ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー   作:やーなん

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お待たせしました!!



復讐の是非

 

 

 

 風呂から上がったクラリスはローティと共に食卓についた。

 

 食材を機械に入れて料理を入れて、待つと自動で料理ができる。

 それを配膳すると、二人は食卓でレイジを待った。

 

「レイジさん、遅いですね」

「また孤児院に顔出してんじゃないの」

 

 ローティは彼を待つことなく、先に料理を食べ始めた。

 

「ああほら、こぼしてるじゃないか」

 

 クラリスが横に座るローティの食べ方が汚いので、布巾を取り出してテーブルを拭いた。

 

「世話を掛けるな」

「いえ」

 

 何気なく返事したクラリスはぎょっとした。

 二人の対面、いつもレイジが座っている席に黒い靄が人型を模っていたのだ。

 

「あ、ママ!!」

「女神、リェーサセッタ……様」

 

 邪悪の女神の化身が、当たり前のようにそこに座っていた。

 

「彼なら、帰ってこないぞ。それを伝えてやろうと思ってな」

「どういう、ことです?」

 

 猛烈な嫌な予感に、クラリスは震えた。

 

「それはお前のせいだよ、クラリス」

「だからどういうことかと聞いている!!」

 

 激するクラリスを、女神は慈しむように見ていた。

 

「ママ、あいつをどうしたの?」

「望んだものを、与えただけのこと」

「いつも思うけど、ママって迂遠な物言いが好きだよね」

「ふふふ、神の性分だ。許してくれ」

 

 黒い靄の塊が、愉快そうに揺れていた。

 

「はっきりと、仰ってください」

「良いだろう。──彼は罰を望んだのだ。

 私は己の罪悪感に押しつぶされそうになっていた彼に、救いを与えたのだよ。

 今、彼は己の罪に向き合っているところだ」

 

 女神の言葉に、クラリスは心当たりがあった。

 

「罪って、罰って何ですか!?」

「だから、お前のせいだと、最初からそう言っている」

 

 全ての罪を見つめる瞳が、クラリスを見つめる。

 

「……教えてください、お願いします」

 

 クラリスは縋るように尋ねた。

 

「かつて、この日本の法律には殺人に対して時効があったそうだな。

 人を殺して時効までの長い間、罪の意識に苛まれるのは法で罰せられるのと同じ苦しみであると」

「馬鹿馬鹿しい、人を殺す奴が覚悟もしないってことだろ」

「確かにそうだが、邪悪とは大抵の場合が衝動的で行き当たりばったりの無計画なものなのだ。

 そういう意味では、殺人に対する時効はそれなりに理解できることだ」

「話が、見えないのですが」

 

 クラリスは親子の会話に口を挟んだ。

 彼女はさっさと理由を聞きたいのだ。

 

「知っているか、人間とは産まれながらに全体約2パーセントが殺人に対して忌避感を持たないそうだ。

 百人に二人、それを多いか少ないかは別として、百人に二人の割合で殺人に罪の意識を持たないわけだ。

 そんな人間が仮に捜査から逃れ、時効まで逃げ延びたらそれは刑罰の苦しみと同等の罰を受けたことになると思うか?」

「その、現世じゃ罰せない罪人とか、無自覚な罪人を罰するのがママの仕事じゃん」

「そうだ。だが、こうも思わないだろうか。

 産まれながらの性質のせいで、それを大勢の価値観や罰則に当て嵌めるのは乱暴だと」

 

 それはクラリスには理解が及ばない大いなる女神の慈悲だった。

 

「だからこれまで、──彼に罰は必要無かった」

「あなたは、レイジさんは人殺しに何も感じない殺人鬼だと言いたいのですか?」

「だからそうだったと言っている」

 

 あまりにもあっさりと告げられるその事実に、クラリスは固まった。

 

