心透かしのジョーカー   作:馬汁

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Ep.21 ・ 嘗て見た彼の世界の一片。

 

「気は済んだ?」

 

「……」

 

 彼女の言葉に僕が返すべきは、無言。

 

 その日の帰り道。どちらの気が晴れたのかと言えば、間違いなく栗原の方だろう。以前よりかは清々しい顔が横に見える。

 

 遠くから、栗原の思念を地道に拾っていたのだが、中々の収穫があった。

 今まで知れなかった事情が知れ、解決への指標が立った。

 

「久しぶりのバレー、楽しかったね」

 

「……ええ、そうね」

 

 しかし完全にとは言えない。

 確かに本来の見立てよりも簡単に事が進んでいるが、まだ足りない。

 

 彼女は競技としてのバレーを忘れ、遊びとしてのバレーを思い出した。これで、ようやく一要素である。

 次に、別の所へ行ってしまった友人と、意思疎通を図らねばならぬ。

 

 栗原から読み取れる事情では、情報量が少ない。完全な解決を望むのであれば、合う必要があるだろう。

 

 幸い、私達が遊びに訪れた海とその辺りは()()だ。運が良ければ会える。

 

「……じゃあ」

 

「うん?」

 

「実は、僕が欲しい物の一つに、この付近でしか手に入らない物があるんだよね」

 

「そうなの」

 

「そうだよ」

 

《それじゃあ、この辺りで一旦分かれるのね。……いや、この辺って》

「……何をするつもりなの?」

 

 まあまあ察しが良い事で。

 と言っても、ここでなんの疑問が浮かばないのも無警戒が過ぎると言える。

 

「大丈夫。栗原さんの件とは関係なーし。流石にお友達さんの住所なんて知らないよ?」

 

「……」

 

 これで友達の事が心配になって、連絡を試みる様になればさらに良し。

 報復を望むほどには大事にしている友達と疎遠なのは、ダメだ。特別な理由があればまだしも、彼女からはそれは感じ取れない。

 

 確かに、相性が悪い友人と距離を取るのも大事だ。適切な距離感とは、必ずしも一定ではないのだ。

 

 

「お土産も持ってくるよ。……心配なら、一緒に来る?」

 

「いえ、そこまで心配していないわ。……でも、1つ気になる事があるのよ」

 

「気になる?」

 

「どうしてそこまで節介を掛けるの?」

 

「節介」

 

 と言われても。

 相談されたから、と言っても彼女の求める回答とは違うだろう。そもそも相談とは一言も言われていない。

 偽の告白を彼女のSOSだという風に受け取って、私が勝手に解決を目指し行動しているのみである。

 

《倉井が、私の事情を勝手に相談とかそういう風に曲解しているのは、もう今更だから良い。けれど……》

 

「……私が他者の相談を聞き、解決を目指すという行動理念。それを抱いた理由、であるな?」

 

 この質問の求める答え。それはつまり、これだろう。

 

「ええ。お人好しというには、少し度が過ぎるわ。尊敬はされている様だけれど、それが無かったらただの便利屋、使いっぱしりよ? 貴方」

 

 人聞きの悪い事を言う。

 確かにそういう者も居たが、対処は簡単だ。

 

「問題ない。大勢の目前で相談を受ければ良いのだ。もし人気の居ない所で受けるのであれば、大事な話か、あるいは私を陥れる話の二極。判断は容易だ」

 

「簡単なのはアンタだけよ」

 

「かも知れぬな。その判断を付けるには、専門知識を要する。私のみとはいかぬが、滅多に見かけぬのは確かだ」

 

「……っていうか、そういう話じゃないのよ」

 

 呆れた様に、しかし警戒心は保たれたまま、ため息が吐かれる。

 

「節介を焼く理由。動機、それを聞かせなさい」

 

