悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ   作:黒月天星

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 どうも。ちょこちょこ話を書いている黒月天星と申します。

 こちらは以前書いたほぼ同名短編の連載版です。一話目はそちらと同じなので、既読の方はそう言えばこんなのがあったと思い出して頂ければ。


第一部
雑用係と幹部候補生


 悪の組織。そう聞いて何を思い浮かべる?

 

 メジャーな所で言ったら人間を改造して世界征服を狙う集団とか、邪神的な何かを呼び出して世界をぶっ壊そうとする集団とかそんな所だろう。まあ俺の所属する所はどっちかと言うと前者だな。

 

「……はぁ……はぁ。手こずらせやがって」

 

 俺はケン・タチバナ。しがない悪の組織の一員だ。

 

 今日も今日とて俺は厄介な敵と戦っていた。ようやく袋小路に追い込んだが、奴め俺の動きを見て隙を探していやがる。

 

 いつもならあと一歩の所で逃げられるのだが、

 

「だが、お前との戦いも今日これまでだ。俺には秘密兵器があるからな」

 

 兵器課の奴に無理言って作ってもらった物を懐から取り出すと、そいつもいよいよ慌てだした。なりふり構わず俺の方に突撃して活路を開こうとするが、逃がしはしない。

 

「これで終わりだ。くたばりやがれぇっ!」

 

 

 

 俺は必殺の超強力殺虫剤を黒光りするGに浴びせかけた。

 

 

 

 悪の組織と言っても所属する全員が戦闘員って訳じゃない。武器弾薬を造ったり調達する奴も居れば、アジトの整備をする技術者やメシを作る奴だっている。

 

 これはそんな組織の中で働く()()()、まあ俺の話だ。

 

 

 

 

「……ハ、ハハハハ! 圧倒的じゃないかこのスプレーは!」

 

 俺は一吹きで動かなくなったGを見て高笑いを挙げる。流石は兵器課特製殺虫剤。そこらの店で売ってる奴とは威力がダンチよ。

 

 こいつら悪の組織にいるGだけあって、従来のGとは比較にならん生命力を持っているからな。並の殺虫剤では動きを止める事も難しい。バ〇サン焚いた中で平然としていた時はどうしようかと思ったが、これでまた戦える。

 

 動かなくなったGを素早く紙に包んで封印。近くにもう居ないことを確認し、次の仕事に向かうべく振り返ると、

 

「クスクス。相変わらず地味~な事やってるねオジサン」

「げっ!? お前かよクソガキ」

 

 そこに居たのは薄い水色の髪をツインテールにして壁に寄りかかる生意気なクソガキ……失礼。美少女だ。

 

 こいつの名はネル。小学生のガキのような見た目だが、これでも本部の幹部候補生。つまり将来有望なエリート様だ。ネルは愛用の棒付きキャンディーをペロペロ舐めながらこちらを見て笑っている。

 

 このクソガキ。何故かは知らんがちょこちょここちらに絡んでくるから困る。

 

「さっすが邪因子適性最低ランク。こ~んな仕事しかできないなんてカワイソカワイソ」

「へいへい。地味な上に最低ランクで悪ぅございましたね」

 

 組織のメンバーは皆、邪因子という細胞を身体に持っている。これは組織に入ってから投与される奴も居れば、身体に入ったから組織に入る奴も居るな。

 

 邪因子は首領の細胞をベースに造られたものらしく、宿主の肉体を急激に強化する。強化倍率は……そうだな。一般人が本気のパンチでコンクリの壁を砕けるくらいにはなるか。手が痛くなるが。

 

 ちなみにこれは平均ランクの話。邪因子の量や活性率、素体によってはもっと跳ね上がる。一定以上になると怪人化なんてものが出来るようになる奴も居るな。

 

 ただそう旨い話はなく、量が多ければ多い程、活性化すればするほど首領に逆らえなくなる。以前上級幹部に話を聞く機会があったが、首領を見たり声を聴くだけで幸せな気持ちになって逆らう気が無くなるとか。洗脳かな?

 

 簡単に言えば邪因子とは()()()()()()()()()()()

 

 そして組織はごく一部の例外を除いて完全な実力主義。邪因子の適性次第では、こんな性格最悪のクソガキだろうが幹部候補生だ。

 

「ぷぷっ! だ・け・ど、このいずれ幹部になるネル様は優しいから、そんなダメダメなオジサンにも手を差し伸べてあげるのでした! 土下座して頭を下げるなら、幹部になった暁にはあたし専用の下僕に取り立ててあげるよ!」

 

 実にクソガキらしい舐めた言い分だ。ここは一度大人としてそういった所を正してやるべきか。……だが、

 

「遠慮しとく。ほらどいたどいた!」

「……ちょっ!?」

 

 俺はクソガキの誘いを華麗にスルーし次の仕事に向かう。()()()()()()()()()()。さて次は部屋の掃除っと。サクサクやっちまわないとな。

 

「ちょっと待ってよ!? あたし専用だよ嬉しいでしょ? ……嬉しくないの?」

「お前さんみたいなクソガキの下についたら胃に穴が空きかねんだろ。ただでさえ仕事が山積みなんだから邪魔すんな」

 

 憤慨して追っかけてくるクソガキに、俺はシッシと手を振ってやる。

 

 以前掃除中に視察とかでやって来て、嗤いながらわざと水の入ったバケツをひっくり返しやがった事は忘れんからな。あと舐め終わったキャンディーの棒をよくそこらにポイ捨てしている事も。

