ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー   作:やーなん

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 ある国の王様が言いました。

「砂漠の魔女を捕らえ、永遠の命の秘密を聞き出すのだ!!」

 王様の命令で、軍隊が死の砂漠へと派遣されました。
 大勢の冒険者も報奨金目当てで魔女の元へと向かいました。

 そして誰ひとり帰ってきませんでいた。
 ……いいえ、より正確に言えば、全員が帰ってきました。

 兵士が、冒険者たちが、一人残らず石像となって歩いて国元へ帰って来たのです。

 石像たちは城下町の人々を殺して回り、そして王城に押し入りました。
 石像たちは壊されても壊されても、すぐに元通り。
 やがて王様は石像に殺され、王都は石像だけの都市になったとさ。

 そして時間が経ち、滅びたこの国はこう言われるようになりました。

 ────あの国は魔女に呪われたんだ、と。


“ロスト・アーカイブ”民話「砂漠の魔女」の第二章より抜粋






天命と運命

 

 

 

「ただいま」

 

 俺たちが家に着くと、家の中は真っ暗だった。

 壁に手を這わして電気を付けると、俺はクラリスと一緒にリビングに向かった。

 

「遅い、おなかすいた」

「ローティ……」

 

 彼女はいつも俺たちが食事に使う四人掛けのテーブルに一人座っていた。

 

「電気ぐらいつけろよ」

「夜目が利くし」

「そう言う問題じゃない」

 

 俺は溜息を吐いた。

 クラリスは俺の横を抜けるとテーブルに座った。

 

「レイジさん、私もお腹が空きました!!」

「……待ってろ、すぐ出来る」

 

 主張の激しいクラリスにそう言って、クッキングメイカーに材料をセットする。

 有り合わせの材料でできた簡単な料理で俺たちは腹を満たした。

 

「ローティ、少し良いか」

「なに? 食べ終わったんだからゲームしないの?」

「話が有るんだ」

 

 俺はクラリスに目配せすると、彼女も頷いた。

 

「早くしてよ。面倒だなぁ」

「俺は、俺たちはリェーサセッタ様に導かれて別の世界に行ってきた。

 そこで他の魔王様の所業を見て来た」

「ふーん。それで?」

「お前は無辜の人々が苦しむことにどう思うんだ?」

 

 俺は彼女に尋ねた。

 俺は聞かなければならない。

 彼女の四天王になった俺は。

 

「お前、地球は丸いって知ってるよな」

「は?」

 

 唐突なローティの言葉に、俺は呆気にとられた。

 だが、彼女は気にせずリモコンを手に取り、テレビを付けた。

 

 テレビ画面にはニュースが放送されており、外国の貧困について特集していた。

 

「ここに出てる奴ら、お前はどう思う?」

「え、どうと言われても」

「そうだ。それが普通だ」

 

 ローティは皮肉気に笑ってテレビの電源を落とした。

 

「私の姉に、アキバってイカレ変人がいるんだけどさ。

 時々遊んでくれるからいろいろと話を聞くんだ。

 アイツ、自分の担当の世界で何をしてると思う?」

「魔王一族序列五位、魔王アキバ。人呼んで“狂作家”*1

 

 ローティの問いに、クラリスが答えた。

 もしかしたら彼女はレジスタンス時代にその情報を頭に叩き込んでおいたのかもしれない。

 

「そう、そいつ。

 あいつにとって、担当の世界は作品なんだ。

 自分が好みの展開を演出して、勇者を選び出し活躍させるためのな。

 だけど勇者ってのは悲劇や苦難が付き物だろ?」

「まさか……」

「あいつにとって、“登場人物”以外の人間なんて背景なんだよ。

 小説で一行で流される、どれだけ死んだかって数字に過ぎない。

 お前もそうだ。地球の裏側でどれだけ人々が貧困に苦しもうが、虐殺に遭おうが、何も感じない、何も行動を起こそうとも思わない。

 お前の無感動と、私が担当になった世界の連中に思うことは同じだよ」

 

 結局のところ、テレビの向こうでどれだけ人々が苦しもうが、それを俺たちは実感することはできない。

 ローティの言いたいことはそういうことなのだ。

 

 どれだけ殺そうとも、何も感じない。

 

「だけど俺は見て来た。

 画面の向こうの悲劇や苦しみを。

 あんなのは間違ってる。そうは思わないのか?」

「お前さ、なにそんなアホみたいなこと言ってるの」

 

 心底理解に苦しむようにローティは小首を傾げた。

 

「お前、赤ちゃんは何歳まで赤ちゃんのままで許されると思う?」

「どういうことですか?」

「メアリース様の恩寵の全ての世界で、人類の繁栄は約束されている。

 だけど、赤子はいつか両足で立って、自立しないといけない。

 文明の恩寵に甘えて、いつまでも赤ん坊のままじゃいられない。

 ──立って歩かなければ、生きてはいけないんだから」

「だから、あの殺戮を肯定するんですか」

 

 クラリスは気づいていないが、彼女は無意識に敬語になっている。

 緊張しているときのこいつの癖だった。

 

「じゃあ、赤ん坊のまま揺り籠で死ね、と? 

