ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー   作:やーなん

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これで、第一章終了です。




幕間「神々との対話、そして」

 

 

 

 俺が目を開けると、そこは謎空間だった。

 

 見渡す限りの雲海で、まるで空の上だった。

 子供が想像する天国のように、現実味が存在しない。

 

 だが、どうしようもない現実が目の前にあった。

 

「レジー・キサラギさん。

 残念ですが、あなたは死んでしまいました」

 

 雲をソファーみたいにして腰かけている女神メアリースが、雲のテーブルに書類を広げていた。

 

「我が名はメアリース。人類文明を司る者。

 ああ、あなたは地球系列世界出身ね。ならメアリー・スーと名乗った方が良いかしら?」

「通りが良い方で構いません」

「そう。あなたの人生を査定した結果、来世はある程度の優遇が保証されるわ。

 家庭環境、才能、人間関係、容姿、その他諸々をこれから出すステータス画面に、あなたの生前の私への貢献度から算出した善行ポイントを振り分けて入力しなさい。

 それによって、あなたの次の転生先が考慮されるわ」

 

 実に事務的な対応だった。

 

「珍しいわね、大抵ここに来た人間は現実を受け入れられなかったり、死んだことを私の非にして優遇を迫るのに」

「いやぁ、自分でも考えなしのバカなことをしたなぁ、と。

 しかし、本当にメアリース様って人間の転生もやってるんですね」

「人間は誰しも、死を恐れる。その先に、希望を見出す為に天国と言った概念や来世を想像した。

 人間文明の化身たる私が、それを司るのは当然の事よ。

 天国と言う楽園は地上で試行錯誤してるから、死後は転生させてるのよ」

 

 死ぬことは、怖くないと言えば噓になる。

 だが、メアリース様に貢献すれば必ずより良い来世を与えてくれる、らしい。

 転生経験がある、という地球に帰属した獣人が言っていた。

 

「……ちょっと待って、死因に特記事項があったわ」

 

 書類を見比べているメアリース様は、ステータス画面を弄ろうとする俺を止めた。

 

「あなたの対応は、別の部署だわ。

 悪いけど、そっちで説明を受けて頂戴」

「あ、はい」

 

 俺の足元の雲が、ぽっかりと穴が開いた。

 俺は成すすべなく、そこへ落ちて行った。

 

「次」

 

 落ちて行った俺に関心など寄せず、女神メアリースは新たな死者と書類を取り寄せた。

 

 

 

 

「こちらに座って並んでください」

 

 人間が想像するような、絵に描いたような悪魔の獄卒が椅子を引いて着席を促してくる。

 この脈略の無さが、死後の世界だと納得させる。

 

 俺が落とされた先は、簡単に言えば面接会場だった。

 俺以外にも十数名が横に椅子に座って並ばされ、彼らは俯いて震えながら順番を待っている。

 

「次の死者、前に出なさい」

「はい」

 

 そうして、一番端の若者が椅子から立ち上がる。

 俺の座席はいつの間にか横に移動しており、隣には新たな死者が獄卒に着席を促されていた。

 

「まず弁明の機会を与えよう。

 お前はかつて、そう五年ほど前だ。

 老人からバイクでバッグをひったくり、金品を強奪した。そうだな?」

 

 面接官、いや閻魔大王は邪悪を司ると言う女神リェーサセッタだった。

 罪を暴く奈落の瞳が、彼を見つめる。

 

「えッ、なぜそんなことを? 

 それにその罪はちゃんと現世で贖いました」

 

 若者はまるで予想外なことを追及され、困惑していた。

 

「そうだな。

 だが、その老人はお前がバイクで衝突した際に入院し、それが遠因となり一年後に体調を崩して亡くなった。

 彼とその家族は、お前への復讐を所望だ」

「ま、待ってください!! 

 相手は老人じゃないですか!! 必ずしも俺が全部悪いってわけじゃ!!」

「反省の色は無し、か? 

