東方庇護録(旧作)   作:まほろばのーぶる

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第23話:泡沫の夢~Lying Maid~


Kurumi perspective

 

 

 

ドボンッ

 

 

 



 

 

吸血鬼にとっては恐怖を感じざるをえない大量の水と、流水による気泡。

身体全身が忌々しい流水に浸されていく。

 

ぶくぶくとした水の音。

そんな音に包まれた私は夢を見た。

 

とても不思議な夢を。

 

 

夢の中の私は暗く冷たい水の中にいました。

吸血鬼であるなら誰しもが恐れる深い水の中です。

 

そんな深い水の中にいる吸血鬼であるはずの私は、何故か水による影響を受けず苦しくなる事はありませんでした。

 

水の中にこんなにも沈んでしまったのなら、普通の吸血鬼だと、もがき苦しむはずなのに。

 

水の中で感じるのは不思議な安心感。

まるで誰かに優しく包容されながら守られている様な、そんな感覚。

 

不思議と、水の中で、私は無事にユラユラと漂っている。

私にとって初めてで、不思議な感覚です。

 

そんな夢の中で困惑していた私を、突如として誰かが抱き抱えました。

 

抱き抱えてきたのは私を抱き抱えるには小さすぎる手。

朧気に、視界の端に映ったのは、水になびく綺麗な長い白銀の髪。

不思議とそんな小さな手で抱きかかえられた私は今まで感じた事の無いような包容感に包まれました。

 

私を抱き抱えたその誰かは、どうやら小さい身体で必死に私を抱き抱えてくれているようです。

抱き抱えると言うよりは抱き締めている感じですかね?

 

それでも、そんな小さな抱擁だけれど、不思議と凄い落ち着く温もりがあります。

 

その不思議な温もりに包まれながら、私の視界は暗転していきます。

・・・夢の中で意識を失うなんて不思議な話ですが。

 

夢の中の私は不思議な温もりに安心感を抱きながら意識を閉ざしました。

 

 



 

 

「むぅ。・・・うぅん。ここは・・・。」

「くるみちゃん!気が付きましたか!!心配しましたよ!」

 

夢から目を覚ますと目の前には馴染みの友人、エリーの姿が見えた。

 

「くるみちゃん、自分の名前は分かりますか?私の事はわかりますか?」

 

すごく心配している様子でエリーはオロオロとしている。

 

「・・・私はくるみです。貴女はいつも大事な時にヘマをしちゃう残念な同僚のエリーです。」

「うぐっ。この毒を遠慮なく吐いてくる感じはいつも通りのくるみちゃんですね。良かったぁ、当たり所が悪かったらどうしようかと思いました。」

 

当たり所?

何の話だろう。

 

そう言えば意識が無くなる直前の記憶が飛んでいる。

 

確か、私は侵入者の吸血鬼にエリーと2人で対峙していて・・・。

 

「エリー。」

「うん?どうかしましたか?くるみちゃん。」

 

ホッと一息ついているエリーに尋ねる。

 

「私はどうして意識を失っていたのですか?」

 

そう質問すると、エリーはたちまち、ギクッとでも効果音が鳴るかのように分かりやすく狼狽え、両の目をそっと逸らした。

 

「・・・く、くるみちゃんは侵入者と戦ってる途中で急に倒れたんですよぉ。わ、わたしびっくりしましたよぉ。」

 

・・・毎度思うが、この死神は嘘をつくのが下手すぎる。

 

クイッとエリーの顎を優しく掴み、目を逸らした顔を強制的にこっちに向かせ、ジトっとした目でジッと見つめ顔を近付ける。

 

「エリー。もう一度聞くのです。私は、どうして、意識を、失っていたのですか?」

 

顎を掴まれてびっくりしたからか、少し赤面したエリーが更にワタワタと慌てて目を逸らす。

 

「エリー。私の目を見て話すのです。エリーが両目を逸らす時は何か後ろめたい事がある時なのです。もう長い付き合いです、エリー。貴女の嘘はお見通しですよ?さぁ!白状するのです。」

「うぅ〜。言ったら怒らない?」

「言わないと怒るのですよ!」

「うぅ〜。分かったわよぉ。」

 

 

かくかくしかじか

 

 

「エリーのあほー!バカー!だからいっつも、普段から少しは運動するように言ってるのです!そんなエリーは幽香さんに言い付けてやるのです!お仕置されるが良いです!」

「あぁー!それだけはやめてぇー!」

 

エリーはアホです。

間抜けです。

手が滑って味方を攻撃するなんて、愚の骨頂なのです。

こうなったら幽香さんに言い付けておしおきしてもらうのです。

 

エリーは幽香さんの名前を出すと途端に激しく動揺し許しを求めてくる。

 

そりゃあそうだ。

 

幽香さんのおしおきは見た目優しそうでいて魂まで響く程に痛いのだ。

 

でも、許しません。

1回お灸を据えられるがいいです!

