心透かしのジョーカー   作:馬汁

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Ep.20 ・ 騙る者が捧ぐエゴ。

「……素人のくせに、やるわね!」

《動きは明らかに経験が無い人なのに》

 

 幾つか点を奪い合って、一点差で不利の状況だ。

 実力差通りの拮抗、とも言えない。私が幾度となく防いできた失点は、この能力が無ければ許していた。

 

「種を明かしてやろうか? ……クク、この回で私から一点奪ってみせたならば、教えてやろう」

 

「種ぇ?」

 

 大久保さんがなんぞやと顔を上げる。潮風で涼しいとは言え、汗が流れている。

 

「言ったわね?」

 

「ああ」

 

 対して栗原は、不敵に笑った。鍛えているというだけあって、中々良い顔をする。が、足りない。

 

「さあ、続きだ。サーブはそっちだ」

 

「分かってるわよ」

 

 

 今の栗原に足りない物は……いや、正確には余分と言うべきか。それは、拘りだ。

 部活で大会に臨み挑んだ者だったからこそ持っている、スポーツマンシップ。言葉や拳ではなく、只々コート上での実力を競い合うという意志。

 

 それ合図にしてか、大久保さんのサーブが送られる。

 

「ぐ。受けた!」

 

《凄い……的確に受け取る……!》

「はい!」

 

 中々鋭い玉だが、分かっていれば受けられる。

 

 私の様に能力を使って遊んでいるのでは、それはスポーツマンシップに反するのであろう。

 

 しかし、法律上の問題は無い。アストラル能力者の能力は、包丁の様に扱われている。

 公共の場に持ち出す場合でも、その刃を大衆の目前に晒さなければ、良し。私有地内であれば、自由に扱える。

 

 そういう意味でも、これはズルなのだがな。

 

「……よし、良い位置だ」

 

 挙げられたトスは私の前であり且つネットの直前。私は既に、踏み込んでいる。

 

「はぁっ!」

 

《来た!》

 

 しかし相手のブロックも良い位置だ。ただ、私には直前で向きを変える程の技術が無い!

 

「やった!」

 

「ナイス!」

 

 苦し紛れに変えられた軌道は、やはり相手に拾われてしまった。が、しかし……!

 

《種だか何だか知らないけど……!》

 

「わ、ちょ」

 

《あ、しまった!》

 

《無理やりにでも取ってやる!》

 

 不安定にだが、トスによってネット前にまで上げられたボールを、栗原が無理やりスパイクの姿勢に持っていく。

 

 あれは、()()()()()()。怒りによるものか、スパイクの姿勢が不安定だから、そのヒマがないのか……どちらにせよ、これでは不利だ。

 向きが分からない、どこで受け止めれば良いかも分からない。そんな私をよそに、ボールが叩き込まれた。

 

「く」

 

「あ!」

 

 見てから判断するしか出来なかった私には、何のアドバンテージも無い。弱点を突かれたとも言うべき一瞬に、私はボールの軌道に反応できず、失点を許してしまった。

 

「やった!」

 

「……っし、二点差」

 

「栗原イエーイ!」

 

「え? ちょ」

 

 

「ふう、大口切った直後でこの有様とはな」

 

 ……遊びとは言え、ズルをして負けると言うのは中々来る物があるな。

 種明かしが、罪悪感という重しを外す切っ掛けになると良いのだが。

 

「これで二点差か」

 

「取れなかった……」

《むしろ届きそうな所に落ちてきたのに……》

 

「……当然だ、予測できなかったのだからな」

 

 体に付いた砂を払う。

 約束は約束だ。むしろ種明かしが無くては、今後が面倒だったまである。

 

「では種明かしと行こうか、栗原。と言っても私の友人二名は、既に察しているだろうが」

 

「え? 私?」

《なんかあったけ?》

 

「俺には分からんぞ。……あ、もしかして能力か?」

 

「そうだ」

 

 まあブラフを交えただけであったが、灰には分かった様だ。

 

「まず最初に謝らせてもらおう。私は能力を使った……と言っても、これは常時発動型の物だ。責められようとどうにもできん」

 

「能力? アストラル粒子が見えるんだったよね」

 

《そう言えば能力者だったわね……》

「粒子が見えるだけじゃ、どうにもならないと思うのだけれど……」

 

