Asyl perspective
「紅魔館に来るのも久しぶりですね。なんだか新鮮です。」
危ない目で見てくる夫人から距離を取り、ヴァルターの影に隠れながら移動中、綺麗な紅い館が見えてきた所で少し懐かしさを感じて呟く。
引きこもりの私にとっては外に出るのも久しぶりだから、見えるもの全てが新鮮に見える訳だが・・・
「お嬢様は少しは月光館から出た方が良いですよ。社交に出て、他の吸血鬼達と交流を持って味方を作らないと将来、他の吸血鬼達から何かしらの難癖をつけられた時大変ですよ。」
そう言ってしがみつく私の頭を撫でてくれるのは困った顔のヴァルター。
夫人に負わされたトラウマの傷が癒やされていく。
あぁ~。
ヴァルターしゅきぃ・・・
「・・・スカーレット家以外の吸血鬼とはあんまり関わりたくないです。怖いですし・・・。私は皆と平和にスローライフが出来ればそれで良いのです。」
ヴァルターは心配して言ってくれているのは分かりますが私は元来人付き合いが苦手なのです。
しかも人じゃなくて吸血鬼の皆さんと交流を持つだなんて、それだけでもハードル高すぎです。
それに、私は平和主義者なのです。
変な人達と関わってしまって無用な争い事に巻き込まれるのは御免なのですよ。
それに今は魔法の研究で忙しいのです!
私が求める究極のスローライフの為にも魔法で生活の質を上げなければ!
「相変わらず、アズール様は吸血鬼らしくないですね。吸血鬼なら支配とか隷属とか大好きだと思っていたのですが・・・」
そう言ってヴァルターは伯爵の方を見る。
見られた伯爵はスッと目を逸らした。
何やら心当たりがあるらしい。
今でこそ伯爵は落ち着いていると思うが昔はヤンチャしてたのだろうか。
「そうねぇ。私は支配とか、隷属とか興味ないけど、貴方は1000年くらい昔は、周辺の妖怪達に片っ端から噛み付いて力自慢とかしてたわねぇ。」
昔を懐かしむように微笑みながら夫人が言う。
夫人の言葉に伯爵はジト目で夫人を見る。
「しょうがないじゃないか。元はと言えば君が出会う妖怪皆見通して喧嘩ばっかり売るからだよ。襲ってくる妖怪達を僕がなんとかしてたら、いつの間にか周辺の妖怪に畏れられて、伯爵なんて呼ばれてこの周辺支配してるみたいな扱いになったんだから。」
「あらぁ。そうだったかしらぁ。」
「そうだよ!なんで忘れてるのさ・・・。」
ちょっと涙目で疲れた顔で力なく返事する伯爵。
・・・なんというか、伯爵も苦労しているみたいだ。
というか、いつの間にか口調がいつものカリスマ(笑)から素の口調に戻っている。
伯爵だからって小さい男の娘が頑張って威厳良く見せようと口調を変えていたのは見ていて微笑ましかったのだが、メタ認知できたのか、ようやく気付けたようだ。
とにかく、吸血鬼になって心まで悪魔になったからか、困ってる伯爵を見てるとなんというか、楽しくなってくるものだ。
ヴァルターもヴァルターで伯爵の手のひらで踊らされてばっかりだったからか、伯爵が困ってるのを見てニコニコと溜飲が下がっている様子だ。
「あの後僕の真似して、周辺を支配する人間あがりの吸血鬼達が生まれてきて大変だったんだよ。」
現在、存在する吸血鬼の多くは基本的に人間から吸血鬼へと変化したもの達を先祖とする妖怪らしい。
他の吸血鬼に血を吸われる事によって眷属として誕生したり、吸血鬼同士の夫婦から生まれたりと吸血鬼達の樹形図は多岐に渡るそうだ。
「あらあら、私達はその子達の真祖。世界が調停者として生み出した存在なのだから、調停は私達のお役目。吸血鬼の子達が暴れないように見張らないと。世界のバランスを保つのがお役目なんだから、頑張らないとねぇ。」
「見て見ぬふりしてた君にだけは言われたくないよ・・・。それに、君も調停者じゃないか。手伝ってよ。」
「私は面倒事は嫌よ。」
「・・・本当に自由だね、君は。」
伯爵、完全に尻に敷かれているようだ。
そうこう言ってる間に紅魔館へと到着した。
一足先に紅魔館へと戻っていた小悪魔が手を軽く振って私達を出迎えた。
余談だが、紅魔館は今は小悪魔1人が管理している。
つい10年くらい前は人間やその他の妖怪の執事やメイドといった使用人が働いていたのだが、時の流れとは残酷なもので、皆寿命で亡くなるか、落ち着いた所で余生を過ごせと伯爵の厚意で紅魔館を離れ、伯爵曰く胡散臭い友人の管理する箱庭で伯爵の友人の庇護のもと暮らしているようだ。
紅魔館の管理は魔法に精通している小悪魔にとっては片手間でできる事らしい。
それにしても、図書館の司書兼メイド兼秘書みたいに伯爵の世話もしている小悪魔が、働きすぎで倒れないか心配だ。
「パーティーの準備はできてます〜。いつものワインはもちろんですが、今回は、ゆか・・・伯爵様のご友人の人間の方が持ってきた東洋の島国の鬼が作ったとされるお酒もありますのでお楽しみに〜。」
おぉ!