 

 

ん?

何か忘れてるような・・・。

 

あっ!!

 

「エリー!!そう言えば、侵入者は?あの硬い吸血鬼はどこに行ったのですか!?」

 

大事な事を思い出し、思わずエリーに詰め寄って尋ねる。

 

「くるみちゃん、落ち着いて!侵入者の白い女の子ならそこで寝てますよ。」

 

私が寝ていたベッドのすぐ横のベッドを見てみるとスゥスゥと穏やかな寝息をたてながら、侵入者の白い吸血鬼の少女が寝ていた。

 

「!?」

 

すぐ横で寝ていた侵入者の彼女にびっくりした私は、半ば反射的に少女に攻撃を加えようと身構える。

 

「ちょっ、くるみちゃん、ちょっとまって。」

 

攻撃を加える前にエリーに止められる。

 

「どうして館内に侵入者を入れちゃってるんですか!?侵入者は排除しないと・・・」

 

そうは言いつつも、私は目の前の寝ている少女に、警戒を向ける気がなくなってきている。

 

それは無防備に寝ていて、無害そうだからか。

 

それとも、夢に出てきた、私を抱き締めてくれた小さい女の子に雰囲気が似ているからか。

 

 

「相変わらず、くるみ嬢は物騒だねぇ。もう少し丸くなってはどうかね?」

 

 

番人としての使命感に葛藤していると、男か女か分からないような中性的な声が唐突に響いた。

 

「んなっ!?スカーレット伯爵!?どうしてここに!?」

 

声の方に目を向けると、私が苦手な吸血鬼、スカーレット伯爵の姿があった。

 

「どうしてって、ただ幽香に会いに来ただけさ。」

 

そう言って微笑みを浮かべる。

 

・・・やはり、この色ボケ吸血鬼は幽香さんを狙ってる。

私が、幽香さんを守らないと。

 

音速に近い私が出せる最高速度で伯爵の顔面に目掛けてストレートパンチを繰り出す。

 

ドゴォォオ

 

「おうわぁ!?ちょ、ちょっと、本当に物騒だね。暴力反対だよ。」

 

そんな音速パンチも伯爵に軽く止められる。

 

くぅ、やはり伯爵の強さは別格だ。

先程の白い吸血鬼の時と同じく、まったく歯が立たない悔しさが込み上げる。

 

うぅ〜。

絶対にいつかギャフンと言わせてやるのです。

 

「エリー。どういう事ですか。白い吸血鬼だけじゃなく、スカーレット伯爵にまで侵入を許すとは。」

「幽香はいつでも来て大丈夫だって言ってくれてるけど・・・」

「貴方は黙るのです。」

「はい。」

 

小さくなった伯爵は白い吸血鬼の隣で大人しくなる。

 

「くるみちゃんは気絶してて分からないと思いますが、その寝ている白い少女はどうやら敵じゃなくて、お客さんだったみたいなんですよ。」

 

・・・確かに白い吸血鬼の方はどうやら伯爵の手先という訳ではなさそうだ。

そういえば、戦いながら何度か弁解してましたね・・・。

 

・・・後で謝っとこう。

 

「・・・白い少女の事は良いでしょう。でもスカーレット伯爵は幽香さんに、というか夢幻館に毒でしかありません。私が夢幻館への立ち入りを禁じていたはずです。が。」

「凄い嫌われようだね・・・」

 

小さくなった色ボケ吸血鬼がなにやらしょぼんとしている。

 

が、そんなの知ったこっちゃない。

 

また、この色ボケ吸血鬼に幽香さんが夢中になってしまったら今度こそ夢幻館が破滅する。

 

物理的に。

 

なんとかして幽香さんと伯爵との接触を回避しなければ・・・

 

そんなこんなでどうやって伯爵と幽香さんとの接触を回避しようか、と考えていた、その時。

 

「んむぅ。むにゃぁ。」

「おっとアズール嬢、お目覚めかい?」

 

寝ていた白い吸血鬼が目を擦りながら、目を覚ました。

 

 



Asyl perspective

 

 

吸血鬼にとっては恐怖を感じざるをえない大量の水と、流水による気泡。

身体全身が流水に浸されていく。

吸血鬼にとっては恐怖を感じざるをえないぶくぶくとした水の音。

そんな音に包まれた私は夢を見た。

 

とても懐かしい夢を。

 

 

『・・・面白いですね。輪廻転生だなんて、御伽噺の中での話かと思いましたよ。』

 

夢の中の空は茜色に染まり、地上に咲いている美しい()()()達を更に美しく赤に染め上げる。

 

