悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ   作:黒月天星

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 さてさて。前回突如南国っぽい所に跳ばされたネル達でしたが、果たしてどうなることやら。


ネル 南国にて変なお姉さんに出会う 第三部中編(終)

 

 扉を開けた先は南国だった。

 

 なんか……拍子抜け。もっとこう殺伐とした雰囲気を予想していたんだけど。

 

 ざっと見た限り急に襲い掛かってきそうな奴も居ないし……えいっ!

 

 試しにちょこちょこ砂浜を歩いていたカニを指でつつくと、カニは慌てて逃げてった。流石にあんなのが倒すべき相手じゃないよね?

 

「お~いっ! ネルさ~んっ!」

「探しましたわよ我がライバルっ!」

 

 そこにピーターとガーベラが走ってきた。どうやら二人して迷子だったみたい。はぐれないでよね。

 

「しかし不思議な所ですね。試験の場にしては何と言うか」

「ええ。やけに穏やかですわね。リゾート地と言われた方がしっくりきますわ。本当にここがあの黒い扉の中なんですの?」

「その筈……なんですけど」

 

 聞かれたピーターも何となく自信がなさそう。そりゃそうだよね。

 

「ところでさ。ここで戦うって相手は結局どこにいるの?」

「そういえば見当たりませんわね。もしかしてそれを探すのも試験の一環という事かしら?」

 

 探すったって……あたしは周囲をざっと見渡す。

 

 ここにあるのは砂浜と、海と、反対側にはジャングルっぽい森。どう見ても元の森とは植生が違うし、湿度高めでムシムシしてそうで入りたくない。

 

 試しにタメールの地図機能を広げてみるも、現在位置がぼやけててまともに表示されない。

 

「……そうだ! こんな時こそピーターの出番だね!」

「それが、この辺り邪因子がそこら中に漂っていて、はっきりこれだっていうのが分からないんです」

 

 えっ!? そうなの?

 

 そういえばさっきから身体の調子が良い。タメールを起動する時も、()()()()()()()()()()()()自分の邪因子をほとんど使ってないし。

 

「妙な感じですわね。私はあまり感知能力は高い方ではないのですが、それでもこう……何かに包まれているというか、穏やかな気分になるというか」

 

 そうなんだよね。ガーベラの言うように、なんかこう落ち着くというか。日差しも暖かいし断続的に聞こえる波の音も悪くない。

 

 このままここでもう二、三十分くらいのんびり……はっ!? あたし今何考えてっ!?

 

「分かった! これが()()()()()()()なんだよっ!? つい気持ちよ~くなって無駄に時間を使わせてさ。気が付いたら時間切れって奴!」

「なるほど。それも一理ありますわね」

 

 ガーベラもそれを聞いて慌てて自分の頬をパチパチとはたく。

 

 こんな搦め手で来るなんて中々やるじゃない。流石チャレンジ要素。……ってピーターっ!? 寝るんじゃないわよっ!

 

「へぶっ!? ……むにゃっ!?」

「気が付いた? これ以上ここでのんびりしてたらまた眠くなるよっ! さっさとここに居る奴をぶっ飛ばして戻らなきゃ! 行くよっ!」

 

 寝ぼけてるピーターを軽く張り倒し、あたし達はひとまず砂浜沿いを探ってみる事にした。そして、

 

 

 

 

「ねぇ。多分アイツ……だよね?」

「おそらく。でもどうしましょうねネルさん」

 

 

 ()()()()

 

 

 青い上下の水着にパレオを巻き、明るい茶髪を肩まで垂らした女が。ただそいつはビーチチェアーに身を預けてスヤスヤと眠っている。

 

「あれを倒せって……寝てるじゃんっ!?」

「思いっきり隙だらけですわね。どうしますの我がライバル? 今の内にこっそりと一撃入れます?」

 

 ガーベラは試すようにこちらに問いかける。

 

 実際あの女がここに関わっていることは間違いない。寝てる今なら簡単に倒せるだろう。効率を求めるならその方が良いし、以前のあたしなら多分そうしてた。……でも、

 

「馬鹿にしないでよ。寝てる相手をこっそり仕留めたって何の自慢にもならないし、そんな課題をこなして幹部になってもオジサンに呆れられるだけだよ」

 

 多分オジサンなら「おいクソガキ。それは悪としては間違っちゃいないが、いくら何でも小物過ぎねぇか? そんなんじゃ名前で呼ぶのはやや恥ずかしいぞ。約束だから言うけどな」とか言いかねない。あたしの凄さを分からせるのにも支障が出る。

 

 それにお父様にだって、胸を張って幹部になりましたと報告しづらい。寝ている所を狙うのは無しだ。

 

「だから一度起こしてシャキッとさせてから、正面切ってぶっ飛ばすわ。……文句ある?」

「いいえ。それでこそ我がライバルですわ。もしここで寝ている所を襲おうなどと仰るのなら、少々失望していましたもの」

 

 ガーベラは軽く微笑みながらそう返した。やっぱし試してたか。まあ良いけどね。

 

「という訳でピーター。アンタちょっと起こしてきてよ」

「えぇ~っ!? 何でボクっ!? これは明らかにネルさんが起こしに行く流れではっ!?」

「アンタ仮にもリーダーでしょ? 出会って即バトルならまだしもルールとかを決めなきゃいけないし、そういう細かい交渉はリーダーの役目よ」

「そんなぁ……分かりましたよ。行けば良いんでしょ行けばっ!? 危なくなったらすぐ割って入ってくださいよっ!?」

 

