東方庇護録(旧作)   作:まほろばのーぶる

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※若干の流血表現があります。
苦手な方は注意してください。


第27話:プロローグ~Self-Sacrificing Asylum~


Walter perspective

 

 

「ヴァルターさん!!!」

 

 

ゴオオオオオ

 

 

聞こえてくる悲鳴と風切り音のおかげで刹那の暗闇から意識が浮上する。

 

ボヤけた視覚で認識した景色が、もの凄い速度であらゆる方向に流れていく。

 

世界がクルクルと回る。

頭がボーッとして、まるで時間の流れがゆっくりになったかのように視界の全てがゆっくり動いている。

 

・・・あれ?

今、私はどうなって・・・っ!?

 

少しして、クルクルと回っているのは私自身であると気付く。

 

「ぐうっ!!!」

 

制御できずクルクル回る視界に意識が追いつかず、抵抗できず、もどかしいと感じる。

 

そう感じながらも意識を閉ざす事の無いようにと、自身を奮い立たせて、吹き飛ばされたであろう身体を何とか制御しようと思考を再開する。

 

吹き飛ばされながらも、思考は冷静に現状を分析する。

 

身体が2転、3転と宙を舞う。

きりもみしながら吹き飛んでいく自分の身体を妖力で制御しようと試みる。

 

途中で上手く身体を制御し、地面に両の足を付け衝撃を地面へと逃がしていく。

 

ズササササササッ

 

地面に衝撃を逃がし切り、落ち着いた今、全てを思い出した。

 

今は侵入者との戦闘中。

護るべき対象は家族、その家族皆が帰る家月光館。

私はアズール様に館の留守を任された執事。

応援に駆けつけてくれた美鈴さんとともに侵入者の迎撃にあたっている。

 

情けない話だが、敵の凄まじい一撃の攻撃に一瞬意識が飛び記憶が混乱してしまっていたようだ。

 

ふと、視線を自身の両の腕に落としてみる。

 

痛みと両腕の惨状に顔を顰めたくなるが、今は敵の眼前だ、と我慢する。

防御に使った両腕は痛々しく損傷しており、どうやら使い物にならないくらい粉砕骨折しているらしい。

 

いくら身体的損傷に強い妖怪とは言えど、ここまで複雑に骨折してしまっていては、すぐには骨組織を再生できない。

 

追撃を警戒するも、相手は先程の攻撃が渾身の一撃であったようで、吹き飛ばされた私に駆け付けた美鈴さんを警戒して、少し距離を置き、身体を整えるように息を吐き、様子を伺っていた。

 

伺う敵の心情には驚愕が垣間見え、やはり先程の攻撃がこの方の最大級の攻撃であったと確信できた。

 

「ヴァルターさん!!大丈夫ですか!?」

 

先程までの戦闘で、あちこちに擦り傷や打撲傷を負った美鈴さんが、ふらつく私の身体を支える。

 

・・・2対1の状況なのに、こちらが圧倒されている。

本当にとんでもない人間だ。

 

でも・・・。

ふ、ふふふ。

た、耐えてやりましたよ。

 

口内から込み上げてくる血を不敵な笑みとともに吐き捨てる。

 

「・・・正直、驚いた。君が私の渾身の攻撃を受けて立っていられるなんて。・・・こんなこと、今まで会って来た理不尽な化け物共を除いたら、君が初めてだよ。」

 

眼の前の黒髪で大きな帽子をかぶった、自身を魔法使いと名乗る少女は思わずといった表情でつぶやく。

 

ゴフッ・・・けほっ。ふふ、ふ。でしたら、私もその化け物の、一員というわけですね。それは、妖怪冥利に尽きる、褒め言葉ですね・・・」

 

口内からとめどなくこみ上げてくる血液は収まってくれる気配がない・・・

おそらく両腕で防御しきれなかったダメージで内蔵を損傷してしまったようだ。

とはいえ人間であればこの傷は致命傷になるのだろうが、妖怪である私にとっては時間を掛ければ治癒できる範囲の怪我である。

あくまで、時間を掛ければだが・・・。

 

「・・・まだ、戦意を失わずに私に言葉を返すとは、素晴らしい精神力だね。精神力に関しては人間の方に分があると思っていたが、妖怪にも根性のあるものがいるようだ。・・・だが、さすがに妖怪とはいえ、その怪我の再生には時間を要するだろう?」

 

魔法使いらしくない、凄まじい体術の使い手である少女は息を整え再度、膨大な魔力、霊力をまとった拳を構えてゆっくりと近づいてくる。

 

・・・冗談はその馬鹿げた練度の体術だけにしてほしい。

 

どうやら、お相手さんの渾身の攻撃は、一撃だけのものではないらしい。

 

「させません!!」

 

美鈴さんが気と呼ばれるオーラのような力を纏って魔法使いに立ち向かう。

 

「君だけの拳では今の私に届き得ないよ。」

「っな!?ッぐぅ!!」

 

体術同士でぶつかった二人の人妖の形勢は拳を合わせた瞬間に決まり、美鈴さんが吹き飛ばされる。

 

「なっ!?か、身体が痺れて・・・」

「メーリン!!」

 

吹き飛ばされ、倒れた美鈴さんはどうやら何らかの術により動けなくなっているようだ。

倒れたまま動かなくなった美鈴さんに、月光館の結界内にいるルーミアさんが悲鳴をあげる。

 