 

 ……そう言えばそれらを注意してからだったか? こうして絡んでくるようになったのは。逆恨みとは実に情けない。いずれそこらへんも含めて分からせてやるべきかもしれん。暇になったら。

 

「あたし幹部候補生なのよっ! 雑用係のオジサンなんかよりず~っと偉いんだから! 力だってあたしが本気出したらオジサンもイチコロだよ!」

「偉かろうが強かろうが何だろうが、俺にとっちゃお前はただのクソガキだよ。悔しかったら実力よりも性格直してから出直しな」

「ムキ~っ!」

 

 なんか後ろで地団駄踏んでるが気にしない。こっちは忙しいんだ。自慢するのはよそでやってな。

 

 

 

 

 雑用係の仕事は多岐に渡る。

 

「助かったぜケン! やっぱ月に一度はお前に頼まないとすぐにごちゃってなっちまう」

「トム。お前普段からずぼらなんだよ。もっと普段からマメに掃除しろ! この戦闘服なんか最後に洗ったのいつだ? カビ生えてんぞっ! 同室のアランが気の毒だろうが」

 

 ある時は同僚の部屋の掃除の手伝い。

 

「ありがとうよケン。お礼に明日のメニューはケンの分は特盛にしといてあげるよ」

「ちょっと晩飯の仕込みを手伝っただけで大げさだなオバチャン。だがありがとよ。じゃあ明日は楽しみにしてる」

 

 ある時は厨房の仕込みの手伝い。

 

「すみませんケンさん。本来なら整備班の仕事なんですが」

「丁度同じタイミングで本部からの機材導入があっちゃ仕方ないさ。千切れた配線の修理くらいなら俺でも出来るからな。それより見づらいからもう少しライトの光を当ててくれ」

 

 またある時は壊れた電灯の修理等だ。

 

 邪因子の適性が無い俺だが、こういうこまごまとした仕事なら得意技だ。さて、次はっと……。

 

 

「へぇ~。雑用係って意外と忙しいんだねぇ。あたしはてっきりやる事ない人がぼ~っと窓際の席に座って日がな一日過ごすだけの係かと思ってたよ」

 

 

 また来たよこのクソガキ。今度は壁の手すりに器用に足を組んで座っている。ただ、

 

「そりゃあ一つ賢くなって良かったな。それと……パンツ見えてんぞ」

 

 一応防刃防弾耐火耐水その他諸々付いてはいるらしいが、それでも悪の組織なのに下はスカートって舐めてんのかっ! 見た目がアレなんで一応老婆心から忠告してやる。だというのに、

 

「え~っ!? オジサ~ン。いくらあたしが可愛いからってこ~んな小さい子のパンツに興味あるの? ふふんっ! このロリコンヘンタイオジサン!」

 

 ネルはわざとらしくスカートを押さえ、そのまま見せつけるように足を組み替えてみせる。

 

 おのれこのクソガキ。完全に舐めとるな。だがこういう手合いの対処法ぐらい知っているのが大人というものよ。即ち、

 

「はいはい。ロリコンでヘンタイでも良いから、さっさと手すりから降りてスカート直して回れ右しな」

 

 ()()()()()()()()()()()。適当に受け流す事だ。

 

 はっはっは。奴め。この対応は気に入らなかったのか頬を膨らませているな。

 

「というか毎度毎度。よく俺の所まで来る暇があるな。本部からここまで割と手間だし、幹部候補生なら訓練なりなんなりあるだろうに」

「……あたしくらい優秀な幹部候補生になると、訓練なんてすぐに終わっちゃうんだよ」

 

 俺が呆れながらそう言うと、一瞬の間の後ネルはそう言ってクスクス笑う。

 

 将来の幹部に必要な事。個人の邪因子適性は当然として、部下を率いる統率力や作戦立案力、その他諸々の事を本部で訓練するのが幹部候補生だ。

 

 一般の戦闘員から徐々に実力をつけて幹部候補生になるのが普通だが、稀にそういう段階をすっ飛ばして()()()()幹部候補生になる才能の塊みたいな奴が居る。目の前のクソガキはまさにそれだ。

 

「訓練が終わったんなら明日の分の準備でもしてな。それか……」

 

 “仲の良い友達とでも遊べ”と言おうとして、組織にこいつと同年代の奴はそう居ない事に思い当たる。ちょっとデリケートな話題になるかもしれん。

 

「それか?」

「あ~……じゃあさっさと帰んな。自主練とか色々あるだろ?」

「……分かったよ」

 

 どこかつまらなさそうにクソガキは渋々頷き、腰のホルダーから棒付きキャンディーを取り出してそのまま去っていく。

 

 ……なんか悪い事をした気がするな。なので、

 

「おい! やる事全部やってどうしても暇になったら……また来ても良いぞ。俺の仕事を手伝わせてやるから」

 

 それは本当に何となく出た言葉。ついでに大人として子供に色々世間の厳しさを分からせてやろうと思っての言葉。

 

 そして奴は振り返ると、

 

 

 

 

「ヤ~ダよ! そんな雑用なんて幹部候補生のあたしのやる事じゃないもの」

 

 キャンディーを口に咥えながら、そう笑って言ったのだ。

 

 やっぱ腹立つあのクソガキ!

 




 如何だったでしょうか? 次話は今日中にあげる予定です。もう少々お待ちを。

 面白いと思っていただけたのならお気に入り、評価、感想などを頂戴したく思います。次回への活力及びランキングに繋がりますので。

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