ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー   作:やーなん

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これにて、今章は終わりです。



章末 “復讐の奇縁”

 

 

 

 地上の人々に魔王城とも称される、中央管理事務所。

 女神メアリースの権能の象徴にして、魔王の居城。

 

 その頂上に居を構える、一人の少女が地上を見下ろしていた。

 彼女の名は、スズ。魔王一族の末席。

 

「そうですか、ローティ姉さんはもう大丈夫そうですか」

「ええ、ローティ様の四天王がよく支えて下さるでしょう」

 

 彼女の言葉に答えたのもまた、まだ幼さを残す女性だった。

 魔王スズの四天王、その一人、ジークリンデだ。

 

 地上には、デフォルメされたリーベの電子看板が多数設置され始めている。

 この世界はまだ何もかもが足りてない、食料も、娯楽もだ。

 

「私達も、別の仕事を任される日も近いかもしれません」

「ええ、喜ばしいことです」

「ねえジーク、今は二人きりなんだから、かしこまらなくてもいいんですよ」

「……ふふッ、それもそうか」

 

 二人は、スズがまだただの人間だった頃からの親友同士だった。*1

 お互いに気の置けない間柄であり、固い絆で結ばれていた。

 

「ここ最近、あまり話せなかったな。

 仕事とは言え、ままならない物だ」

「うん、でもこれで少しはゆっくりできると思うから」

「……」

 

 親友同士なのに、二人は会話が長く続かなかった。

 それはかつてとは違う立場故か、それとも……。

 

「……ジークは、前より背が高くなったね」

「私ももう19だからな、期待はしてなかったのだが」

「だけど、私はもう背は伸びないかな」

 

 魔王となったスズは不老不死に等しい存在だった。

 彼女の時は止まっている。

 そんな彼女は、親友の頬を撫でた。

 

「気が早いな、スズ。私はまだまだ若いぞ。

 必要ならアンチエイジングもするし、そうすれば三百年は生きられる。

 いつか我が子孫が産まれる時は、末代までお前に仕えることだろう。

 だから今から寂しがるな。私も悲しい」

「うん、そうだよね……」

 

 生きる時間が異なってしまった二人は、不器用に微笑みあった。

 そんな二人だけの時間は、早くも終わりを告げようとした。

 

 ぽーん、と最上階の直通エレベーターが到着した音が鳴り響いたのだ。

 

「魔王様、大変です!! 

 侵入者ですッ、奴は真っすぐに魔王様の元へと向かっております!!」

 

 報告にやって来たのは、スズの先代魔王からの忠臣バンブスだった。

 彼は血相を変えて、彼女に緊急事態を伝えた。

 

「敵勢は?」

「────総数、一名」

 

 その報告に、二人は驚いた。

 

「侵入ルートは?」

「真正面から。今モニターに出します」

 

 それを真正面から一人で突破するなど、尋常ではない。

 この中央管理事務所は魔王城と揶揄されるだけあって、それ相応の防備が備わっている。

 それどころか、敵の進行ルートにはトレーニングルームも横切っていた。

 

「道中には、ローティ様の四天王たるサイズ様が居たのでは?」

「それが、素通りさせた、と」

「何のためにいるのだ、あの方は!!」

 

 ジークリンデが憤るのも無理はない。

 今頃階下は大混乱に陥っているのだ。

 

「とにかく、狙いはスズ様で間違いないでしょう。

 メドラウド卿や我が息子も対応に出ています、私もすぐに向かいます。

 ジークリンデさんはここで、スズ様の最後の砦となってください」

「ああ、そうさせてもらう」

 

 一通り告げると、バンブスはエレベーターで階下へ降りて行った。

 

「……どうしよう、こんなに早く私に挑む者が現れるなんて。

 前口上はどれにしよう……」

「慌てるな、スズ。

 とりあえず事務机を撤去し、書類を片付けるんだ。

 スズ!! お前は奥に椅子にそれっぽく座っているんだ!!」

「う、うん」

 

 二人は急いで書類や電子機器を片付け、机をどかして待機位置を決めて侵入者を待つことにした。

 

「はははは!! この私を倒そうなどと、甘く見られたものだ!! 

