ポンコツ勇者 VS クソガキ魔王 VS ダークライダー   作:やーなん

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Topic:用語解説

ロケーション:“聖地”
女神メアリースと女神リェーサセッタが人間として誕生した時に存在した世界の跡地。
今では、果て無き地平と残骸だけが残る何もない地である。
“聖地”とは、彼女たちの信奉者たちの呼び名であり、二柱は禁忌の地として立ち入りを固く禁じている。
その先に足を踏み入れた者は、ほぼ例外なく生きて帰ることは無いとされるが、人知を超越した神々も恐れる窮極の叡智がそこには眠っているとされる。

このような曰く付きの地であるが、座標と次元航行や転移技術があれば、誰でも行けてしまう場所でもある。
そこにたどり着けてしまえば、この地を守護する“門番”に、審判を受けるであろう。




幕間「ある運び屋の受難」

 

 

 ゆっくりと、目を開ける。

 

 見覚えのある天井だった。

 

「目を覚ましましたか?」

 

 混濁した意識に微睡むまま、俺は声の方に視線を向けた。

 丸ブチ眼鏡に髪の毛を後ろに束ねた、いかにも真面目ですと言わんばかりの女が居た。

 

「あなた、は……確か四天王の」

「はい、魔王四天王のハイティです」

 

 ぺこり、と彼女は頭を下げた。

 

「此度のあなた様の災難は、この私の不手際によるものです」

 

 そうして、彼女は順々に俺に何が起こったのか説明をした。

 

 ああ、思い出したわ。

 あのクソガキに煽られ、ボコボコにされたことを。

 そしていきなり現れた変な鎧女とクソガキとの戦いの余波で、全身がハンバーグになりかけてたんだった。

 

「以上の点を踏まえまして、この世界の技術で貴方の損失を補填することは出来ないのです」

 

 俺はその言葉を、他人事のように聞いていた。

 確かに、この地球ではサイバネティックスが発展している。

 だがそれは四肢や胴体の一部分が限界だ。

 

 俺は、視線を自分の体に向ける。

 

 無かった(・・・・)

 俺が二十六年付き添った、親から貰った肉体が無かった。

 ついこの間、手足を義肢にしたばかりだと言うのに。

 

「ですので、今回は特例の処置を用い、この世界より高度な技術によって製作された義体を用意させてもらいました。

 少々手続きがございますが、了承してくださるならすぐにでも手術を行えます」

「もう、なんか、全部任せます」

「お任せください」

 

 思えば、この時適当に返事したのが運の尽きだった。

 俺の生首と義体の接続は、ほんの三十分で終了した。

 

 二十一世紀頃ならいざ知らず、この時代にサイバネ義肢はファッションの一部だ。

 日夜、いろんな企業がクールで高性能な機械の四肢を開発している。

 

 俺に移植されたそれは、傍から見れば人間の肉体とまるで見分けがつかなかった。

 自販機で買ったジュースの空のスチール缶を握り締める。

 すると爪の大きさほどに潰せてしまった。

 

 こんな、本物の腕みたいに動かせ、これほどの性能を発揮するアームはどこの企業も開発できていないだろう。

 この半年ほどで、義肢に慣れ親しんだ俺が、余りにも違和感が無いことに戸惑うほどだった。

 

「触感や心臓の鼓動も再現できています。

 必要ならば、痛覚も電気信号で再現できます」

「クローン培養した俺の体を移し替えたって言われても信じちまいそうだ」

「そうですか。それは良かった」

 

 四天王ハイティはホッとしたように頷いた。

 

「それでは、最後の手続きを行いますので、お手数ですがご同行をお願いできますでしょうか」

「おいおい、あれだけ書類にサインさせて、まだ何か必要なのか?」

「申し訳ございません」

 

 病院から外に出ると、フライングカーが待っていた。

 地べたを進む一般市民には縁の無い、公共機関や要人にしか使用できない空飛ぶ乗り物だ。

 普段、渋滞の合間をバイクで駆けている身ではこれに乗るのは複雑な気分だった。

 

