ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー 作:やーなん
「ええい、こなくそ!!
やるしかないのかよッ!!」
運び屋はヤケクソ気味に叫んだ。
もうこの期に及んで保身に走るなんてことは許されなかった。
「クラリス!! どれくらい戦える!?
俺に勝算がある!! それにはリーパー隊を排除しないとならん!!」
「分かりました、聖鎧の残存エネルギーは45%ほど。
彼ら全員を相手した時は余裕でしたが……」
クラリスは周囲を見渡した。
家屋の影から、続々とリーパー隊の隊員たちが集結している。
更に。
「リーパー隊の隊長権限スキルを行使する。
死すら許されぬ咎人よ、我が元に再び馳せ参じよ」
リーパー隊の隊長にのみ与えられる固有スキルを彼が行使した。
地面に瘴気に満ちた孔が開き、そこから亡者のように罪人が這い上がって来た。
「いやー、すいませんっす、隊長。油断したっす」
そこから現れたのは、先ほど彼らが倒したリーパー隊の隊員。
人喰い部族の族長エルフ、通称“人喰い”マンティスだった。
「お前らの一族にあの男をやる。
失態は成果で取り返せ」
「ひゃー、それは愉しみっすねぇ」
地獄にすら行けない極悪人は、よだれをダラダラと垂れ流しながら二人を見た。
「第一隊、間隔をあけ包囲しろ。
第二隊、順次遠隔攻撃を開始、揃えて撃て、
第三隊、攪乱・妨害魔法にてデバフに集中だ。
各員、対英雄ユニットを想定。──掛かれ!!」
統率された魔の軍勢が、一斉に二人に牙を剥いた。
「復活だと、アリかよそんなの!!」
「早く、出してください!!」
彼は後ろに乗ったクラリスに急かされ、アクセルを踏み込んだ。
「ホホホ、先鋒は頂きましょうか」
オークの呪術師が、ゾンビと化した住人たちを無理やり走らせて二人に殺到させる。
「邪魔だああぁぁぁ!!」
しかし、その程度で軍用のバイクは止まらない。
電磁バリアを展開して、ゾンビの群を蹴散らしていく。
「隊長、詠唱完了しました」
「やれ」
だが、それも長くは続かない。
クモの巣状の魔法の網が、地面に広がり始めた。
「くそッ、こちらの弱みを理解してやがる!!」
相手の足回りを潰す為の網が広がり、必然的に彼の戦場は限定された。
「私が吹き飛ばします!!」
「この程度で使うな、温存しろ!!」
ジャンプして長屋の屋根に飛び乗った二人は、しかしもう既にそこは敵の罠の中だった。
「シャーマン!! マーキングを!!」
「もうやってます、族長!!」
「よーし、撃て撃て、矢も魔法も全部くれてやるっす」
屋上はエルフ達の領域だった。
彼女らの弓矢と魔法が矢継ぎ早に襲来する。
所詮は直線の攻撃、避けるのは容易い、筈だった。
「なッ、攻撃が曲がった!?」
クラリスの動体視力は、確かにバイクは攻撃を回避したはずだった。
しかし吸い込まれるように電磁バリアが激しくスパークし、攻撃を防いでいる。
「必中属性を付与する精霊魔法らしい!!」
掲示板の住人たちから警告を受けた運び屋が言った。
「こっちは何度も耐えられない。バリアはエネルギーを食う。
あいつらも、クラリスの攻撃を警戒して固まってない、マズいな」
相手は確実に一手一手仕留める為の布石を打って、詰みを待っている。
そしてリーパー隊に損害など有ってないモノだ。
「ならば、じり貧でも戦うしかない」
「頼むぜ、クラリス」
早速、屈強なオーガやオーク、鬼や獣人が屋根に乗って翻弄するように距離を取って牽制を始めている。
攻撃されてもいつでも逃げられる、嫌らしい動きだ。
「せぇい!!」
聖鎧の力を解放したクラリスの一閃が、その攻撃を迎撃し吹き飛ばす。
「一先ず、あのうざったい砲台を何とかするぞ」
「賛成です!!」
しかし、それを阻む者たちがいた。
リーパー隊でも屈強な者達で構成された第一隊、それらがエルフ部隊を援護するように前に出た。
「邪魔だぁあ!!」
自分の死を何とも思っていない不滅の魔物たちが、文字通り壁となって行く手を阻む。
運び屋は電磁バリア頼みで突貫し、彼らを蹴散らした。
「まずは、五人!!」
エルフ達は分隊を複数配置している。
その一隊を、クラリスが薙ぎ払う!!
