ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー 作:やーなん
「出なさい」
その声に、私は顔を上げた。
この独房に入れられ、すでに数日経ってのことだった。
先日のあの魔物どもと戦い、力尽きた私は虜囚の身となっていた。
武器も聖鎧も取り上げられて、まるで実験用動物の檻みたいな独房に押し込まれていた。
しかし、その扱いは忌々しいほど丁寧だった。
三食昼寝付きでおやつも出てくる。(精一杯の強がり
しかもドリンクバーもついてる!! 糖分取りすぎかな……。
更に要望を言えばお菓子も貰えた。
くそッ、魔王の手中じゃなければずっと住んでいられるのに!!
私は空になったポテチの袋をゴミ箱に捨ててから、促されるまま外に連れ出された。
拘束具も無しとは、舐められたものだ。
ドリンク飲み放題とおやつで私を弱体化させるつもりだろうがそうはいかない。
ちゃんと私は暇な時間に筋トレしておいたからな!!
家無しの時よりむしろ捗ったくらいだ!!
……どうしよう、涙が出てきた。
「どうかしましたか?
もしや、私たちの目の届かぬところで虐待でもされてましたか?
でしたら精査の上ですぐに処分するので、正直に仰ってください」
私を連行しているデーモン種の男がそう訪ねてきた。
私は何でもない、と首を横に振った。
彼の善意が余計私を惨めにするのだ。
「こちらです」
そうして、私はエレベーターで最上階に連れていかれた。
そこで、私は彼女と出会った。
「初めまして、私の名前はスズ。
魔王一族の末席を頂く身としてこの世界の担当をしているローティ姉上の補佐をしている者です」
魔王スズ。
彼女が現在“体調不良”という事になっている魔王ローティの代理。
見た目はローティより少し年上に見えるが、奴はあんなナリでも歴戦の魔王。なりたてならきっと彼女の方が若いのだろう。
学校の制服でも着せたら学生と言っても通じる見た目だったが、魔王スズは紛れもなく魔王だった。
「改めまして、私はスズ様の四天王が一人、バンブスと申します。
大いなる御二柱に仕える神官でもあります」
私を連行した悪魔族の男が、席に座った。
「どうぞ、お掛けになってください」
私は彼に促されるままに用意されていた席に座った。
まるで面談かなにかのような位置関係だった。
「そう警戒せずとも私たちはあなたに危害を加えるつもりはありません」
私が警戒し、出方を伺っていると、彼はそう言った。
「何が狙いだ。私はお前たちに屈しないぞ!!」
「親父、やっぱりこいつはここで殺した方が良いんじゃね?」
室内にいるほかの若い悪魔族の男がそう言った。
他にも二人、魔王を護衛するように彼女の背後に立ったままこちらを警戒している男女が居た。
女の方はまだ少女と言えるほど若いがどこか風格があった。勝てる。
悪趣味な意匠の鎧姿の中年の男は、多分手練れだ。結構手こずる。
若武者みたいな悪魔族の男はよくわからないが、多分勝てる。
そして神官であるらしいバンブスという悪魔族は、近づけば間違いなく勝てる。
こいつらが魔王スズの四天王なのか。
もしかしたら、五人目もいるかもしれない。三銃士が四人なのと同じように、それはお約束なのだから。
「スズ様が会いたいと仰ったのだ。
それを目の前で殺すと言うのか、バカ息子め」
「沽券に係わるって? テロリストを生かしておく方がよっぽど沽券に係わるだろうが」
「……お前は口を閉じていなさい。
まったく、お前もハイティのように真面目であれば良かったのに」
ハイティ、その名を聞いて私は四天王バンブスを睨んだ。
「そう言えば、我が娘ハイティと相対したそうですね。
あれもまた未熟ゆえに粗末な対応をしてしまい申し訳なかった」
「スラムの皆を皆殺しにして、粗末な対応とぬかすか!!」
「あなたの気持ちは理解できますが、今ここで激高したところで意味のないこと。
それに彼らの命はすでにリコールされました。
今頃、彼らは今後の身の振り方について説明を受けていることでしょう」
「なにが身の振り方だ、お前たちのやり方で彼らが行き着く先は家畜の人生だ!!」
「家畜の人生、ですか」
燕尾服に黒縁眼鏡といういで立ちの悪魔族は、ゆっくりと目を閉じた。
「では、あなたは今自由であると?
主義思想を自ら選び、自分の意志で物事を決定していると?」
「当たり前だ!!」
「私にはあなたのその思い込みが不自由に思えてなりません。
あなたはこの世界にやって来て、それなりの時間を経てどう思いましたか?