 地上の渋滞を見下ろしながら、すいすいとフライングカーは目的地へと最短で辿り着いた。

 

「ここは、魔王城じゃないか」

 

 俺がやって来たのは、中央運営事務所だった。

 運営事務所の中でも魔王がおわすことから、人呼んで魔王城である。

 仰々しい呼び名であるが、要するにお役所だ。

 

「魔王様に御伺いを立てなければならないので」

 

 ハイティはすまし顔で答えた。

 俺の表情は内心苦虫を嚙み潰したようになった。

 俺はあのクソガキに、散々いたぶられたのだ。

 

 事務所の中に入ると、クローンのように同じ顔の役人が住人の対応をしていた。

 

「ちょっと!! あんたのところの魔王様のせいで、うちのライフラインが未だにストップしているんだけど!!」

「順次対応しております。

 それまでの損害は補償されます」

 

「あの砂嵐のせいでうちの電子機器が壊滅してるんだぞ!! 

 ちゃんと弁償してくれるんだろうな!!」

「書類に申請をお願いします」

 

「外に停めといた俺のバイクが粉々になってたんだぞ、どうしてくれる!!」

「申し訳ありませんが、記録にございません。

 虚偽の申告は業務妨害として罰則が発生いたします。それでもよろしいでしょうか?」

 

 あの喧嘩腰の住人達に、眉一つ動かさず対応しているのが、俺たちの生活を保障してくれている女神メアリースの化身、その端末らしい。

 気味が悪い光景だ。女神様は全部自分で管理しないと気が済まないらしい。

 

 俺はハイティに連れられ、上へと反重力エレベーターで上がった。

 魔王城の最上階、魔王の公務室だ。

 

「魔王様、ハイティです」

「勝手に入れば」

 

 ドアをノックした後、先方からは素っ気ない対応。

 失礼します、とハイティは述べてからドアを開ける。

 

 最上階をまるまる一室使った公務室は広く、しかし狭かった。

 床には多種多様なゲーム機が散乱しており、食べかけのお菓子や飲み物が放置されている有様だった。

 

 その中心に、公務机に脚を乗せて椅子にもたれ掛かっている少女がいた。

 いや、普通の少女には頭部に一対のツノはないだろう。

 健康的に日焼けしたように小麦色の肌、ショートの茶髪の髪の毛、シャツとショートパンツというだらしない格好。

 

 間違いなく、彼女こそが魔王。

 魔王ローティ。この星の支配者だった。

 

「なんか用?」

 

 そんな彼女は、携帯ゲーム機をかちゃかちゃ操作しながらハイティに問うた。

 

「実は、検知器の誤認にて魔王様が攻撃を加えてしまった市民をお連れしたのですが」

「あれ、あんたの責任ってことになったじゃん」

「はい。しかし五体満足に活動可能な義体はこの世界の技術では難しく。

 上位世界より義体を取り寄せました」

「お前、同じこと繰り返すつもり? 

 あの女がまた出てきたら、そいつが検知器に反応するかもじゃん。

 そもそも、レギュレーション違反になるし」

「機械の方は登録をすればいいだけですが、補償の方はそうはいきませんので。

 ここは魔王様が、器量を見せていただきたく存じます」

「私にあんたの失敗の尻ぬぐいをしろっての?」

 

 魔王は、携帯ゲーム機の画面から僅かにこちらに視線を向けて言った。

 

「ええ、魔王様がこなさねばならない些事を、私が代行しているように」

「あっそ、わかったよ。勝手にすれば?」

「それでは、こちらが補償の対象者の方になります」

 

 この魔王の肩書を持つクソガキは、俺に一瞥さえもくれなかった。

 

「……レジーさん。

 今回は特例ですが、あなたには魔王様の四天王となっていただきます」

「はぁ……ええ!? どういうことだよ、意味が分かんないんだがッ!?」

「我々四天王には、数多くの特権がございます。

 レギュレーションを超える装備の保有も、その一つ。

 今回はそれを適用したく思います。それが手っ取り早いので」

「そんな理由で、四天王を決めていいのかよ!? 