「……貴重な時間をより良い物とするために悩むのであれば、簡単な手助けで済ませていた。愛の告白に悩む者であれば、勇気の言葉を与える。友との不仲に悩むのであれば細やかな助言を与えよう。素晴らしい青春が、より良い物とする為に」

 

「人の青春の為に? 信用ならないわね……」

《慈善活動程信用できない物は無いわ》

 

「クク……私の青春なぞ、優先するに値せぬよ」

 

「何よそれ。やっぱりしらばっくれてるの? ウソとかだったら容赦しないわ」

 

「事実だ。……そうだな、明かすと言えば、これも伝えて置いた方がフェアだろう」

 

「はあ?」

 

 まるで不良だ。物騒な態度である。とは言え一方的に事情を知ると言うのは気持ちが悪い。せめてどこまで知っているか、という事は明らかになった方が安心する。

 

「栗原に関して、私が知っている事だ。まず、栗原の在籍していた学校名に関しては調べるまでもなかった。しかし細やかなメンバーは知らぬ。どの学校と対戦を行い、何処で敗北したか、程度の範囲だ」

 

 ただ、何を知っているのか、と言っても正直に答える程愚かにもなれない。

 常識的な方法で知れる範囲に限り、伝える。

 

「大久保の在籍していたチームに敗北したのだろう? 栗原の事を覚えている様子だった」

 

 記憶を探ってみれば、栗原の名が出て来たのだから驚きだ。

 彼女らは、以前から既に知り合っていたのだ。

 

「そうよ。私の中学最後の大会で、そのチームに負けた」

《あんなバカみたいな、へらへらしてて真面目に練習もしない様な子のチームに……》

 

「……私の知っている事は以上だ。後の事は憶測だ。あのような経験をすれば、どのような気持ちを抱くかはそれぞれ……。しかし、こうも付き合いごっこを続けていれば、栗原の性格も知れてくる。当時の感情も、予想が付く」

 

「そこまで見透かされると気持ちが悪いわ」

《今更の事な気もするけど》

 

「……」

 

 駅前の交差点で、赤信号の所に当たる。

 聞いた事のある言葉だ。今世での両親が、似た様な思念を抱いていた。

 

 家族であるからと信用し、明かした末の事だ。

 

「では、別れようか?」

 

「……いいえ」

《まだ、目的は果たせてない。けれど……親友に希望を思い出させるなら、偽物で十分》

 

「む」

 

「……私と付き合いなさい。私の気が済むまでね」

 

「そうか」

 

 ……そういう事か。と思念の内から垣間見えた光景に、額に力が籠る。

 その思念の一片に、今まで知る事が出来ていなかった事実が含まれていた。

 

 舵を、また別の方へと切らねばならない。

 

 

 

 

 一人、アスファルトの道を辿る。

 栗原とは離れ、別に行動するとは言ったが、あの事実を知った以上その目的は果たせなくなった。

 

 元々、この周辺で栗原の親友であった者を探すつもりだった。

 その姿を見つける事が叶わなくとも、その者を知っている人々から情報を得られれば上出来だとも思っていた。

 

 しかしその者は不登校だった。

 

 これでは会う事は出来ないし、彼女の住所まで突き止めたとして、出来ることは窓越しに思念を拾う事のみだ。

 

 

「……仕方ない」

 

 予定を変えて、探りを入れるのは止めにしよう。せっかくの遠出なのだから、書店でも訪れて、珍しい書物を探ってみるのも良い。

 

 

 

 学院から遠く離れた土地へ行くのは、こちらへ越して以来今日が初めてだ。

 この辺りまで来ると、アストラルを認める者は少なくなる。研究都市の外側なのだから当然だ。

 

「……」

 

 書店だ。予定を変える事はせず、そのまま入っていく。

 

 この辺りは、私が生まれ育った町よりは控え目だが、アストラルを嫌がる者が多い。

 学院生活で、世間のアストラルに対する風評を忘れた私が、この環境の変化で狼狽える……という事は無かった。身近な所にアストラル能力者を嫌う教師が居るから、この通り気分は平常。