メアリース様の恩寵無き生活は惨めで虚しいものでしょう?」
悪魔は私に問いかける。
「それでも私は、尊厳まで失ったつもりはない!!」
「強がりはおやめなさい。
どう言い繕ったところで、人間の尊厳とは衣食住の上に成り立っている。
思い当たりませんか、あなたのスラムでの生活は他者に媚びた無様なものであったと」
その物言いに、私は激怒した。
椅子から勢いよく立ち上がり、怒鳴り散らした。
「その言葉、取り消せないぞ!!
お前は私だけでなく、私の恩人までも侮辱したのだ!!」
「……失礼、言葉が過ぎましたな。
私が聞きたいのはそのような話ではありません」
相手が素直に謝ったので、私も一先ず矛を収めて椅子に座りなおした。
「あなたはレジスタンスの一員として、テロ活動に従事しました。
そして魔王ローティ様を襲った。そうですね?」
「奴は家族の、故郷の皆の仇だ、それの何が悪い!!」
「いいえ、復讐はリェーサセッタ様が司る大いなる権能に許されたあなたの自由。
ですが自由には責任が伴うもの。それを行ったあなたにはそれ相応の罰がある、そうは思いませんか?」
「それはお前たちの神が勝手に決めたことだ!!」
「ええ、あなたの神が決めたことです」
激する私にバンブスは淡々と言った。
「ならば、神が決めたのならお前は家族を捧げられるのか!?
どうなんだ!!」
「その発言は少し的外れですね」
バンブスは眼鏡の縁を直してこう言った。
「私は孤児院を経営しています。
そこに集められた彼らは魔王様一族の側近となるべく英才教育が施されます。
つまり──私はもう既に数多の義子達を魔王様に捧げているのです」
そこの愚息もその一人です、と彼は告げる。
「理解できない……」
「価値観の違いを責めるつもりはありませんよ。
その多様性こそ我らがメアリース様のお望みなのですから」
私が何よりも恐ろしかったのは、彼に微塵も卑しさを感じなかったことだ。
彼は魔王の所業に子供達に片棒を担がさせて置いて、少しも悪いとは思っていないのだ。
「お前は何とも思わないのか?
魔王に滅ぼされた人達の苦しみを」
「ええ、貴女も体験した通りです。
今のやり方では、原住民を長く苦しませるだけです。
どうせ殺すのですから、一思いに一瞬で楽にするべきだとは思います」
違う、そうじゃない。
私はその言葉を口に出せなかった。
なぜ魔王による虐殺を肯定する事を前提なのか。
私はどうしても理解出来なかったのだ。
「私からも質問をよろしいですか?
貴女は何故に無意味な復讐に身をやつすのですか?」
「無意味だと!?
我が家族や友人たちの無念を晴らすのを無意味と言ったか!!」
「ええ、なぜならもう既に貴女の家族も友人もメアリース様の手によって転生を果たしているでしょう。
墓を作り手を合わせるのが人間の文化なれば、その意思を尊重はしましょう。
ですが結局それは何も産み出さない
貴女もわかっている事でしょう?
魔王様を倒したところで何の意味も無い」
──なぜなら、魔王様は不滅なのですから。
そう。私の復讐は何の結果も齎されない。
魔王を倒したところで、連中は何食わぬ顔で蘇るのだろう。
全て承知の上だ。これは私の尊重の問題。ただの自己満足なんだ。
「私は私の選択を後悔しない」
「その結果、無関係な人間を巻き込んだ。
貴女の言うところの恩人さえも」
女神の神官は淡々と事実を突き付ける。
「お前たちがスラムのみんなを殺そうとしたからだろうが!!」
「ええ、ですがこう考えられませんか?
貴女が居なければ、そもそもリーパー隊の連中が出張ることもなかった。
軍隊がスラムの住人を殺しても、せいぜい十人単位でしかなかったでしょう」
「人の命を数字で語るか!!」
「私はただわかりやすく言っているだけですよ」
「もう良いです、バンブスさん」
ここに来てようやく、魔王スズが口を挟んだ。
「これ以上言葉を並べても彼女の気を逆撫でするだけでしょう」
「わかりました」
バンブスは主人の言葉に頭を下げた。
「彼の言葉がキツく感じたのならごめんなさい。
これでも彼は破滅的な生き方を案じているんです」
「余計なお世話だ!!」
「では最後にひとつだけ言わせて下さい」
彼女は横に手を差し向けると、四天王の女がそっとメモを渡した。
「私は魔王一族の末席、スズである。
あなたのような若者を待っていました。
もし私の味方になればこの世界の半分を上げましょう。どうですか? 私の味方になりますか?」
「いいえッ!!」
「……では、テロリストは殺すしかありませんね」
魔王スズがメモを投げ捨て、虚空から禍々しい魔力の剣を引き抜いた!!