 側近なんだろ、その肩書は!!」

「肩書だけでございますよ。

 我々は、あなたに何かしらの義務を求めたりはしません」

 

 一応業務連絡でお呼び出しはあるかもでございますが、と小声で言ったなお前!! 

 聞こえてるぞ!! 

 

「そもそも、他の四天王は納得できるのかよ!! 

 こんな形で四天王が決まって!!」

「それなら心配ございません。

 他の四天王など、居りませんので」

「えッ」

「四天王は私めと、あなただけなのですから」

 

 ええぇ、マジかよ。

 まあ、俺もあんたをテレビじゃ秘書か何かとしか思ってなかったけどよ。

 

「魔王様、それでいいのかよ」

「四天王の人選なんてどうでもいいし。

 たとえあんたみたいによわっちくてもね」

 

 魔王様と比べて弱っちくない生物が他に居るんですかねぇ!! 

 俺がその物言いに絶句していると。

 

「魔王様、四天王には二つ名が与えられるしきたりです。

 彼にはどんな二つ名がよろしいでしょうか?」

「えー?」

 

 クソガキ様はいかにも面倒そうに俺を見た後、視線をテーブルの上のマンガに目を落とした。

 バイクに乗った黒タイツのダークヒーローが主人公の人気マンガだ。

 

「じゃあ、“ダークライダー”で」

「左様ですか」

 

 こうして、俺の異名がダークライダーに決まったのだった。

 もうちょっと、こう、なんか無かったんですかねぇ!! 

 すると。

 

 ────突如、室内に闇が噴き出た。

 

「な、なんだ!?」

 

 俺は慄いてビビったが、他の二人は何事も無いようにそちらを見ていた。

 やがて、暗黒の闇はヒトの形を模った。

 その人型は、人間で言うところの両目に当たる部分が、瞼を開くように真っ赤な奈落が空いた。

 見つめる者を見つめ返す深淵のように、深い深い底なしの双眸だった。

 

「ママ!!」

「リェーサセッタ様、おいでになられたのですか」

 

 魔王が、ゲーム機を置いて立ち上がる。

 ハイティが恭しく跪く。

 

 その名を、俺も知っている。

 これが、この方が、女神リェーサセッタなのか!? 

 

「ヒトの心が悪から逃れられぬように、私はどこにでも居てお前たちを見ている」

 

 罪を見つめる奈落が、俺を見た。

 

「ようやく、二人目か。

 我が娘ローティよ、早く四天王は決めなさいと言っただろう?」

 

 邪悪を司ると言う女神の言葉は、しかし娘を心配する母親のそれだった。

 

「えー、だって今まで必要無かったじゃん」

「お前には、不要な世界の処分のみならず、人々を導く存在になって欲しいのだ。

 お前は少し気性が荒いからな。他の兄弟たちと同じように統治のやり方を学んで落ち着きを持ちなさい」

「……ママ、ハッキリ言ったらどうなの? 

 これは謹慎の一環だって」

「ひねくれたモノの見方をせずともいい。

 それが解かれた故のこの統治任務なのだから」

 

 このクソガキ、反抗期か? 

 めっちゃ心配されてるじゃないか。

 

「お前の慕っていたあの子も、統治で結果を残していた。

 お前も序列上位なら、それ相応の責任を果たしなさい。でないと、あの子も悲しむだろう」

「じゃあ、どうして教えてくれないの、ママ!! 

 死ぬはずのない兄貴が、どうして居なくなったのかを!! 

 なんでみんな、死んだって嘘つくの!!」

 

 その娘の言葉に、女神は静かに奈落の瞳を瞑目した。

 

「あの子の死因に関心を持つな。

 これは母親としてではなく、神としての絶対なる命令だ」

「……私が、知らないと思ったの? 

 兄貴が“聖地”に行ったって、人間だった頃のママとメアリース様が産まれた世界の跡地に!! 

