悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ   作:黒月天星

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 注意! 途中視点変更があります。


ネル 第一関門を突破する

 

「……ホントに良いのねピーター?」

「はい。一思いに……やってください!」

 

 あたしに掴まれたピーターが、カタカタ震えながらも腹を括った表情で頷く。

 

『それにしても、リーダーさんも思い切ったことを考えますわね。まさか風とボールが()()()()()()()瞬間を狙って、自分を我がライバルに投げ飛ばさせるなんて』

「出来れば僕も普通に登りたいんですけど、この調子で足を引っ張り続けたら皆さんの消耗が激しい。なら、ここはネルさんの腕を信じます!」

 

 流石のあたしも暴風とボールの中でピーターを上手く投げ上げられるかはちょっぴり不安。だけど、地上からボールの動きをガーベラが知らせ、ここからピーターが風の流れの規則性を読むなら多分行ける、

 

 顔だけ外に出し、今いる地点から崖上までの距離をざっくり計算。腕に力を込めて待つことしばらく。

 

 

『今ですわっ!』

「今ですっ!」

「せ~の……とりゃああっ!」

 

 

 あたしはピーターを全力で投げ上げた。

 

 

 

「うわああああっ!?」

 

 悲鳴を上げつつピーターは風の隙間をぬってぐんぐんと上昇。

 

「あああっ……っととっ!?」

 

 ほんのちょっぴり高さがズレて崖っぷちギリギリに着地し、必死でバランスを取りながらも上手く転がり込んだ。

 

 よし。次はあたしね!

 

 あたしも後に続いて外に飛び出し、再び吹き荒れる風とボールをものともせずにガンガン登っていく。ピーターさえ気にしていなければ、このくらいの崖も風もボールも余裕余裕!

 

『相変わらずの体力バカですわね』

 

 ガーベラの通信が聞こえてくるけどそれは登ってこない奴の遠吠え。あたしは意にも介さずにそのまま崖上まで辿り着く。そこには地上にあったような詰所があって、係員と一緒にピーターがそこで待っていた。

 

 それっぽい機械を係員が手渡そうとしているけど、ピーターは何故か断っている。

 

「何よ。まだ翳してなかったの?」

「あっ!? ネルさん! だってこういうのはネルさんを待ってやった方が良いじゃないですか!」

 

 へぇ~。そうなの。あたしが来るのを待っててくれたんだ。……ふ~ん。中々殊勝じゃない。

 

「もう良いですか? ではチームリーダーの方はこちらをタメールに」

 

 係員から手渡された機械を、ピーターはゆっくりとタメールに翳す。すると画面に“認証完了”の文字が浮き出てきた。

 

「はい。これにて完了です。扉のヒントは下の係員から貰ってください。お帰りはあちらです」

 

 そう言って係員が指さしたのは、どうやら下の坂道へ続く道のようだった。そりゃああるわよね。だけど、

 

「分かりました。じゃあネルさん。邪因子の消耗を抑えつつ急いで……ってアレっ!? 何でまたボクは掴まれているんでしょうか?」

「何でって消耗を抑えるんでしょ? ならそこの坂道を行くなんてまどろっこしい事せずに、もっと()()()()を行けば良いじゃない! 聞こえてたわねガーベラ。着地よろしく!」

『アナタ人をマットか何かと思っていませんことっ!? ……まあ良いですわ。いつでもどうぞ』

「オッケ~! そんじゃ行くよピーターっ!」

 

 あたしは硬直するピーターを抱きかかえると、そのまま崖から身を躍らせる。落ちながらちらりとボールを射出するっぽい機械を見たけど、自分から落ちていく者には反応しないようだった。

 

「うぎゃああああっ!?」

「ピーターうっさい!」

 

 汚い悲鳴を上げるピーターと共にあたしは自由落下していく。途中崖を登る他のチームの奴がこっちを見て驚いた顔をしていたけど、それすらもすぐ過ぎ去っていく。

 

 どんどん近づく地上。このまま地面に叩きつけられればあたしでもそれなりにダメージを受けるし、ピーターはぺちゃんこになる。一応地面には落下の際の仕込みがしてあるらしいけど未確認。……でも大丈夫。

 

 ぽふんっ!

 

「オ~ッホッホッホっ! 我ながらナイスキャッチですわ~!」

「た、助かった」

 

 ガーベラが自慢の髪で優しくあたし達を受け止め、ドヤ顔しながらいつものように高笑いを上げる。

 

 普段なら黙らせる所だけど、今のあたしはそれなりに機嫌が良いから許してあげる。

 

「それで? 首尾の方はいかがかしら? お二人とも」

「ふふん! あたしが失敗なんかするわけないじゃない。余裕だよ!」

 

 ピーターは疲れたのか、明らかにこわばりながらもグッと親指を立てて見せる。だらしないなぁ。……まあちょっとは頑張ったんじゃない? それでこそ下僕二号だね!

 

「じゃあ、係員に貰うとしましょうか! 正解の扉のヒントって奴をねっ!」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 管理センターにて。

 

 参加者達を送り出した後も、マーサを始めとした職員達は忙しい。島のあちこちから送られる映像や、タメールに付いている装着者の体調管理機能の確認。脱落者の対応など試験全体の進行を滞りなく進めるべく働いている。そんな中、

 

「ふぅ~。早速山岳エリアのチェックポイントにクリアチームが出たって?」

「はいは~い。こちらですよ」

 

 マーサは手伝いに来ていたミツバからパソコンのデータを見せられる。

 

「速いね。予想していたタイムより20分は早い。おまけに一番最初に挑む人数が少ないと踏んでいた山岳エリアで。一体誰が…………成程ね」

 

 画面に並ぶ名前に、マーサはどこかあのチームならあり得るという気がした。

 

 チームの()()()()3人のみだが、3人共が個人面談において自分の興味を引いたくせ者揃い。

 

 純粋なチームの質だけで言えば、全体で見ても上位に食い込むレベルだろう。だが、

 

「草原エリアでもクリアチーム出ました! 例のチームですね」

「おっと。一歩遅かったね。だが……ふぅ~。()()()()()このタイムとは恐れ入ったよ」

 

 今回のチーム戦。最低人数が3人なだけで、実は()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 実際チーム戦だと知っている参加者は、平均して4、5名でチームを組むことが多い。とは言うものの、互いの利害関係や性格などからそれ以上の人数になることは少ない。それに数が多いほど移動も困難になる。

 

 だがそんな中、1人のある幹部候補生を中心とする()()()もの大所帯のチームが存在した。

 

 これは今回の試験参加者237名中の実に8分の1。我の強い幹部候補生達をまとめ上げたその手腕に、試験の運営側も一目置いていた。

 

「この調子だと……次に向かうのは森林エリアですかねぇ。そして」

「あの子達の向かうのも距離的に多分森林エリア。場合によっては……かち合うかもね」

 

 この試験。無理に参加者同士で戦う必要はないが、幹部になるのに邪魔になりそうな参加者を潰すというぐらいなら日常茶飯事だ。

 

「さ~て。どうするねクソガキちゃん達。戦うか、避けて通るか、共闘か。判断力が試される所さね。……ふぅ~」

 




 無事一つ目のチェックポイントクリアでした。ちなみに落下する際ピーターはお姫様抱っこされていたりします。腕力的に仕方ないね。
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