心透かしのジョーカー   作:馬汁

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Ep.6 ・ 私の知った、世界の面影。

 原作の時から聞いていたが、やはりこの学校は、アストラル使い達の駆け込み寺という側面が強い。

 転入生が早速と数人、この学校へ転がり込んできた。

 

 この時期、という事は高校デビューの際に何か問題が発生したのだろう。

 

 鷲逗研究都市の住民たちは、アストラルへの理解が深い。当人らが自発的に問題を起こさない限り、受け入れてくれるだろう。

 

「はぁぁっ、疲れた! ペースはええ」

 

「……」

 

「おーい透。……何やってんの、復習?」

《ボケ役だと思ってたのに、妙な所マジメだな》

 

「灰か。授業の内容を一度予習をしている所だった」

 

 と言っても、前世で養った知識が予習の代わりを果たしている。思い出す程度の事をすれば、十分だった。

 問題なのが、私の全く知らない分野がある事だ。

 

「大マジメかよ! そんな頭悪そうには見えないんだが」

 

「今の内に余裕を持ちたい」

 

「あー……」

 

「自慢では無いが、私は成績優秀な一男児だった。授業にも余裕があり、2年、3年先の内容を学習する程度の事はしていた」

 

《……いや自慢だろ》

「2、3年ってお前、マジかよ。嘘じゃなかったら天才だぞ」

 

 前世の記憶による物だ、これが天才等とどうして言えよう。

 

「昔取った杵柄、と言うべきだな」

 

「使い方違うだろ」

 

「ククク……」

 

《やっぱ嘘だわコレ》

 

 まさか二度の人生を送っているとは思うまい。笑みを含ませた声を漏らす。

 

「また変な笑い方を……。じゃあなんだ、今も3年先の予習か?」

 

「高等教育課程に相当する範囲は既に終えた。今取り組んでいるのはアストラルに関する物だ」

 

「あー、独自の授業だもんな」

 

「そういう事だ。まあ、戯言と思うのは自由だ。我ながら荒唐無稽な言葉だと思っている」

 

「自覚あんのかよ」

《全くおもしれー奴だな》

 

 灰が呆れた風に肩を竦めてみせた。最近からこの様な扱いをされているが、私として都合が悪い訳ではないから、特に何も言っていない。

 

「事実が現実離れしていると知りつつも、認めなければならない。アストラルに満ちた世界の常だろう」

 

「はいはい。話は変わるんだが、ってか元々これが聞きたかったんだけどさ。部活動には入るのか?」

 

「ああ、部活動か。今の所考えてはいない」

 

 原作での描写は全く無かったが、一応この学院にも部活動という物が存在している。

 描写から察するに、登場人物は全員入部していない。その理由には生徒会長や寮長と言った役職、裏の事情などが絡んでいるのだろう。

 

 直接聞いていない以上、確信して言う事ではないのだが。

 

「そうか。剣道とか弓道とか興味ありそうだけどな」

《絶対似合うしな。木刀握らせたらサマになりそうだ》

 

「もし入部するのであれば、オカルト部だろうか。この学院には設立されていない様だが」

 

「マジかよ」

 

 これに関しては面白半分だが、もう半分は本気だ。

 前世では非現実的な要素に触れることが全く無かったが、アストラルと言う物があるこの世界でなら、という気持ちがある。と言っても真剣に挑むほどの物ではない。

 

「私の能力は、この世に属さぬ存在を視る故」

 

《またホラ吹いてるし》

 

 間違いない。

 悪戯っぽい笑みを浮かべて、教材の本を畳む。

 

「灰は、やはり運動部に?」

 

「そのつもりだぞ。バスケ部でいっちょ頑張る予定」

《そしてあわよくばは女子に……》

 

「ほう。さぞ高く跳べるのだろう」

 

「ネット掴むくらいしか跳べんが」

 

 十分だと思うのだが……いや、高校生で言えばもっと高く行けた方が良いのだろうか。

 