「そうでもないぞ?」

 

 嘘である。私が本当に粒子が見えるだけの能力者だったのであれば、能力面でのアドバンテージは確かにゼロである。

 このズルは私が心を読めるからこそのものであり、且つこの()()は私にしか粒子が見えないからこそ成り立つ。

 

「能力によるのだが、その者が意識を向けた先の空間アストラル粒子が、僅かに反応する事がある。簡潔に言うのであれば、能力者の打つボールは先読みが容易という事だ」

 

「ほえー、そうなんだ」

《なんか、一人だけズルいなあ》

 

 これが嘘だという点を除いても、この方法を実行するのは非現実的だ。彼女は能力を徹底的に封印している。そっとやちょっとでは、彼女のアストラル粒子は私の目に映らぬであろう。

 

「なるほどね。ズルだったんだ」

《種明かしとは言ったけど、ズルじゃ許せないわね……》

 

「クク、経験者と素人が対面するのだ。これくらいは許せ。加えてこの能力は止めることが叶わぬ。どうしようも出来ん」

 

《あ、そっか、常時発動型……》

「……まあ、そういう事なら良いわよ」

 

「仕方ないなぁ。でもそれなら……へへ、私もうっかり使っちゃうかも」

 

 大久保さんが冗談交じりに言う。大目に見ていても、やはり手動で発動する事になる能力では咎めざるを得ない。

 それに、彼女の能力が使われたら本格的にバレーが成り立たなくなるだろう。

 

「ちょちょちょ! くぼっちが使ったらダメだって。なろー系になっちゃう!」

 

「あ、そっか! へへー」

 

 私の代わりに部員の一人が止める。

 直接見た事は無いのだが、彼女の能力では確かに成立しなくなる。サッカー等であれば、ルール上封印せざるを得ないのだが。

 

「え、大久保って能力者だったの……?」

 

「知らなかった? 私、物体を手元に引き寄せる事が出来るんだー。ほら、こんな感じ」

 

 彼女が足元の砂に手をかざすと、確かにそこから一握りの砂が引き寄せられる。能力抜きで見れば、見えない糸で手元へ引かれている様な挙動だった。

 手を開くと、何事もなかったかのようにサラサラと落ちていく。

 

「……能力者だったんだ」

 

「だよー。リモコンとかスマホとか遠くに置いちゃった時とか、超便利」

 

「そ、そっか」

《能力、普通に使ってるのね……》

 

「良いよな、それ。特に常時発動じゃない点が」

 

 勝手に発動する千里眼を持つ彼がなんか言っている。色々見える事を良い事に、楽しんでいるのは知っているのだぞ。

 

《わかってはいたけど……アストラルが使えても、受け入れられるのね。この場所は》

 

「さて、種明かしも済ませた。先程の様な状況も弱点の一つである事を踏まえれば、私のズルも役立たずと言った所だろう。狙わずに乱暴なスパイクなりを放てば良いのだからな」

 

「でも逆に言えば、ギリギリを攻めた正確なショットは封印出来る……」

 

 私と同じサイドに立っている彼女が、一つぼやく。

 正にその通りである。相手の能力に合わせて対策をするという事は、相手の作戦も絞られるという事。

 

「届く距離に落とされようと、私では反応できないのだがな。では種明かしを済ませた後は、後半戦だ。気が済むまで私を負かすと良い」

 

 

 

 

 ……とは言ったが、本当に強烈なボールを叩きつけるとは思わなかった。

 

「凄まじいパワーであったな……。砂とは言え、クレーターが出来る程の威力など、中々見られぬ物だ」

 

「お前大丈夫かよ?」

 

「偽り無く言おう。慣れず負荷も大きい運動のお陰で、明日の筋肉痛を今から憂いてしまう」

 

「やっぱ無理してたんだなアレ」

《まあ彼女の前だし、無理するのも当然か?》

 

 息を荒げる、とまでは行かないが、体力の消耗と言う点ではあちらと雲泥の差だ。

 運動は出来るが、それを維持する体力が無い。この代償が明後日に襲い掛かる様な身体では無いのが幸いか。

 

「私はここでしばし休憩する。灰は私に構っていて良いのか? 女子(おなご)と遊びたいお年頃だろう」

 