 お前はひったくりで捕まった際も、へらへらしていたな。

 どうせ大した罪じゃない、と。そんなお前がバイク事故で死亡するとは、因果なモノだ」

 

 どこまでも底の無い奈落の赤い瞳が、若者を引きずりこもうとしていた。

 

「じゃ、じゃあ、俺を殺した奴も、あなた様が復讐してくださるんですか?」

「まさか。彼は親孝行者だよ。

 彼とその家族の苦しみはもう私が慰撫した。

 ……お前程度の人間を殺したところで、嘆き悲しみ後悔する必要は無い、とな」

 

 若者の左右の腕を、悪魔の獄卒が重々しい手枷で封じた。

 

「その性根がまっさらになるまで、地獄で魂を漂白すると良い。

 なに、たかが被害者が味わった苦痛を延々と受けるだけだ」

「いッ、嫌だ、嫌だあああぁぁぁ!!!」

 

 泣き叫ぶ若者が連れていかれた。

 

「次の死者、前に出なさい」

「リェーサセッタ様!!」

 

 次の死者は初老の女だった。

 彼女は感極まったように、女神の前に跪いた。

 

「あッ、あなた様のおかげで、息子の仇が討てました!! 

 息子をイジメて追い詰めて自殺に追いやったあのクソガキどもを、一人一人この手で血祭りに!! あなた様の元へと送ってやりました!!」

「そうだな、お前の復讐は正当だ。

 倫理が、常識が、世間が、法律が認めずとも、他ならぬ邪悪と悪逆を司るこの私だけはその正当性を保証する。

 その代償に、お前は命を落とした。お前に貸し与えた我が力の対価だ」

 

 殺した人数は段違いなのに、さっきの若者とは女神の対応が全く違った。

 

「お前の命を奪ったのは、復讐の連鎖を止める為だ。

 この私が正当性を認めたのだと、社会的に何の意味も無くても、その事実は公表される。

 だから仕方が無いのだと、お前の死をもって次の復讐を諦めさせるのだ」

 

 全ての悪を認知している女神から、逃れられる悪は無い。

 

「は、はは!! 自分たちの子供がイジメなんてしてないと、したり顔で言っていたクソ親どもの歯噛みする顔が目に浮かぶようです!! 

 息子の仇を討てた今、恐ろしいものなどありません。

 どうぞ、この身を引き裂き、地獄の苦しみを与え下さいませ!!」

「そうか。ならば沙汰を伝えよう」

 

 女神リェーサセッタは判子をポンと書類に押した。

 

「島流しだ。次の一生を特定の世界で過ごしてもらう。

 場所は、転生特典が前世の記憶保持を選んだ者専用の世界だ。

 そしてそこは我が盟友の手によって、イジメはとっくに駆逐されている。

 安心して、お前の息子に会うといい」

「ああッ、ああ!! ありがとうございます、リェーサセッタ様!!」

 

 こうして、彼女に沙汰が下った。

 これを見ればわかるが、リェーサセッタ様の審判の基準は彼女なのだ。

 つまり、全て彼女の感情によって判断される。

 罪の重さや刑罰に、明文化されたルールが存在しないのである。

 

 逆に言うなら、それは一体何を言われるのか分からない恐怖も付きまとうのだが。

 

「かみさま、おなかすいてパンをぬすみました。ごめんなさい」

「生きる為に盗みを働いて何が悪い。

 悪いのはお前ではなく、お前を救えなかった社会の方だ」

 

「あ、あの人が浮気するのが悪いんです!! 

 仕方なかったんです!!」

「私も同じ女として理解はするが、何事にも一線がある。

 それを超えたお前は、主人の浮気を追求する資格は無い」

 

 次々と、罪人に声を掛けて沙汰を言い渡す邪悪の女神。

 彼女は絶大な人気を誇るまとも(・・・)な女神として万人に崇拝されている。

 その意味を、俺は目の当たりにしていた。

 

 もうそろそろ俺の番だ、と思っていたら。

 

「お、おのれ邪神め!! 

 たとえ地獄へ落とそうとも、我が神が必ず我らを救ってくださる!!」

 

 次に前に呼ばれた罪人に、俺は見覚えがあった。

 以前、俺が主導した過激派碑文教団掃討作戦の際にリーパー隊に殺された教団幹部だった。

 

「……お前たちが何を信じ、何を崇めようとそれは自由だ。

 それはお前たち人類に我が盟友が与えた自由意思なのだから。

 お前たちが自ら構築した文化は尊重されるべきだ。

 ああ、だが────」

 

 女神の手が、教団幹部の身体を鷲掴みにした。

 ずいっと、彼の身体がその奈落の瞳へと近づいていく。

 

「や、やめろ、やめろぉ!!」

「なぜ恐怖する? 