──だが、その剣が彼女たちをすり抜けた。
「マズい、幻覚魔法だ!!」
本能で危機を察したクラリスが叫ぶ。
幻影は笑みを浮かべながら消え去り、その足元には今の今まで見えなかった爆弾が転がっていた。
直後、閃光と爆音が弾けた。
「くそッ、しまった!?」
軍用バイクの電磁バリアは優秀だった。
まだ二人は無傷だった。
だが重要なのは、攻撃ではなかった。
家屋が爆弾で破壊され、二人は地面へと落下した。
そう、蜘蛛の巣のような網が張り巡らされた、ぞの地面に。
「やられたッ」
バイクから投げ出され、地面に吸着して身動きの取れない彼は焦ってもがくが、もう遅い。
各々の練度、連携。各個撃破できたことが不思議なくらい、リーパー隊の連中は百戦錬磨の精鋭だった。
「右手~」
「左足~」
鉈を持ったエルフの蛮族が、カエルのように落ちて来た。
「止めろ、止めろ!!」
同じように身動きが取れず、地面に張り付けられているクラリスが叫ぶ。
「……あれ、族長~、これ作り物ですよ」
今にも運び屋の身体を切り刻もうとしていたエルフが、その鋭敏な嗅覚で彼の身体が義体であることに気づいてしまった。
「なんだ人形すか。じゃあ種も期待できないっすね。
しゃーないっす、──殺せ」
子供のように小柄なエルフの族長が、心底残念そうにそう命じた。
エルフ達が、鉈を振り上げたその瞬間!!
「あああああああぁぁぁぁあ!!」
力の限り、聖鎧の力で拘束を振り払い、クラリスが周囲ごと薙ぎ払った。
「おい、クラリス、大丈夫か!?」
フグが自分の毒で死なないように、クラリスの聖鎧も自分の力で自爆しないように防御装置が付いている。
だが、無理な態勢での力の行使は、彼女に酷い火傷を負わせていた。
「安心してください、あなたは私が守ります」
そんな窮地にあっても、クラリスは笑顔だった。
その表情に彼が絶句していたが、状況はまるで変わらない。
たった数名を倒して、それで窮地は変わらない。
負傷者を抱え、手傷を負ったクラリスは絶体絶命に他ならなかった。
住人たちの悲鳴が掲示板にこだまする中、リーパー隊は徐々に包囲網を狭めていく。
「ごめんね、クレア。
……お姉ちゃん、勇者には成れなかったよ」
彼女が決死の覚悟を決めた、その時であった。
──ーそんなこと、ないよ。
「……クレア?」
そんな声が、聞こえた気がした。
時刻は、ほんの数分ほど前に遡る。
「ここは、スラム?
私、戻ってこれたんだ……」
人智を超えた場所から、無事に帰ってこれたレイアはホッとした。
周囲は、見慣れた灰色のポリゴンの町だった。
「早く、お姉ちゃんを探さないと」
「──おい、こんなところにまだガキがいるぜ!!」
その粗暴な声に、レイアは俯いていた顔を上げた。
彼女の目の前には、鬼としか形容できな怪物が近づいてきていた。
「隊長から召集の命令が出てるぞ」
「へへへ、こいつを殺してからでもかまわねぇだろ」
「いや、おい待て。そのガキ、例の目的の女じゃねぇか!!」
「なに!?」
鬼の集団が、顔色を変えた。
「五体満足で捕まえろ、とは言われてないよな?