 愚か者め、我が闇の中で永遠に悔やむがいい!! ……こんな感じで良いかな」

「時間が無いのでそれで行こう」

「よし……どうしよう、緊張してきた」

 

 二人がその時を待っていると、やがてエレベーターが最上階にやってきた音がした。

 

「お前は──」

 

 そして、侵入者が扉を開けて入って来た。

 

 かくして、中央管理事務所を騒がせた犯人の正体は。

 

「ど、どうも、へへッ、お騒がせしてますぅ」

 

 ……小さな女の子の身体を借りたコミュ障だった。

 

 

 

 時間は、昨日へと遡る。

 

「あの、いつまで私の身体にいるつもりなんですか?」

 

 魔王ローティの四天王の最終選考会が滅茶苦茶になり、最終選考に残ったもののどこかの個性が強過ぎる死神の所為で、魔王の眼に止まることなく失格になったストレッタ。

 当人はこれで良かったのだが、彼女に宿っている女神の人格はそうではなかった。

 

「目的を達成するまで、です。

 ここでおめおめ帰ったら、私の立場がありません」

「でももう魔王様の四天王、枠は全員埋まってるじゃん。

 今更どうしようもないじゃん」

「じゃあ、誰かを排除すればいいだけのこと」

「だからッ、それをするのは私の身体じゃんッ!!」

 

 ストレッタは身勝手な内なる自分の人格に抗議した。

 

「……帰るところがないなら、ここに居ればいいじゃん。

 私ももう、諦めたし。ここはみんな優しいし」

 

 彼女は割と絆されていた。

 この孤児院に居ればちゃんと人間扱いされるし、美味しいご飯も食べれる。

 勉強を教えてくれる神官たちは約一名を除いて生真面目で不愛想だが、本気でみんなを気遣ってくれる。

 マザーも彼女の事を本当の娘のように可愛がってくれていた。

 これで情が湧かないのなら、人でなしの冷血漢であろう。

 

 そして何より、安全だった。

 女神の神官は誰もが優れた魔法使いで、魔王の四天王に抜擢されることもある。

 ハッキリ言って、木っ端のテロリストなんて相手にならない。

 

「私も、なんかあんたに慣れたし」

「それは当たり前でしょう。

 我らは同じ魂を有する同位体。精神や肉体が異なっていても、同一人物なのですから。

 私も最近ようやく違和感が取れました」

「なんか厚かましいなぁ」

 

 ストレッタがそんな同居人に溜息を吐いた。

 同居人との会話に区切りがつくと、彼女は庭で遊んでいる子供たちを眺めていたのだが。

 

 

「おーい、カノンはいるかー」

 

 死神が、孤児院の門前にやってきた。

 

「ひッ」

 

 ストレッタは思わず小さく悲鳴を上げた。

 彼女は目の前で見たのだ、魔王四天王候補たちをたった一人で一蹴し、殺したあの男を。

 

 当然、庭で遊んでいた子供たちも孤児院の中に逃げ帰ってきた。

 

「あ、あの人はッ!?」

「おい、不審者だ。誰か通報しておけ」

 

 レイアと一緒に居たクリスティーンが、一人対応に出た。

 

「失せろ不審者、せめてその血なまぐささを隠してからくるんだな」

「へぇ。お前、強いな」

 

 彼女の対応は当然だったが、相手が悪かった。

 

「……ッ」

「今から俺は押し入るぞ、お前が戦わないと可愛い子供たちがどうなるだろうな」

「くそッ、なんで私ばかりこんな目に!!」

 

 大鎌を持った死神が、クリスティーンに襲い掛かったのだ。

 そしてなお悪いことに。

 

「ははッ、ははッははは!!」

 

 彼女はこの死神相手に優勢を取れていた。

 クリスティーンの得物は両手に短剣でのインファイト、対する死神は重量のある長物の大鎌だ。

 技量云々以前に、スピードが違った。

 

「悪かった」

 

 死神が、手枷(大鎌)を地面に落とした。

 

「──お前は俺が全力でぶっ殺すに値する強者だ」

 

 飢えた獣のようにぎらついた視線と満面のオリジナル笑顔を向ける死神に対し、クリスティーンの地肌が見えるところは汗がびっしりと浮いていた。

 当人は生きてる気がしないことだろう。

 

 そして彼は、天に向かって手を伸ばした。

 

「ルナ、俺の剣を──」

「っさッ、さ、サイズしゃん!! 