 お前の神が守ってくれるのだろう?」

 

 これまでの慈愛があり慈悲深い対応とは全く違う、どこか嗜虐的で嘲笑うような女神の態度は、どこか異質だった。

 

「私がまだ、ただのちっぽけな人間だった頃。

 我が両親や知人、住んでいた町がお前のような居もしない神を崇める連中に焼かれた。

 私も若かったよ。同じ宗教を信じているというだけで、無差別に殺して回ったものだ」

 

 女神の暗黒の手に力が入っているのか、彼はただ呻くほかできなくなっている。

 

「そんな連中に迷惑をこうむったのは我が盟友も同じだった。

 こんな“善い神様ごっこ”しているのも、お前たちのような人間の悶え苦しむさまが私にとって最高の愉悦だからだ」

 

 両眼しかない人型に、裂けたような笑みが浮かんでいた。

 

「ほら、見えるだろう? 

 お前のような人間のお仲間が沢山だ」

 

 奈落の瞳の奥底に、苦悶のままに助けを求める亡者が、ウジ虫のようにひしめいていた。

 

「た、たすけ、あ──」

「お前もそこの連中のように、簡単に音を上げてくれるなよ?

 お前のような宗教家気取りの苦悶の姿が、私の精神を何よりも潤すのだ」

 

 奈落の底に、罪人が墜ちていく。

 どんな地獄よりも救いのない、延々と魂を凌辱される永劫の牢獄へと。

 

「次の死者、前に出なさい」

「はい、俺です」

「ああ、お前か」

 

 さて、俺にはどんな沙汰が下るのかと思ってたが。

 

「我が娘が世話になっている。

 それだけが言いたかった」

「……え、それだけですか?」

「そうだ。手間を取らせて悪かった。

 後のことは、我が盟友に聞くと良い」

 

 ええぇ、本当にそれだけだったんですかぁ。

 これまでの流れで、俺には何を言われるかってなるじゃん!! 

 

 

 

 

「おかえりなさい」

 

 雲の上に戻ってきた俺の前で、メアリース様が書類を見ていた。

 

「あの、俺ってどういう扱いなんですか?」

「ああ、あなた、生き返れるわよ」

「えッ……はあ!? どういうことですか!?」

 

 俺は混乱して、嬉しさとか喜びとかそれ以前の話だった。

 

「あなたは魔王ローティの四天王として業務中に死んだわ。

 つまり、私の委託した業務を遂行した魔王の配下が死んだということね」

「そう、なりますね」

「業務中の死亡は即ち、労災じゃない。コンプライアンス違反だわ。

 私の責任になるじゃない」

「えぇ……」

 

 俺、そんな理由で生き返るんですか? 

 

「他にも不正、横領、ブラック勤務、サービス残業、パワハラセクハラモラハラ諸々、全て許されないわ。

 全ての人間は私に管理され、十全なパフォーマンスを決められた労働時間に発揮してもらわなければならない。

 四天王も同じよ。だから生き返ってもらう。通常業務に関しては別だけど」

 

 生き返らせてまで働かせるのは、ブラックじゃないんですかねぇ。

 

「これは本来、魔王軍として戦う者の措置だけど、今回はあなたにも適応するわ。

 勇敢に戦って死んだ者を評価しなければならないもの」

「……そうですか」

「喜びなさい。基本的に私は、死者の蘇生を“ウリ”にしてる安っぽい他の神々とは違うんだから」

 

 じゃあ軽々しく人前に降臨成されるのは止めた方がいいと思うんですけど……。

 

「他に何か質問は?」

「じゃあ、ひとつ。

 俺、このまま生き返ってもローティ様に殺されませんか?」

 

 俺の脳裏には、彼女を世話した記憶の数々が蘇る。

 スプーンで食事をさせて上げたのは序の口で、夜は泣き喚くから抱きしめて頭を撫でながら一緒に寝て上げたし、果てはおねしょの処理もしたし、風呂にも入れてやったのだ。彼女の着替え? 俺がしましたけど何か? 

