ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー   作:やーなん

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幕間「アンビバレント」後編

 

 

 

「悪いけど、この身体はしばらく借りさせてもらう」

 

 それはまるで一人芝居のように、彼女の口が勝手に開いた。

 

「あなた誰、私の身体を返して!!」

「……あ、え、その、か、か、か……」

「コミュ力低ッ、なんでそこまでどもるの!?」

 

 すると、ストレッタの身体は近くで行列を作っている蟻の前にしゃがみこんでこう言った。

 

「私が何もしなかったら、この身体は死んでいた。

 つまりこの身体は私のモノ、そう思わない?」

「蟻に聞かないでよ……私に聞いてよ……」

「二代目、やっぱり他人の身体に降りるなんて無理です。

 自分以外の意思なんて気持ち悪いです」

「どうしよう、会話が成り立たない……」

 

 ストレッタがいろんな意味で絶望していると、いつの間にか姿を消していた少女が再び現れた。

 

「カノンちゃん、どうしたの? 

 生身の頃はもっと話せる感じの殺戮マシーンだったでしょう?」

「もっと話せる感じの殺戮マシーンってなに!?」

「だってあの頃は命じられて敵を殺せばよかったですし」

「私もしかしてとんでもない悪霊に乗っ取られてる!?」

 

 躁鬱を繰り返すようなストレッタの様子に、魔女っ娘姿の女神は笑った。

 

「もっと隠しキャラの自覚を持ってください。

 アンケは絶対。守れておらぬぞ~」

「それは二代目の都合じゃないですか」

 

 地面にのの字を書き始めたストレッタに、キョウコは溜息を吐いた。

 

「それにどうせ、またお姉様を殺すことになるし」

「なんでしょう。カノンちゃんから、勝ってブーイングを受けるからレースに出るのが嫌だ、みたいな無自覚な傲慢さを感じる」

「だって戦ったら私の方が強いですし。もう決まってますし」

「でも今回は味方ですよ、魔王の四天王になりなさい。ほら、簡単でしょ?」

「どうしよう、この会話ついていけない」

「今更お姉さまに顔を合わせるのも……」

「分かりました、しょうがないですね。

 宗家にして正統後継者、二代目“暴君”として分流に過ぎないあなたに命じます。

 三代目候補の障害となり、彼女を高みへといざないなさい」

「それを言われちゃ、どうしようもないじゃないですか」

 

 観念したように、うなだれるストレッタの体。

 

「やっぱり、この体に何十年も居ないといけないんですね」

「何十年も居座る気なの!? そのくせなんでそんな物言いできるの!?」

「それじゃあ、よろしく」

 

 ふっ、と最初からいなかったかのようにキョウコは消えた。

 

「……久しぶりに体を得たら、お腹すいたな。何か食べよ」

「もう私の体を自分の物扱いしてるよ、この人」

 

 そうして、ストレッタは倒れた教団員を残して路地裏を去っていった。

 

 

 

 

 §§§

 

 

「メニューにあるもの全部ください」

「うちはIDが無い人間には商品は売れないよ」

「そうですか、お姉さまの管理が行き届いて結構。

 ですがもう一度言います、“食べ物をよこせ”」

 

 カフェの店員がストレッタと目を合わせると、ぼんやりとしたまま頷いた。

 

「どうしよう、催眠魔法で食べ物を奪うとか強盗じゃん」

 

 と、自分はテロリストの片棒を担いでいたくせにそんなことを言うストレッタだった。

 

「大丈夫です。昔、リネンさんが言ってました、最終的に目撃者を全員消せば罪には問われない、と」

「それ実行するのは私の体なんだよね!?」

 

 程なくして、食べ物がどっさり運ばれてきた。

 目立たない奥の席で彼女はもしゃもしゃと食べ物を食べ始めた。

 

「リネンって、リェーサセッタ様の本名だよね? 