 い一体なんのようでしょうかッ!!」

 

 ストレッタ、いや彼女のうちにいるカノンは飛び出していた。

 このままでは、とんでもないことになることを知っていたからだ。

 

「……ちッ、水を差しやがって」

「やり過ぎですよッ、クリスティーンさん立ったまま気絶してるじゃないですか」

「なんだ、せっかくここから面白くなるところだったのに」

 

 死神サイズは地面の大鎌を背負いなおす。

 カノンの言う通り、クリスティーンは白目を剥いて立ったまま気絶していた。

 

「あなたが本気を出したら地平線だけしか見えなくなるじゃないですか」

「こんな強い奴は約五十回ぶりだったんだ、偶には俺もはしゃぎたくもなる」

 

 まったく悪びれる様子も無い彼に、カノンもため息を禁じ得なかった。

 

「それより、いったい何の用なんですか」

「お前に伝えたいことが有ったんだ。よく聞け。

 これはリネンから聞いたんだがよ──」

 

 それだけを言って、死神は上機嫌で去って行った。

 

「お前の仕事を邪魔した、まあ詫びみたいなもんだ。上手くやれよ」

「なにが上手くやれよ、ですか。

 そっちの方があなたにとって面白くなるからでしょう」

 

 そう実はカノンと、あの死神の利害は一致していた。

 

 ────レイアに試練を与え、高みへと至ってほしいと言う利害が。

 

 

「え、つまり、どうするんですか?」

「中央管理事務所に向かい、魔王スズにお願いをします。

 ──この私を、五人目の四天王にしてほしい、と」

 

 魔王ローティの四天王に空きが無いなら、空きの有る魔王の四天王になればいい。実に単純なことであった。

 

「いやいや、断られるでしょう、普通!!」

「大丈夫です、今度は絶対に断られない交渉材料を用意します」

「なにそれ不安しかない」

 

 

 そして翌日、時刻は冒頭の三十分前。

 

「アポイントメントはございますか」

「ありませんが、魔王スズ様にご用があります」

「アポイントメントを取ってからもう一度お越しくださいませ」

 

 同じ顔の事務員たちは、淡々と面会を拒否した。

 

「やっぱりダメじゃん。もう帰ろうよ」

「仕方ありません」

 

 カノンは、虚空から弓を取り出した。

 

「正面突破します」

「え」

 

 

 

 そうして、時刻は現在へと至る。

 

「えへ、えへ、お騒がせして、申し訳ないです……」

 

 中央管理事務所の最上階、肩身が狭そうにしているカノンが勢揃いしている魔王スズと四天王たちを前に頭を下げた。

 

「スズ様、彼女はローティ様の四天王選考会の最終候補に残った人物です。

 来歴はほぼ不明で、現在孤児院生活ですが、類稀なる戦闘技能を示し猛将枠として最終選考にまで残ったそうです」

 

 額にガーゼを張り付けたバンブスがスズに耳打ちをした。

 

「スズ様、こいつヤベーよ」

「この度の来訪は不敬ですが、実力を示した以上話を聞く度量は見せるべきかと」

 

 他の四天王である男二人は、そのように主人に進言した。

 

「あの、ですね、うひッ、もしよろしければ、この私めを、スズ様の五人目の四天王にしてくれないかなぁって」

「貴様、このような狼藉を働いておいて、よくもそのようなことを言えたな!!」

「ひいッ、ごめんなさい!!」

 

 ジークリンデに怒鳴られ、縮こまるカノン。

 

「まあまあジーク。

 まだ大した実績も無いこの私にわざわざ売り込んできたんです。

 その度胸は評価すべきでしょうし、能力も保証されています」

「では、スズ様」

「ええ、とりあえず試しに────」

 

 その時、ぽーん、と最上階にエレベーターがやって来た音が鳴った。

 

「ダメよ」

 

 そこにノックもせずに魔王の私室に入って来たのは、同じ顔をしている事務員。

 否、己の同位体に降臨した女神メアリースだった。

 

「そいつだけは、絶対にダメ」

「お姉様ッ、お久しぶりです!!」

 

 魔王スズや四天王たちが膝を突いて頭を下げる中、カノンだけが卑屈な笑みから満面の笑みに変わった。

 

「何をしに来たの、このグズ」

「(うわぁ、スゴイ既視感)」

「えへへ、実はあの御方のご命令で、魔王の四天王になって三代目に苦難を課せと仰られまして」

「それは、どっちの命令? 

 まさかあのメスガキの方じゃないでしょうね!?」

「ご明察の通りで」

 

 その直後、なんの前触れなく震度七の地震が起こった。

 この世界の日本の耐震技術は完璧なので、住人たちは何だ何だと驚いている程度で済んだ。

 

「だから嫌がらせにお前を送り込んだのね!! 

