ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー 作:やーなん
“暴君”は語る。
「その男は、恐らくこの世で僕の次に愚かで大馬鹿だ。
そいつの産まれは、どうでもいいし興味もない。ただ天涯孤独の身の上だって聞いたね。
だけどそいつは、施設で後に魔王を倒した勇者を横で見ながら育った。
そいつは──戦闘の、人殺しの天才だった。
その才覚を見込まれて、のちの勇者と共に国の要人に引き取られた。
やがて勇者は軍人に、男は破落戸に身を落とした。
男は産まれながらの修羅だった。戦いの中にこそ悦楽を求める、生粋の戦闘狂だった。
そんな落伍者でも時代が味方した。災厄の如き魔王が現れたからだ。
最初は勇者とその仲間に突っかかってただけの男は、共闘の機会を得た。
そうして、男は英雄になった。だが、結局彼は宿願だった勇者との決着はつけられずに終わった。
更なる力を求めて放浪し、至上の美女に見初められても、そいつは靡かなかった。
そして最期に偉業を成して、奴は死んだ。
…………そこでおとなしく死んでいれば良かったのにね」
化け物だ。
そいつに相対することになったレイアはそう思った。
「お逃げください、魔王様!!
そいつは、生ける武神ッ、無限転生者──通称“
「ああ、聞いたことがある。
こいつがそうなんだ」
智将部門に残った学者風の山羊の獣人が叫ぶ。
しかしそれを聞いた魔王ローティの表情は楽し気だった。
智将候補たちの戦いが終わり、勝者が決まったタイミングだった。
猛将部門の候補の一人だったその男が唐突にこう言った。
「なあ、どうせ最終的に一人になるまで殺し合うなら、ぐだぐだ御託を並べる必要は無いよな?」
ストレッタの付き添いでスタジオの舞台袖でその光景を、私は見ていた。
猛将部門の候補の男の全力の攻撃を軽くいなして、叩き潰したのを。
どうやってか?
それは彼の異名を聞いて納得がいった。
ぶぅん、と直径二メートル半ほどの棒状の物体に内側に反れた刃のついた得物を、彼は振り回したからだ。
要するに、典型的な死神の持ってそうな大鎌だったのだ、それは。
その容姿も黒一色、黒衣に黒髪、しかしその地肌は絹のように白かった。
「どうした、掛かって来いよ」
それは残った候補者が二人とも女性だったからか、或いはただ単に舐めているのか。
死神サイズは好戦的な笑みを浮かべて先手を譲った。
私はストレッタちゃんを守るように飛び出していた。
「飛び入り参加か? 大歓迎だぜ!!」
私は魔法の落雷と、手からの雷撃を同時に放った。
人間は死角からの攻撃に、特に真上からの攻撃に極端に弱い。
普通の人間なら、それでほぼ倒せる。
そう、普通の人間なら。
直後、どういうわけか私は自分の放った雷魔法の逆襲にあっていた。
「……な、何が起こったんだ?」
レイジさんの呆然としたつぶやきがかろうじて聞こえた。
「雷が全身に到達する前に、武器で受けて流して投げ返したんだ……」
「そんな物理法則に喧嘩売るような真似ができるわけないだろ!!」
「やったんだ、あいつは。ただの技量だけで」
クラリスさんが、信じられないものを見たかのように固まっていた。
レイジさんが動揺するのも無理はなかった。
あんな重量のある扱い難い得物で、雷が体に到達する前に投げ返した?
荒唐無稽にも程がある。
「最悪だ、よりにもよってサイズさんに出くわすなんで……」
ストレッタちゃんは心底嫌そうに視線を反らした。
「まったく、ウインター博士に頼まれたから出ただけで期待していなかったが」
ただ、彼女と同じく猛将部門の候補に残った女性は違った。
「我らが守護神イヴ様は素晴らしい試練を与えたもうたわけか!!」
騎士服を纏ったその女の周囲に、バラの花びらが舞い散った。
無数の花びらが彼女の姿を一瞬覆い隠すと、彼女は武装を済ませていた。
「我が名は聖イヴ騎士団、日本支部
平和が訪れて久しい我が故郷では出会えない難敵、我が血が滾る!!」
「本気で来い、遠慮するな」
「さもあらん!!」
高度な科学技術と魔法によって作られたパワードスーツを内蔵した鎧と、戦闘用にカスタマイズされた魔法の行使も前提とした機構剣を手に、異界の女騎士は全力で死神に激突した。
どっかんばっこん、スタジオのセットが見るも無残に早変わりしている。
「レイアさん、大丈夫ですか?」
「なんとか、今治癒しました」
私はストレッタちゃんに支えられ起き上がった。
自分の魔法を喰らってやられるなんてありえない。
そんなマヌケじゃない、何とか火傷程度に防いだのだ。
「それより、あっちは」
「あの人、かなり強いよ。
だけど、相手が悪すぎる」
戦況を確認する。
女騎士ジュリアは文字通り目にも止まらぬ剣戟を、人間の反応速度の限界を超えて繰り出している。
死神はそれを生身で、最小限の動きだけで受け流している。
だがそれも長くは続かない。
「取った!!」
彼女の一撃が、死神の大鎌を大きく弾いた。
無防備になった男の体に、強烈な一撃が叩き込まれようとした。
が、その直前で彼女は受け身に回った。
大きく弾かれ、攻撃にも防御にもその取り回しづらい大鎌だったが、突如としてその石突が如意棒のごとく伸びたのだ!!