 よくあの御方のお名前を呼べるね、恐れ多いよ」

「もぐもぐ、ごくッ、知り合いでしたから、もぐもぐ、何度か殺そうともしましたし」

「ちゃんと食べてからしゃべろうよ……」

 

 傍から見たらすごい勢いで食べ物を咀嚼し飲み込むと冷静に一人でしゃべりだす、奇妙な光景だった。

 

「……ねえ、あなたは誰なの?」

 

 山積みになった食べ物の半分ほどを食べ終えると、流石に胃が限界を訴え始めたので食べる速度も遅くなった。

 その折を見て、ストレッタは己の中の誰かに問うた。

 

「私は、カノン。数多の弓神の一柱。

 そして偉大なる我が義姉、女神メアリースの妹分」

「……あの女神に妹が居たの?」

 

 かつて、宇宙船スターゲイザー号にストレッタも乗り合わせていた。

 その時に、彼女はかの女神に会ったことがある。

 なぜか忌々しそうに、一瞥された覚えがあった。

 

「お姉さまは自己顕示欲の擬人化に等しいので、自分の自伝くらい書かせているはずですが。

 ……もしかして、やっぱり私のことなど書き残さないほど嫌われてるのでしょうか」

「急に落ち込まないでよ……」

 

 情緒の上下が激しくて、ストレッタはいい加減辟易し始めていた。

 

「……おや、やっぱり書かれているじゃないですか。

 あなたの体の記憶に、お姉さまの自伝を読んだ覚えがある」

「勝手に人の記憶を読まないでよ!! 

 ああ、そう言えば、確かに聖典にメアリース様の妹についての記述があったような……」

 

 ただ、ストレッタの記憶によると最低限の記述しかなかった。

 それだけで、彼女と結びつけるのは困難だったのだ。名前さえ、書かれていないのだから。

 

「偉業を成した偉大なる我が義姉を殺すことも、また偉業。

 その功績にて私は死後、神の座を拝しました。なぜこんな私が神々の領域に足を踏み入れられたのか、疑問ではありますが」

「なんで? あなたは悪逆非道の姉を倒したんでしょう?」

 

 さっき教団員たちを圧倒した、弓の腕前。神業としか言えなかった。

 だからストレッタも信じようと思ったのだが、当人は自らの偉業を少しも誇っていなかった。

 

「あれは、私自身の力で成しえたことではないのです。

 当時、姉さまに挑んだ私は、その足元にも及ばなかった。

 そのあまりの不甲斐なさゆえに、あの御方に必殺の矢を授かったのです」

「それで勝ったから、そんなに自信が無いの?」

「私はいまだに、お姉さまを超えられたと思ったことはありませんよ」

 

 断言だった。だが、戦って勝つ自信はある。ちぐはぐだった。

 

「私は、おそらく付属品なのです。

 英雄の武具が神聖視されるように、私はお姉さまに引っ張られて神域に招かれたのでしょう」

「いい加減に現実を見た方がいいんじゃないですか?」

「二代目」

 

 テーブル席の反対側、半分に切り崩された食べ物を手に取り、キョウコがサンドイッチを口に運んだ。

 

「これマズイですね。

 これでマシになったって言うのが信じられないです」

 

 それでも彼女は最後まで手に取ったサンドイッチを食べきった。

 

「神域に至り、神の座に座る条件は大きく三つ。

 同じ魂を持つ神格と一体化すること。同じ席は基本一人ひとつまでなので、これが一番多い例かな。

 もうひとつが、偉業を成す事。そして死後、自分が神だったと気付くパターン」

 

 後者が女神メアリースとリェーサセッタがそのパターン。

 前者が、メリッサに神が期待しているパターン。

 

「そして最後、魔導を窮め魂の位階を極限まで突き詰めること。

 私達や、貴女がそのパターン」

「…………」

「偉大な姉ができなかった事を、貴女は成した。

 謙遜も過ぎればイヤミですよ。だから未だにあの女があなたを嫌ってる」

「人の身で“暴君”を鎮めた貴女の偉業、私も覚えています。

 2つの条件を満たし、神域に至ったからこそ超越神と称されているのでは? 