 夫婦そろってこの私を馬鹿にしてッ!!」

「お姉様、イラついたからって台パンは良くないですよ」

「誰のせいだと思っているの!!」

 

 晴天の青空に、無数の雷鳴が轟く。

 文字通りの神の怒りだが、この世界の落雷対策は完璧なので住人たちは珍しい現象に面白がっていた。

 

「とにかく、失せなさい。

 一秒でも早く私の管理下から消え失せろ、消えろと言ってるのよこの役立たず!!」

「──本当に、それで良いんですか?」

 

 女神の激情、室内は嵐のように魔力が吹き荒れていた。

 誰もがへばりつくように床に蹲るほか無いのに、カノンは平気そうにコテンと首を傾げた。

 

「お姉様、これは遊びじゃないんです。

 絶えて久しい我らの同門の、その後継者の育成は何よりも大事なこと。

 我らが師は、魔導の文化を保護し維持することこそを私とお姉様に期待してたんですよ」

「私が嫌なのよッ、他の誰と一緒でも、お前だけとは絶対に!!」

「じゃあ、仕方ないですね」

 

 カノンは、虚空から弓を取り出した。

 武器を持ったまま面会するのは失礼だと、これまで無手でいたのだ。

 

 ごく自然の動作で、彼女は弓の弦を引いた。

 とん、と短い音が鳴った。

 

「この、音は!?」

 

 魔王スズだけでない、ジークリンデも顔を上げた。

 その音に、聞き覚えがあったのだ。

 

 たったそれだけで、吹き荒れる魔力が沈静化した。

 破魔の鳴弦、日本の神道にも伝わる弓の妙技だった。

 

「お姉様、あなたにとって管理下の人間が何十億、何十兆死のうとも、お姉様にとってはちょっとした被害に過ぎませんよね?」

「……なに、なにをする気?」

 

 カノンは弓をスッと上へと向けた。

 

「じゃあ、お姉様の権能を保証する中枢ユニット、神の工廠たる次元工廠(アーセナル)が木っ端みじんになったら、とてもとても困りますよね?」

「止め、止めなさい!!」

「あははッ、そんな風に焦ってるお姉様、生前に見たこと無いですね!!」

 

 焦ってる、そう焦っていた。

 いつも上から目線で余裕たっぷりの女神メアリースが、非常に焦っていた。

 

「中枢ユニットを壊したら、次は次元間航路の制御装置を壊します。

 そうなったら、世界間で物資のやり取りができなくなりますね。

 食料を行き渡らせられなくなったら、これまでみたいに管理下の人間たちに偉そうにできなくなりますね!!」

「わかった、わかったから、止めてカノン!!」

「別に私はお姉様を手足をもぐように徹底的に弱らせてから、私に頼るしかなくなるようにしても構わないんですよ」

「……私が悪かったわ、カノン。あなたの協力が必要よ」

 

 まさに苦虫を嚙み潰したような、誰かを呪い殺しそうな表情と声音だった。

 女神メアリースは親の仇みたいな視線でカノンを見ていた。

 

「えへッ、えへえへ、お姉様とお仕事したのは何十億年振りですかね!! 

 ねえねえ、お姉様、誰をぶっ殺してほしいですか? お姉様の為ならどんな奴でもぶっ殺しますよ!!」

「そうね」

 

 お前の消し方、と彼女の表情に書かれているのを他所に、カノンは無邪気に喜んでいた。

 

「じゃあ私はお前を視界に入れたくないから帰るわ」

「えへへ、今度リネンさんと一緒に御茶会しましょうね!!」

 

 女神メアリースが魔王の事務室から退出した。

 どごん、と何かが吹っ飛ぶ音がしたが、恐らく気のせいだろう。

 

「ね、お姉様なんてチョロいでしょ?」

「どこが!? 完全にDV彼氏の所業じゃん!!」

 

 ストレッタはずっと生きた心地がしてなかったので、精一杯の抗議を送った。

 

「バンブスさん、ハイボールさん、大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありません。しかし、これでハッキリしました」

 

 カノンが振り向くと、スズの四天王バンブスとハイボールが青い顔をして蹲っていた。

 彼に肩を化す残りの四天王二人。

 そして、ある種の敵意を持って魔王スズはカノンを見ていた。

 

「先の弓の鳴弦は、我が父たる魔王アテルを斃した勇者に助力した女神の弓のモノに間違いない。

 ストレッタさん、あなたは何者ですか?」

「……本当に、縁というのは侮れないと思いませんか」

 