季節は1()1()()

肌寒くなってきた秋の季節、ある目的の為に私達3人は墓地に向かっていた。

 

秋空の今日は空が暗やむのは恐らく早いのだろう。

 

もう夕焼けを通り越して子焼けになった空の下で3()()は楽しくおしゃべりしている。

 

『ある国の思想では、限りなく生と死を繰り返す輪廻の生存を苦と見て、二度と再生を繰り返すことのない解脱を最高の理想とすると言われているのよ。』

 

いつもは大人しいこの子も、今の面子では少し声色高くおしゃべりを楽しんでいるようだ。

 

『なにそれ?○○○はいつも難しい事言ってばっかりだね。』

 

黒髪の少女は話に興味が無い、といった様子で手をブラブラと振る。

 

『もうっ。○○も・・・精神学を嗜んでみなさいよ。』

『・・・言わないでよ!』

『・・・つまり簡単に言うと二度と世界に戻れなくなる事がその国の思想的には最高の思想だという事よ。』

 

少女達はやいのやいのと言い合いを始める。

夢の中だからか、少女達のセリフはたまに途切れ途切れに聞こえる。

 

『ますます、意味が分からないよ。思想なんて、他者が決める事じゃない。自分の、自分だけの思想をもたなきゃ。』

 

『・・・まぁ、そうなのだけれどね。そういう話じゃなくって。』

 

ワイワイ言い合いをしている2人を見て、夢の中の私は微笑ましく思い、苦笑いしながらも答える。

 

『でも、世界に二度と戻れなくなるのは嫌ですね。来世があるのなら、こうして、2人がイチャイチャしてるのを、どうか来世でも見守っていたいものです。』

 

『『もうっ。○○ってば、そんなんじゃないって!!』』

 

空が茜色に染まる中、その時の2人の顔も赤に染まっていたと記憶している。

 

が、どうにも夢の中の2人の輪郭はぼやけすぎていて、顔色がよく見えない。

 

その後、墓地について何かの注意をした事までは覚えているが、どうやら今回の夢も終わりが来たようだ。

 

 

茜色の空は徐々に暗くなり、空だけでなく世界も暗く暗転していく。

 

 

キャストも舞台もなくなって、暗くなった世界にポツンとひとりぼっち残された私。

 

 

ゆっくりと目を閉じ、夢から醒める準備を始めた。

 

 



 

 

「んむぅ。むにゃぁ。」

暗転した意識が戻ってくる。

 

なんだか、また前世の夢を見ていた気がする。

目が覚めた今、いつもの様に夢の内容は何一つ覚えていない。

 

もどかしい。

今度、夢を忘れない為の魔法でも開発してみましょうか。

 

「おっとアズール嬢、お目覚めかい?」

 

伯爵の声が聞こえる。

 

「んあぁ?はくしゃくぅ、どこにいってたんですかぁ?」

 

寝起きだからか、少し呂律が回らない。

というか、全身に上手く力が入らない。

 

あれ?

そういえば、なんで私は寝ていたんだ?

辺り一面チェック柄のここは一体どこでしょうか?

 

眠る前の記憶を手繰り寄せる。

確か、夢幻館に着いてからくるみさんやエリーさんと対峙して、それから・・・。

 

そうだ、湖に落ちたくるみさんを追って私も湖に飛び込んだんだった。

 

「あー、という事はここは夢幻館の中ですか?」

「おぉ、アズール嬢、察しがいいね。大正解だよ。」

 

なるほど。

という事はエリーさんが運んでくれたんですね。

 

「ありがとうございます。エリーさん・・・でよろしかったですかね。」

「あ、はい。エリーと申します。この度はお客様とは知らず攻撃を加えてしまい申し訳ありません。」

「いえいえ。アポイントも無しに来た私が悪いです。館内に招き入れて下さった寛大な処置に感謝いたします。」

 

エリーさんと私はペコペコと頭を下げ合う。

 

そんな時、私の服の裾をキュッとつまんで誰かが引いてくる。

視線を向けるとくるみさんがモジモジしながら上目遣いでこっちを見ていた。

 

「・・・悪かったのです。勘違いで貴女に攻撃を加えてしまいました。謝罪するのです。」

 

恥ずかしそうに赤面しながらおずおずと謝罪してくるくるみさん。

 

良かった。

どうやら誤解は解けたようだ。

伯爵がなんとかしてくれたのかな?

