ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー   作:やーなん

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幕間「神々の領域」

 

 

 

 レイアは尋ねた。

 

「どうして、あなたと同じ魂の持ち主というだけで、狙われるんですか?」

「……昔は、この場所も君たちの住む地球のように美しい世界だった」

 

 見えない声の主は、懐かしむように語り始めた。

 

「そこには、ある一人の魔術師が存在していた。

 悠久の時を生きる、狂った妄執に取り憑かれた男だ。

 そんな奴でも、昔は英雄だった。

 仲間たちと共に災害の如き魔王と戦い、打ち勝った。

 彼はその報酬で、世俗との関わりを絶って魔導の研究に没頭した」

 

 まるで、他人事のようだと、レイアは思った。

 

「ある時、彼にある知らせが届いた。

 共に魔王と戦った仲間が事故で亡くなったという話だ。

 陰キャの見本みたいなそいつも、仲間たちぐらいは心を開いていた。

 だがもう一人、もう一人、と寿命で亡くなる仲間たちの知らせを聞き、そして最後に他ならぬ自分の双子の兄さえも寿命で亡くなったと知った。

 その時、彼は自分の手のひらを見てみた。魔導の研鑽の果てに、不老に至った若々しいその手を」

 

 遠くに見える星が、握りつぶされたかのようにブラックホールへと変わった。

 まるで奥歯を噛みしめるかのような轟音が、どこからか聞こえてきた。

 

「そしてその馬鹿な男は思った。死ぬのが、怖いと。

 永遠に続くものなど何一つない。彼は自分の死を恐れた。

 だが一番滑稽なのは、自分の不死がひと段落した後のことだった。

 ──そうだ、あいつらを蘇らせてやろう、僕ならできる!! そう思ったことだった」

 

 笑いを嚙み殺したような、自嘲の声が響いていた。

 

「その後は、わかるだろう? 

 無様に延々と生き恥を晒すだけの男が誕生したんだ。

 そんな愚か者でも、世間からすれば伝説の魔術師だった。

 ある時、そんな彼を神として崇めたいと言ってきたマヌケがやってきた」

 

 いや、と声の主は前言を翻した。

 

「一番のマヌケは、いい気になってそれを了承したその馬鹿か。

 後から彼の弟子が……あれ、あの時そのことを知らせに来たのお前だったっけ?」

「はい、あの時は生きた心地がしませんでした……」

 

 先ほどの、声だけの女性がそう返した。

 

「そう、お前が僕を崇めたいとか言ってた奴が、目にも当てられないことばかりを僕の名前でやってたんだって知らせたんだ」

 

 レイアも、宗教というものを知っている。

 自分の世界でも、過激派が好き勝手しているのだから。

 

「本当に見るに堪えなかった。

 だから、無かったことにした。教祖も信者も全て滅ぼした。

 それだけじゃない、僕の名前を口にする者、僕の記録をする者、僕を崇め願う者が現れた瞬間に世界中どこでも攻撃魔法が飛んでいく術式を構築した。

 その問答無用さから、いつしか僕はこう呼ばれた。

 ────“暴君”、と」

 

 さしづめ、その術式を名付けるなら圧政だろうか。

 そんなとりとめのないことを、レイアは思った。

 

「人の身で神の如き、と僕は恐れられた。

 それからしばらくして、今じゃあの創造主気取りの女が僕の前に現れた。

 それが後のメアリースだ。あいつは僕の仲間の子孫でね、最初は話ぐらい聞いてやったけど、性格が気に食わないから追い出してやった。

 そしたらそこの我が馬鹿弟子に弟子入りしたそうだけど、お前才能無かったからあっさり裏切られてたよな」

「我が不徳が致すところです……」

「その後もいろいろあったけど、キョウコに手を出そうとしたから99%殺しにしてやったこともあったっけ? 

 まあ、あれの反骨心と対抗意識だよ。お前が狙われているのは」

 

 急に話をまとめられて、レイアは内容を飲み込むのに少しかかった。

 

「え、じゃあつまり、私は八つ当たりで殺されそうになってるんですか!?」

「流石にそうじゃないさ。

 僕は同位体の魂同士を利用した魔術に長けていたからね。

 僕と同じ魂を排除していけば、最終的に僕が弱体化すると考えたんだろう。

 あれは今でも僕を倒そうと無駄な努力をしているからね。コップで大海の水を汲み切ろうとするような、そんなみみっちい努力さ」

 

 レイアは思った。それは八つ当たりとなにが違うのか、と。

 

「それを、止めさせることはできないんですか?」

「なんで?」

「なんでって、仮にも別の世界のあなたでしょう!? 