 そんなあなた様と同じと言われるのは恐れ多いです」

「そのクソダサい異名、次言ったらダーリンと同じことします。

 カノンちゃんはミートスパゲティなんてどうです?」

 

 ストレッタの体がぶわっと冷や汗と緊張感で満たされた。

 彼女に宿ったカノンが恐怖を訴えているのだ。

 

「あの、よくわからないんですけど、魔法を窮めて真理に至るのは偉業じゃないんですか?」

 

 体を相乗りしてる相手が何も言わなくなってしまったので、ストレッタが疑問を口にした。

 

 

「それは違うんですよね。

 誰が言ったか、魔導とは突き詰めていくとそれは自身の内面に籠ること、プラスではなくマイナスのベクトルだと。

 つまり、コミュ障で根暗でボッチで陰キャのコンプレックスの塊であればあるほどいいわけです。

 ほら見てください、カノンちゃんを。コミュ障根暗ボッチ陰キャのコンプレックスの塊じゃないですか」

「な、なるほど!?」

 

 いろいろな意味で説得力があった。

 ストレッタが姉と慕うメリッサも、まさにそんな感じなのだから。

 

「そんなマイナスの塊が、人様に貢献できる偉業を簡単になせると思いますか? 

 世の中そんな風にうまくできてないわけです」

「あれ、そうなると、あなたはその法則に当てはまらないのでは?」

「私は三人で一柱なので。コミュ障根暗ボッチ陰キャ担当は別に居ます」

「はあ、そうなんですか」

「ところで、そんなにのんびりしてて良いんですか?」

「え?」

 

 その時だった。

 

「都内警備隊だ!! 不正魔法使用および強盗の容疑で逮捕する!!」

 

 武装した警備隊が店内になだれ込んできたのだ。

 

「ええ!?」

 

 そちらを見たストレッタが、キョウコに目を向けたが、もうすでに彼女は居なかった。

 

「て、転移!! ──ダメだ、結界で妨害されてる」

「仕方ありません、殺しますか」

 

 焦ってあたふたするストレッタだったが、急に冷静になって脇に置いてあったバイオリンの弓を手に取った。

 

「だからそれ、実行するのは私の体ですよね!?」

「テロリストの武器工場で働いておいて何を今更……」

 

 二人が言い争っている間にも、警備隊はあっさりと包囲した。

 

「隊長、彼女が容疑者です!!」

「また子供か、スラムが無くなってから増えたな」

「隊長!! そんな陰気でどうするんですか、せっかく生き返らせてもらったのに!!」

「お前たちが思うより簡単に生き返らせられた、からだ」

 

 もう彼らの軽口が聞こえるくらい、警備隊たちは二人に迫っていた。

 

「両手を上げて後ろを向け!!」

「……わかりました」

 

 アサルトライフルを持った警備隊の指示に、ストレッタは従った。

 

「ところで、一つ疑問なのですが。

 なぜ、背中を見せ武器を持っていないと示せば、安全だと思うのですか?」

 

 それは、殺気だった。

 無防備に背中を見せて両手を上げている少女が、尋常ならざる殺意を向けているのだ。

 

「最近の弓兵は弓を持たず接近戦をするそうじゃないですか。

 弓神の私が、なぜそれができないと思うんでしょうか」

 

 いや、そもそも。

 戦いにすら、ならなかった。

 

 

 

 

「あの、さっきは何をしたんですか?」

 

 ストレッタは悠々と、カフェを跡にして町中を歩いていた。

 警備隊は一人残らず気絶し、倒れて伏していた。

 

 彼女に宿るカノンは何もしていなかった。

 そう、彼女は。

 