「私も強く請われるのであれば、事情次第で加入するやもしれぬが」

 

「安心しろ。別に頼み込むつもりは無いぜ」

 

「そうか」

 

 運動は得意では無いが、対人というのであれば、心理戦で優位に立てる。

 しかしその優位は経験で十分に得られるものだから、経験を積んだ者には太刀打ちできない。

 

「じゃ、俺は見学に行ってくるわ」

 

「ああ」

 

 では、私は散歩でもするか。

 今日は会いたい者が居るのだ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「おお、よしよし。あざといな君は。ほう、腹を見せられては仕方ない。然し今は手持ちが無いのだ」

 

「にゃぁぁ」

 

 出会った茶トラ柄の小さな姿を撫でまわす。動物であろうと思念は伝わってくるが、人間の様な言語は持たないから、感情や興味の対象くらいしか分からない。

 因みにこの猫は今、飯と甘える事しか考えていない。獣らしいのやら野生が失われているのやら、複雑な思考回路である。

 

 私の能力に思念を発信する機能は無いから、動物との意思疎通は叶わない。

 

「にゃふぅ」

 

「何も与えられないが、今は戯れても構わないだろうか」

 

「にゃ」

 

「よし、良い子だ」

 

 確か食堂に言えば、この猫の為の食事を渡してくれるのだったか。

 

 名も無き猫であるが、この学院に棲みついているとの事で、生徒達に愛されている。

 皆が勝手に餌をやりたい放題しない様、寮の食堂スタッフが餌を用意し、生徒の誰かが持っていく、という事になっている筈だが。

 

 

 準備中の食堂のスタッフに声を掛け、時間を借りて問いかけてみたが。

 

「猫? そういえばそんな噂、聞いた事があるわね」

 

「……噂、ですか?」

 

 という風に返された。

 そんな事は、と否定しそうになった所で、考え直す。今は原作よりも一年半程前の時期。猫が訪れた時期が、たまたま今だったという事なのだろう。

 

「てっきり学院内で存在は知れ渡っていると思ったのですが」

 

「最近住み着いたのかも」

《噂を聞くようになったのはちょっと前くらいだし……》

 

 学院内の動物に餌を与えてはならない、という規則は無いだろう。鳥等に与えてしまうと糞害問題に発展し、結局規制されるだろうが、猫ならば大丈夫な筈だ。長期的に見れば、繁殖してやはり問題になる可能性もあるが……。

 

「……急く事では無いですが、世話の体制を整えるべきですね。寮長に一言伝えるべきでしょうか」

 

「うーん……。それじゃあ、私らがお世話したげよっか?」

 

「それは……願っても無い事。ですが、この大人数を相手に食事を作るのは大変でしょう。手間を増やさせるの忍びない」

 

「良いの良いの。百何十人に比べればなんて事ないよ」

《毎晩用意するのは大変だけどねえ》

 

 有難いが、それでも申し訳無さがある。その言葉を得られるのを望んでいたのは確かだが、その言葉に宿る善意を無碍にするのもまた、申し訳無い。

 

「感謝します」

 

「良いの。あなたも優しいのね」

 

「有難う御座います、身に余るお言葉です。……そうすると、学院全体に猫に関して周知する必要がありますね」

 

「それが良いかしら。あ、それじゃあ食堂に張り紙でもしておくわ」

 

 食堂に……。確かに、全寮制の食堂ならばほぼ全員に知れ渡るだろうが……。

 

「手間を掛けさせてしまって……いや、重ねて感謝申し上げます」

 

「良いのよ。ふふ、あなたと話してると将軍様にでもなった気分になっちゃうわ」

 

 ……そういう風に言われた事は無かったが、確かにそうもなるか。

 

「では、私はこれで。この恩は忘れません」

 

 

 食堂に張り紙をすれば、殆ど周知は果たされた様な物。

 

 ……しかし、しまったな。この行動が未来の何処までに及ぶのだろうか。今更ではあるが、不安がよぎる。

 