東洋のお酒!
鬼、島国という事は前世で言うと日本酒だろうか。
今は多分西暦550~600年くらいだろうから、日本はまだ古墳時代だろうか。
確か聖徳太子が生まれて冠位十二階の制度や十七条憲法を制定していく時期だったかな。
それとも、まだ聖徳太子も生まれてないくらいかな。
それか、もう大化の改新辺りだろうか。
法隆寺はもう建立されてるだろうか。
遣隋使とかその時辺りと聞いたこともあるし今の中国の覇者は隋だろうか。
ふむ、歴史を感じて風情が良いですね。
まぁヨーロッパにいる私には関係ないですけど。
でも日本酒はとっても興味がある。
またまた余談だが、私は見た目は小学生と言えるくらい幼いが、中身は大人なのだ。
絵面的にはよろしくないが、お酒は普通に飲んで楽しんでいる。
多分、前世でも私は良くお酒を飲んでいた気もする。
ワインなどの果実酒を飲んでみるとわりとしっくり来たからだ。
それに伯爵が作った秘蔵のワインを飲ませてもらった事はあるけど、いつ飲んでも香り、のど越し全てが素晴らしくてついつい、飲みすぎて・・・。
・・・いや、知的でクールキャラな私は淑女を目指しているので、お酒は嗜む程度です。
飲みすぎて、半裸で月光館のホールでぐうぐう寝るなんて事もそんなにありません。
・・・ヴァルターがジト目でこっちを見ている。
私が考えている事を読んだのだろう。
ふふふ。
知的でクールなキャラを目指している私は執事からの責めるような視線にも動じないのだ。わっはっはー。
「アズール様。また、あの時みたいに飲みすぎたら禁酒令を出しますからね。」
「すみません。もう飲みすぎたりしませんからそれだけは勘弁して下さい。お願いします。」
もう、キャラも恥も捨てすぐ様土下座で許しを乞う。
そんな私をドン引きしながら冷えた目で見るヴァルター。
1度、酔ってホールで半裸で気絶するように寝ちゃった事がある。
その時、目が覚めた時に何故か一緒に寝ていた衣服が乱れているヴァルターに怒られて5年くらい禁酒させられた事がある。
あの時は本当に辛かった。
どれだけ辛かったかと言うと、ご飯、というか血を吸血鬼なのに飲めなくなるくらいにはショックで辛かった。
だって、血よりもワインの方が格段に美味しいんだもん。
ワインは
神にもキリストさんにも会った事はないけれども。
比喩抜きに神々しい飲み物に思えた。
それほどまでに伯爵の作ったワインは私にとって素晴らしいものだったのだ。
もう普通の血なんかじゃあ満足出来ない体になっちゃったのです。
またあの時みたいな地獄は見たくありません。
今日はそんなにはっちゃけないようにしないと。
小悪魔に案内されて私達はパーティーの会場へと向かう。
紅魔館に住む人間達が居なくなってから少し寂しくなった紅魔館は、しっかりと小悪魔によって魔法で管理されているからかほこり1つない。
異常なまでに伯爵に心酔していた、家臣の人間や妖怪達が傷1つ付けずに館を管理していた時とまるで変わらない。
その事からも1人で管理している小悪魔の有能ぶりが垣間見える。
またまたまた余談であるが、元々この館に住んでいた人間や妖怪達は、昔紅魔館に攻めてきたもの達だったそうだ。
伯爵と小悪魔が殺さない程度にその人達をボコボコにした後、温情で逃がされたらしいが、皆伯爵のカリスマに惹かれて家臣として雇って貰ったらしい。
今は皆伯爵の命令により紅魔館から離れて、伯爵の友人が管理する箱庭で暮らしている。
私は初対面の時以外はあんまり伯爵のカリスマを見た事はないけれど。
到着したパーティー会場はさすがスカーレット伯爵。
貴族を名乗るだけに、綺麗で趣のある空間だった。
狭すぎず、広すぎず、真ん中に大きなテーブルが置かれており、様々な
部屋の端には休憩用の椅子が10個くらい置かれている。
まるで、前世での高級ホテルの立食パーティーを彷彿とさせるパーティー会場に時代錯誤を感じながらも今更ながら、この世界では前世の常識は通用しないのだと再度確認できた。
というかこれ全部小悪魔が用意したのだろうか。
料理とかも含めて改めて小悪魔の有能ぶりに「小悪魔、凄いですね」と思わず呟く。
「まぁ、私もこれを全て1人で用意したわけではありませんけどね〜。魔法もありますし〜。急なパーティーでも対応できますよ〜。」
「それにしても、凄いですよ。今度、料理も教えて下さい。」
「良いですよ〜。私も特別料理が得意な訳ではありませんが〜。アズール様が言うなら、知っている限りお教えします〜。」
そんなこんなで豪華絢爛なパーティー会場に圧倒されていると、その綺麗な空間に違和感なく淑女然とした少女が佇んでいるのに気が付いた。
その少女は全体的にふわふわした服装を着ており、まるでドアノブカバーのような帽子を着て、綺麗な金髪のショートヘアは服と同じようにふわふわしている。
その少女が纏う雰囲気はおっとりとしており、とても落ち着いている印象を受ける。
歳は15、6歳くらいだろうか。
それでも、まるで女子高生のように若々しい見た目からは想像できないような、まるで何百年も生きているかのような老獪な雰囲気も感じさせる。
「あぁ、アズール様〜。紹介します〜。こちら伯爵様の友人様のゆか・・。」
「ご紹介預かりました、私は妖怪の研究者をしている
・・・んー?
