心透かしのジョーカー   作:馬汁

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Ep.2 ・ 真なる命を知れ。

 この世界……正確には、リドルジョーカー原作においては、マルチエンディグが採用されている。

 複数のヒロインが存在し、選択肢を交えた交流の後、各ヒロインのルートへ進行する。

 

 このルートで、作中の状況はかなり変化する。

 極端な例を出そう。まず、とあるルートでは主人公が痴漢事件の解決に挑む。このルートは、その他のルートよりもかなり平和だ。

 そして第二のルート、今目の前に居る式部さん。彼女のルートに進行すると、身を裂かれん程の突風という災害が学院を襲う。

 

 しかしその末には、やはりハッピーエンドが待っている。式部さんの密かな目標の為に続けられた研究は、見事達成される。これには主人公の協力が必要不可欠だ。

 突風の原因となった能力の暴走、これを抑える物が完成し、暴走を起こしてしまった能力者は無事日常を送る事が出来るようになる。

 

 ……一方、痴漢事件を解決するルートはどうだろう。

 まずヒロインが痴漢事件を解決しようと提案し、主人公が協力し……解決する。かなり略したが、それでこのルートはエンディングを迎える。

 

 前世の私は深く考えていなかったが……このルートの場合、式部さんは主人公の協力を得られない。よって暴走を抑える手段は見つからないままになってしまう。

 

 一応、その様なルートでも救いはあるのだが、万が一がある。それに備えて、私にできることは……。

 

「それじゃ、回収するね」

 

 ……思案しているうちに、検査の一つが終わった様だ。

 

《お、多い……意外と結構多いよー!》

 

《こんなに項目が多かったなんて……》

 

《あとの項目は6つ。噂に聞いた通りだな》

 

「じゃ、次はこれをお願い」

 

「は、はい」

 

「ごめんね。でもこれが終わったらあと半分だから」

 

「……」

 

 今私たちが行っているのは、アストラル能力の確認である。

 作中でも主人公たちがこれを行っているが……いかんせん、私の能力は色々と拙い。

 

 読心能力。人間の心を読み取られてしまっては、世の企業秘密は、はたまた国家機密でさえ、その隠ぺいの為に費やされた努力が無に帰してしまう。

 故に私は、知られてはならないのだ。私の能力が何であるかを。

 

「……ふむ」

 

「えーっと。倉井くんだっけ? キミはもう寮に行っても大丈夫なんだけど……」

 

 因みに、私は身長と体重の測定を終えて、ここで座して待っている。能力が露見するという懸念は欠片もない。

 

「不都合が無いのであれば、ここで待つのを許して頂けるだろうか。同じ境遇の者と交流したいのだ」

 

「そう? じゃあ、もうちょっと待っててね」

 

「ああ」

 

 すでに私は、AIMSの登録を完了している。この研究都市では、全住民の登録を必須としているが、外部でもこれを行う事は可能だ。

 

「あ、じゃあお話してもいいかな」

 

「無論。何だ?」

 

 最初に話しかけてきたのは、やはり大久保さんだった。この中ではあまり緊張が見られなかったから、気軽に話してくれるだろうと思っていた。

 

「アストラルってさ、どんな感じに見えてるのかな」

 

「視界の上では、無色だ。しかしアストラル能力による干渉を受けると、色が付く」

 

「へー」

 

 本当だ。私のアストラル能力は読心なのだが、見えるのは心だけではない。今発言した様に、アストラルの感知も行える。

 

 他者がアストラル能力を使用した場合、それを察知する。それが私のアストラル能力だと、公に称している。

 今行っている検査も、過去に一度経験済み。その際返ってきた結果は『対象のアストラルと自身のアストラルが共鳴するタイプ』である。当時検査に携わった職員も、私が明かしている能力と合わせて納得している。

 

 まあ、一度検査を行ってしまえば、今後発覚される心配も無いだろう。

 

「私が見えるアストラルの色だが、これには人によって個性がある。その人からまた別の色が現れる事は無い。……そうだな、式部さんの場合、私からは紫色に見える」

 

「へー、紫色なんだ」

 

「ああ。品位と厳格な印象を持ちつつ、人々を優しく導くような紫だ」

 

「おお……なんだか、そう言われると照れちゃうな」

《優しく導く様な、かあ。嬉しい言い方をしてくれるなあ》

 

 と、思い付きで良い印象を持てるような補足を加えたが、好評の様だ。では、他の人にも同じように言ってみるとしよう。

 

「そして大久保さん、貴方のアストラルは青く見える。そうだな、晴天の下で波打つ海の様な青だ」

 

「おー!」

 

「錦織さんは赤い。しかし太陽の様な熱い赤では無く、静かな山を美しく彩る紅葉の赤だ」

 

「へっ? あ、あ、ありがとうございます……」

 

 これで少しは気を許してくれるだろうか。……さて、最後に彼だが。

 

「あ、じゃあオレは?」

 

「花島さんはピンク色だ」

 

「……えっ。それだけ?」

 

「R240、G100、B120と言った所か」

 

「え、あ、カラーコード?」

《なんで俺だけ雑……いやある意味正確なのか……?》

 

「……いや雑じゃねえか!」

 

「ふっ、ククク……」

 

 やはり面白い。……が、初対面にも関わらず弄りすぎてしまうと距離を取られる。今回は軽くに留めておこう。

 

