心透かしのジョーカー 作:馬汁
原作の時から聞いていたが、やはりこの学校は、アストラル使い達の駆け込み寺という側面が強い。
転入生が早速と数人、この学校へ転がり込んできた。
この時期、という事は高校デビューの際に何か問題が発生したのだろう。
鷲逗研究都市の住民たちは、アストラルへの理解が深い。当人らが自発的に問題を起こさない限り、受け入れてくれるだろう。
「はぁぁっ、疲れた! ペースはええ」
「……」
「おーい透。……何やってんの、復習?」
《ボケ役だと思ってたのに、妙な所マジメだな》
「灰か。授業の内容を一度予習をしている所だった」
と言っても、前世で養った知識が予習の代わりを果たしている。思い出す程度の事をすれば、十分だった。
問題なのが、私の全く知らない分野がある事だ。
「大マジメかよ! そんな頭悪そうには見えないんだが」
「今の内に余裕を持ちたい」
「あー……」
「自慢では無いが、私は成績優秀な一男児だった。授業にも余裕があり、2年、3年先の内容を学習する程度の事はしていた」
《……いや自慢だろ》
「2、3年ってお前、マジかよ。嘘じゃなかったら天才だぞ」
前世の記憶による物だ、これが天才等とどうして言えよう。
「昔取った杵柄、と言うべきだな」
「使い方違うだろ」
「ククク……」
《やっぱ嘘だわコレ》
まさか二度の人生を送っているとは思うまい。笑みを含ませた声を漏らす。
「また変な笑い方を……。じゃあなんだ、今も3年先の予習か?」
「高等教育課程に相当する範囲は既に終えた。今取り組んでいるのはアストラルに関する物だ」
「あー、独自の授業だもんな」
「そういう事だ。まあ、戯言と思うのは自由だ。我ながら荒唐無稽な言葉だと思っている」
「自覚あんのかよ」
《全くおもしれー奴だな》
灰が呆れた風に肩を竦めてみせた。最近からこの様な扱いをされているが、私として都合が悪い訳ではないから、特に何も言っていない。
「事実が現実離れしていると知りつつも、認めなければならない。アストラルに満ちた世界の常だろう」
「はいはい。話は変わるんだが、ってか元々これが聞きたかったんだけどさ。部活動には入るのか?」
「ああ、部活動か。今の所考えてはいない」
原作での描写は全く無かったが、一応この学院にも部活動という物が存在している。
描写から察するに、登場人物は全員入部していない。その理由には生徒会長や寮長と言った役職、裏の事情などが絡んでいるのだろう。
直接聞いていない以上、確信して言う事ではないのだが。
「そうか。剣道とか弓道とか興味ありそうだけどな」
《絶対似合うしな。木刀握らせたらサマになりそうだ》
「もし入部するのであれば、オカルト部だろうか。この学院には設立されていない様だが」
「マジかよ」
これに関しては面白半分だが、もう半分は本気だ。
前世では非現実的な要素に触れることが全く無かったが、アストラルと言う物があるこの世界でなら、という気持ちがある。と言っても真剣に挑むほどの物ではない。
「私の能力は、この世に属さぬ存在を視る故」
《またホラ吹いてるし》
間違いない。
悪戯っぽい笑みを浮かべて、教材の本を畳む。
「灰は、やはり運動部に?」
「そのつもりだぞ。バスケ部でいっちょ頑張る予定」
《そしてあわよくばは女子に……》
「ほう。さぞ高く跳べるのだろう」
「ネット掴むくらいしか跳べんが」
十分だと思うのだが……いや、高校生で言えばもっと高く行けた方が良いのだろうか。
「私も強く請われるのであれば、事情次第で加入するやもしれぬが」
「安心しろ。別に頼み込むつもりは無いぜ」
「そうか」
運動は得意では無いが、対人というのであれば、心理戦で優位に立てる。
しかしその優位は経験で十分に得られるものだから、経験を積んだ者には太刀打ちできない。
「じゃ、俺は見学に行ってくるわ」
「ああ」
では、私は散歩でもするか。
今日は会いたい者が居るのだ。
・
・
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「おお、よしよし。あざといな君は。ほう、腹を見せられては仕方ない。然し今は手持ちが無いのだ」
「にゃぁぁ」
出会った茶トラ柄の小さな姿を撫でまわす。動物であろうと思念は伝わってくるが、人間の様な言語は持たないから、感情や興味の対象くらいしか分からない。
因みにこの猫は今、飯と甘える事しか考えていない。獣らしいのやら野生が失われているのやら、複雑な思考回路である。
私の能力に思念を発信する機能は無いから、動物との意思疎通は叶わない。
「にゃふぅ」
「何も与えられないが、今は戯れても構わないだろうか」
「にゃ」
「よし、良い子だ」
確か食堂に言えば、この猫の為の食事を渡してくれるのだったか。
名も無き猫であるが、この学院に棲みついているとの事で、生徒達に愛されている。
皆が勝手に餌をやりたい放題しない様、寮の食堂スタッフが餌を用意し、生徒の誰かが持っていく、という事になっている筈だが。
準備中の食堂のスタッフに声を掛け、時間を借りて問いかけてみたが。
「猫? そういえばそんな噂、聞いた事があるわね」
「……噂、ですか?」
という風に返された。
そんな事は、と否定しそうになった所で、考え直す。今は原作よりも一年半程前の時期。猫が訪れた時期が、たまたま今だったという事なのだろう。