例えば、手足を引きちぎって、ダルマにしたまま俺の逸物で串刺しにしながら連行しても良いんだよなぁ?」
「はははは、そりゃあいい!!」
「賛成だ!!」
鬼畜を体現したような連中は、狂喜の笑みを浮かべて少女に近づいていく。
「え、ええ!?
どうして、全部終わってるんじゃないの!?」
こんなの聞いていない、とレイアはその場に怖気づいてへたり込んでしまった。
「お、お姉ちゃん助けてぇ!!」
産まれてこの方喧嘩すらしたことのない少女は、ただただ無力に泣き叫ぶほかなかった。
『────まったく、見てられないったらないよ』
怯えて震える彼女の手から、するりとあの場所から持ち帰ったそれを抜き取られた。
「へ?」
「なんじゃあ、チビ!!
わしらとやるんか!!」
「おもしれぇ、いっちょ揉んでやるか」
「オナゴが俺らに勝てるとおもっとんのか!!」
レイアが顔を上げると、彼女は目の前には背の低い少年が立っていた。
その手には、魔法使いが持つような節くれだった杖があった。
それこそが、彼女が見えない存在から受け取った物だった。
だが一番の異常は、鬼達がその少年をレイアだと思っていることだった。
「あ、危ない!!」
彼女の悲鳴は、轟音にかき消された。
視界を埋め尽くすような光と、稲妻が迸ったのだ。
鬼達は一瞬で炭化してぷすぷすと煙を上げていた。
「あ、あなたは……」
『僕はもう一人のお前だよ』
『大丈夫? 立てる?』
またもう一人、彼女の前に少女が現れ、レイアの手を取った。
レイアは悟った。この少女も、また自分なのだと。
『この杖は、無数の君の可能性の中から、必要に応じてそれらを自在に引き出すことが出来る神器だ』
『性別や年齢、姿形なんて関係ない』
『私たちは』
『僕たちは』
『すべて、あなたなのよ』
見渡せば、彼女の周りには見渡す限りの自分の可能性が存在していた。
攻撃魔法を究めた自分。魔法技師への道を進んだ自分。医師となって治癒魔法を突き詰めた自分。幾たびの戦いを乗り越えた自分。老いて弟子に魔法を教えている自分。そして。何もできずに無念のまま魔王に殺された自分。
そして、まだ“暴君”と呼ばれた人間だった頃の姿をした自分。
並行世界に、異世界に、ありとあらゆる自分の可能性へと繋ぐことが出来る神器。
それが、彼女が神から受け取った物の正体だった。
「私って、こんなにいろんなことが出来るの?」
『当たり前だろ』
『何ゆえに女神メアリースが、君の魂を恐れたのか、これで分かっただろう?』
『あの女は、自分より劣った者しか愛せないのだ』
『才能だけなら、僕らよりあいつの方が優れてたのにね』
もう一人の自分に手を貸され、レイアは立ち上がる。
「そうだ!! はやくあいつらを追い出さないと、皆が……」
『まあ今回は最初だし、手本を見せてやるか』
『じゃあ、誰が行く?』
『面倒だから、僕で良いよ。その体借りるけど良いよな?』
「え、幾ら自分とは言え、男の人はちょっと」
『…………』
『じゃあこうしようか、私達がすこしづつ力を貸すから、あなたは自分が成りたい自分を思い描いて』
「私の、成りたい自分?」
レイアは神器の杖を受け取り、目を閉じた。
そうして、理想の自分を思い描いた。
「レイアは将来、何に成りたい?」
「将来?」
昔、姉のクラリッサがレイアに尋ねた。
「そう、目が治って、一人で立って歩けるようになったら何をしたいの?」
「そんな日なんて、来なくていいのに」
「まったく、あなたはそんなことを言ってばっかり!!