「ああ、すまない。貴方の場合はピンクと言うよりも桜色だ。人々が心を弾ませ見上げる、満開の桜の様な色……と言おうか。虚言ではない」

 

「そ、そうかよ……」

《ぜってーさっきのダジャレの所為だ。面白い人認定されてる……》

 

 違いない。

 

「それにしても、よくそんな詩的な言い方を思いつくね」

 

 感心した様に、大久保さんが話しかけてくる。式部さんも同じことを思っていたのか、頷いている。

 

「特技と自負出来る程度には。長年の読書の賜物だろう。読むものは小説や漫画とは言ったが、以前詩集を開いた事もある」

 

「詩集か、渋いなー。お気に入りの詩とかあるの?」

 

《……紫式部とかか? ……式部さんと、紫式部。いや何考えてるんだオレ》

 

「そうだな。今も心に根付いているものが一句ある。それは……」

 

 能力の検査が続く中、私が話の流れを作った途端に時間の流れも軽くなり始めて、ふと気づけば全ての検査が終了した。

 検査開始時は沈黙ばかりだったが、雰囲気は良い方向に解れてくれたようだ。

 

 

 

 

「到着、ここがキミ達の寮だね。後は先生に案内してもらえると思うから、ここでお別れ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「じゃ。あっ、私もこの寮だから、会った時はよろしくね」

《さて、ちょっと長引いたけどいい気分転換だったかな。じゃ、論文の続きを……》

 

「「「ありがとうございましたー」」」

 

「どういたしましてー」

 

 

 さて、ここからは先生が案内してくれるとの事だが……。ふむ、寮長である二条院さんの顔が見れるのではと期待していたが、それは難しいだろう。合流した先生の顔を見て、頷いた。

 現在、二条院さんは1年生だ。しかも4月にもなっていない頃から寮長と言うのも、いくら正義感の強い彼女でも不可能だ。寮長を決定するのは入学後しばらくになる筈だ。

 

「この寮規則ですが、この後の夕食にて点呼が取られます。夕食が午後7時から8時まで。門限も7時半までですね。入浴も……」

 

 ふむ、やはり私の知る規則と同じだ。記憶にある原作知識と一致する部分を見聞きすると、どうしても心が躍ってしまう。

 長年待ちわびていた瞬間なのだから、仕方ないと見逃して欲しいが。

 

「で、消灯は23時。この寮での1日の流れはこんな感じです。主な規則は以上ですが、なにか質問はありますか?」

 

「はいはーい、県外からの引っ越しって訳で前泊させてもらってますけど、当日の人たちはいつ来るんですか?」

 

「予定では明日の9時です。あ、でも入学式まで顔は合わせられないと思いますよ」

 

「そうなの? 残念」

《じゃあ今日は4人で話そっかなー》

 

「入学式が終わったら、何時でも交流できると思いますよ。あ、でも荷物の整理で大変かも」

 

「分かりました。ありがとございまーす」

 

 交流か。私の得意分野ではあるが……。

 

「それでは、これからは自由時間ですね。これが皆さんの部屋の鍵です。あ、寮内だけじゃなく校舎の方でも使うので、登校の際も持って行ってください。後オートロックなのでインキーとかしない様に。万が一その様な事があれば、寮長をはじめとする管理人に連絡してください」

 

「了解です」

 

「わ、カードキーだ……」

《失くさないかな……。チェーンとか買った方が良いかも》

 

「ではこれで。私はあの部屋に居るので、なにか問題があれば来てください」

 

「はーい」

 

 これから自由時間になる様だ。

 

 

 

「ねーね、夕食一緒に取らない?」

《この寮の食事なんかも気になるし》

 

「私は構わないが」

 

「え? ウチは……えっと、もし良かったら」

 

「オレも」

《つか、オレ行かなかったらアイツハーレムだし。それは許さんぞ》

 

 ……その様なつもりはないのだが。

 

 

 そこからは自由時間。ではあるものの、私は部屋の整理をしなければならない。

 急ぐものではないが、このダンボールを全て片付けるまで暇は無いだろう。

 

 ダンボールを切り開けば、現れるのは私の服と、大量の本。今の時代は電子書籍が主だが、私の場合、繰り返し読む程気に入った物は、書籍として購入している。

 

「……と、こういった整頓の際に本の表紙が目に付けば、抗い難い誘惑に襲われるのだが」

 

 まあ、我慢だ。

 組み立てていた本棚に並べて、また別の本をダンボール箱から出す。

 ほう、これはかなり昔に買った物だな。また久しぶりに読んでみるか。ミステリージャンルであり、明かされた謎もまだ記憶にあるが、読み返してみれば面白い物なのだ。

 

 今の状況も似たようなものだが。この世界の物語を知っている私からすれば、裏側で蔓延る組織や思惑等、娯楽のスパイスとさえ思えてしまう。

 流石に、ゲーム感覚でこの生を送れるものではないが。

 

「……この世に苦楽と生き死とがあるならば、かの電子の世界とどうして同一と言えよう」

 

 生きとし生けるもの全てを虚構と侮るならば、この世に生きる私こそが虚構なのだと知れ。

 

 戒めよう。

 そして、この世こそ真実なのであれば……。

 

 




因みに古文とか古めかしい言い回しとか、そういうのに関してはそんな知識ありません。調べる程熱心でも無いです。
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