 それに、アストラルを嫌うと言っても、なんとなく嫌がっているという程度が普通だ。それより問題なのが、“世論がアストラルに否定的だから、何をしても良い”という様な人だ。

 ああいった人種は、理由があれば暴れ出す。何時のご時世も同じような物だ。

 

 ……お、この本は見たことが無い。ビニールで包装されているから立ち読みは出来ないが、この筆者は知っている。きっと楽しめるだろう。

 

「これを……」

 

《くそ! あの女どこ行った?!》

《何なのこの男、しつこいわね……!》

 

「……」

 

「お預かりしますね。こちら600円となります。……お客様?」

 

 こんな時に、厄介事だ。

 普段であれば無視している所だったのだが、この思念に籠められた感情は……。

 

「むぅ……。千円。おつりは募金に。レシート無し。すまぬ、私は急がせてもらう」

 

「え、お客様?!」

《募金箱なんて置いてないよ?!》

 

 

 追わなければ。

 思念の方向は、確か向こうだ。距離は近い。恐らく……。

 

「……ここか」

 

 繁華街。様々な商店が並ぶ道で、人通りも多い。

 

《さっきの人、何を急いでたんだろ……》

 

 この方角だ。

 ……あの思念。あの感情は危険だ。すぐに確保しなければ……。

 

《あれ何だったんだ? ……ん、どこに歩いてんだ俺》

 

《さっきのどうしたんだろ……あれ、私どこに向かってたんだっけ?》

 

 ……認識阻害か?

 いや、この人々の反応は……、方向感覚の妨害? なんだその限定的な能力は!

 

 しかし周囲の人々に能力を使っているのであれば、追跡は容易な筈。

 

 奴のアストラルは、覚えた。この方向の……右!

 

「……見つけた!」

 

《クソッ、どこ行った!》

 

「……?」

 

 思念の元は見つけた。

 しかし……彼に色は見当たらない。これは……。

 

「ち……。オイ、何処見てんだオラ!」

《……どうして真っすぐ追い掛けられなかったんだ? あの女……そうか、アストラル能力者だったな。クソ……》

 

 ああ、そういう事か。

 私が追う必要は無かったらしい。方向感覚を狂わす能力を使っていたのは、追われる側だった“女”だった。

 

 全く、人騒がせな……。

 しかし、何故追われていたんだ?

 

「……失礼した」

 

 命の危機が無ければ、良いだろう。

 

 妙に、疲れた。

 背を向けて、この場から立ち去ろうとするが……。

 

《本部に連絡しねぇとな。目立っちまったし、大目玉だろうなあ……》

 

「……?」

 

《さっきのアイツは……よし、行ったな》

「……こちら豆鉄砲。目標をロスト」

 

 ……まさか。

 

『そうか。残念だが、犯行を未然に防いだだけでも十分だ』

 

「すいません。それと追っている最中、大通りに出てしまいました。目立ってしまったかも」

 

『分かった。気を付けてくれよ。特班の存在は、敵対組織に対しては勿論、市民に対しても明らかにしてはならない』

 

「了解。肝に銘じます。それとあの女の能力ですが……」

 

 ……まさかのまさか、だった。

 下手に近くで盗み聞いていては、怪しまれる。

 

 感付かれる前になんとか気配を消し、この場から立ち去った。





 能力に付いて一部解説。今更。

 携帯等で通話している人物に対して思念を読み取る場合、本人の思考の他に、その者が聞き取っている通話相手の音声も聞こえます。しかし、通話相手の思念を直接読み取っている訳ではありません。
 正確には、対象者が聞きとった言葉を聞きます。もし対象者がキウイをキュウリと聞き違えたら、思念を読み取った際にも聞き違えた方に準拠します。そんな感じです。今考えました。
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