 それが次々と殺されて何とも思わないんですか!!」

「まったく。むしろ、別の僕の無様さを見ずに済むんだ。いい働きだとご褒美を上げたいくらいだよ」

 

 レイアは絶句した。目の前のもう一人の自分は、心の底からそう思っているのだ。

 

「じゃあ、私も殺された方が良かったと、そう言うんですか」

「僕と同じ魂で生まれたことが間違いだったね。だから不運だと言ったんだ」

「…………するな」

「ん?」

「一緒にするな、と言ったんだ!!」

 

 ひっ、女性の声が息を呑む声が聞こえた。

 

「ははは!!」

 

 だが、もう一人のレイアは愉快そうに笑った。

 しかしそれも一瞬だった。

 

「おい」

 

 “暴君”が、目を細めた。

 

「誰が僕に口答えして良いって言った」

「この私だ、他でもないもう一人のあなた自身だ!!」

「笑わせるなよ、お前と僕がいつ対等になった」

 

 濃密な死の気配が、レイアに近づいていく。

 相手は“暴君”、同じ魂を持っているからと、レイアに親近感なんて微塵も持っていない。

 今こうして口答えをして、彼女が生きているのは奇跡に等しかった。

 

「そうだよ、私たちは対等じゃない。

 だって、私はお姉ちゃんの為なら死んでも構わないもん。

 お姉ちゃんの前でみっともなく生きられない。あなたと私が同じですって、冗談じゃない!!」

 

 レイアは今生きている世界に希望など抱いていない。

 世の中は灰色で、理不尽が満ちている。

 目の前のもう一人の自分のように、悪態を付きたくもなる。

 

 だけど、どうしても共感できないことが一つある。

 

「あなたと私は同じ双子の下の子なのに、どうして家族に顔向けできないままでいるのよ……」

「自分のことを棚に上げて何を言っているんだよ、お前」

「うん、そうだね。私はお姉ちゃんの重荷になるくらいなら死んでもよかった。

 そのくせ、目の治療はいらないって言い続けてきた。矛盾してるよね。

 でも、それも終わりにする」

 

 彼女は、目の前に居るはずの“暴君”に向き直った。

 

「あなたが、それを教えてくれたのよ」

「……」

「生意気言ってごめんなさい、でも私はまだ生きたいから命乞いをします。

 お願いです、殺さないでください」

「────くだらない。初めからお前のことなんてどうでもいいんだよ」

 

 だけど、と“暴君”は言った。

 

「お前がどのように生きて、死ぬのか見届けてやるよ。

 もし、お前の生きざまが見るに堪えない無様なものだったら──」

「その時は、あなたが好きにすればいい」

「なんで僕がわざわざ手を下さないといけないんだ、面倒くさい」

 

 そこで、“暴君”は視線をレイアから横に向けた。

 

「そういうことになった。

 これ以上、僕を煩わせるな。良いな?」

 

 

 

 

 

 ここは神々の座する領域。

 

 神々とは、極端な言い方をするなら意思を持った法則である。

 物事とは複雑に絡み合い、たった一つの法則で機能することはありえない。

 

 つまり、神々の領域とは大人数が押し込められた大部屋に等しかった。

 必然的に、気に食わない相手とも席を共にしないといけなくなる。

 神々の“領主”が戦国時代のようにお互いに争い合うのは必然的だった。

 

 しかし、今この瞬間だけは、全ての“領主”が、“町長”が、“村長”が、家の“主人”が、それぞれの支配下の世界で主神やその盟主として敬われているはずの神々が、一人残らず平伏していた。

 その誰もが、恐怖に震えていた。関心を持たれないように、人間でいうなら息を殺していた。

 

「そういうことになった。

 これ以上、僕を煩わせるな。良いな?」

 

 “暴君”が、そう口にした。

 わざわざ、ありとあらゆる神々の前で、釘を刺した。

 この場で唯一、歯を食いしばって壮絶な表情で怒りを堪えて俯いているだけの女神メアリースに対して。

 

 領主が居て、町長が居て、村長が居て、家の主が居る。

 神々の領域を国家に例えるなら、当然国主が存在するべきだった。

 

 そう、ありとあらゆる神々の頂点、即ち全知全能の席に座る“王”が。

 それが彼らにとって、暴君であるというだけのことだった。

 

「ふざけるな!!」

 

 女神メアリースが激怒した。

 もう、目の前に“暴君”は居ない。そもそも姿を現してすらいない。遠くから一瞥をくれただけだった。

 

「何もしないくせにッ、何一つしようともしないくせに、この私に命令するですって!! 

