ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー 作:やーなん
「レイジ・キサラギ。お前の罪を告白しなさい」
この世ならざるこの場所で、奈落の瞳が俺を見下ろしていた。
この御方から言い逃れは出来ない。俺はすぐにそれを悟った。
「はい」
俺は己の半生を粛々と話し始めた。
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この世界は腐っている。
俺はいつもそう思っていた。
俺は中流階級の家に産まれたが、自分が裕福だと感じたことは無かった。
百年前だか二百年前だかの戦争で、人類は地上を汚染で満たした。
飲み水すら限られ、食べ物は常に不足している。
それでも、俺はまだマシだった。
貧困層は浄水器が命綱であり、小便飲みと蔑まれていた。
汚染された水源を浄化して飲んでいる俺たちと何が違うのかわからないが。
俺は学校に通うことが出来たが、こんな世の中の学校の質なんてお察しだった。
上流階級の生徒を中心としたカースト社会が形成され、地位の低い者を日常的に虐げていた。
見ているだけでハラワタが煮えくり返るような日々だった。
それでも、教育を受けられるだけマシだった。
職を得られなければ、地獄だ。この狭い世界で、居場所を失ってしまう。
だがある日、彼らの標的になっていた者達が首を吊った。
この世界の警察は腐っている。言うまでも無いことだが。
当然、まともな捜査なんてされるはずも無い。万が一、連中が疑われても、警察の捜査官の懐が温まるだけだ。
次の標的になったのは、俺だった。
俺は難癖を付けられ、その日のうちに貧困層が住むスラムへと連れて行かれた。
ここで行われたことなんて、外には漏れないからだ。
「お前のような庶民が、俺と同じクラスに通うなんておこがましいんだよ!!」
「お前の顔を見てるとイライラするんだよ!!」
「なあ、殴らせろよ、いいだろ、なあ!!」
殴る蹴るは当たり前、連中は罵声を飛ばしながら俺に暴行を加えた。
悔しかった、痛かった。何より憎かった。
この狂った世界に、無力な自分に、怒りが燃え上がった。
このまま終わってたまるか、俺はそう思った。
連中に一矢報いようと、機を窺おうとしたその時だった。
「おい、邪魔だ」
俺は、彼と出会った。
「なんだ、失せろ貧民風情が!!」
上流階級の間抜けが、そう怒鳴った直後だった。
彼の顔面に、拳が突き刺さった。
「じゃあ教えてくれよ、貧民と上流国民の拳の違いとやらをよ」
「ひッ、止めろ!! 僕の父親は政府役人で──ぐえ!!」
「……」
口ほどにも無かった。
連中は貧民の男にボコボコに殴られ蹴られ、徹底的に痛めつけられた。
「上流階級ってのは五体満足が尊ばれるんだろ。
これでお前たちもドロップアウトだな、どうだ、お前たちが蔑んでいた連中と同じになるってのは」
彼はそいつらの手足を再生医療でも元通りになるのは難しいほど、破壊し尽くした。
誰が見てもやり過ぎだろう、だが俺は胸がスカッとしていた。
芋虫のように蠢くクズどもを見下ろし、彼は去ろうとした。
「待ってくれ!!」
俺は彼を引き留めた。
彼は俺と同い年ぐらいの、若い男だった。
「学校通いってのも大変なんだな」
俺は彼の寝床で、合成食品の缶詰を振舞われた。
賞味期限がとっくに過ぎているそれは、ハッキリ言ってマズかった。
「あんた、名前は?」
「俺か? さあな。
ゴロツキどもから逃げる時に右回りだから、
彼には名前は無かった。
ただ、俺たちは妙なシンパシーを感じていた。
「そうなのか、俺も周りからレジーって呼ばれてるんだ」
「ははは、なんだそれ、すげー偶然だな」
正直、こんな風に呼ばれるのは屈辱だった。
どいつもこいつも、親しくも無い癖に俺をあだ名で呼ぶからだ。
それから彼と打ち解けて、放課後はつるむようになるのは時間が掛からなかった。
レジーは気さくで、付き合いがよくて、俺たちはすぐに兄弟と呼び合うようになった。
同時に、俺は彼の中にどうしようもない火種が燻っているのを感じていた。
「よう兄弟、また喧嘩か」
俺が放課後、貧民街に向かうとレジーはまたゴロツキをボコボコにしていた。
「大丈夫か?」
「……うん」
彼は尻もちを着いて震えていた女の子に手を差し伸べた。
その時、ボコボコにしたゴロツキが起き上がった。
「くそがッ、死ねぇ!!」
ナイフを抜いたゴロツキが、レジーの背後に襲い掛かった。
そんなクズ野郎を、俺は護身用のテーザーガンを抜いて引き金を引いた。
ゴロツキに電撃が走り、ぐったりと倒れた。
「悪いな、兄弟」
「油断するなよ、危ないだろ」
レジーはこんな風にいつも喧嘩をしていた。
そのほとんどが、自分の為ではなくこのゴロツキどものようなクズから弱者を守る為だった。
彼みたいな暴力に慣れた者なら、貧民街では用心棒として生計が建てられるかもしれないのに、そういう仕事はしていなかった。
彼は敵も多かったが、味方もまた多かった。
多くの人から目の敵にされ、同時に好かれていた。
「なあ、兄弟。お前はなんでいつも喧嘩ばかりしてんだ?」