「ふむ……」

 

「おや? どうしたのだ、こんな時間から食堂に」

 

「む、二条院さんか。……学院に棲み付いた猫の事は聞いているか?」

 

「猫? その話は聞いてないが」

《そういう話をする仲の者とは巡り合ってないし……》

 

 ……二条院さんは、今も友達が少ない様だ。

 

「そうか。どうやら最近棲み付いたらしいのだが、気に掛かる事があって食堂の職員と話していたのだ。各々が勝手に餌を与えてしまっては、猫にあまり宜しくないだろうと」

 

 今思えば、まずは寮長から話せばよかった事だったのだろうが……そもそも私が勘違いしていたのだから、仕方がない。

 

「それで、猫の世話に関しては食堂の彼女らが請け負って頂く事になった。余分な餌が与えられない様、周知もされる筈だ。……勝手な行動として咎められなければ良いが」

 

「いや、立派な行いだと思うぞ。猫の世話に関して周知した所で、問題等起きる筈が無い。……しかし、猫か」

 

「……気になるか? 学院の敷地を歩いていれば、見かける機会もあるだろう」

 

「そ、そうか? ……うん、わかった。機会があったら探してみよう」

 

「うむ」

 

 ……未来に影響しかねないな。まあ、成るように成るだろう。

 

 

「所で……倉井君、だったか?」

《今まで気になっていたが、この口調……》

 

「何だろうか」

 

「その……荒くれ大将軍とか、滅殺仕事人とか……そういう、時代劇には興味あるのだろうか」

 

 え? 

 

「え……いや、無いが」

 

「そ、そうか! いや何でもない! 私の勘違いだったらいいのだ。決して私が時代劇に興味があるとかでは無くてな」

《はあああ! 私が時代劇な好きな女の子だって知られたらどうしよう! 女子力が無いって思われても仕方がない!》

 

 ……ああ、成程。私の口調がこうだから、時代劇を好んでいるように思われたのだろう。灰からも指摘されていた事だったが、急な事で失念していた。

 

「いや……何も恥ず事は無い。私の口調から時代劇を連想した者は沢山居た。勘違いしかねないのも承知している」

 

 とりあえず嘘を吐いた。

 

「……そうだな! そうか! 何も恥ずかしがる事は無かったな! あは、あはは……」

《良かったー、時代劇が好きってバレてなかった!》

 

 効果は抜群である。

 本当に、原作の登場人物達は個性豊かで困る。話しているだけで面白い。

 

「で、では何故口調が時代劇風なのだ? あ、言い辛い事だったら別に良いんだ」

 

「構わない。単に、両親からの影響を受けての事だ」

 

「そうか! 時代劇ではなく両親から影響を受けていたのか!」

 

「うむ」

 

《……いやしかし、倉井君の両親とは何者なんだ? この様な影響を与えるとは……》

 

 詮索してくれても結構。嘘を暴かれた所で、口調如きで怪しまれることは無いだろう。

 戸籍から調べない限り、私の両親が誰かは特定できない。学院祭といった行事に訪れる事も無い。事実を確認する事は、不可能と言える。

 

 

「では、猫に会ったら宜しく頼む。……と言える立場ではないが」

 

「あ、いや。私も気に掛けて置くさ。呼び止めてすまなかったな」

《時代劇が好きじゃなかったのは残念だが、中々の好青年みたいだし、話せてよかった。……しかし、両親か》

 

「構わない」

 

 二条院さん。個性豊かなお方だった。原作知識の懐かしさもあるが、言葉を交えるだけで楽しい。

 

《まさか……古くから続く武士の家系?! も、もしかしたら両親というのは嘘で、秘密の忍者の里出身という線も……》

 

 しかし、何も喋らなくても面白いのは如何なものか。




 読者達からキャラ崩壊とみなされるのが恐ろしい。
 でもそのままというのもやっぱり恐ろしいので、遠慮なく指摘してください。秒で直します。
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