 あそこに何が有るの!? どうして行っちゃダメなの!!」

「私がなぜ、あの地は禁忌だと定めたか、それを語らずとも理解できると信じさせてくれ。

 お願いだ、ローティ。私の可愛い娘よ、これはお前を守る為なのだ」

 

 居心地が、悪い。

 そういう話は、俺が居ないところでやってくれないかな。

 

 するとその時、エレベーターが上がって来た音が鳴った。

 そして、魔王の公務室にノックすることなく、クローンのように同じ顔の役人が入って来た。

 

「リネン、もっとハッキリ言ったらどうなの? 

 あそこに近づいたら、処分するって」

 

 いや、彼女はあの事務的で無感情で機械的な対応しかしない、女神の化身ではない。

 この傍若無人で、歯に衣着せぬ物言いは、あの女神そのものだ。

 

 この世界の造物主、俺たちに文明の光を与えたもうた、女神メアリースだった。

 

「どうして、どいつもこいつも、この私がダメだって言うことをやろうとするのかしら。

 あの先に行ったところで、死ぬしかないのに。

 私が意地悪や保身の為に言ってると思ってるのかしらね。

 無知蒙昧な愚かモノどもは、あの先に行けば神を超えられると本気で思ってる。なんで私の親切心を無下にするのかしら」

 

 スッと、冷酷な瞳が魔王ローティを捉えた。

 

「あの子も余計なことをしてくれたわ。

 あなたはあそこに関心を持たないように創ったのに。

 これじゃあ意味が無いじゃない。もしかしてこれ(・・)、失敗作かもしれないわね」

「メリスッ!!」

「割り切りなさいよ、リネン。

 他のあなたの子供全員にとばっちりが行ってもおかしくない。あの性格(・・・・)なら」

 

 リェーサセッタ様が黙りこんだ。

 あの、込み入った話は俺が居ないところでやってくれます? 

 

「……わかった。背に腹は代えられない。

 ローティ、次にあの地の話をした時は、残念だけどそれ相応の対応をさせてもらう」

 

 母親のその冷徹な言葉に、他ならぬ魔王ローティは信じられないものを見たような表情だった。

 

「どうして、ママ。私、失敗作なの?」

「そうでないと思うのなら、自身でそれを証明なさい」

 

 闇の人型が、霧散するように消え去った。

 やれやれ、と女神メアリースは肩を竦めると、その人間らしい表情がスッと無表情に変わり、何事も無かったかのように戻って行った。

 

 次の瞬間、爆音と共に執務机が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 破片が吹き飛んで、俺の頬を掠って血が流れた。

 

「ローティ様、なんとおいたわしい」

 

 苛立って机一つを拳ひとつで爆散させた魔王の姿を見て、眼鏡を持ち上げてハンカチで目元を拭うハイティ。

 

 ……なあ、これ、俺がこの場に居た意味あるの? 

 

 

 

 §§§

 

 

 

 俺が掲示板の住人たちの助言を受けて、あのクソ過激派どもの掃討計画を同僚のハイティに提出した。

 色々と彼女に聞くうちに知ったことだが、四天王は女神様の保有する戦力を動員する権限があるらしい。

 

 つまり、作戦を実行するには俺一人の決定で十分らしかった。

 それだけの責任と権限が、四天王には存在するわけだ。

 

 要するに、実質俺だけで十分なのだったが。

 

「おい、お前。私もやるから」

 

 と、我が主たるクソガキ様の一言で彼女も作戦に参加することになった。

 正直、断りづらかった。

 メアリース様たちにあんな物言いをされたのだから、挽回したい気持ちは分かるのだ。

 

 それに戦力としてこれ以上の物は無い。

 とは言え、作戦は拠点の同時攻撃なので、頭数が必要なのだが。

 

「兵隊が必要なんでしょ。

 ママが飛び切りの連中を貸してくれるって」

 

 クソガキ様が、指を鳴らした。

 すると、空間が歪み、孔が穿たれた。

 別世界の空間へと繋がるゲートが、あっさりと開かれた。俺の世界の技術では、こんな簡単に異空間転移は逆立ちしても真似できない。

 

 ゲートの中から現れたのは、異形、異形、異形の軍集団。

 そいつらを見た瞬間、ローティ様は吐き気を堪えるような表情になった。

 