そんなに不満なら、自分で何とかすればいいのよ。
そうした行動力を持ちなさいよ、そうすればいつかあなたも変わっていくわ」
レイアにとって、姉とは太陽だった。
対照的に自分は月なんて大層なモノじゃない、精々デブリが良いところだろう。
だから、どんな自分に成りたいかと、言えば。
「……私は、お姉ちゃんみたいに明るく前向きになりたい」
違う自分に成りたい。
余りにも有り触れた、変身願望。
『じゃあ、それで行こうか』
無数の自分たちが、可能性が、レイアに集まっていく。
『恐怖は、皆が引き受けよう』
『戦いの経験は、私が補おう』
『魔力は僕が繋げようか』
『魂の点綴は、数人分くらいで良いかな』
たったひとりに、同位体が無限に重なる。
ブリキの人形のように錆び付いた身体が軽くなる。
霊的に格の低い彼女の魂が、紙が重なり本になるように厚くなった。
あふれ出る全能感に、レイアは震えた。
これが彼女の最終地点。
自分の可能性を極め切った、その最果て。
人の身で神の如きと謳われた“暴君”の、三代目を名乗っても良い最低ラインだった。
『君のお姉ちゃんが仲良くしてた、私達の兄や姉と同じ魂の持ち主がピンチみたいだよ』
未来予知の術を知り尽くした自分が囁く。
「行こう」
ふわり、とレイアの身体が浮いた。
そのまま彼女は自分たちが住んでいた長屋へと、飛び立った。
それは何の比喩でもなく、青天の霹靂だった。
そう、雷鳴と共に、彼女は二人の前に現れた。
杖を立てて膝を突き、雷鳴が墜ちるのと同時にそこに彼女は着地したのだ。
「クラリスさん、助けに着ました!!」
クラリスは、自分にそう言った少女が誰だか一瞬分からなかった。
「クラリッサ? いや、レイアなのか!?」
「はい、レイアです。もう、私は大丈夫です」
彼女はクラリスにそう言って、姉のように太陽みたいに笑った。
「何で来たんだ!! こいつらの目的は君だ!!
いや、それより、その力は……」
「あはは、それを言っちゃダメじゃないですか。クラリスさん」
彼女の失言に、レイアは頬を掻いた。
「……ええ、あなた達の目的は私です。
だからこれ以上、皆を傷つけるのは止めてください」
単身言葉だけで、殺人鬼の集団に訴えかける無謀。
だが、彼は油断しなかった。
隊長は視線を横に向ける。
そこに立っていたオークの呪術師は、震えながら無言で首を横に振った。
「まったく、嫌な仕事だ。
総員、死力を尽くして掛かれ。出し惜しみは無しだ」
隊長は目深に帽子を被り、部下たちにそう命じた。
直後、魔物の群がたった一人に一斉に襲い掛かったのだ!!
「なにが、起こってるんだ?」
俺は、目の前で起こっている光景が信じられなかった。
稲妻が、踊っている。
一斉に飛び掛かったリーパー隊たちが、少女が孔雀の飾り羽のように広げた雷によって薙ぎ払われる。
四方八方から撃たれる矢や魔法が、虫を振り払うかのように電撃で振り払われる。
必死に魔法で行動を阻害しようとしているが、彼女は意に介さない。
むしろ呪術的な反撃を受けて、リーパー隊の術者が目や鼻から血を流して倒れた。
:なに、何が起こってるの? :とにかく、味方なのか? @魔法技師:何あれ、あんな魔法の使い方したら脳が焼き切れるのに何で無事なの!? :高機能な演算デバイスで詠唱を代行してるとか? :いや、あれだけの魔法の同時行使だと、それなりの重装備になる。あの子おかしい :あれは、まさか、だが、あれは禁術の筈!? :↑学者ニキ、知ってるなら教えてくれよ!!