 この私を馬鹿にするにもほどがある!! 尊敬してたのにッ、ずっと憧れてたのに!! なんで私がこんな仕打ちを受けないといけないの!!」

 

 他の神々は全員思った。自分の胸に手を当てて考えてみろ、と。

 だが女の癇癪に巻き込まれるのも嫌だったので、何も言わなかった。

 

「……メアリースよ、お前もいい加減に無駄な努力はやめろ。

 あの御方にちょっかいを出すのがいかに恐ろしいのかわかっているだろう?」

 

 彼女の盟友たる女神リェーサセッタは目を閉じたまま語らず、仕方なく周囲の視線を受けて比較的彼女と親交のある巨大な犬の姿をした神が声を掛けた。

 

「リェーサセッタ、お前もだ。

 お前も、この我らの領域が自然神どもに取り仕切られていた時代を覚えているだろう?」

 

 遥か昔、人間や動物出身の神々は今よりずっと低い地位に居た。

 自然そのものが神格化した神々が、全てを取り仕切っていたからである。

 

 だが、ある時ずっと空位だった神々の頂点である“全知全能”の席が埋まった。

 それが人間出身だったのだから、それまで人間なんて虫けらとしか思っていなかった自然神たちは面白くなかった。

 よせばいいのに、彼らは王に戦いを挑んだ。反逆である。

 

 しかし、“暴君”はそんな連中を一瞥だけで滅ぼした。

 それ以来、当人はずっと自分の故郷に引きこもっている。“領主”たちが呑気にお互いに争い合えるのも、彼が全く支配に興味が無いからだった。

 実際、関わり合いにならなければ無害だった。かくして彼は、神々からすら神のような扱いになった。

 

「いつまでも、その座に居れると思うなよ……。

 いずれ私が神々の頂点に立ち、永劫不変の楽園を全ての人類に齎すのよ!!」

 

 そんな相手に、この女神メアリースは毎回戦いを挑んでいるのである。

 正気の沙汰ではない。誰もが、やべー奴だと彼女と距離を置いた。

 彼女は毎回“暴君”と戦って“家の主人”以下のレベルにまで弱らされているのに、不屈の反骨心と対抗意識で毎回“領主”に復帰しているのである。

 

 だめだこりゃ、と犬の巨神は首を振った。

 古来より人間は犬とパートナーであったが、対等な関係ではなかったのだから彼の言葉を彼女が聞き入れるはずもなかった。

 

「まずありえないと思いますが、もし彼女が頂点に立ちそうになったら足を引っ張ってください。

 メリスは適度にストレスを与えた方が仕事の効率が捗り試行錯誤が捗るので。

 彼女がストレスフリーだと管理下の世界すべてをディストピアにしかねない」

 

 自分の盟友が話を聞いていないからとは言え、女神リェーサセッタの物言いも酷かった。

 とはいえ、こんな性格の女に上に立たれても困るので、絶対に無いだろうが頷いておく“領主”達だった。

 

「メリス、メリス。苛立つのも分かりますが、良い機会です。

 あの御方の同位体を消して回るのは労力の割に効率が悪い作業だったのです、これ以降はサッパリ止めにしましょう」

「……それもそうね。

 元々あまり期待していなかったし。

 トライ&エラー。スクラップ&ビルド。それが私のモットー。

 どんな物事も試してみるまで意外と分からない物だけど、今回は分かりきっていた失敗だったわね」

 

 じゃあやるなよ、とほぼ全員の神々は思ったが、彼女はやべー奴なので誰も関わりたくなかった。

 

「ではすべての我が子たちに同位体狩りは中止及び永久停止を指示しておきましょう」

 

 切り替えの早い盟友に、女神リェーサセッタも頷いた。

 

「やれやれ、補償にどれだけのリソースを使う羽目になるのやら」

「レジスタンスにも何名かあの御方の同位体を殺されたという動機で参加している者もいますがどうしますか?」

「現時点で私のやり方が嫌だって言ってる連中に、わざわざ遡行してまで保証してやる義理はないでしょ。

 連中が、私達の期待に応えたのならその時にすればいいじゃない」

「そうですか」

 