 現れたのは、ゴブリン、コボルト、リザードマン、トロール、オーガ、ミノタウロス、サイクロプス、獣人各種族、有翼種、エルフ族、鬼人、ケンタウロス、ドワーフ、ラミア、サキュバス、吸血鬼。

 

 総勢108名の、魔の軍勢だった。

 

 女神の保護を受け入れ、異種族の移住が始まったこの地球でも、これほどまでの多種多様の人種はまずお目に掛かれないだろう。

 

「お初に御目に掛か──」

「気持ち悪い。死ね」

 

 代表らしき犬獣人の男が跪き、ローティ様に挨拶しようとした瞬間だった。

 なんと彼女は、彼らを一瞬のうちに皆殺しにしてしまった。

 

「な、なにをやってるんですか!! 

 こいつら、女神様の戦力なんじゃないんですか!?」

「お前には分からないと思うけど、こいつら、全員魂が腐ってる。

 ヘドロみたいな汚物どもだよ、こいつらは」

 

 あのローティ様が、心底侮蔑するような視線を連中の死骸に向けた。

 

「へへッ、その通りでぇ」

 

 すると、信じがたいことに、たった今殺されたはずの魔の軍勢が起き上がり、何事も無かったかのように笑みを浮かべた。

 

「我らリーパー隊。邪悪の女神様があらゆる世界から、更生の余地なし、地獄行きの意味無しと判断された、クズの中のクズが集められた懲罰部隊。

 女神様の赦しなければ、死ぬことさえ許されない統率されたケダモノの群でさぁ」

 

 隊長らしき、軍服を纏った犬獣人が裂けたように笑う。

 それに釣られて、背後の魔軍が不気味な笑い声を奏で始めた。

 

「見せしめに殺すのに、我ら以上の適任は居ない」

 

 俺はこの時点で察した。

 こいつらに敵対することが、どれだけ惨たらしく悪夢のようなことなのかと。

 

「あー。任せるわ」

 

 これが、女神のとびきりの戦力かぁ。

 

「聞いたか、お前ら!! 

 俺たちに任せてくださるとよ!! 

 今日は俺たちのイカレた晩餐会だ!! 

 たらふく食って、好きなように殺せ!!」

 

 狂気の指揮官が、殺人鬼の群を狂奔に駆り立てる。

 

「俺たちの前に立つ者に、自分たちの信じる神は居ないと証明させてやろう!! 

 俺たちが、如何に救いがないか、その身を以て教えてやろう!! 

 この俺たちが、最悪とは何か、示してやるのだ!!」

 

 彼はひとしきり部下たちに激励した後、俺の肩を馴れ馴れしく叩いた。

 

「まあ、あとは任せてくれや。運び屋」

 

 俺はその時、この連中のインパクトが強過ぎてその言葉が頭に入らなかった。

 その後、彼らは魔王様に敵ごと吹き飛ばされ、死ぬことも出来ずに復活して仕事を終えて帰って行った。

 

 もう二度と来ないで欲しかった。

 

 

 

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 さて、事態はこれで終わらなかった。

 

「都市機能の四割が停止ですって? 

 魔王ローティ、あなた真面目にやってるの?」

 

 女神の端末に、ご本人が再び降臨なされたのである。

 俺はただただ掲示板の皆に助けを求める他できなかった。

 

「私、ちゃんと仕事しただけだけど?」

「ローティ様!!」

 

 不貞腐れてそっぽを向くローティ様。

 その対応に、同僚のハイティも悲鳴じみた声を挙げた。

 

 いや、現場に居た俺は分かっていた。

 ローティ様があんなことをしたのかを。

 

 リーパー隊は、邪悪の女神がとびきりと言うだけあって、仕事は速く正確で強かった。

 あいつら、信じられないことに軍隊としての強さは中世レベルなのに、五百年以上技術が進んでる連中相手に軽く勝ってしまったのである。

 

 しかし、である。

 こいつらは、仕事が早い分、終わった後のお遊び(・・・・)が過ぎた。

 