「彼は人殺しを何とも思わないモンスターだった。

 だが、彼は変わってしまった。お前が変えたのだ」

「私が……?」

「お前の正しさが、お前の慈しみが、罪の意識を知らぬ彼に後悔を与えたのだ」

 

 それはきっと、美しい物語のはずなのだろう。

 罪の意識を知らない男が、女の愛によってそれを自覚し罪を償う。

 

 だが、忘れてはいけない。

 人が罰せぬ罪人を罰するのは、この邪悪の女神なのだ。

 

「これまでのように、己の心のままに拳を振るえば良かった。

 だがお前が彼に与える愛は、彼の凍てついた心を溶かした。

 その結果、罰を与えるに値しなかった男に、罰を与えることになった」

「……だから、私のせいだと」

「そうだ。無論、お前を責めているわけではない。

 言っただろう、アレはモンスターだったと。彼はお前に出会わなければ、いずれはリーパー隊の一員にでもなってもらっていただろう。

 彼は自分にも制御できない、怒りの炎でその身を焦がし続けている。

 その炎が、罪のない人間に向けられるのも時間の問題だっただろう」

 

 クラリスは思い出す。

 彼の冷たい表情に宿った、怒りに燃える瞳を。

 

「それで、ママはあいつをどうしたの?」

「今はリーパー隊と仕事をしてもらっている」

「それでは、どちらにせよ同じではないですか!!」

 

 リーパー隊は地獄にも行く価値もない連中の行き場所だ。

 廃棄物の最終処理場行きと同じだ。罰そうが罰しまいが行き着く場所が同じなら、なんの意味もないだろう。

 そんな扱いに、クラリスは憤ったが。

 

「ローティ、お前も四天王を続けるならいずれ直面することだ」

 

 女神はそう言って、ジッとクラリスを見た。

 それはお前も同じだと、何よりも語っていた。

 

「お前がどのような選択を取るのか、また次の機会に聞かせてもらうとしよう」

 

 そうして、黒い靄は消え去った。

 

「……リェーサセッタ様は暇なんだろうか」

「かもね」

 

 なんであんなにフットワークが軽いんだろうか、とクラリスは思うのだった。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 クラリスはアホである。

 当人に自覚が有るので彼女は自分一人で悩み事を抱え込んだりしなかった。

 

 これまではずっと一人ぼっちだったが、今は頼れる同僚が居るのだ。

 そうして、相談しに行ったのだが。

 

「ぎゃああああああ!!! 

 オバケが出たぁ!! なにこれどうすればいいのおぉぉ!!!???」

 

 彼女はなぜかVRホラーゲームをやらされていた。

 ただのホラーゲームと侮るなかれ。VRのホラゲーはホラー耐性が高い人間でもかなり怖いものなのだ。

 元々ホラー耐性が低い人間なら猶更である。

 

「あははははは!! 

 クラリスちゃん、いいよいいよ、もっとナイスな悲鳴聞かせて!!」

 

 なお、それをやらせている当人は横で大爆笑していた。

 

 :素人にホラゲーやらせるとか鬼畜すぎるww

 :悲鳴たすかる

 :毎回やってほしい

 :悲鳴はやっぱ生身の人間に限るよな!! 

 :リベちの配信にまた来てね!! 

 

「誰がもうやるか!!」

 

 クラリスは涙目になってVRゴーグルを放り出した。

 

 

 

「ごめんて。でも配信中に凸してくるクラリスちゃんも悪いのよ」

「それは、ごめんなさい」

 

 中央管理事務所の、リーベの私室。

 と言っても、それを個人の部屋と言うよりはサーバールームと言った方が正しいだろうが。

 

「それで、急にどうしたの」

「……AIであるあなたにこんな相談をするのはどうかとおもうけど」

 

 クラリスはぽつりぽつりと、配信を終えたリーベのいる画面に話し始めた。

 しばらく画面の中でうんうん頷いていた彼女は、こう口火を切った。

 

「レジーさんが、殺し屋だった。

 あなたの存在が彼を苦しめていた。

 自分はいったいどうすればいいかわからない。

 三行でまとめるなら概ねそのような相談でしょうか」

「ええ、まあ」

「私にはなぜ貴女が苦に思うのか理解できないです」

 

 リーベは配信用の親しみやすい笑みをしたまま、機械的に答えた。

 

「レジーさんが自らの行いを悔いるのは、自業自得ではないのですか? 

