心透かしのジョーカー   作:馬汁

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Ep.30 ・ 私は未来の礎に成り得ぬと。

 

 柿本先生と話していた副代表の件は、一夜で結論が付く事では無い筈だ。責任という言葉が重い現代社会に置いて、こういった組織では、たった一つの決断に多くの時間を割いてしまう。

 

 のだが、今回は例外である様だった。

 

 依頼を受けてから翌日。朝すれ違う教師らの様子からして、件については結論が下りたらしい。それが彼女に伝われば……そろそろか。

 昼休みを迎えたタイミングで三司さんに意識を向けると、私の予想通りに彼女も私へ目線を送っていた。

 

「倉井さん。ちょっと良いですか?」

 

 目が合ったタイミングで静かな愛想笑いを浮かべる彼女は、生徒代表の三司さん。呼びかけられたのは勿論私だが、集まる視線に羨みと嫉妬を感じた。

 クラスメイトから嫌われる様な事はしていないが、こういった事は別腹なのだろう。……私も若い頃であれば、同じ様に羨んでいたであろう。

 

「代表補佐の件、だな」

 

「あれ、知っていたんですね。何処かで聞いたんですか?」

 

「うむ。主な概要は柿本先生から聞いている」

 

「話が早くて助かります」

《やっぱり倉井さんは期待されてるのかしら? 成績優秀、とも聞くし》

 

 元々教師陣から持ち上がった話だが、私の様な人間が就く事を想定していた事は間違いない。

 私や或いは三司さんの様な者はそう居ない筈だから、実質名指しの様なものである。理事長はそう目論んでいるのだろうとは思うが。

 

「私としては、倉井さんか二条院さんに頼ろうと思っていたのですが、彼女には寮長という立場があるので」

 

「そして私に焦点が向かった、か。しかし私は異性だ。やり辛くはならないだろうか?」

 

「どうでしょう。あんまり同年代という感じはしないので、むしろ頼もしいです」

 

 良い笑顔だ……。しかし言っている事はあまり誉め言葉として捉えられない。

 これほどに気が回る奴を捕まえれば楽になる、という思惑が透けて見える事が無ければ、他の男子の様に嬉し涙を流していただろうに。

 

「ふむ……」

 

 しかし、真剣に検討してみれば……学院側からの依頼とは言え、素直に頷ける様な案件でも無いのだ。

 主人公の出番が控えている手前、私が出しゃばるのは憚られる。

 

 目の前の事ばかりを見ていたから、これについて考えるのは後回しにしていたが。やはりこの流れは原作の流れを変えてしまう可能性が高い。

 彼が編入するタイミングで辞退すれば良いか? 

 

 ……そうだな、この方向で考えるのが良いだろう。

 

「まず一年。そして来年は次の生徒代表に適する者を見出した後、二学期から辞任するとしよう」

 

「辞任ですか?」

 

「うむ。私の都合という理由では無く、三司さんの今後を考慮した判断だ。……勿論、私が独断で決める事は無い。そちらで後任に推せる者が見つかるならば、それに任せるつもりである」

 

 物語上、主人公と彼女との関係とその性質は、どのルートにとっても大きな要素となる。歴史の修正力や運命という物を信じるならば、少なくとも共通ルートの進行は確実だと考えるべきだ。

 

 私が大きな影響を与えなければ、だが。

 その懸念が故に、私は一年後に辞退を予定することを提案している。

 

「とは言え、一年後の話だ。今は任された仕事を全うせねばな」

 

「まあそうですね。丁度今日も……というより、取材の予定が殆ど毎日ありますし」

《よくよく考えたら、下手な部活動なんかよりも仕事量多いわよね……》

 

「一人の少女が請け負うべき仕事でもなかろうに」

 

「別に、良いんですよ。私が望んでいる事なので」

 

 そう語る口は、当然のように思念と違わず。願う未来は平和を思う聖人と同じく。

 流石、メインヒロインだ。と浮かべたくなる細やかな笑みをも隠しつつ、彼女の想いを応援した。

 

「……然う在らば、擁く望みを叶えられる日も遠く無かろう」

 

「え? あ、はい。そうですね?」

 

 原作という運命を考慮せずに居られるならば、私の一生を投じてでも役を立てたいとでも思っていたかもしれない。

 

 

 

 