 殺せる敵をわざわざ生かして、戦闘終了後に弄んだ。

 女は玩具にして、男は無残に殺した。

 子供が居たら親の前で何度も何度も嬲って嘲笑った。

 逃げる老人を弓の的当てにしてたりもした。

 妊婦を……口に出すにもおぞましい扱いをして殺した。

 

 俺が生身なら、その場で胃の中をひっくり返していただろう。

 ローティ様はクソガキだが、クソガキ並みの倫理観は存在したようだった。

 あんな、ヘドロのように醜悪な連中を、疎ましがっても仕方あるまい。

 故にまとめてぶち殺した。あいつらは死ねないと分かってるのに。

 誰だって、汚物に触れたいとは思うまい。

 

 まさか彼女の母神も、心配して強力な手駒を貸し与えたつもりで、逆効果になるとは思っても居まい。

 

「これは統治の任務よ。バカみたいに壊せば良いわけじゃない。

 あなたの功績に免じて目をつぶって来たけど、反省もしないならこちらにも考えがある」

 

 俺は何度も、これには訳が有るんです、と言おうとした。

 だけど、俺の脳裏には、知能を奪われおサルさんとしか言いようのない惨めな存在にされてしまった連中が過っていた。

 ここで口答えしたら、俺にまで責任が飛び火すると思って、恐怖で何も言えなかったのだ。

 

「この世界は私の資産。所有物。だって私が創ったから。

 お前はそれを無意味に壊した。これで何度目かしら?」

 

 メアリース様のお叱りは続く。

 リアルタイムのことなので、簡単に掲示板の住人達に状況を思考入力で説明する。

 

「他の人間型タイプの魔王ユニットは安定してるのに、どうしてあなただけこんなにも不安定なの?」

「あんたが言ったんじゃん。私のこと失敗作だって!!」

 

 俺はギョッとした。

 いやいやいや、ここで口答えはマズいって!! 

 

「私はあんたにこんな風に創ってくれって頼んだわけじゃないんだけど!!」

 

 そこには、彼女なりの苦悩があり、怒りがあった。

 だが、それはこの場では何の意味もなさなかった。

 

「そう。じゃああなたは要らないのね。私があなたに与えた全てが」

 

 この世の全ては、女神メアリース様の所有物。

 俺たちの命さえ、彼女に貸し与えられた物に過ぎない。

 それは、魔王さえも例外ではないと言うのか。

 

「お許しを! それだけは何卒!!」

「もう聞く耳を持たない。少し反省しなさい」

 

 ハイティが縋りつくように訴えるが、女神はもう処分を決定していた。

 

 女神の右手が、サイコキネシスで物を掴むようにローティ様の頭を鷲掴みにした。

 直後、絶叫がその細い喉から絞り出される。

 

 俺は知っている。彼女がこの世界に来た時に何度も見た、人間が知能を奪い取られる絶叫だった。

 それを行っていたローティ様が、その対象になるとは、なんという皮肉だろうか。

 

「別にあなたの代わりはいくらでもいるもの。それが人間社会よ、これでひとつの学んだわね。出来損ない」

 

 冷酷にそう吐き捨てる女神様の言葉に、見てられなくて掲示板の間隔共有モードを切った。

 

「そんな、そんな……」

 

 愕然とした同僚が、膝を突いた。

 

「でもこれで良かったわね。

 これでもう、余計なことを考えずに済む。

 二度と、あの禁忌の地に疑問を抱いたり、あなたの兄弟の死に苦しむこともなくなる。

 これは、これ以上ない温情なのだから」

 

 女神様の端末は、それきり無表情に戻って下の仕事場に戻ってしまった。

 

「……ハイティさん、これから一体どうするんだ? 

