心透かしのジョーカー   作:馬汁

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Ep.25 ・ 真実を見抜ける眼。

 

 

 数えて五日目か。そろそろ諦めるべきだろうかと、本片手に思考していた私が顔を上げる。

 人々を見渡しての人間観察にも飽きてきた。バレー部員を探す時は、学院内と範囲が限られていたから手身近に済んだが。

 

「……くぁ」

 

 欠伸が噛み殺しきれずに漏れる。

 

 もし目標の相手がこの道を通っていたとして、私の能力で感知できる範囲内で、証拠となり得る思念を拾える可能性は100ではない。

 私の目の前で明日の飯の事なんぞ思考されても、何も疑いようが無い。

 

 

 ただ、全うな社員としてやっているであろう者から、あの新聞社に関する情報は引き出すことが出来た。

 鷲須研究都市内に住所を置くこの新聞社の内部では、アストラルに対して好ましく思っていない者が居る様なのだ。

 市外からの転任だかなんだか。

 

「はぁ……」

 

 そんな情報が何かに役立つとは思えない。

 それに日が傾いている。そろそろ帰らねばならないだろう。

 

 仕方ない……。収穫は無いとして、何か別の方法を考えよう。

 

 が、その前に。

 ここに通い始めてから気になっていたラーメン屋にでも寄ろう。ここまで遠くに行ったのならば、目に付くラーメン屋の看板も相応に多い。

 これだけ苦労したんだ。報酬が無ければな。

 

「空腹の度合いも、丁度良い。流石に若者の身体と言うべきか」

 

 凝り固まった足腰をストレッチで解してから、その方面に向かう。

 少し歩くが、遠くはない。地図を確認しながら辿り着いた先は。

 

『ワシズらーめん』

 

 なんて看板を掲げたラーメン屋だった。

 直接見るのは初めてだが、以前から地図アプリにちらちらと映っていた。五日間それを続けていれば、入ってみたいという欲が出るのも当然だった。

 

 

 ラーメンとは、原作やそのシリーズにおいて何かと因縁のある食べ物だったと記憶している。それを抜きにしても、前世からも好んで食べていた。

 我慢するのは、寧ろ私にとっては毒だとも思えてしまう。それぐらいは好みだ。

 

 入店して早速券売機からラーメンの並を購入。こうして不健康な食事を取れるのも、若者の特権か。

 

「ハイ、お好みはドシマショッ」

 

「麺硬めで」

 

「アイ。承りマシャッ」

 

 ……この待ち時間が腹を刺激する。隣から漂うラーメンの香りから、この店は外れでは無いと確信させる。

 隣に座る彼も、中々豪快な食べ方を好む様で。胡椒やニンニクを駆使して、様々な味変をしている。好奇心旺盛なのだろうか。

 

 

《ハフッハフ。ううむ、やはりこの量で入れると旨い。小次郎系列としては変わり種だが、毎日食べても飽きが来ないのは組み合わせの余地があると言うことに──》

 

「……」

 

 しかしあの顔、何処か見覚えが……。

 

 いや、人の事をまじまじと見るのはマナー違反か。

 辺りを見渡すのも程々に、スマホで読みかけの小説を開く。ここにはテレビが置かれているが、目を惹くような内容ではない。

 

《監視カメラの場所を覚えるだけで一ヶ月ラーメンが食えるなんて、最高だな!》

 

「え」

 

「ん?」

 

 しまった。目線の先を彼の背後にあるテレビ画面に移す。

 

「値上げ……」

 

 ちょうど有名商品の値上げ報道が映っていたから、その内容を呟いて見せた。そうすると彼も振り返って、テレビ画面の方を見た。

 

 それを確認して、机の裏でスマホを操作する。起動するのは地図アプリだ。

 

 マークしていた新聞社の住所。そして現在地であるラーメン屋。最後に最寄り駅。

 これを線で辿ると……見事にくの字に曲がっていた。新聞社から最寄り駅まで一直線に行くルートから、このラーメン屋は十分に離れていたのだ。

 

「はぁ……」

 

《あの人このお菓子好きなんかな……。嫌だろうなあ》

 

 確かに、嫌だ。キツイ。一生懸命道端で張り込んでいる間に、彼はのうのうとラーメンを食べていたのだ。それも五日連続、毎日。

 私の精神を言葉で表すならば、「げんなり」が相応だが。……彼も彼で、毎日小次郎ラーメンというのも如何なものか。身体への負担を懸念すべきだ。

 

 

 ……まあ、良いだろう。この時点でも収穫はあった。

 どうやら彼は、何処かで情報を売ったらしい。事前に依頼されて情報を入手したのか、自発的に情報を仕入れて売り先を探し求めていたかで、実態は変わるが……。

 

《まいいか。うし、明日もまた来よう!》

「ごちさんでーす!」

 

「アイアットゴザッシャー!」

 