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少女は、雷の化身だった。
人類がまだ、雷がどうしようもない神々の災厄だった頃の、理不尽そのものだった。
@学者:魂の共振現象だ。理論上、同じ魂が二つあり、一つの意思で操ることができるなら、それは一人で二人分の魔法行使を可能とする。演算能力も改善されるだろう。 その上、才能は魂に依存するとされる。同じ二つの魂が共鳴しているとなると…… :要するに、二倍の出力が出せるってことだな!! @学者:いや、二倍なんてモノじゃない。 ────二の二乗×二の二乗だ。何故にメアリース様が禁術に指定するか、わかるだろう? :は? 同じ魂が共鳴してるだけで、理論上出力十六倍だと!? :じゃあ三つだと、三の三乗×三の三乗×三の三乗ってコトォ!? :余裕で禁術ですわ。制御できる気がしない @学者:しかもあれは三つや四つどころではない、それを完全に制御しているだと!? クソッ、計器をそっちに持ってけないのが悔やまれる!! :いやいやいや、同じ魂が二つ用意できるだけでそんなことが起こるなら、もう既に大事故が起こってるだろ!? @学者:魂の共振現象は特定の条件下でしか起こらないはずなのだ!! つまり、三つ四つの魂がその条件で揃うことなどまずあり得ない!! 私は今、神の奇跡を見ているのだ!! :すんごい貴重な現象を目の当たりにして、学者ニキが壊れた…… :今、スゴイこと思いついてしまった。メアリース様の化身も、全て同じ魂の個体のはず。主上でもこの現象は制御できんのか
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有識者たちの解説が、頭に入らない。
だが、俺でも知っていることが有る。
魔法とは、何の代償も無く使える代物ではないということだ。
「はあ、はあ、はあ……まだ、行けるッ」
少女の息が上がっている。
或いは、これほどまでの戦闘能力を発揮して、その程度の消耗ですむことが信じられないことであった。
「……ダメだ。ごめんなさい、クラリスさん。
後は託します。任せちゃって、ごめんなさい」
余りのことに放心しているクラリスに、魔力が集まって行く。
「これはッ……分かった、ありがとう、レイア」
クラリスの鎧の力が、爆発的に高まって行く。
半分も残っていないはずの鎧のエネルギーが、あの時見た全力で振るわれようとしていた。
「太陽だ……」
太陽の光が、周囲を全て焼き払ったのだ。
「困りましたね」
クラリスの攻撃の余波で吹き飛ばされたハイティが、真っ二つに折れた眼鏡を何とか元に戻そうとして諦めた。
「ここは潔く、私の負けを認めるべきでしょうか」
「あの連中は全員倒した。次はお前の番だ!!」
「ひとつだけ事実を述べるのなら、私は一切消耗しておりません」
息も絶え絶えなクラリスに、無表情のハイティは言った。
「私の優先順位は、魔王様のご意思のみ。
あの御方の元にあなたを届けることが我が使命。
殺してしまうわけにも参りません。さて、どうしたものか」
「お前の優先順位に、あいつらが殺した連中は含まれていないのか!!」
「当然でございます。だってそうでしょう?
主上に貢献していない人間など、資源の無駄使いも同然。
言わば不良債権なのです。それを処分するのに躊躇いが要りましょうか?」
「この悪魔が!!」
クラリスがまだ赤熱している剣の切っ先を突きつける。
「とりあえず、最初の仕事はこなしておきましょうか」
ハイティの視線は、魔力の過剰消費で気を失っているレイアに向けられた。
「はあ、はあ、ようやく静かになったな、ハイティ」
そんな彼女の前に、ボロボロになった運び屋が現れた。
「あなたですか、まだ何か私に言うことが有るのですか?」
「ああ、あるとも。
ハイティ、あんたは言ったな魔王様の意思が優先事項だと」
彼はおぼつかない足取りで、端末を操作し彼女に突き付けた。
『んん? ハイティ?』
「魔王様!?」
今はちょうど、彼の自宅でアニメを見ている魔王ローティが通話に応答したのだ。
「ローティ、お前はスラムの住人をどうするべきだと思う?」
運び屋が彼女に尋ねた。
『にぃにも居るの? スラムの連中?』
「そうだ、ハイティは彼らを不良債権だと言った。
処分するのが、お前は正しいと言うのか?」
『えー? ローちゃん知ってるよ。
スラムが出来るのは教育が行き届いてないからだって。
長期的に収入が得られるようにして、平均収入を上げて、ちゃんとした職に就けるように支援するんでしょ? みんなに教えて貰ったよ』
「だとよ!!」
通信を切り、運び屋は怒鳴るようにそう言った。
「……しかし、これでは命令に矛盾が」
「メアリース様はこちらの人格を統治に使うと仰られた。
じゃあどちらを優先するか、お前にはわかるだろ?」
「……そう、ですね」
ここに至り、ようやくハイティは己の非を認めた。
「ですがこれはこれ、それはそれ。
その少女の確保が、私の仕事。それもメアリース様からの勅命。これを翻すのに、私の意思は関係ありません」
「まだ言うかぁ!!」
クラリスがいよいよ刃を振り上げた、その時だった。
「よお、ハイティ」
若武者のような偉丈夫が、二人の間に割って入った。
「義兄さん!? なぜここに!!」
「仕事中悪いが、実はその仕事に関する話でな」
彼は命令書を、ハイティに渡した。
「これはッ、永久中止!?