 どこかヤケクソ気味に情けない事を言いながら、ピーターはゆっくり寝ている女の下に歩いていく。

 

 実際起きた瞬間ピーターに襲い掛かる可能性もあるし、あたしとガーベラは少し後からいつでも動けるよう静かに邪因子を高めて見守る。そんな中、

 

「……すぅ……フフッ! もう……ダ~メ! アシュちゃんたら……そこ弱いんだから……すぅ」

「一体どんな夢を見てるんだこの人? ……コホン。え~っと、もしもし? 起きてくださいよ」

 

 気持ち良さそうに寝言をぶつくさ言っている女を、ピーターは軽く肩を掴んで揺らす。すると、

 

「……むにゃ? ん~っ。何? もう朝? もう少し寝かせ……あらっ!?」

 

 女は目を擦りながら起き上がり、何かに気づいたかと思うとピーターの方をじっと見る。

 

 そして一瞬妙な沈黙が漂ったかと思うと、

 

 

 ガバッ!

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うわっ!? えっ!? 何っ!? むぐぐっ……気持ち良いけど苦しいっ!?」

「か~わいぃ~っ! な~に? アタシモーニングコールでも頼んでいたかしらん? それともまだこれは都合の良い夢の中? ……まあどっちでも良いわ! 目覚めにアタシ好みの子が出迎えてくれるなんてサービス良いわねぇ! ウフフっ!」

 

 女がとても上機嫌な様子で笑っている中、ピーターは胸に顔を押し付けられるような態勢になってジタバタしている。

 

 ……なんか知らないけどムカつく。人様の下僕にちょっかいを出すなんて良い度胸じゃん!

 

「ちょっとっ!? うちのピーターに何してんのよっ!」

 

 もうコイツが倒す相手であろうとなかろうと関係ない。急いで引きはがすべく前に踏み出す。

 

 狙うはこの女のにやけた顔面。一発平手打ちを食らわせて力業で引きはがしてやる。あたしは大きく腕を振りかぶり、

 

「おっと!? 危ないわよ?」

 

 女がピーターを抱きしめたまま軽く指を振った。そう認識した直後、

 

 ぶにょん。

 

 変な擬音のつきそうな感触。それが手に伝わったかと思うと、急に腕が重くなる。見ると、()()()()()()()()()()()()()()()()()、女に直撃する寸前であたしの平手打ちを受け止めていた。

 

「ネルっ! 掴まってっ!」

「……っ!?」

 

 あたしのもう片方の手にガーベラの伸ばす髪が巻き付き、その引っ張る勢いを利用して距離を取りつつ腕に着いた液体を振りほどく。

 

「あら? あららら? もうどこまで今日は良い日なの! これまたアタシ好みの子が二人も! ウフフフっ! 夢だとしたらもうしばらく醒めないでほしいわねん」

「ネル……あの方」

「分かってる。あの女……かなりヤバい」

 

 もう喜色満面って感じの笑みを浮かべる女。しかしさっきの一瞬、あたしの腕を受け止めていた液体は、あと数秒振りほどくのが遅かったら確実に腕を伝って身体まで伸びていた。

 

 全然本気じゃなかったとはいえ、あたしの平手打ちを受け止めるような奴が身体に絡みついてきたらちょっと危ない。

 

「ふがふが……息が……出来ない」

「ああ。ごめんなさいねぇ。苦しかった? なにせあまりにもしばらくぶりのお客様だからつい興奮しちゃって」

 

 そこでようやくピーターが呼吸困難になりかけている事に気づいたのか、女は申し訳なさそうな顔をして抱きしめている手を放す。

 

「ぜーはー。ぜーはー。し、死ぬかと思った」

「ピーターっ! 無事っ!?」

 

 あたしは慌ててピーターを引っ掴み、そのまま引きずるようにして女から距離を取る。

 

「いきなりよくもやってくれたねオバサンっ! アンタがここの課題の相手なのっ?」

「オバサンだなんて酷いっ!? これでも肉体年齢は二十台前半をキープしている筈なんだけどねん。まあ良いわ。折角のお客様だもの。まずは自己紹介から始めましょっ!」

 

 女はオーバーに傷ついたような態度を見せつつも、明るい大輪の花のような、それでいてどこか妖しげな笑みを浮かべて大きく一礼した。

 

 

 

 

「アタシの名はイザスタ。()()()()()()()()()。イザスタお姉さんと呼んでくれるともうスッゴク嬉しいわよん!」

 

 それが、この変なお姉さんことイザスタとの最初の出会いだった。




 スマヌ。スマヌ。最初のプロットでは第三部は前後編の予定でしたが、書いてる途中で予想よりあれやこれや追加要素が長引き、急遽ここでいったん区切って前中後編とさせていただきます。

 大体見物しているケン達とアンドリューと別の拙作から友情出演してきたイザスタが悪いのです。俺は悪くねぇっ!

 と茶番は置いておいて、ここから割と一気に物語は進行していきます。曇らせタグが出張ってくる展開が途中ありますので、心の準備をしておいてもらえれば。

 それと次の投稿はしばらく間が空く予定です。他の止まっている作品もぼちぼち書き始める予定ですので、気が向いたら読んでいただければ。




 それではここで恒例のおねだりを。

 この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。完結していないからと評価を保留されている読者様。

 お気に入り、評価、感想、あとここすきは作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!







 ここまでの内容で推薦とか貰うととっても喜びますよ!
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