「昔、弓の腕に驕った私は射殺せぬモノなど何もないと思ってました。

 なので、とりあえず難しそうな的を探していたら、ふとツバメを見つけました。

 これがなかなか当てるのが難しく、連中は殺意を感じてひらひらと矢を避けるのです」

「は、はあ……じゃあ三本同時に矢を撃ったりしたんですか?」

「そんな非常識なことはしませんよ。

 考えた私はふと思い当たりました。逆に考えればいいんだ、弓も矢も無くたって良いさ、と。

 修練の結果、私は弓も矢も無く敵を射殺せるようになりました」

「へ、変態すぎる……」

 

 それはもはや弓術ではないのでは、と思わなくないストレッタだった。

 達人は獲物を選ばないどころではなかった、もはや武器すら必要としていなかった。

 

「へ、へへ、こんなのあなたも二百年ぐらい修行すればこれくらいできますよ」

「まず常人は二百年も生きられないんですけど」

 

 ここで賢いストレッタは、これを自分に置き換えてみた。

 

「お姉さま!! 無から兵器を作れました!! 設計図も材料も工具も必要なかったんです!! でもお姉さまの足元にも及びません!! さす姉!!」

「死ねよお前」

 

 うん、これは嫌われるわ、と彼女は納得した。

 

「そ、そちらのお姉さまも、難儀なようですね」

「お姉さまは、あなたのお姉さまじゃない」

「お、同じこと、ですよ。私とあなたと同じように、同じ魂を持った同一人物。

 特に、お姉さまは同一人物という概念を利用した魔術に長けた御方だった。

 故に無限の異名を持った女神なのです。お姉さまを滅ぼしたければ、ありとあらゆる世界から人間を絶滅させなければ不可能でしょう」

 

 そう語るカノンは誇らしげだった。

 

「あなたも、お姉さまに認めてもらいたいからそこまで鍛えたんですよね? 

 なら、私はどうしたらいいでしょう」

「えへッ、私の経験則で良ければ」

「お願いします」

 

 正直卑屈そうに笑うのは、普段使わない筋肉を使うから釣りそうで簡便してほしいストレッタであった。

 

「とりあえず、一回殺しましょう」

「いきなり!? そればっかりじゃんあんた!!」

「大丈夫です、お姉さまは殺しても増えますから。

 一人いたら三十人くらい増えてます」

「お姉さまゴキブリじゃないよ!?」

 

 やっぱり聞く相手を間違えたかな、とストレッタが思っていると。

 

「どの道、対等な相手だと認識させないと始まりません。

 どんなやり方であれ、見返してやらないと。

 そして、私たちはお互いに目的は違えど、やるべきことは同じはずです」

「……そもそも、私はあなたの目的や何かしたいかを理解してないんだけれど」

「私はまず、三代目候補を探して……ああ、そうだ」

 

 名案を思い付いた、と言わんばかりに彼女は手を叩いた。

 

「三代目候補が、不適格だったってことにしましょう。

 さっさと殺してしまえば、私も後腐れなくこの体から出られる」

「だからこれ私の身体ぁ!!」

 

 こうして、二人で一人はとりあえず目的地を決めたのだが。

 

 ぐぎゅるるるぅぅ。

 

「あれ、お腹の調子がオカシイですね」

「そりゃああれだけ飲み食いすればねぇ」

「生身は久々なので人間の身体が不便なのを忘れてました」

「てか、マジでお腹痛い!? 

 食べすぎだって、ああああぁぁぁ」

「これぐらいの痛み我慢しなさい」

 

 無情にもカノンは気にせず歩き続ける。

 

「あ、あ、そうでした。

 私だけ名乗っているのも釣り合いが悪い。

 あなたの名前は何ですか?」

「何でそれ今聞いたの!? 

 ストレッタだよストレッタ!! 良いからおトイレ行かせて!!」

 

 ストレッタの悲痛な叫びが辺りに響いた。

 彼女の受難はまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 




みんな大好き妹属性の隠しキャラ、カノンちゃんです。
当人はチートも甚だしいので、ストレッタは事実上足枷とツッコミ担当です。

次回は今回の騒動の中心であるレイアちゃん視点です。
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