 今は厳しいが、今後の事を考えないといけない」

 

 彼女は泣いていた。

 それでも、ローティ様はもうローティ様ではなくなってしまわれたのだ。

 

「あう、あうあー」

 

 彼女は、まるで赤ん坊のように指を舐めて虚空を眺めていた。

 

「……誰かが、ローティ様をお世話せねばなりません。

 しかし、私は彼女の政務の代行をしなけれならないでしょう」

「って、まさか、嘘だろ!?」

「どうか、伏してお願いいたします。

 ローティ様がこの状態だと知るのは、可能な限り少ない方が良い」

 

 俺は内心、その言葉で目を逸らした。

 もう掲示板に実況してしまっているからだった。

 

「それとも、レジーさんが政務を代行しますか?」

 

 それが、決め手となった。

 俺は赤ちゃん同然の知能になったローティ様を見やった。

 

 彼女がこうなったのは、巡り巡った命運とはいえ、俺にも責任がある。

 俺はそうして、彼女の世話を請け負うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはッ」

 

 遥か次元の彼方、大いなる二柱の庇護下にある者たちが、“聖地”と称する最果て。

 そこで、ようやく一つの戦いに決着が付こうとしていた。

 

「君は実に頑張ったよ。

 この私が第二形態まで引き出されたのは、何千年ぶりだろうか」

 

 十メートルもの巨体が、収縮し、しぼんでいく。

 およそ三メートルの身長の龍人に戻ったのは、“マスターロード”の称号を持つ魔王だった。

 

 人類の限界にまで達した叡智を詰め込んだ武装を手にしても、博士は魔王の頂点には届かなかった。

 

「君の背後にあるのは、何かわかるかな?」

 

 この何もない“聖地”に、唯一の壁と言える“門”に彼女は叩きつけられた。

 その先には、神々が頑なに禁忌とした地へと続いている。

 

「はぁ、はぁ、らしくないミスをしたな“マスターロード”!! 

 御二柱が禁忌としたこの先に、他ならぬあなたは追ってはこれまい!!」

 

 博士はずっと、戦いながらこの“門”に近づこうとしていた。

 距離の感覚すらおかしくなりそうなこの障壁は、距離の概念が曖昧だった。

 永遠の時間が掛かったような気もするし、いつの間にかそこにあったような気もする。

 

「……本来なら、ここは我が母や主上にも匹敵する女神が門番として、この奥を守っている。

 だが彼女とは顔見知りでね。同じ仕事を任された身として。

 だから、彼女は君を通すだろう。遠慮することはない。

 どうしても、というなら行きなさい」

 

 “マスターロード”は穏やかに微笑んで、そう言った。

 

「……なぜ、土壇場になって神々の命令を覆す?」

「それが、君に相応しい最期だから、と思ったからだよ。

 私は精一杯、君を止めた。そのポーズはこれくらいでいいだろう」

 

 訝しむ博士に、彼は肩を竦めた。

 

「──これは処刑だ。

 君は君の愚かさを自覚しながら、後悔しながら死ぬだろう。

 それで良ければ、行ってみればいい」

「そんな脅しには屈しない。

 私を見逃したこと、後悔するぞ!!」

 

 “門”が、開く。

 あれほどまで巨大なのに、まるで軽石のようにあっさりと開いていく。

 博士は、負傷をおして這うようにその奥へと進んで行った。

 

 “マスターロード”は、その奥を見ないように顔を逸らして、“門”が閉じるのを待った。

 

 そして、程なくして彼女の絶望の嘆きと発狂の叫び声が聞こえて来た。

 彼女は対面したのだ、究極の叡智に。その絶望的な真実に。

 

「やれやれ、弟をあれほど慕ってくれた君の苦しむ声は聴きたくなかったんだけどねぇ」

 

 そして、ああ、と彼は顔を上げ呟いた。

 

「彼女を通した罰ですか? 

 謹んでお受けいたします」

 

 直後、“マスターロード”の肉体が爆散した。

 

 

 

 

 

 




今度こそ、運び屋の視点でした。
でも、一万文字ほど書いても、最新話の掲示板スレに追いつかないこの有様よ。
書きたいことが有り過ぎるんです!!

運び屋と勇者ちゃんの邂逅はまた別として、次はスレを進めたいと予定しています。
それでは、また次回!!

小説パートと掲示板パート、分けた方が良いですか?

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