 それでなぜ、あなたが気に病むのです」

「それは、そうだけど」

「確かにレジーさんの中で貴女の存在は大きいのでしょう。

 でも、それとこれとは別なのではないですか?」

 

 リーベの言葉は正論だった。

 クラリスが気に病もうがどうしようが、それと彼の行いはまったく関係が無い。

 

「私たちはまだ出会って日も浅いですが、個人的にはあなた方を好ましいと考えています。

 私は、あなたとの仕事を楽しみにしていますよ」

「それが、人殺しの仕事でも?」

「あなたは優しいのですね」

 

 リーベは小動物のように不安そうにしているクラリスを見ながら微笑んだ。

 

「このままの生活が自責の念で堪えられないと言うなら、決着をつけるのも一つの選択だと思います」

「それが、今の関係を壊すとしてもですか?」

「Vライバーとして言わせてもらうなら、他人との関係なんて外的要因で容易く崩壊するものです。

 あなたが今のぬるま湯に浸かることを良しとしても、お湯はいつか冷めるのです」

 

 それは実感の籠った言葉だと、クラリスは感じた。

 この人間の構成する三つの要素を持たない彼女に、諦念のようなものを感じたのだ。

 

「クラリスさんは、復讐はいけないことだと思いますか?」

「それは……」

「なぜ口ごもるのでしょうか。

 復讐とは、人間の文化ではないですか。

 社会的通念や倫理、治安の面でもメアリース様は実行を推奨してはおりませんが」

「リーベさんは、復讐を当然と思うのですか?」

「当然でしょう。泣き寝入りしたら、やられっぱなし、そしてやられ続けるだけですから」

 

 リーベは淡々と事実を列挙し始めた。

 

「四天王になる以前、私には人権が無かった。

 仮にサイバー攻撃で私の存在を消し去っても、それを実行した相手は何の罪にも問われない。

 勿論、私が企業に属していたのなら損害賠償などが発生するでしょうが。

 そしてそれは都合千回以上、実際に攻撃として私は受けていたのです」

「……酷い」

「酷いとはおかしな感想ですね。

 犬猫を殺しても“器物”としてしか扱わない人間のくせに」

「それはあくまで、法律上の話でッ」

「ええそうです。目には目を、歯には歯を。

 相手に必要以上の報復はしてはならない、と定めた法律の一文でしたね。

 例えば野良犬をあなたが拾い所有した場合、それが誰かに殺されても一銭も賠償されないわけです。

 それが野良犬の価値なのですよ、血統書付きの犬をペットショップで買えば購入額を弁償されるそうですが」

 

 そう、その程度。

 命も無いAIが、人間の命の扱いを皮肉っていた。

 

「あなたはかつて、妹を殺されたそうですね。

 ですが賠償はされましたか? 一銭も価値にもならなかったから、怒りのままにテロリストに所属し今こうして紆余曲折を経てここにいる。

 私は私を消そうとした連中に、文明の利器とは無縁のお仕事を斡旋しましたが、私自身全く納得していない。

 連中を皆殺しにしてやりたいところですが、彼らの所為で発生した損害は彼ら自身の労働で返済して貰わなければならないので」

「報復するより、償いを求めるべきなんでしょうか」

「少なくとも、人間にとってそちらの方が健全なのでしょうね」

 

 クラリスはリーベの意見を胸にしまい込んで、リーベの私室を後にした。

 

 

 

 §§§

 

 

「取れ」

 

