心透かしのジョーカー 作:馬汁
つまり説明口調がくどい。
今回はそれが顕著なので、予めご了承ください。
「私の為すべきは……」
薄い笑みを浮かべ、瞼を上げる。
人が見れば瞑想を連想するような座り格好から、足を解いてベッドに座り直す。
決心は、結果を約束する事には直結しない。ただ約束されるのは、その行為によって何も変わらぬ事など無い、ということ。
さて、先日の読心偵察により、恐らく能力者を排する側の組織の計画が進んでいる事が予測される。
時期は不明。だが隙を当て刃を仕向ける術が彼らにある。
ここで担任教師を務める彼女、柿本香里は後の物語で奇襲の機会を図り、実行する一場面がある。同じような手段が取られる可能性が、今回もある。
組織に対する妨害、そして彼女らの未来をより良いものとする為であれば、三司さんの側で手伝うのが良いだろう。
恐らく、これが最も効果的な選択。
私の知る物語から外れてしまう可能性を、無視するのであれば。
「私が嘗て見た、彼との未来は約束されないだろう」
主人公と、メインヒロイン。触れれば根底から揺れ、物語全体に影響を及ばしかねない。
「……であれば」
立ち上がり向かう。その先で、友人の部屋を訪ねた。
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「おう透。どうしたんだ?」
「簡単な頼み事だ。話が長引かない程度のな」
「簡単? ……本当に簡単か、それ? お前の言う事って、大体胡散臭いんだよ……」
目を細めて私の体を見つめる。
漏れ聞こえる思念からして、私がなにか隠し持っていないか見ているようだ。
「大した物ではない。それこそ公序良俗に反しないものだ」
「悪いことする奴は皆そう言うんだよ」
「そうか? クク……。まあ安心すると良い。三司さんを見かける機会があれば、顔色を見てやってほしい、という頼み事だ」
彼女を意識している者が多い程、有事に動ける可能性が高くなる。
少なくとも、後になってようやく気付く、というリスクは収まるだろう。
「あー、三司さん?」
《なんであの人が名前が……》
「態々付き添ってやったり、贔屓する必要はない。下心があれば止めぬがな。ただ、顔色を悪そうにしていれば声を掛けるぐらいはしてやって欲しい。手が回らなければ、私に伝えるが良い」
《ああー……》
そう話してやれば、彼は納得するような思念を零す。
「本当にその程度で良いのか? いや、なんか拍子抜けでさ。……っていうか、やっぱり相談役としては気になるのか。三司さんのこと」
「そうでなくとも、彼女の仕事の多さに気が掛かる。抱えているであろう心労を顔に出さないという点にも、不安が募る」
《やっぱよく見てるよなあ、コイツ……》
「……あ、でも声を掛けるって言っても、俺なんて言えば良いんだよ? 月並みなことしか言えないぞ俺」
「思いつかぬのか? 口説き文句程度なら、数え切れぬ程振りまいていたものかと思っていたが」
「俺そんな風に思われてたのか? ちげーし」
不満げに否定されて、しかし私は笑みを浮かべる。
「クク……。まあ、思うようにするが良い。何も思いつかぬのであれば、私に一任するのも良いだろう。私にとってこの話の核心は、三司さんの異変に気付ける能力を活かすという点に留まる故」
「じゃあ俺は見てるだけと言うことで、あと任せちゃって良いか? なんて言うか、高嶺の花って感じがして、話しかけづらいんだよ……」
ではそうしよう。
この頼み事の目的は、彼女の異変に気付ける切っ掛けを増やすところにある。
「では、見守っていてくれ。……灰、話を聞いてくれて助かった」
「普段から相談を聞く側だからなぁ、お前は。頼ってくれて嬉しいぜ、ウンウン」
《いつ見ても誰かに頼ってる様子は見かけねえし、やっぱ……完璧なやつなんて居ないんだな。透も、三司さんも》
何故か母親であるかのような眼差しだが……まあ、良いだろう。
「では。用事は以上だ。礼として、機会があれば何か食事を奢ろうか」
「おう、とびっきり旨いラーメン屋でも探しておくぜ」
これで良いだろう。
目があれば、異変に気付ける。
しかし、ただそれだけでは足りない。人の目を盗み行動する彼らに先手を打つには、兆候を見逃さないことが大事だ。
「……」
「ん、どうした?」
表立った行動をしては、怪しまれるだろう。周防恭平という監視者が居る状況では、リスクが高い。
あとは私自身が、能力を駆使して周囲の警戒を続けるぐらいしか出来ないのだが……。
「……いや、監視カメラか」
「は?」
嘗て私が見た物語で、三司さんはこの学院で襲撃を受ける。教師と言う内通者により、彼女は人気のない暗い道を一人で歩かせられ、監視カメラの範囲を避け的確に事を為した。
この学院の監視カメラは、茂みや樹木に扮して配置されたものもある。
原作では主人公が経験と知識で以て配置を見抜いていたが、私には備わっていない。
敷地内を動き回って、ダークヒーローの如く暗躍しては、あっという間に正体が明かされてしまうだろう。
学院の施工図等が手に入れば、把握は容易だが……。
ともかく、第三陣営の存在を疑うべきか。
「なんだよ、監視カメラって」
「灰のあだ名を考えてみたのだが」
「いや無えよ」
「クク……」
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監視カメラと内通者、この単語を並べて漸く私は違和感の正体に気付いた。
教師という立場を持つ内通者が居るから。であれば当然、敷地内の情報は既に筒抜けだろう。
これが違和感の正体だった。彼らには、人員を送り出してまでして偵察を行う必要はなかったのだ。
では、私が目撃したあれは何か。
簡単に言えば、第三陣営なのだろうと私は考える。
まず第三陣営の存在を仮定するなら、ある意味ではこちらの対応が楽になる。何せ物語に登場する組織と言えば、大きく分けて特班、反アストラルの組織、そして学院だ。
その何れに該当しない組織であれば、物語の改変を懸念する事無く、大胆な行動だって可能かもしれない。
逆に言えば、その様な組織に私が関与せずとも、登場人物への害は殆ど無いのだろうが……。いや、それは関係ない。
私は今のところ、知るという所に主眼を置いている。関与するか、自然がまま為させるかは後の判断だ。
「……とは言え、退学を迫られる可能性のある行動は出来ないな」
では、どうするべきか。
……学院内での行為を見咎められるのであれば、外部で活動するのも選択肢か?
これは……いや、悪くないかもしれない。
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「ここか」
私の知る物語では主人公の行動圏といえば殆ど学院内部だったが、私もそれに習う必要は無いのだ。丁度夏季休暇の最中であるのだしな。
「ふむ……」
撮影クルーが属する新聞社を把握する為、以前と同じように三司さんから情報を引き出した。
名前が分かれば地図アプリで住所の特定も出来る。
……と思い切ったのは良いが。
ここでの出入りは少ない様だ。敷地は大きく、恐らく内部に食堂も抱えている。取材に出向くであろうスタッフも、殆どは車を利用する。思念を読み取れる時間は少ない。
職員から情報を引き出す事が出来るとすれば……。
「……分の悪い賭けになってしまうな」
最寄り駅やバス亭の辺りで張り込むしかないが、目標の相手が車で出勤していれば、何も得られない。
リターンは組織の情報。リスクは電車の移動費か……。
「夏休みの内に行動できるのを幸運と見るべきか、あるいはこの太陽の下で待たねばならない事を不幸と見るべきか」
日焼けクリームの出費も、リスクの一つに加えられるだろうか。
とりあえず数日、張り込んでみるとしよう。