「おなごっておま……。まあちっと心配しただけだ。大丈夫だって言うんなら、俺も気兼ねなく遊べる」

《海で遊ぶとか言い出したら、足でもつって溺れかねないしな……》

 

 その通りだ。

 が、その程度の危機管理は備えている。体が未熟な幼少期であれば兎も角、誰かに見てもらう程若くは無い。

 

「まあ、私は心配されるほど愚かではない。遠くから見てやるから、灰も一緒に遊んでいると良いだろう」

 

「分かったよ。じゃあ女子(おなご)とイチャイチャしてくるぜ~」

 

「ああ」

 

 

 その女子たちも、楽しそうにやっている様だ。バレー部の皆に加えて、栗原も居る。

 栗原に関しては皆のノリに引っ張られて、という所が強い様だが。

 

 ……灰の奴、水着姿に鼻を伸ばしているな。

 

 

 しかし、意外にも栗原は気を許している様だな。共通の敵と戦えば友情が生まれる、という物の実例が増えた。

 私のやり口によって反感を買っている所も確かにあった。……人の所為にする様な言い方になるが、大久保さんという存在も大きい。だから和解は難しいと思っていた。

 

 その辺りの予測が裏切られたのは、栗原と大久保さんの関係を、詳しく知る事が出来ていなかったからだろう。

 以前大久保さんと鉢合わせた際、彼女との記憶が嫌悪の感情に紛れてしまって、上手く読み取れなかった。

 

 だが改めて知る必要も無いだろう。あの様子であれば、今後また拗れてしまう、という事も無さそうだ。

 

 

「……潮の香りが心地いい」

 

 惜しむらくは、人が多いという事だろうか。

 喧噪が耳を悩ませるだけでなく、入り混じる思念が私を狂わせかねない。トレーニングの甲斐あって、と言う程効果は実証できないが、今は平気だ。初期症状は見られない。

 

 かと言って気を抜けば私は蝕まれてゆくだろう。アストラル能力者も多いのだし、リスクは高い。

 この場所で眠り心地に身を落とせば、恐らく私は狂う。気を張らなければ。

 

「我思う、ゆえに我あり。とはよく言う」

 

 正しく私を示す言葉であった。意識を抱え、記憶を背負い、であればそれは私だ。

 しかし私は、他者の意識と記憶を余りにも多く引き受けすぎた。

 

 果たして、今の私が答える私とは、一日前の私と同じ答えなのだろうか。

 

 

 

 

 ……まあとにかく、栗原の件だ。私が勝手に引き受けた相談も、締めくくりにかかっている。

 

 彼女の望む幸せというのは、曖昧で定義もされていない様な物だ。そもそも人によって異なる。精々、今まで続けていたスポーツとは離れた所にあるというだけだ。

 そんな哲学を語った所で、理解されるとは思わないが……。

 

 つまり、結局自分で見つけ、自分なりに定義しなければならないという事だ。これに関しては、今日のこれで背中を押せたことになる。

 

 二つ目に、彼女は同時に報復も望んでいる。報復とは言わば自己満足。それを人の身には相応しくないと説くつもりは無い。

 しかし私が関与して解決の一助とするのは、なかなか難しい。他人の言われるがまま報復を果たしたとして、自己満足できるかと言えばそうでもないのだ。

 

「友人への報復、友人の為の報復。……その何れも相当するとなれば」

 

 事情はかなり、複雑だ。





隙あらば自分語り。本編とは割と関係ない話なので、この後書きは読み飛ばすのもお薦め。



さて、執筆の調子もなんとなく戻って来た気がするので、ちょいちょい頑張っている所です。
無いやる気を捻り出して無理やり書いてる時もありますが、そんときの品質はお察し。


あと、なんも知らんで書くのもなんだと思って、軽く本物のビーチバレーの動画見ました。
アニメや漫画で見る、バシーン、ドカーン、スットコドーン、ズサー、みたいな感じとは縁がなさそうですね。

次いで衛宮ごはんのビーチバレーシーンを見ましたが、あれは人外だから参考にならんと別の方も見まして。
そして思った訳です。男がビーチバレーをやっても喜ぶ人は居ないと。

嘘です。やっぱり現実の地味なビーチバレーより、フィクションなりに盛り上がる展開の方が良いと学びました。
それを好むかは、やはり個人差でしか無いですが。
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