 それって何もかも支配され、管理されるのと何が違うんだ」

「だから、尻を叩く必要があると」

「メアリース様がこのままじゃダメだと思った世界に、痛みを持って教えないといけないんだ。

 戦って尊厳を示さないと、淘汰されるだけだって。

 出来ないなら死ぬしかない。そこに善悪なんて無い」

 

 ローティの、魔王たちの理屈は一理ある。

 俺は刈られる稲穂のように殺される人たちをこの目で見て来た。

 

「だからってッ」

 

 俺は歯を噛み締めて、手を固く握って己の感情を吐露した。

 

「意味が無ければ、殺しても良いのか。

 意味を見出せなければ、生きていちゃダメなのか」

「理想論じゃん。それ。

 実際問題リソースは限られる。だからこの地球も昔に大勢の餓死者を出したんだろ。

 そいつらの死に意味が有ったのか? 餓死という現象に意思があったなら、お前はそいつを責めるのか? 

 じゃあ責めればいい。メアリース様と同じように。

 好きに喚き立てればいい。でも周囲はそれを狂人って言うんだよ」

 

 ローティの物言いは論点のすり替えだとは分かっている。

 だけど俺はそれを言語化できるほど、具体的な反論を持ち合わせていなかった。

 

「いつだってそうだ。

 なんの具体的な対案もないくせに、メアリース様の所業を否定する。

 お前、お米を作る時、育ちの悪い芽を摘むのを知ってるか? そうしないと周囲の成長を阻害するからだ。

 それは残酷じゃないのか? お前の言ってることは何の価値も無い空虚で傲慢な上から目線の感情論なんだよ」

 

 メアリース様が失敗作と断じた世界に、いつまでもリソースを割くことはできない。それは理解できる。

 だがやはり、納得は出来ない。してはいけない。

 

 それで納得してしてしまうのなら、それこそ立つ瀬がない。

 

「だけど」

「ローティ」

 

 だが、俺とローティの答弁を聞いていたクラリスが静かに彼女の名を呼んだ。

 

「それは、魔王一族の言葉だ」

 

 クラリスの眼は、まっすぐローティを見ていた。

 

「笑っていたな」

 

 そう言った彼女の言葉は、澄んでいた。

 怒りや憎しみが一切含んでいなかった。

 

「私は知っている。お前はどの魔王たちよりも早く、仕事を済ませると。

 それ故に、今の地位に就いているとも。そう博士が教えてくれた」

「そうだけど。だから?」

「お前は、楽しそうに笑っていた」

 

 そこで俺は思い出した。

 掲示板の魔王様が、仕事に対して何も感じない、と言っていたことを。

 そう言う風に創られている、と。

 シロアリの住む家を壊すことに、喜怒哀楽など有るはずも無い。

 

「私は、ローティ。お前のことを知りたい」

 

 クラリスは、クラリスだけは。

 彼女を魔王と言う立場で見ていなかった。

 

「くッ」

 

 ローティの口の中で、そんな声が漏れた。

 

「くくッ、くくくッ、あはははははッ」

 

 俺との問答など、つまらない定型文のチャットに過ぎなかった。

 そう言わんばかりの、可笑しそうな笑い声だった。

 

 クラリスだけは、そんな魔王の正体だけを見ていた。

 

 

「──当然じゃんッ、楽しいんだから!!」

 

 魔王と言う立場は、上っ面。

 魔王だから邪悪なのではなく、邪悪だから魔王に選ばれたのだ。

 

「私が最初に人を殺した時の事、教えてあげようか?」

 

 前歯をむき出しにして、満面の笑みを浮かべるローティが大切な思い出を語るように、懐かしむように話しだした。

 

「無力で惨めなダークエルフと人間のハーフを憐れんだ偉大なる賢者様が、この私に魔法の本をくれたんだ」

 

 そう言って、彼女は一冊の古びたハードカバーの本をテーブルの上に置いて見せた。

 この時、俺は全くその本の危険性を感じられなかったが、それを見たクラリスの眉が険しくなったのを、俺は察する余裕はなかった。

 

「私を汚物呼ばわりした村の子供を、ここに書いてある魔法で石にしたんだ!! 

 そして、魔法で動かして親の目の前に突き付けてやったんだよ!! 

 そいつらなんて言ったと思う? 「化け物!!」だってさ!! 

 傑作だよな、自分の子供を化け物呼ばわりしたんだ!! 

 石にしたって言っても、それは表面だけでさ、音の振動で中身にはちゃんと聞こえるだよ!! 

 私はそいつに命令して、自分の親の首を絞めさせたんだ!! 