「てっきり学院内で存在は知れ渡っていると思ったのですが」
「最近住み着いたのかも」
《噂を聞くようになったのはちょっと前くらいだし……》
学院内の動物に餌を与えてはならない、という規則は無いだろう。鳥等に与えてしまうと糞害問題に発展し、結局規制されるだろうが、猫ならば大丈夫な筈だ。長期的に見れば、繁殖してやはり問題になる可能性もあるが……。
「……急く事では無いですが、世話の体制を整えるべきですね。寮長に一言伝えるべきでしょうか」
「うーん……。それじゃあ、私らがお世話したげよっか?」
「それは……願っても無い事。ですが、この大人数を相手に食事を作るのは大変でしょう。手間を増やさせるの忍びない」
「良いの良いの。百何十人に比べればなんて事ないよ」
《毎晩用意するのは大変だけどねえ》
有難いが、それでも申し訳無さがある。その言葉を得られるのを望んでいたのは確かだが、その言葉に宿る善意を無碍にするのもまた、申し訳無い。
「感謝します」
「良いの。あなたも優しいのね」
「有難う御座います、身に余るお言葉です。……そうすると、学院全体に猫に関して周知する必要がありますね」
「それが良いかしら。あ、それじゃあ食堂に張り紙でもしておくわ」
食堂に……。確かに、全寮制の食堂ならばほぼ全員に知れ渡るだろうが……。
「手間を掛けさせてしまって……いや、重ねて感謝申し上げます」
「良いのよ。ふふ、あなたと話してると将軍様にでもなった気分になっちゃうわ」
……そういう風に言われた事は無かったが、確かにそうもなるか。
「では、私はこれで。この恩は忘れません」
食堂に張り紙をすれば、殆ど周知は果たされた様な物。
……しかし、しまったな。この行動が未来の何処までに及ぶのだろうか。今更ではあるが、不安がよぎる。
「ふむ……」
「おや? どうしたのだ、こんな時間から食堂に」
「む、二条院さんか。……学院に棲み付いた猫の事は聞いているか?」
「猫? その話は聞いてないが」
《そういう話をする仲の者とは巡り合ってないし……》
……二条院さんは、今も友達が少ない様だ。
「そうか。どうやら最近棲み付いたらしいのだが、気に掛かる事があって食堂の職員と話していたのだ。各々が勝手に餌を与えてしまっては、猫にあまり宜しくないだろうと」
今思えば、まずは寮長から話せばよかった事だったのだろうが……そもそも私が勘違いしていたのだから、仕方がない。
「それで、猫の世話に関しては食堂の彼女らが請け負って頂く事になった。余分な餌が与えられない様、周知もされる筈だ。……勝手な行動として咎められなければ良いが」
「いや、立派な行いだと思うぞ。猫の世話に関して周知した所で、問題等起きる筈が無い。……しかし、猫か」
「……気になるか? 学院の敷地を歩いていれば、見かける機会もあるだろう」
「そ、そうか? ……うん、わかった。機会があったら探してみよう」
「うむ」
……未来に影響しかねないな。まあ、成るように成るだろう。
「所で……倉井君、だったか?」
《今まで気になっていたが、この口調……》
「何だろうか」
「その……荒くれ大将軍とか、滅殺仕事人とか……そういう、時代劇には興味あるのだろうか」
え?
「え……いや、無いが」
「そ、そうか! いや何でもない! 私の勘違いだったらいいのだ。決して私が時代劇に興味があるとかでは無くてな」
《はあああ! 私が時代劇な好きな女の子だって知られたらどうしよう! 女子力が無いって思われても仕方がない!》
……ああ、成程。私の口調がこうだから、時代劇を好んでいるように思われたのだろう。灰からも指摘されていた事だったが、急な事で失念していた。
「いや……何も恥ず事は無い。私の口調から時代劇を連想した者は沢山居た。勘違いしかねないのも承知している」
とりあえず嘘を吐いた。
「……そうだな! そうか! 何も恥ずかしがる事は無かったな! あは、あはは……」
《良かったー、時代劇が好きってバレてなかった!》
効果は抜群である。
本当に、原作の登場人物達は個性豊かで困る。話しているだけで面白い。
「で、では何故口調が時代劇風なのだ? あ、言い辛い事だったら別に良いんだ」
「構わない。単に、両親からの影響を受けての事だ」
「そうか! 時代劇ではなく両親から影響を受けていたのか!」
「うむ」
《……いやしかし、倉井君の両親とは何者なんだ? この様な影響を与えるとは……》
詮索してくれても結構。嘘を暴かれた所で、口調如きで怪しまれることは無いだろう。
戸籍から調べない限り、私の両親が誰かは特定できない。学院祭といった行事に訪れる事も無い。事実を確認する事は、不可能と言える。
「では、猫に会ったら宜しく頼む。……と言える立場ではないが」
「あ、いや。私も気に掛けて置くさ。呼び止めてすまなかったな」
《時代劇が好きじゃなかったのは残念だが、中々の好青年みたいだし、話せてよかった。……しかし、両親か》
「構わない」
二条院さん。個性豊かなお方だった。原作知識の懐かしさもあるが、言葉を交えるだけで楽しい。
《まさか……古くから続く武士の家系?! も、もしかしたら両親というのは嘘で、秘密の忍者の里出身という線も……》
しかし、何も喋らなくても面白いのは如何なものか。
読者達からキャラ崩壊とみなされるのが恐ろしい。
でもそのままというのもやっぱり恐ろしいので、遠慮なく指摘してください。秒で直します。