 まさかここまで拗れた面倒ごとになるとは、と当時を思い返してカノンはそう思った。

 

「我が名はカノン、数多の弓神が一柱。

 偉大なる文明の女神たるメアリースの義妹。今はこの身体を借りて降臨しています。

 あなたの父親を殺した勇者というのは、あの彼の事でしょう? 覚えていますよ」

「その女神が、今更何の用ですか?」

「提案しに来ました。

 私をあなたの四天王にしてください、その代わりに私は……」

 

 しばらく義姉と一緒に居られる高揚感からか、上機嫌のカノンはコミュ障も忘れてこう言った。

 

「あなたの復讐の手伝いをしてあげます」

 

 女神の提案に、ジークリンデは親友の顔が強張っているのをただ見守るほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、レイジさんの仕事が終わる頃かな」

 

 孤児院に顔を出そうとしたクラリスだったが、何やら昨日に不審者騒ぎがあったと言うことで今日は出直すことになったのだ。

 

「いつ帰ってくるのかな、ゴハンの準備しようかな♪」

 

 彼女は今、幸せだった。

 例え、それが当人にとって偽りであっても。

 

「あれ、結構近くだッ!! 

 折角だし、サプライズでお迎えに行こうかな!!」

 

 彼女が携帯端末でレイジの位置情報を獲得すると、彼はすぐ近くのマンションに配達に行っているようだった。

 

「ふんふふんふふーん♪」

「あれ、クラリスお姉ちゃん」

 

 上機嫌にステップを刻んでいるクラリスの前に、知っている顔が声を掛けて来た。

 

「キョウコちゃん、お久しぶりだね!!」

「楽しそうだね、お姉ちゃん」

 

 目的地のマンションの塀の上に座って足をぷらぷらさせている少女に、クラリスは笑みを向けた。

 

「ああ、大切な家族とようやく過ごせるようになったからね」

「……お姉ちゃん、その幸せが長続きしたいなら、今日は帰った方が良いよ」

「急にどうしたんだ、キョウコちゃん?」

 

 前々から不思議な雰囲気な子だとは思っていたクラリスだったが、彼女は基本的にアホなので特に疑問は持たなかった。

 

「……ううん、やっぱり気にしないで。

 それじゃあ私は、レイアちゃんたちに会って来るから」

 

 ぴょん、と彼女は塀から降りると、去って行った。

 

「不審者に気を付けるんだぞー!!」

 

 彼女の後姿に手を振り、クラリスはレイジの姿を探す。

 程なくして彼のバイクを見つけたが、隠れて待っても彼は中々に戻ってこない。

 

「さては配達場所に迷ってるなぁ~?」

 

 ここは大きいマンションなので、そう言うこともあるか。

 そんな考えで、彼女は彼を探しに行った。

 

 それが、後戻りできない一方通行だと知らずに。

 

 

 クラリスは階段を登りながら、一階ずつレイジの姿を探し始めた。

 自動認証のオートロックが常識のこの時代にそぐわない古いタイプのマンションだったのが幸いし、彼女も入り込めたのだ。

 

 そして、ある階層に至った彼女は、ハッとした。

 彼女の鋭敏な感覚が、それを察してしまった。

 

「これって、血の臭いじゃ」

 

 何が起こっているのか、彼女は臭いの発生源を辿った。

 そして、見つけた。

 

「ここだ」

 

 彼女は臭いの発生元と思われる部屋のドアノブを回した。

 しかし、流石にそこは認証も無しに開くはずも無く。

 

「これは緊急事態、緊急事態と」

 

 結局素手でドアノブを破壊し、彼女は扉を開けた。

 

 そして、彼女は見た。

 

 

「たす、け……」

 

 チャラそうな若い男が、片腕で首を絞め挙げられていた。

 あ、とクラリスが声を発する前に、ゴキリ、と彼の首は折られていた。

 

 男の身体が、ゴミのように床に投げ捨てられる。

 数名ほど居た、彼の仲間のように、死体として。

 

「……レイジ、さん?」

 

 クラリスの眼に映ったのは、血まみれで彼女を見返す冷たい眼をした見知らぬ表情(かお)の想い人だった。

 

 

 

 

*1
詳しくは前作『魔王「拾った汚いガキを最高にカッコいい勇者にするはずが、いつの間にか娘になってたんやが?」』を参照。




私は以前、あとがきで言いました。運び屋は信頼できない語り手、であると。

次章は、主人公である運び屋について触れて行こうと思います。

第四章『憤怒(レイジ)』、こうご期待!!

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