一瞬のうちに防御から突きの姿勢に変えた死神が、女騎士を一突き。
「むね、んッ」
強固な鎧を砕き、彼女の腹部に一撃を喰らわせた死神は、くるりと反対側の刃をバトンを回すように翻した。
スパッと、冗談のように軽く、あっけなく、死神は女騎士の首を落とした。
「あんたはもうちょい道具に頼らないようにした方がいいぜ
てめぇの力量が錆びついてやがる」
モノ言わぬ骸に、死神は告げた。
「それにしても、数多の世界から選別された魔王四天王候補ってのはこの程度なのか?
せっかくこの俺もわざわざ参加してやったってのに」
彼の物言いに、そこは乱入とかしたりしないんだ、と見当違いなことを思った私だった。
「死神サイズ、このオーディションを滅茶苦茶にして何が目的ですか?」
「あん? それって俺のせいか?」
四天王ハイティの言葉に、彼は心底意外そうな顔になった。
「智将部門で殺し合いをさせておいて、猛将部門で殺し合いをさせないとか、そんなわけないよなぁ!!
俺はその手間を省いてやっただけだぜ」
死神は大鎌を担いで瓦礫に腰を下ろし、そんな調子のいいことを口にした。
「ローティ、お前のせいだぞ」
「は? 私が悪いわけないじゃん。
どうせこいつは適当に口実をつけて暴れたっての」
だろ、とレイジさんに咎められた魔王ローティは死神に水を向ける。
彼はにやにやした笑みをより一層狂気的に深めた。
「何が目的か、だったな?
目的ならもう達している。強敵との闘い、己の強さと向き合うことこそ俺の悦楽。
ついでに、気に入った奴に唾をつけるのが俺の趣味でな」
死神は、すぅっと黒い影のような残像を残し。
「実際にお前の顔を見てみたかったんだ、運び屋」
レイジさんの背後にいつの間にか現れ、その耳元で囁いた。
それにぞっとした表情で反射的に蹴りがでたレイジさんだったが、死神サイズは既に黒い残像だけを残して元の位置に座っていた。
「何者なんだ、こいつは!?」
「通称“
メアリース様に頼らぬ転生を延々と繰り返し、いくつもの世界で武名を残してきた英雄にして殺戮者。
もはや個人というより、概念に近しい存在だよ。
故に、生きた武神とも称されるのだ」
レイジさんに答えたのは、先ほどの学者肌の山羊の獣人だった。
ただ、彼はその生き続ける伝説に怯んでいるというよりは、それに遭遇して若干興奮気味だった。
「前々から思ってたんだけどよ、死んだ後に強かったって祀り上げられるってのはおかしくねぇか?
昔読んだ作家の著書に書いてあったが、一人殺せば殺人者、数百万人殺せば征服者、全滅させれば神だってな*1」
つまり、と男は口にした。
「俺が最強だ」
一片も陰りの無い自身と自負だった。
強すぎるエゴと自尊心が、その男の全てだった。
「そうだ、最後に立っていたものが勝者だ」
ふと、その時信じられないことが起こった。
「殺された程度で、負けは認めてやれんよ」
「いいっての、そういうの。だるいから」
ついさっき、首を落とされた女騎士が死から蘇って立ち上がったのだ。
「自力で蘇生、いや主上の転生の仕組みを人為的に再現しているのか!!」
学者さんは先ほどから興奮気味だった。
「まだ終わってない!!」
「もういいっての、お前の実力はだいたいわかったから」
戦意を滾らせる女騎士に対し、死神サイズは冷めた態度だった。
「そうだ。お前はもういい、一回殺されといて食い下がるなんてばかばかしい。失格だ」
「そんな!!」
「申し訳ございませんが、ご退場を」
魔王ローティにそう告げられ、ハイティに促され、女騎士は唇を噛んだ。
「この場ではあなたがルールだ。それに従おう」
「それでいい。これ以上ごねたら、多分次は無かったぞ、お前」
悔しさを噛みしめている彼女に、魔王は笑ってそう指摘した。
そして敗者は背を見せ去った。
「あんたも四天王になるつもりがないなら帰れよ。
この場はローティの為の場だ」
「まあ、確かに。お前の言う通りだな。
他に目ぼしい相手も居ないし、俺も帰るか」
レイジさんの言葉に、あっさりとこの迷惑な男は腰を上げたが。
「それじゃ面白くない。
おい、お前ら、こいつに一矢報いたら残り枠の四天王にしてやるよ」
ここで魔王が、そんなことをのたまった。
「大いなる武神よ、その血肉と脳を我が糧としろ!!」
そして真っ先に飛び出したのは、蛮族エルフだった。
「倒した相手の血肉を喰らい、その力を我がものとするのは原初の精霊信仰だが、こう思わないか?