 

「大丈夫ですよ。さっきも言いましたがアポイントも無しに来たこっちも悪いです。それに、大した怪我もしてないですし、結果オーライですよ。」

「それなら、良かったのです。改めて、私はくるみなのです。吸血鬼同士仲良くしてください。」

 

にぱっと笑った可愛らしいくるみさんと笑顔で握手を交わす。

 

「アズールです。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

そうして誤解も晴れた中、私とくるみさんとエリーさんと小悪魔の4人(何故か伯爵はハブられてしょぼんとしていた。)で談笑する。

 

話しながら何故かチルノさんを月光館で捕まえて奴隷の様に働かせてるなんて勘違いもあったけど、しっかりと誤解を解いておく。

 

どうやら、チルノさんとくるみさんは知り合いのようで、ルーミアちゃん事件の時、チルノさんを館に送り込んだのはくるみさんらしい。

伯爵への嫌がらせ目的にしたようだが、伯爵とくるみさんは仲が悪いのかな?

 

そんなこんなでお話をしているけど、なんだかガールズトークみたいでちょっと楽しい。

館の主はどうやら寝ているようで、起きるまでお話しながら待つことになった。

 

そうして、和気あいあいとお話をしていると。

 

「アズール様。ご主人様がお呼びです。」

 

私の背後に気配無く立っていたメイドさんから声がかかった。

 

びっくりした!

全然気配を感じなかったし、まるで今、この瞬間に私の背後に出現したようにも感じる程に、私の背後に気配なくメイドさんが待機していた。

 

そのメイドさんは金髪で金眼。その青いメイド服は前掛けが2枚重なっている特殊なメイド服だ。

 

歳は14.5歳くらいの女の子だろうか。

すごく可愛らしい女の子だ。

 

【挿絵表示】

 

そのメイドさんは私の手を引き歩き出す。

 

「えっ、あっ、分かりました。行きましょうか。・・・あれ、他の皆さんは。」

「他の皆さんは後で来るように仰せつかっています。」

「そ、そうですか。では、声掛けをして・・・」

 

そう言うとメイドさんは私の手を更にぐいっと強く引っ張る。

 

「早くこちらに来てください。ご主人様がお待ちです。」

 

強く引っ張られて、慌ててヨタヨタと部屋の出入口まで向かう。

 

わわ。ご、ごめんなさい。待たせちゃってますかね?分かりました、すぐ向かいます。」

 

夢幻館の主さんを待たせちゃってるのかなと思い、慌てて出入口へと向かう。

 

そういったやり取りをしつつ、メイドさんと私は皆に気付かれないまま、2人で部屋を出ていった。

 

 


 

 

皆から離れてどんどんと、チェック柄の館内を奥へ奥へと進んでいく。

 

「あ、あの。どこへ行くんですか?」

 

私の手を取ってグングンと進んでいく、館の主のメイドさん。

 

メイドさんの思ったよりも強い力に訝しげには思うものの、流されるままに引っ張られて行く。

 

「大丈夫です。私に着いてきてください」

「は、はい。分かりました。」

 

有無を言わせないメイドさんの雰囲気に押され、流されるままに手を引っ張られていく。

 

 

どれくらいの時間引っ張られてきたのだろう。

どこまでも続く、チェック柄の回廊に目が痛くなって来た頃。

 

バタンッ

 

「え!?っひゃあ!!っえぁ!?ここ、どこですか!?」

 

扉を開けた先に、急に引っ張られた力そのままに床に投げつけられる。

 

否、宙に放り出される。

 

先程までチェック柄の廊下に居たはずなのに、扉を抜けた先に放り出された今は星空の下、中空にいる。

 

空には星たちが煌めき、下を覗くと、なんと下にも星空が広がっている。

平衡感覚が狂いそうだ。

 

それに、今日は新月のはずなのに空には月が顔を覗かせている。

 

その月が紫色に染まっている事に驚きながら、宙に浮いているメイドさんの方を向く。

 

「あ、あの。館の主さんはどちらに?」

 

その問いかけに、今まで無表情だった、メイドさんが胡散臭い笑みでくすくすと笑う。

 

「主?幽香の事?そんな化け物ここにはいないよ?」

「え?」

 

雰囲気や口調も変わったメイドさんにびっくりしながら、ふと館に来る前に伯爵が言っていた事を思い出す。

 

 

『夢幻館に住むのは大体は3人しか居ないけど・・・』

 

 

・・・夢幻館の住人はくるみさん、エリーさん、そして館の主の3人のはず。

 

では目の前にいる、あのメイドの子はいったい・・・。

 

「ようこそ。私の世界へ。私は〖夢月〗。少し、2人で遊びましょう?」

 

ニヤニヤ笑みを浮かべた、金髪金眼の青いメイド服の女の子は、そう言って後ろ手に扉をパタリと閉めた。

 

 




〖後書き〗
サブタイトルの〖Lying Maid〗はうそっ子メイドさんという意味です。

さて、今回スローペースに物語が進みました。(^0^)/
次回以降、第3章の終幕に向けて物語が進みますのでお楽しみに!(≧∇≦)/
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