 私が補佐の任に付くにあたって、正式に『生徒代表補佐』の肩書を与えられた。漢字が七つも並べば頭に馴染み難い響きとなってしまうが、しかしそれぐらいの方が私にとって丁度良い。どうせ原作に存在しないイレギュラーである。

 

「こんにちは、鷲津新聞の工藤晴と申します。本日は時間を頂いてしまって申し訳ありません」

《おお、間近で見ると確かに可愛い……》

 

「いえ、これくらいは。今日はインタビュー、という事で良いですか?」

 

「ええ、お気に召さない質問があれば、答えを控えて頂いても構いませんので……」

 

「そうですね。あんまり個人的な質問になると、私も少し驚いてしまうと思います」

 

 生徒代表室。原作の描写でもこんな風だったか、机と椅子、そしてホワイトボードがあるくらいで、どちらかと言うと物置も兼ねている様な部屋である。

 今話している二人、そして私は直立していた。

 

 私の役回りとしては胸元のスマホでボイスレコーダーを起動しているくらいで、特にやることは無い。

 屋外であれば、手が塞がらぬ様に飲み物を私が持っていたり、余計な荷物を預かっておく事もあっただろうが、屋内ならば取材スタッフの様子を見ているくらいしか仕事が無い。

 

 ……と言っても、一人しか居ないのだがな。

 

 

 今回迎えた取材スタッフは、周防恭平から依頼されていた対象で間違いない。

 以前私が直々に尋問した彼とは異なる人物だが、やはり彼にも誰かから()()を受けているのが見受けられた。

 

 本来ならリスクを低減させるために、一般人を利用するのは最小限にするはずだが……。これの黒幕は、それを気にしなくても良い立場なのだろうか?

 

「普段はどう言った活動をしておられるんですか?」

 

「そうですね、勉強して、友達と一緒にご飯を食べて、たまに取材も頂いたり……なんて、つまらない答えではいけませんよね?」

 

「いいえそんな。世間では注目されていますが、意外と普通の学生生活をされているんですね」

 

《されてるわけないでしょ。こちとら朝昼晩取材で一杯一杯ってのに》

「ええ、そうですね」

 

 ……今日の生徒代表さまは、少しばかり不機嫌であるな。

 

 とは見えても猫被りのそれはさすがと言ったところで、続く問答に時折不機嫌を思念に溢す事はあっても、決して顔には出さない。

 

 一方の取材スタッフ側だが、仕事中は真面目にやると決めている様子。彼自身は、一方的に送り付けられた依頼を明らかに怪しいと考えている。

 

「この学院では多くのアストラル能力者が在籍しているとのことですが」

 

「ええ、皆さんとても良い人です。しかも様々なところから来ているので、いろんな方言とか言葉遣いとかを聞けて、面白いです」

《特に二名》

 

「ここまでアストラル能力に寄り添っている教育機関といえば、ここが唯一ですからね」

 

 私は地域からの影響なぞないが。それと二条院さんのは時代劇由来の言葉遣いだ。

 

《報酬は欲しいけど……明らかに怪しい。でも周りに話すと身の危険がありそうで……》

 

 不安を自覚したのか、そこから感情が滲む様に広がる。伴って記憶を垣間見る事も出来た。

 記憶としてはほんの一部だが、彼が受け取ったと言う依頼の内容は読み取れた。その中には、彼の個人情報を言及するものもある。

 

 なるほど。依頼主を裏切るならば、彼が害される可能性もあると解釈したのだろう。そうでなくとも不気味に思い、周囲の警戒くらいはするか。

 

 付け入る隙は、ありそうだ。

 

 

 

 インタビューは恙なく終了し、互いに世辞を贈り合うのを最後の解散。

 付き添っていた先生も、別の仕事があると言って離れた。今日の所は暫く取材がない様だ。

 

「倉井さんも、今日はありがとうございます」

 

「今日はあまり役立てなかった様に思えるがな。今日はこのまま帰るのだろう? 私生活に迄干渉するのはお前の願うところではない筈だ」

 

「まあ、正直……」

《同年代の友達としてならともかく……。あ、同年代だったわ》

 

「では、私もこちらの用事を済ませる事としたい。またの機会に、今度は力に成れると良いが」

 

 目線を横に。

 私の様子を見守る例の姿がある。ああ、さっさと行くのが良い。今であればタイミングも合う。

 打ち合わせ通りに、頼んだぞ。




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