 ……また明日、こっちのルートで張り込むか。いや、強気に出ても良いか。

 どのような情報が得られても、それで最後にしよう。

 

「お待タッシャー。ラメンナミモリッ」

 

「ありがとうございます」

 

 このラーメンは情報が得られることへの前祝い、と言う奴だ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 思念から情報を得る際、気を付けるべきことがある。

 私の能力は、あくまで思考を覗き見る事に留まる。それ以外の情報、特に記憶を読み出す際には、能力を応用する必要があるのだ。

 

「……」

 

 そのための、この格好だ。

 コンクリート壁に溶け込む灰色のパーカー。顔を覆い隠す黒のマスク。動きやすいズボン。そして手袋。

 一応お守りにナイフも。

 

 ……こんな反社会的な恰好をするのは避けたいのだが。

 

「嘆かわしいが……仕方あるまい」

 

 遠目に見張っていたラーメン屋から、例の姿が見える。食事が終わった所を邪魔するのは忍びないが……、恨むのであれば自身の行いを見直してからにしてもらおう。

 

 

 

 

「おう、ラーメン旨かったか?」

 

「えっ?!」

 

「報酬の使い道には文句は言わねえがな、でも毎日ラーメンはどうかと思うぞ」

 

「あ、は、ハイ。ども……どなた──?」

《らーめ……あ、報酬? って、もしかして》

 

 振り向こうとする彼の肩を掴んで、止める。

 

「振り向くな。歩け」

 

「っ……」

《う、まさか。いや、でも……ううっ、ま、まさか指詰められるんじゃ……》

 

 ……ヤクザにでも情報を売ったのか? 話せば分かる事だろうが。

 

 

 確かこういう事が原作にもあった。

 能力により偽造された偽札が発見され、その能力者を尋問に掛けるシーンだったか。

 

 その時の話を思い出しつつ、人目の付かない所まで誘導する。

 私も彼に倣って……ちょっとした尋問と行こう。

 

「お前が寄こした情報。あれで全部か?」

 

「あ、あれ以上は知らない。敷地全体を歩き回るなんて出来なかったし、そもそも仕事と並行してだから……」

《あのデータ以外に役立つ物は無いし……》

 

「そうか」

 

「で、でも何で俺の事が……」

 

「調べれば分かるもんだ」

 

 物理的にではなく、インターネットを介してのやり取りだったのだろうか。

 それは兎に角、今必要な情報は彼らの規模、目的、そして計画だ。この男からそのすべてが得られるとは思わないが。

 

「自己紹介が要るか?」

 

「ええ、いや、別にそんな……」

 

 さて、平和な尋問でどれだけの情報が引き出せるか……。

 

「俺は偽の名前しか言えないが……お前が情報を渡した組織。実は二つの派閥に分かれていてな。対立している方に情報が渡ったせいで、こっちは何も入って来ないんだ」

 

「え、ええ?」

 

「心配するな。カタギは巻き込まない。ただ情報が欲しい」

 

 

 そうやって突けば、情報が出てくる。けど湧き出る程ではない。

 まず監視カメラの情報。これは素人が探って得た物だから、精度は期待する物じゃない。

 

 だとすれば、そもそもこの男に情報を求めるのも妙に思えるが……。

 

 次に組織の事。

 主にメールのやり取りだったから、やはり組織の情報を得るのは難しい。一応、メールのやり取りは見させてもらったが。ヤクザ組織の様な暴力団、どこぞの企業の秘密組織、あるいは個人。どれも可能性はある。

 

 そのなかで一番可能性の多いものと言えば、個人だろうか。もし組織だったのであれば、そのメンバーで清掃員や取材クルーに扮するくらい簡単だったろう。その方法が取れない程に小規模な集団が、この者に頼った。そう考えた方が良い。

 

 依頼を受けた経緯も、学院への取材が決定した途端にメールが来たとの事。新聞社内の情報が伝わりやすい立場の者が居るのか。

 

 

 ここまで素直に語ってくれると、これ以上の情報を思念で探る必要も無かった。偽りや疑いなんかも見当たらなかった。

 

「……そうか、最小限に関わっていた様だな」

 

「そ、そう。だだだからえっと……東京湾に沈められたりしないよな?」

《ドラム缶にコンクリートで沈められて……》

 

 ここから東京までどれぐらい遠いと思っているのだ、この人は。

 

「悪かったな。ほら、予算は回んなかったから、俺のポケットマネーだが」

 

 後ろから手を出して、紙幣一枚を肩に乗せてやる。

 

「うぇっ?! あ、ありがとうございます……?」

 

「じゃあな。偶にはラーメン以外も食えよ」

 

 

 ……危ない橋を渡った割には地味な情報だな。

 まあ、組織としては小規模、あるいは個人である可能性が高いと分かれば、少しは安心できるか。

 

 特班と言う情報網と後ろ盾があった彼らが羨ましい……。

 

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