで栗原さんの話は決着が付くと思います。そんな風な予定を立てました。
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