「ちょっと待ったぁ〜~!!」
その凶刃は私に振るわれる直前、それを止めた手があった。
「お前は!!」
「ローティ姉さん!!」
執務室の扉を蹴破って、幼い少女の姿をした魔王が現れた。
「私のオモチャで勝手に遊ぶとかいい度胸してるなスズ!!」
「ひうぅ」
姉の登場に、妹は萎縮してしまった。
「統治の仕事ばかりで忘れたか?
我らは魔王!! 邪悪の化身!! 何で相手に配慮する必要があるんだ?
人間だった頃のゴミみたいな感性は捨てろ!!」
「お言葉ですがローティ様!!
メアリース様に恭順を示さぬテロリストと言えど、最低限の扱いと言うものが」
「“お下がり”は黙ってろ」
声を上げる忠臣に、魔王ローティは殺意を向けた。
「今は一族の者として妹に教導してやってるんだ。
それとも兄貴を守れなかった役立たずが、この私に説教なの? 恥を知れよ」
「それは……」
その言葉に、バンブスは言葉に詰まった様子だった。
「お前が父と慕った兄貴に教わったことを、お前にも教えてやる。
いいか、我ら一族がすべきことは、統治者ごっこでも破壊神ごっこでもない」
そして、魔王は喜悦の笑みを浮かべこう言った。
「私たちが本当すべきことは、────
呆ける妹に、姉は笑いかける。
「ママは人間なんかにいい顔をしてるけどさ、その性根は最悪さ!!
まともな感性を持っていても、性格は邪悪そのもの!!
だからこそ、証明するんだ。この世に邪悪を引き立てる確固たる正義が存在することを!!
その為に苦しめるんだ、その為に痛めつけるんだ!!
連中の中から現れてくる、供物のスパイスとなるためにな!!」
そうして、彼女はようやく私を見た。
にたにたとその性根の悪さが透けて見える笑みだった。
「こいつは、ママに捧げる生贄さ!!
それを味わう前に、殺すなんてもったいない!!」
魔王は、私の顎を掴むと己の額と私の額がくっつきそうになるほど近くに引き寄せた。
「お前の苦しむ姿が、悶える様が、何よりの愉しみなんだ。
もっと私を憎め、もっともっと恨め。お前の大好きな復讐こそが、ママに奉納する神楽舞なんだからな!!」
これが、魔王。
正真正銘の、邪悪の化身!!
「お前の思い通りになると思うな」
「それは自分の立場を理解してから言うんだな。
今のお前は、煮るなり焼くなり好きにできるんだから」
だけど、この魔王はそれをしないだろう。
なぜなら、もったいないから。
「もう一度、お前に私に挑む権利をやろう。
万全の状態で、負けた言い訳を一つも言う余地も無い状態で、完膚なきまで叩きのめしてやる」
「望むところだ、今度こそ決着をつけてやる!!」
「せっかくだから、お互いに賭けをしよう」
「賭け?」
「そう、賭け。
万が一にでも私が負けたら、その時は二度と復活しない。お前は私を殺せるんだ。本当の意味でな」
不滅の魔王が、その不死性を投げ捨てる。
そんな常軌を逸した言動なのに、魔王の頬には朱が差し息が荒い。
「でもお前が負けたら、お前をお前たらしめるすべてをぐちゃぐちゃにしてやる。
そうだ、どうせだからコロシアムチャンネルで戦いの様子を放送させよう。
レジスタンスの連中にも見せてやろうじゃないか。
お前という人間が、完膚なきまでぶっ壊れる無様な姿をさ!!」
ここに現れてから、ずっと魔王は笑みを張り付けている。
動悸が激しいのか、胸を押さえながら。
まるで、恋する乙女のように、熱に浮かされたようにずっと私を見ている。
「グズな妹に教えてやるよ。
私が仕事が早いから序列第六位に成れたわけじゃないって」
意外なことかもしれないが、博士は言っていた。
魔王一族は、お互いに個々の能力差はそれほど存在しない、ということを。
つまり、連中の能力は並べるときれいに横ばいになるのだ。
どれだけ古参だろうと、新参だろうと、魔王に能力的優劣はほとんど無い。
だというのに、この一番若い魔王と、若くして序列六位にまでなった魔王には大きな、そう簡単には埋められない隔絶した差があった。
「よーく見てるんだぞ、本当の──真の邪悪ってやつをね」
こうして、私たちの戦いが決する日が決まることになったのだ。
出勤前と仕事終わりにさらっと書けました。
次回は、いよいよ二人の関係が決着し、また変わる一つの節目となります。
どちらにせよ、クラリスにとっては最大の試練と悲劇が訪れるでしょう。
それでは、また次回。
アンケート設置するのでよろしくお願いします。
二人の決着、次回はどちらのパートで進行してほしい?
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