所詮それは加算に過ぎないってな」
脳喰いと恐れられた女エルフの脳天に、死神の大鎌が叩き込まれた。
死ぬことができない彼女は、頭蓋を割られて壁に曲刃に縫い付けられ、びくびくとのたうっている。
「まあ、なんだ。俺の趣味じゃねぇな」
先ほどアンドロイドとサキュバスの眷属と激闘を繰り広げた強者が、あっさりと蹴散らされてしまった。
「どんなに強かろうと、所詮は男じゃない。
男に産まれた以上、私にひれ伏すほかないわ」
そして次に堂々と前に出たのは、元王族のサキュバスだった。
「お前さんがこれまでどんな玉無しを相手にしてたか知らんが」
無防備に近づく女に、死神は手を上げることなく肩を竦めた。
「俺は俺以外には従わない。
ついでに言わせてもらうなら」
サキュバスの色香が充満し、催淫の視線が男を射抜く。
だが、彼は平然とした様子でこう言った。
「もうお前のような手合いは飽きるほど出会ったぜ」
彼は何もしていないのに、サキュバスが後づさった。
「常人なら精神が壊れるくらいの魔力でやってるのに、まるで石像相手に色仕掛けしてるみたいッ。
……うそでしょ、私に靡かない男がいるなんて!?」
「なんだ、常人相手に女王様気取りだったのか。
ランクの低い男ばかり相手にしてんじゃ、お前の程度がしれるってもんだ」
最高位のサキュバスのプライドを打ち砕きながら、死神は鼻で笑う。
「文句があるなら、女を磨いて出直しな」
「う、うわーん!! この不能、ゲイ野郎!!」
こうして、サキュバスも泣きながら逃げ帰った。
「さて、前座は終わりか?
……そこのちっこいの、誰かと思ったら、お前カノンじゃねぇか」
私が振り返ると、庇っていたはずのストレッタちゃんが弓を構えていた。
いままでどこにもそんなものは無かったはずなのに。
「さ、っさ、サイズしゃん!!
私はあの御方のご命令を遂行中なんですッ!!
だから、その、ひッ、あのその、帰ってくれないかなぁって」
「じゃあつまり、その邪魔をした方が面白いってことだな?」
「……正直、そういうと思いました」
ストレッタちゃんは、虚空から黄金の矢を取り出した。
それは矢と言うには矢じりを連ねたような、奇妙な物体だった。
だが、一つだけ分かることがある。
その矢が一度放たれたら、取り返しがつかなくなる、と。
「仕方ないので、しばらく死んでてください」
「──萎えたわ。
剣と魔法で争ってるところに、弾道ミサイルを持ってくるようなその無粋さ。相変わらずだなお前」
意地悪を言っていた彼の表情は一変し、溜息と共にストレッタちゃんを見やる。
その内心をうかがい知ることはできなかった。
「帰るわ。邪魔したな」
『まあ待て、死神』
そんな彼を引き留めたのは、誰あろう。
闇の化身、邪悪を司る暗黒の存在。
女神リェーサセッタ様だった。
床から噴き出した暗黒の瘴気が人型を形どり、その手が彼を掴んだ。
「何の用だ。リネン」
『お前を最終選考まで通したのは、他ならぬ私の意向だ』
「何の用だっつってるだろうが」
『我が娘の四天王になるつもりはないか?』
不機嫌そうな死神サイズに、女神は語り掛ける。
「それはもう何十度目か前にやっただろ。
あの馬鹿女の仕事は退屈で仕方なかったんだよ。弱い者いじめが好きなら身内同士でやってろ」
『だが、今度はもっと面白い因縁があるぞ』
闇の化身が、死神の耳元で何かを囁いた。
一言二言では済まない言葉に、死神サイズは顔を上げた。
「なに? それはマジか?」
『くくく……』
闇の化身は答えず、霧散した。
そして、彼はなぜか私を見て……笑った。
「いいだろう、魔王の四天王になってやろう。
勿論、文句はねえよな?」
そう宣言した彼の笑みが、その異名にふさわしい不吉さが伴っていた。
今回がレイアちゃん視点だったのはちゃんと意味があります。
物語の点と点がつながるのは、もう少ししてからです。
唐突に出てきた、なろう系のチート主人公に居そうな強キャラ設定のサイズ君。
旧作シリーズを知っている読者の人は懐かしいのではないのでしょうか。
でも彼は主人公ではないので、この物語に関わり合いは少ないです。
さてようやく四天王が決まり、次回は掲示板回です。
ではまた次回!!
それにしても、何か忘れているような……うーん、なにレッタちゃんのことかなぁ?