 それは楽しみですね、と邪悪の女神は笑みを浮かべた。

 でしょう? と文明を司る女神も笑った。

 

 そんな二柱から、そそそ、と他の神々は距離を取った。

 どんなに意思疎通が出来たとしても、この二柱は自分たちの楽しみの為に合理性を放り投げられるのだから周囲はたまったモノではないのだった。

 

 

 

 

「珍しいこともあるものです。

 あの御方の前に立ち、生きて帰った者が数年前に現れてすぐに出てくるとは」

 

 キョウコが義姉と呼ぶ女性の声が、門を抜けたレイアに言葉を掛ける。

 

「よくわからなかったですけど、お世話になりました。

 もう大丈夫なんですよね? でもどうやって帰れば……」

「その前にひとつだけ教えておきましょう」

 

 レイアは声のする方に顔を向けた。

 

「才能とは、魂に依存するモノ。

 あなたもまた、我が師に匹敵する魔導の才覚の持ち主なのです」

「なんだか、信じられないな……」

「もしあなたがその道を志すなら、これを持って行きなさい」

「くれるって言うなら何でも貰いますけど……」

 

 卑しきスラム育ちの少女は、目の前に出現した物体を手にした。

 

「それを使用して己の可能性の全てを引き出せたのなら、その時は“暴君”の三代目を名乗りなさい」

「三代目ってことは、二代目も居るんですか?」

「あなたはもう既に会ってますよ。キョウコの事です」

「ああ、なるほど……」

 

 あの奔放さを思い浮かべ、きっと周りも苦労しているんだろうな、とレイアは思った。

 

「あと、よければ偶に魔導を習うという体で遊びに来てください。

 我が師はひねくれすぎて拗らせすぎてますが、根は寂しがり屋なので」

「ええまあ、自分の事でもあるのでわかります」

 

 その直後、レイアの目の前に次元が真っ二つに切断された。

 女性の悲鳴が聞こえたが、レイアは努めて聞かない振りをした。

 レイアは知っていた。これは痴話げんかって奴だと。お隣の夫婦が良くやってる奴だと。

 

 

「驚いた、まさかあの御方の神器まで授かるとは。

 なんとなく君の行く末が見えたよ。

 どうか我が弟たちの前に、君が現れてくれることを願おうか」

 

 すると、レイアの二倍くらい身長の有る誰かが声を掛けてきた。

 

「私は、お姉ちゃんと一緒に居られるだけでそれでいい。

 必要以上の力なんて、要らない」

「そうだね、いったいどれだけの力があれば、君に降りかかる困難を振り払えるのだろうか。

 もうそれを受け取った時点で、普通に生きることなんて出来ないんだよ」

 

 恵体の男は柔和に聞こえる声色で、どこか喜悦と期待とほんの少しの戦意をレイアに示していた。

 

「ここにいつでも来ていいだなんて、この仕事を任されてから数千年一度も聞いたことが無い。

 君は特別の中の特別だよ。さあ、君の世界へ送ってあげよう」

 

 転移の際の酔いがレイアに訪れた。

 

「送ってくれて、ありがとうございます。

 でも多分、あなたの期待には応えられないと思います」

「ははははは、面白いことを言うね。

 あの御方と同じ魂を持っていると言うのに」

 

 彼は、“マスターロード”はよく知っていた。

 才能は魂に依存する。それはつまり、どの世界でも同じ魂の持ち主が辿る運命が似通っていることを意味する。

 他ならぬ、彼の母神たちがそうであったように。

 

 

「楽しみだよ、未来の三代目」

 

 

 

 




新年一発目!!
運び屋たちの戦いまで書きたかったのですが、中途半端になりそうなので区切りました。
ちなみに、前々回のあとがきですが。

最高の仲間
→女神の助力により、運び屋参戦が早まる⇒レイア覚醒フラグ

でした。
そうです、このルートだとレイアがプレイアブルキャラとなるのです!!
最高の仲間とは、運び屋だけでなく彼女の事も示していたのです。
まあ、しばらくは弱いままなのですが。ってかそうじゃないとチートキャラに成長するので今のうちじゃないと戦いにならないのです。
彼女がヒロインになるかは未定です。そのうち人気投票アンケートするかもしれません。

さて、遅れましたが、新年あけましておめでとうございます!!
正月はどしどし更新しますよ!!

では、また次回!!
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