ある時、俺は彼に尋ねてみた。
「別に理由なんてねぇよ。
ムカつく奴が目の前に居たからぶん殴った、それだけだぜ」
「格好いいじゃん、正義の味方だろ」
「違うな、弱い者いじめだ。
他の弱い者いじめが好きな奴は自分より地位の低い奴を狙うが、俺は自分が強者だと思いあがってる奴を弱者に貶めるのが好きなんだ」
俺をイジメた連中と何も変わらない、と彼は笑ってそう言った。
彼には、そういったある種のポリシーのような物が根底に存在しているようだった。
俺は彼の人柄と、その奥底に沈殿したどす黒い何かに惹かれていた。
だから、俺はその日、来るべき時が来たと思ってしまった。
「殺したのか、兄弟」
「……ああ」
貧民街の横道で、レジーは誰かを殴り殺していた。
格好からして、警察官のようだった。
「どうして殺したんだ?」
不思議と、俺は彼に失望しなかった。
ただただ、やっぱりな、としか思わなかった。
「人攫いの賄賂を貰ってやがったんだ。
だから俺がこいつを攫って、人攫いに買われていったガキどものように欲望の捌け口にしてやったまでさ」
警官の死体は、十発や二十発では済まないほどの殴打の跡があった。その顔面は原型が留めていないほどだった。
俺は、それを見て前から考えていたことを彼に打ち明ける決心が出来た。
「なあ、兄弟」
「なんだ、兄弟」
彼は血まみれの顔を、俺に向けた。
俺は彼に言った。
「共に地獄に堕ちないか?」
「この世に、神なんて居ない。
碑文教会がそうだったようにな」
「それが一緒に地獄に堕ちてほしい、って言った奴の言葉か?」
「ははッ、違いない!!」
俺は彼と一緒に、俺の自宅へ向かっていた。
「だが、善良にしてれば悪い奴は善い神様が天罰を下してくれるとでも?
馬鹿馬鹿しい、クソ野郎はずっとクソ野郎だし、反省なんてしないままこの世に蔓延って行くんだ。
やられた方は泣き寝入りして終わりだ」
「まったくだ」
「だったら、俺たちで正すしかないだろ?」
レジーはしばらく黙っていたが、程なくして頷いた。
やがて、俺たちは俺の自宅へたどり着いた。
「ただいま」
自宅のドアを開け、俺がそう言った瞬間だった。
俺に向かって酒瓶が飛んできた。
レジーが俺に当たる寸前で、それをキャッチした。
「っせーぞ!! いちいち物音を立てんじゃねえ!!」
そこには、かつて俺の父親だったモノが居た。
「なんだ、こいつは」
「俺の親父だ。半年前にクビを切られてずっと酒浸りだ」
俺はレジーにそう説明した。
それ以来、コイツは酒浸りになった。
俺にも暴力を振るうようになり、母親は知らない男とどこかに消えて行った。
だからレジーと出会っては、時間が有ればずっと一緒に過ごしていた。
「なんだぁてめぇ、勝手に他人を上がらせてんじゃねえぞ!!」
「兄弟、頼む」
「ああ」
レジーは俺の望みをすぐに理解した。
かつて親父だった男の顔をぶん殴り、黙らせて首を絞めた。
「止め、止めろッ、レイジッ、俺は父親だぞ!!」
「酔っ払いめ、まだ状況がわかんねえのか?」
レジーが、もう一発殴った。
もう一発、もう一発、更に一発。
「や、やめて、すみません、たすけて」
「ようやく酔いが覚めたようだな、ああん?」
ようやく、この馬鹿な男は自分の立場を理解したらしい。
「親父、頼みがあって来たんだ」
「た、たのみ……?」
「この書類にサインしてくれ」
レジーは親父を放すと、俺は奴に電子ペーパーを突き付けた。
「これは、養子縁組届書……?」
「親父も知ってるだろ、ここ最近の世界的な人口の減少を。
だから二人以上の子供のいる家庭には国からの助成金が出る。
今日から、このレジーは俺の弟になるんだ。家族が増えるんだよ、嬉しいだろ、親父」
親父は怯えながら、レジーと俺の顔を交互に見ていた。
「助成金は全てやるよ。
俺たちも家を出てく、良い取引だろ、親父?」
その日から、俺たちは本当に家族となった。
戸籍を手に入れたレジーと俺は一緒に運送会社を立ち上げた。
俺はまだ学生だったから、表向きは親父の会社だった。
主な事業はバイク便だったが、それは表向きの話だ。
配達員ならどこにでも自然と入り込める。
本業は、それを利用した復讐代行業だった。
レジーが実行役で、俺はバックアップだった。
この時代、電子工学やコンピュータ技能は必須技能だ。
俺はこれでも成績は良かったし、決してくいっぱぐれない仕事としてそれらの技術は会得していた。
親父も元々はコンピュータ技師だった為、設備もあった。
俺たちの仕事は、順調だった。
警察は変死をまともに捜査などしない。そんな
俺たちはハッキリ言って、貧しい者の依頼ばかりしか受けなかった。報酬なんて危険に見合わぬスズメの涙。
だから仕事は殆どタダ働きだった。
それでも、レジーの信頼できる知り合いも俺たちの会社に加わり、順調に進んでいるように、見えた。
だが、結局のところ、レジーたちはゴロツキ上がりに過ぎなかった。
「おい、なぜ金持ちの私怨の依頼を受けたんだ!!」
俺たちの会社の休憩室で、レジーが同僚を咎める声が響いた。
「お前馬鹿か、会社の運営はタダじゃないんだ!!