 

「安心しなさい」

 

 メアリース様は優雅に笑ってこう言った。

 

「彼女のような人間タイプの魔王ユニットは、龍人タイプと違って能力や耐久性は若干下がるけど拡張性に優れているの。

 だから私は、不安定な彼女の気性を安定させるために手段を講じたわ。

 故に我が盟友が彼女に知恵を返したのも、一時的なモノに過ぎない」

「つまり、またあの幼児同然な状態に戻ると」

「そうね。それがアンケートの結果だわ」

「アンケート!? 何ですかそれ!?」

「需要調査の一環よ。私は人類が望むことをする存在よ。

 それと同時に、あの気性の荒さもまた惜しい。あれはあれで役に立つのよ」

 

 メアリース様の言うことは時々よく分からない……。

 

「質問は以上ね? それじゃあ、現世に戻りなさい」

 

 そうして、俺は現世に生き返って帰還することになった。

 

 

「あ、そっちの私達(・・)によろしくって伝言してもらうのを忘れてたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管理番号:275424

 

 勇者と魔王の戦いの余波で吹き飛んだ建物は、大型の3Dプリンターで出力された建材を組み立て、街並みのほとんどが元通りになっていた。

 

 そんな街の地下で、暗躍するカルトが存在した。

 

「大司祭様。今日もメリッサ様の御世話でしょうか?」

「ええ、それ以上に優先すべきことなどないですから」

 

 喪服のように黒い装束を纏った女が、教団員たちの声を聞き流す。

 そして過激派碑文教団の無数の地下拠点の一つ、その奥に彼女は足を運ぶ。

 

「あーもう、なんなのあのレジスタンスって連中!! 

 まったく連絡寄越さないじゃない、役立たず!!」

 

 幾重にも施されたセキュリティを解除し、ドアを開けるとコップが彼女の頭部に飛んできた。

 ぱりん、と地面に落ちたコップが割れる。

 

「メリッサ、どうかしたの? ご機嫌斜めね」

 

 額が切れて血が滴っているにも関わらず、女は部屋の主に声を掛けた。

 

 室内は、薄暗くモニターの明かりだけが爛々と輝いていた。

 それほど大きくない部屋は、脱ぎ散らかされた衣服やお菓子の袋やペットボトルが散乱し、食べかけてのカップ麺がテーブルの上でほったらかしにされて冷めきっていた。

 

 そんな不健康で不潔極まりない部屋の中に、その少女は居た。

 ぼさぼさの髪の毛は手入れされておらず、目元には隈がある。

 見た目は十代前後でしかないパジャマ同然の格好の彼女は、モニターとキーボードの前で癇癪を起していた。

 

「リネア!! この間連絡が取れたレジスタンスの連中からの定時連絡が切れたの!! 

 なんなのあの役立たずども!! 何が人員を送るよ!! 誰も来てないじゃない!!」

「結局、あの愚か者が暴走して、貴重な戦闘兵器を無駄にしてしまいましたしね」

「せっかく私が創ったオモチャを、あのクソ役立たずは無駄にしやがった!! 

 今も生きてたら私がスクラップにしてやったのに!!!」

 

 バンバン、とキーボードを苛立ちのままに叩く少女を、リネアと呼ばれた女は微笑まし気に見ていた。

 

「メリッサ、昨日はお風呂入ったのかしら?」

「えー、めんどい。今度で良いじゃない」

「あなた、そうして平気でひと月はお風呂に入らないじゃない」

「お風呂なんて面倒だし、時間の無駄じゃん」

「いいから、来なさい」

 

 少女は、女に引っ張られながら備え付けの浴室へと放り込まれた。

 

「……次のゲームは、何にしようかな」

「メリッサ、先日魔王とやり合ったというアレを使ってはどうかしら?」

「うーん、新しくやってきた魔王ってのも気になるし、様子見かな」

 

 シャンプーで頭を洗われ、タオルで汚れを取り除いた少女は見違えるほど美しさを取り戻した。

 それこそ、女神メアリースにそっくり(・・・・)に。

 

「次は何して遊ぼうかな、ねぇリネア?」

「メリッサがしたいことをすればいいのよ」

 

 そんな美しい少女を、女は奈落のように淀んだ目をほころばせて微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 




次回からは、二章となります。
パッションと思い付きとインスピレーションでここまで書いてきましたが、それもすべて読者の皆さんのおかげです。
少し前まで心療内科に掛かっていたのもあり、メンタルよわよわの作者で申し訳ありません。
皆さんの評価や感想に、勇気づけられました。

これからも続きを、運び屋たちの物語を書いて行こうと思います。
ただ、二章がまだ形になっていないのと、明日から仕事が忙しいのでこれまで通りの更新速度は維持できないと思います。

それでも年末年始は時間が取れると思います。
それでは、また次回をお楽しみください!!

ローティ様の性格はどちらがお好き?

  • ワガママロリっ子モード
  • 魔王少女クソガキモード
  • 両方ですって? 欲張りですねぇ
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