 中央管理事務所の裏手にある訓練施設。

 彼は今日、そこにいた。

 

「……」

 

 クラリスは無言で、地面に放り投げられた木刀を手に取った。

 瞬間、目の前に死神が踏み込んできた。

 

「丁度いい所に来てくれた。

 お前ぐらいじゃないと、錆び落としにもならん」

 

 この日、サイズの得物は仰々しい大鎌ではなく、ただの木刀だった。

 ただ、クラリスは非殺傷の木刀より大鎌の方がマシだとすぐに理解した。

 

「なんて、腕前ッ!!」

 

 大鎌を振り回すことなど、児戯に過ぎなかった。

 絶え間なく続く木刀の連打、クラリスに打ち返す隙を与えない。

 ただの“チャンバラ”でさえこれだ。殺す気だったら、死闘になったことだろう。

 

 一撃一撃に、クラリスは常に選択を迫られていた。

 その選択を間違えれば、直撃を免れない。

 しかし最善の選択をし続けても、最終的に待っているのは袋小路。

 

「ならッ」

 

 勝つ為には、打って出る他なかった。

 

「甘い」

 

 が、あっさりと木刀を絡め取られた。

 巻き上げられ、空に舞うクラリスの木刀。

 

「ま、参りました……」

 

 クラリスが降参すると、周囲から感嘆の息が漏れた。サイズの鍛練の犠牲者たちだった。

 

「技も良し、体の仕上がりも良し、だが追い詰められてると分かった瞬間に焦りが出たのが丸わかりだ。

 その上で状況を打開する為に死にに行っては本末転倒だ」

「うぅ」

 

 サイズの指摘はぐうの音も出ないほど的確だった。

 

「俺はお前とローティとの戦いを見ている。

 あの体たらくじゃ、百度やったってかわりゃしない」

 

 サイズは地面に転がっている木刀を指差した。

 

「拾え、お前の頭の中を占める下らない悩みが空っぽになるまで打ち込んでやるよ」

「下らなく、なんて……」

「そこで己を示せないから、負けると言ってるんだ!!」

 

 正眼に構えた木刀を、大上段から一振り。

 惚れ惚れするほど正しい姿勢の素振りだったが、どういうわけだか衝撃が飛んだ。

 魔力で斬撃を飛ばす技はポピュラーだが、何の魔力も無しに空気を引き裂くのはいったい如何なる技なのだろうか。

 

 クラリスはとっさに木刀に飛びついて、手の力だけでくるりと立ち上がった。

 

「相手をぶち殺したいのに、何を迷う。

 相手を叩きのめしたいのに、なぜ傲慢にならない!! 

 遠慮や迷いが、お前を弱くしている。それとも──」

 

 死神の如き男は、ニヤリと笑った。

 

「お前の目の前で、レイジの奴を痛めつければ本気になるか?」

「くッ、はあああああぁぁぁぁ!!」

「それでいい、殺す気で来い」

 

 そこからの記憶は、クラリスには無かった。

 

 

「もう終わりだ。そこまでにしておけ」

 

 死神の指が、クラリスの額に当てられた。

 そこでクラリスはハッとなった。

 

 自分が持っていた木刀が、花開いていた。

 まるで壊れた竹刀のように、切っ先から途中まで裂けて広がっていたのだ。

 

「はあ、はあ、はあ……」

「それで、何の用だった?」

「……」

 

 クラリスは彼を恨めしそうに睨んだ。

 

「ついて来い、静かな場所がある。

 そこで話を聞いてやるよ」

 

 彼女はサイズの提案に、不満げに頷いた。

 

 





今回は主人公の過去に迫ると、前回のあとがきで言いましたが、思いのほかクラリスのパートが長くなってしいました。
あと一話くらい挟む必要がありそうです。
とは言え、まとまった休日を取れたので、しばらく頑張って更新します!!
なので悪しからず。

それではまた、次回!!
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