 ぎゃはッ、ぎゃはははッ、こんな笑えることあるかよ!! 

 親子なんだよ、普通悲しんで抱きしめてやるもんじゃん? 

 なのに泣き叫んで怯えて、挙句の果てには子供を化け物って、こんなの笑うしかないじゃん!!」

 

 興奮して笑いながら一息で話す、邪悪の化身。

 俺は想像を絶する体験に、ゾッとして身動きが取れずにいた。

 

「あ、そうだ」

 

 ぽん、と彼女は手を叩いた。

 

「丁度記念に取ってるんだ。見る?」

 

 ローティは本を開くと、ページの一文をなぞった。

 すると地面に魔法陣が広がり、そこから何かがせり上がって来た。

 

 それは、子供の石像だった。

 被害者自身の親を殺させた、最初の殺人の、世にもおぞましい凶器だった。

 

「見てよこれ、まだ生きてるんだよ!!」

 

 おもむろに、ローティは石像の顔を手のひらで毟った。

 表面を削がれたそこには、生々しい皮を剝がれた人間の子供の顔があった。

 

「……ろぉ……し……」

 

 血の滲む石像の生身の唇が震える。

 殺して、と。この永遠の拷問を終わらせてくれ、と。

 

 考えるより先に、俺は行動に移していた。

 

 サイボーグの剛腕を持ってして、唐竹にその石像を粉砕した。

 血と骨と臓器、そして表面の石が部屋中に飛び散った。

 

「あはッ」

 

 だが、それこそ彼女の求めた反応だった。

 ぱちん、と指を鳴らすと、飛び散った肉片たちが逆再生したかのように完全に元通りの石像の姿へ戻った。

 

「すごいでしょ、これって私が死なない限りずっと壊れないんだ!! 

 人類の夢じゃん、永遠の命だよ。嬉しいだろ?」

 

 自慢のオモチャを見せびらかすように、無邪気にローティは笑っていた。

 俺は我慢できずに、ローティを抱きしめた。

 

「ローティ、もういい、もういいだ!! 

 もう、こんなことしなくても、お前はッ」

「私に優しくしてくれた砂漠の賢者様は言ったよ。

 ────この世界の誰もがお前に優しく無いのなら、お前が優しくする必要がどこにある、って」

 

 こいつは、いやこの子は、誰からも愛されなかっただけの子供だった。

 俺はこいつの所業を知ってたのに、どうしても憎めなかった。

 その理由を、ようやく理解できた。

 

「お前も私に優しくしてくれたから、私も優しくしてやるよ。

 これでわかったろ、私はそうしたいから、そうしているだけだって」

 

 何ゆえに、リェーサセッタ様が俺に彼女の事を頼んだのか。

 俺の天命を悟った。

 

 俺はあんな家業をしていたから、いつどんな死に方をしても仕方ないと思っていた。

 だけど、ようやく分かった。

 

 俺の、命の使い方を。

 

 

「魔王、いえローティ。

 あなたは人間が憎かったんですね」

 

「私の事を、知った風に言うな。

 たった一言で全てを片付けるな」

 

 そして、同時に俺は見た。

 

 勇者の、真の誕生の瞬間を。

 

 

「ようやく、私の運命を悟りました。

 私はあなたを止めるために神に選ばれたんですね」

 

「忘れたのか、預言なんてメアリース様の茶番だって。

 お前はただの負け犬で、私のオモチャなんだ」

 

 クラリスは透明な、全ての感情を置いてきたような表情で彼女を見ていた。

 そこには怒りや憎しみも、同情も無かった。

 

「じゃあお前にもう一つの予言を教えてやるよ」

 

 ローティはにんまりと笑ってこう言った。

 

「永遠に生きる砂漠の賢者様は私に予言した。

 自分と同じ魂を持つ私は、必ず不幸になる。

 愛した相手を、その手で殺すだろうって。

 ……言っただろ、お前を愛してやるって」

 

 こうなることは、どちらも初めから分かっていた。

 

「なら、あなたは私を殺せませんよ」

「ふーん。じゃあ試してやるか?」

「ええ、いよいよその時が来たと言うことです」

 

「クラリス」

 

 俺は立ち上がると、彼女を前にして言った。

 

「俺はローティの四天王として、お前の前に立ちはだかる。

 俺は俺の命をこいつに捧げると決めた。……いいな?」

「貴方はそう言うと思ってました」

 

 だけど、彼女は俺に微笑むだけだった。

 

「それでこそ、私が好きになった人です」

 

 ああ俺も。

 お前を好きになって良かったよ。

 

 

 

 

 

 

 

*1
拙作『オタク魔王は推しに斃されたい』の主要人物、ローティの姉。魔王一族の長姉。





次回から、掲示板を交えながらクラリスの四天王戦が進みます。
そしてローティの回想から彼女との決戦を予定しています。
ようやくここまで来れた、そう思います。

それでは、また次回。
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