稼がないと表の顔も維持できないんだよッ」
「事前調査で逆恨みだってわかったじゃねか!!」
「報復の相手もクズだったからいいじゃねかよッ!!」
二人の言い争いに、他の同僚たちもどうしたものかと困っていた。
「お前こそ、カネの払えねぇ相手に結局タダで仕事したって話じゃねぇか!!
俺たちの仕事は慈善事業じゃねえんだぞ!! 分かってんのか!!」
「ああそうだ、悪いか、この野郎!!
俺は頼まれたらタダでもやってやるよ!!」
レジーは鼻息を荒くして、ソファーに座り込んだ。
「時代劇で人殺しをカネで請け負う殺し屋が居るよな?
カネを貰わないとそれは仕事じゃない、と。
俺は違うね、これは私怨だ。決して仕事でやってるわけじゃねぇのよ!!」
レジーは生粋のアウトローだった。
情で生きる男であり、その在り方は殺し屋と言うより中国の任侠に近かった。
「俺は、俺以外の、上から見下ろして粋がってる奴が大嫌いなんだ!!
殴りたいから殴ってる、殺したいから殺してる。弱い者いじめが大好きなんだよッ。
カネが欲しいのか? なら俺の分け前なんてくれてやるよ!!」
憤怒。激情だった。
彼自身にも抑えきれない、激怒が彼の身体を焦がしていた。
「だがレジー、お前も適当にボコボコにするだけの依頼で標的をぶち殺してるだろ。
やり過ぎると歯止めが効かなくなる。
お前は少し、落ち着いた方が良い」
冷静な他の同僚が、レジーを諫めた。
「わかってる、わかってるんだ!!」
「もう我慢ならねぇ、てめえいい加減にしろよ!!」
だが、結局彼と言い争っている方の怒りも爆発した。
「おいバカ止めろ!!」
「仲間同士で争うんじゃねぇよ!!」
俺も他の同僚たちも、殴り合いを始めた二人を止めようとした。
そして、悲劇が起こった。
「野郎、ぶっ殺してやる!!」
頭に血が上った同僚が、銃を抜いたのだ。
「危ないッ」
俺はとっさに、彼との間に割り込んだ。
瞬間、この身を焦がす激痛に襲われた。
「きょ、兄弟!!」
廊下に倒れた俺を、レジーが抱き抱えた。
俺はもう、自分が助からないことを悟った。
仲間たちが医者を呼ぶ声が、遠く聞こえる。
「なあ、兄弟……聞いてくれ」
「なんだ、何でも言ってくれよ」
「今日から、お前が俺になれ」
薄れゆく意識の中で、俺は後頭部から俺の個人認証チップを取り出し、彼の手に握らせた。
「お前が、俺に、俺の……
俺を撃ってしまった同僚も、泣きながら俺に縋りついて来た。
レジーも俺を強く抱きしめる。
薄れゆく意識の中で、俺は奈落のような赤い瞳を見た。
それを見て、俺はようやく悟った。
「なんだ、本当に居たのか……」
俺は死に際に、安堵した。
悪には罰を、罰には断罪を。
悪人は決して、かの御方から逃れられぬのだと理解したからだ。
「泣くな、兄弟。俺はお前の中で生き続ける」
俺は大いなる闇の両腕に抱きしめられ、死の眠りに就いた。
主人公視点、と見せかけて実は主人公はもう一人の方って展開を二話かけてやろうと思いましたが、こういう時に限ってネタが膨らまないものですね。
いつもは無駄に長くなるのにね!!
そう言う感じで、主人公の過去のお話でした。
次回からはちゃちゃっとあの世界を滅ぼしたりオフ会とかしたりして次の章に進めたいと思います。
では、また次回!!
世界オールドハイルの行く末は?
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存続する
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滅亡する