悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ   作:黒月天星

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 注意! そろそろ曇らせタグが本気を出し始めます。


ネル その弾丸が貫いたのは

 

「……はぁ……はぁ」

(おかしいな。……こんな筈じゃ)

 

 あたしは息を荒げながら、片手で構えを取りつつ額から流れる汗を拭っていた。

 

 目の前には所々に倒れる暴走個体達と、残った割と手強い上澄みが三体。

 

 グルルと唸りをあげる白い毛皮の虎。バサバサと羽ばたきながら空中で様子を窺う赤い翼の大鳥。黒光りする甲羅を背負ってどっしりと構える亀。

 

 雑魚共は粗方片付けたけど、残ったこいつらが地味に鬱陶しい。それというのも、

 

 グルアアアアアっ!

 

 咆哮と共に、白い虎が左右にフェイントを織り込みながら飛び掛かってくるのを、あたしはその場で迎え撃とうとして、

 

 バサッ!

 

「ちぃっ!?」

 

 それに合わせて空から急降下してきた大鳥のかぎ爪を身を翻して躱す。ならば鳥から先に叩き落としてやろうと腕を振りかぶれば、

 

 ドンっ!

 

 見た目とは裏腹な俊敏さで、亀がタックルしつつ固い甲羅でインターセプト。そして動きが止まった隙をつき、虎がこちらを鋭い爪で引き裂こうとしてくる。

 

 そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『グゥッ…………カツ……ナントシテモ』

『ウオオオオン』

『キ……エロ』

 

 喋っている言葉は片言だし支離滅裂。それなのに最低限息を合わせるというか、互いの邪魔をしない程度にはなっていた。

 

 これは大分後で分かった事だけど、この三体は薬によって暴走した個体……()()()()()()

 

 武力で、知略で、或いは幸運で。何にせよ実力でここまで辿り着いた上で他の暴走個体と戦い、そのまま自身の邪因子の暴走によってこうなった個体。マーサが言う所の“極限状態で化けた”奴らだった。

 

 なんなら倒れている個体の内二、三体はあたしが来る前から倒されていたし、元々チームを組んでいた奴も居た。連携が出来ているのは体が覚えているからって事もあるのかもしれない。

 

 

 

 

 勿論それだけならこのあたしが苦戦する道理はない。手を組もうが何だろうが、力でねじ伏せるのがあたしだもの! ……ただ、

 

「こんのぉっ!?」

 

 何度かの虎の爪を打ち払い、鳥も亀も邪魔が途切れた僅かな一瞬を見計らい、あたしは拳を虎のどてっぱらに打ち込もうとして、

 

 ドクンっ!

 

(ダメ。()()()()()()()()()!?)

「くっ!?」

 

 くんっと当たる直前で力を抜き、虎にボディブローを決めるものの、力を抜き過ぎたのか大したダメージにはなっていない。

 

 そのまま反撃に振るわれる爪が僅かにあたしの腕の表面を裂き、軽い痛みと共にあたしはバックステップで距離を取る。

 

 ぽたぽたと地面に滴るのは、腕から流れる血かそれとも額からの汗か。……まあこの程度の怪我戦いながらでもすぐ治るから良いけど。

 

「……ほんっとやりづらいなぁ。調()()()()()()()

 

 これがあたしが苦戦している理由の二つ目。

 

 さっきから身体の調子が良過ぎて、上手く手加減が出来ないでいるのだ。

 

 心臓の高鳴りと共に、身体の奥底から次から次へと邪因子が湧き上がってくる感覚。戦いの中で強くなるなんて言葉があるけどそれすら生温い。

 

 一分一秒ごとに邪因子の質が、量が、勢いが跳ね上がっていく感覚。多分今のあたしは、十秒前のあたしより普通に強い。

 

 だけどそのせいで、丁度良く相手を無力化出来るぐらいの一撃を放とうとしたら、決まる直前で無力化どころか致命レベルの威力になりかけているから困る。今の一撃も、あのまま普通に殴りつけていたら虎の腹に風穴が空いていたと思う。

 

 相手が一体だけとか、さっきのワンチャンみたいにただ暴れているだけならどうにでもなるけど、下手にそこそこ手強くてタフで連携が取れているから面倒だ。

 

 ……あとついでに言えば、邪因子は間違いなく上がっているのにどうにも身体に違和感がある。なんだろう? カッカと燃えるような熱さが全身を巡っているのに、さっきからずっと()()()()()()()巡りが悪い。

 

 チェックポイントで暴走個体を鎮圧した時はそうでもなかったのに、この戦闘が始まってからずっとだ。……もしかして、

 

 

『……ネルちゃん。()()()()()()()()()()()()。それも外せただけでまだ不安定。多用は避けていざって時だけ使う事』

 

 

 あたしの脳裏にイザスタ……お姉さんの言葉が過ぎる。まだ不安定って言ってたのに、ちょっと使い過ぎたのかもしれない。

 

(この試験が終わって、お父様とオジサンに見せたらしばらく使うのは止めた方が良いかもね。……でも、この試験の間だけは)

 

 やっと一部とはいえ手に入ったこの力。それが嬉しくて、喜ばしくて、ついつい見せびらかすように使い過ぎてしまったのかもしれないと、あたしはちょっぴり反省する。

 