この方どこかで見たことあるような気がする。
既視感というのだろうか。
はるか昔の記憶に朧気に残るその姿、そして名前。
『忘却は大罪、されどまだ裁かれる時ではない』
名前はなんだか違和感はあるけれども確かに私は以前この方と会っているような気がする。
『秘密の鍵を持ったこの子は何故ここに?』
・・・うーん、どうしても、思い出せない。
『世界の秘密に触れるには、私達はまだ余りにも幼い』
とにかく、リヴェリーさんに挨拶を返す。
「はじめまして!月光館に住む吸血鬼のアズールと言います。私も、妖怪の研究者であるあなたのお話は是非聞きたいです。今日はよろしくお願いします。」
ふむ、初対面の人なのにコミュ障は発症せず、しっかりと挨拶できた。
夫人のせいでコミュ障が悪化するかと思ったが案外大丈夫そうだ。
彼女がしている妖怪の研究も気になるが、私はこんな人外だらけのパーティーに出席する人間の彼女自身に興味がある。
是非ともどうして伯爵達と友人になったのか、とかその経緯を聞いてみたい。
「うん、みんな集まったみたいだね。それじゃあパーティーを始めようか。君が無事に紅魔館に帰ってきてくれたお祝いパーティーだ。」
そうしてニコリと笑った伯爵は夫人の前で膝を突きどこかからか取り出した1輪のスズランの花を夫人へ贈る。
《遥か遠い未来に》
「あらあら、珍しいわね。貴方が私に贈り物だなんて。・・・でも、そうねぇ。ありがとう、私の愛しい人。」
《幸福を届けよう》
そう言って夫人は伯爵の頭に手を置き撫でた。
え!そこは再会のキッスとかするんじゃないの!?
「え!そこは再会のキスとかするんじゃないんですか!?」
私が思った事と同じ事を夫人の従者である紅い髪の女の子が言葉に出す。
「・・・だって、恥ずかしいじゃあないの。それに、この人から花をもらうなんてはじめてだったし、それだけでいっぱいいっぱいなのよ///」
頬を赤く染める夫人。
立ち上がった伯爵もその隣りで俯いて顔を赤くしている。
・・・・・・なにこの初々しい感じ。
見ていてすっごく微笑ましい。
もう口角が勝手に上がっていっちゃう。
「ちょっとアズール嬢。にやにやしすぎだよ。///とっとにかく、皆今日はパーティーを楽しんでくれ。」
頬を赤くした伯爵の言葉でパーティーが始まった。
〖後書き〗
ヨーロッパでは5月1日のスズランの日に愛する人へスズランを贈る風習があるらしいです。
(´ε` )♥
スズランの花言葉は「幸福が帰る」「幸福の再来」「意識しない美しさ」「純粋」と様々あります。
ロマンチックですねぇ。(๑⃙⃘♥‿♥๑⃙⃘)
あと毒がある様なので誤って食べたりしないように気を付けましょう!Σ⊙▃⊙川
第2章も半分くらいまで進んでまいりました。
(*´ο`*)
前話から少しプロットを組み直し、分かり辛そうな所を改稿しています。(´๑•_•๑)
というかぶっちゃけ改稿に時間を掛けすぎて投稿が遅れてしまいました。( ˃̣̣̥ω˂̣̣̥ )
次話は3日後くらいに出せたら良いなと思っています。( ¯•ω•¯ )
さて、今話では新たな?キャラクターとしてリヴェリー・ハーンさんが登場しました。
リヴェリーは英語で幻想。
ハーンは耳なし芳一や雪女等で有名な小泉八雲さんの出生名パトリック・ラフカディオ・ハーンから取っているとされているみたいです。《pixiv百科事典より抜粋》
はい。お察しの通りある東方キャラクターにオリジナル要素を取り入れてしまっています。
…φ(。。*)
毎度言いますが解釈違い等あればすみません。(◞‸◟ㆀ)
たくさんのUA、お気に入り、感想をありがとうございます。
これからも庇護録をよろしくお願いします。