そんな馬鹿なッ、なぜこんな土壇場で!!
これまでのコストはどうするのですかッ!?」
「それがよぉ、全部メアリース様が補償するんだと。
発生した損害も、────死者さえも」
悪魔族の偉丈夫──四天王ハイボールは呆れたように肩を竦めた。
「とりあえず、今回の騒ぎで死んだ連中は全員蘇生じゃね?
いやぁよかったな、お前さんの失態も無かったことになるな!!」
ぽんぽん、と彼は放心する義妹の肩を叩いた。
「……全員、生き返る?」
それは言葉だけ聞けば、何ともご都合主義的な安直な展開であろう。機械仕掛けの神が出てきて、劇の全てを終わらせる。太古から嫌われたお芝居の幕引きである。
だが、その本質は全く別のところにあった。
「神は、女神は、我らの命を何だと思っているんだぁああ!!」
やろうと思えば、いつでも全員殺せる。
やろうと思えば、死さえも無かったことにできる。
神々にとって、人間とはその程度の存在なのだ。
こんな馬鹿馬鹿しいことは、他には有るまい。
「ならば返せ、私の妹を返せ!! 私の故郷も、両親も、村の人達もッ!!」
煮え滾る憎悪と、圧倒的な虚無感。
その悲しみに、クラリスは嘆き苦しんでいた。
「何言ってんだ、お前」
だが、目の前の悪魔は首を傾げた。
「お前の妹も、お前の故郷も、お前の両親も、知人友人、そしてお前の命さえも。
何一つとして、お前の物では無い。
────お前の全ては、メアリース様がお前に貸し与えたモノに過ぎないのだ」
だから返すとか返さないとか見当違いなのだと、憐れむように悪魔は言うのだった。
「……ッ」
それは、怒りが心頭に達したのか。
或いはこれまでの疲れや怪我の影響なのか。
ぷつり、と電源が落ちるように彼女は意識を失ったのだ。
「おい、クラリス、クラリス!!」
こうして、この騒動はひと段落したのだった。
誰にとっても、徒労という結果で。
女神メアリース様語録
「今回は私の責任だから全員復活させるわ。え、他の死者も蘇生して? そんな命の価値を軽んじるような安っぽい真似するわけないでしょ」
「私に従うのなら、どんな異種族も“人類”として扱うわ。
どうしてそんなことをするのかって? ――ファッションよ。
クジラを食べるのはダメだと主張するのと同じよ。そうでしょう?」
今回にて、第二章は終了いたします。
駆け足になりましたが、なんとか正月中に終わらせられました。
次章以降は、ワン子と今回出番が少なかったローティの絡みも増える予定です。主に運び屋の家とかで。
ルート次第で、ローティの出番も増えたのですが、その場合クラリッサが死亡確定してました。
イフ編はどの辺りで入れるかはタイミングを見計らう予定です。
ところで、この作品のジャンルは現代にしてるんですが、世界観的に運び屋の居る世界ってSFなのでは? それともファンタジー?
サイバーパンク物はロックマンエグゼくらいしかよく知らないので、解釈違いがあっても許してください。
では、また次回!!