 そして、ぎゅっと黒く染まった拳を力強く握り締め、

 

 

「あ~もうヤメヤメ」

 

 

 あたしはニヤッと嗤い、ズンっと邪因子を纏わせた拳を大地に叩きつける。すると、地面に邪因子が波紋のように広がり、

 

「ごちゃごちゃ考えるよりも、こういうのはまとめて吹っ飛ばした方が早いよね! ちょっと当たり所によっては大怪我になるかもだけど、そうなったら運が悪かったと諦めてよ」

 

 突如として、あたしの周囲の地面が爆発した。正確に言えば、地面に邪因子を流し込んで周囲に噴出させたのだ。

 

 質量のある邪因子はビシビシと音を立てて地面を割り、空を飛んでいた大鳥以外の二体に襲い掛かる。

 

『ガアアアッ!?』

『ウギッ!?』

 

 邪因子は虎と亀の足の一部を抉り取り、その場に縫い留めるようにそのまま絡みつく。

 

 イザスタ……お姉さんを相手取ったガーベラが、髪を地中から伝わらせたのを参考にしてみたけど、これは案外上手く行ったみたい。

 

『キィエエエエッ!』

 

 鳥型がこれはマズいと頭上から襲ってくるが、他の奴が動けないのに一体だけ来ても良い的だってのっ!

 

 あたしが躱しざまに手刀で翼の一部を切り裂くと、大鳥はどうにか再び上昇したものの左右のバランスが乱れたのかふらついている。後は、

 

『ウガアアアッ!』

 

 そこへ無理やり邪因子の枷を引きちぎり、脚から血を流しながらも虎型が突進してきた。でも、

 

「へへん。速さを売りにしている奴が、脚を怪我してまともに動けるわけないでしょ!」

 

 明らかに精彩を欠く動きの虎の懐に潜り込むと、そのまま腹の辺りに手を置いて直接邪因子を叩きこんだ。邪因子は身体の内部へと浸透し、そのまま内臓をシェイクされて虎は白目を剥いて倒れ伏す。

 

 打ち込んだ邪因子の量は本当にごく僅か。こっちで増え続ける分を踏まえてもなおちょっぴり。それでも内臓にダメージが行ったと思うから、いくらタフでも治るまでそれなりの時間が掛かると思う。

 

 そして、最後にもう一体。まだ邪因子の枷から抜け出せていない亀は、もがきながらも甲羅で守りを固める。……だけどさぁ。

 

 ドン。ドン。

 

「動けないんじゃただデカくて固いだけ。そんな鈍亀に」

 

 ドン。ドン。ドン。ドン。

 

「このあたしが……負ける訳ないよねぇっっ!」

 

 ドドドドドドドドドッ!

 

 一発でダメなら二発。二発でダメなら四発。四発でダメなら……ありったけっ!

 

 一撃に込める邪因子は最小限に。パワーよりも手数を重視。いくら甲羅が固かろうが、その衝撃やダメージが全くない訳もない。

 

 甲羅の上から打ち込まれる連打に最初は亀も防げていたけど、十発辺りから顔色が変わり、二十発辺りから苦しげに唸り、三十発目でたまらずその場で膝を突いた。

 

「これで……終わりだあっ!」

 

 これで決めると違和感を無視して右腕を振りかぶり、甲羅の上から確実に意識を断てるだけの一撃をくらわそうとして、

 

「…………は?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 周囲が突如スローモーションになる感覚。加速する思考の中、あたしは目の前に迫るそれを見る。

 

 それは水の弾丸……と言うよりレーザービームのようだった。そして放たれた元には、

 

(……ちっ。もう一体居たのね)

 

 少し離れた先。ギリギリ周囲を覆う煙に紛れ、口から超高圧の水流を吐く一体の大きな青い蛇が居た。

 

 そう。これは狙撃だ。

 

 本能的にあたしに正攻法では勝てないと察し、最初からずっと身を隠してあたしが他の暴走個体を倒そうとする瞬間。勝利を前に気が抜ける瞬間を待っていたんだ。

 

(これは……避けきれないな。どうする? どうしよう?)

 

 顔面直撃コース。着弾まで一秒もない。最悪痛いじゃすまないかもしれない一撃を、それでもどうにか限界まで首を傾けつつ、邪因子を頭部に集めて防ごうとし、

 

「危ないっ!?」

 

 そう声が聞こえたと同時に、トンっ! と身体を押されてあたしはギリギリ直撃コースから外れる。その横をレーザーが通り過ぎ、あたしは咄嗟に受け身を取って体勢を立て直した。

 

「よっと! 誰だか知らないけどお礼を言ってあげるわ。ありが…………えっ!?」

 

 振り向いたその先、そこには、

 

 

 

 

 

「…………かふっ」

 

 胸を血で真っ赤に染め、口元から血を滴らせて崩れ落ちるピーターの姿があった。

 





 愛を知らぬ少女は、大切な物を手に入れた。

 それは親愛であり、友愛であり、僅かながらの慈愛であった。

 間違いなく、それは少女にとって一つの幸福の形だった。




 それを奪われた時……少女は、何を想うのか。
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