「紅魔館の門番である君は、教会と紅魔館の不可侵の協定上、退治してしまうと契約違反になって調停者達が動いてしまうからね。少し静かにしていてもらうよ。」

 

落ち着いた所作でゆっくりと近付いてくる魔法使いの少女には余裕さえ感じられる。

・・・だがしかし、その内情は焦りでいっぱいなのは、私には分かっている。

 

魔法使いの少女は、次いでルーミアさんにその強い眼差しを向ける。

ルーミアさんは少女の強い眼差しにビクッと震えている。

 

「さて、暗闇の妖怪ジャバウォック。君が可愛らしいお嬢さんの姿だった事には驚いたが、私は君を退治しなければならない。これ以上、他の者を傷つけられたくなかったら、大人しくその結界から出てきてほしいのだがね。」

 

そんな魔法使いの少女の言葉に、ルーミアさんは泣きそうな顔で倒れた美鈴と傷だらけで立ち尽くす私の目を見る。

 

「ルーミアさん。私を信じて、その結界の中にいてください。」

 

涙目で震えながらも、結界の外に出ようとするルーミアさんに声をかける。

 

「え・・・で、でも。それじゃあ、ヴァルターが・・・。」

「・・・ルーミアさん。私はそう簡単には死にませんよ。だから、何が起こってもその中から出ないでください。お願いします。」

 

そうルーミアさんに告げて、思ったよりダメージを負っている身体に鞭を打ち、妖力を練り上げて魔法使いの少女と向き合う。

 

「・・・わからないね。妖怪が命を賭けてまで他者を守ろうとするだなんて。・・・妖怪は個を望み、他を淘汰する存在のはず。・・・これじゃあ、まるで人間みたいじゃないか。」

 

困惑した様子で魔法使いの少女はつぶやく。

 

「命を賭けて守るのは当たり前です!・・・だって、大切な家族なんですから。孤独な私に幸せを与えてくれる家族。孤独だった私に帰る場所があるということはとても幸せなことなんです!貴方にそれを壊させるなんて事は絶対にさせません!」

「・・・命を賭けて、家族を守るか・・・。その気持ち、とっても良く分かるよ。」

 

私の言葉に一瞬慈しむような優しい目で私達を見回した魔法使いの少女は目を閉じ空を仰ぐ。

 

「でも・・・だからこそ・・・私は君たちを退治しなくてはならない。」

 

悲しみの心情を映した瞳は、再度決意を灯したように力強くなり、魔法使いの少女は霊力を拳に集中し構えを取った。

 

「私の持つ能力は【機微を悟る程度の能力】。貴方が、その絶大な力を行使できる猶予はもう残りわずかしか無い事はは把握しています。弱った貴方に館の結界は壊せない。つまりは、次の攻撃を防ぎきったら私達の勝利です。」

 

魔法使いの少女は大分無理をして力を行使しているようで、もうすでに行使できる力の猶予は少ないようだ。

 

「・・・まいったな。君も人の心を見透かすような厄介な能力を持っているのか。」

 

そう言って魔法使いの少女はチラリと月光館バルコニーに目を向ける。

そこには、戦況を傍観するスカーレット夫人の姿が見えた。

 

「・・・あぁ、君の言う通りだよ。でも、私はなんとしても戦果をあげなければならない。暗闇の妖怪を退治できないとしても、後々教会の脅威となり得る君をここで退治する。今更後戻りなんてできないのさ。」

 

そう言って魔法使いの少女は先程よりも力を練り上げた拳を凄まじい速度で繰り出してきた。

 

 

・・・ルーミアさんには私は死なない、などと言って強がってしまったが、私の身体はすでに満足に動けないほどにダメージを負っている。

 

そんな私に魔法使いの少女の超速度の拳など回避できるはずがない。

 

 

・・・私にとっての死が迫ってくる。

 

 

・・・あぁ、良い妖怪生だった。

 

 

家族に囲まれ、帰る家があり、甘えられる親代わりの優しい主もいた。

 

私は恵まれていた。

 

家族を守れたのだ。

 

帰る家を守れたのだ。

 

 

悔いがあるはずが無い。

 

 

「ヴァルター!!!!!」

 

 

叫ぶルーミアさんの悲痛な声が聞こえてくる。

・・・ちゃんとそのまま結界の中に居てくれるかな・・・

大妖精達は私が居なくてもメイドとしてアズール様を支えてあげられるのかな・・・

アズール様は・・・私が居なくなっても・・・大丈夫かな・・・

 

 

魔法使いの拳が私を貫く

 

 

その霊力、魔力のダメージにより私の生きる力・・・言うなれば魂の力が徐々に失われていくのを感じる。

 

全身からありとあらゆる力がこぼれ落ちていく。

 

だが、痛みは感じない。

 

死の間際、アズール様と出会ってからの優しい記憶がゆっくりと想起されていく。

・・・あぁ、これが昔アズール様に教えてもらった走馬灯というやつか。

 

 

家族になろうと微笑みかけてくれた・・・

 

頼りになりたい私を気遣って何でも頼りにしてくれた・・・

 

眠れなかった時に私の頭を撫でてくれて、子守唄を唄いながら添い寝してくれた・・・

 

昔の嫌な記憶がフラッシュバックして震える私を優しく抱き締めてくれた・・・

 

急に甘えても文句も言わず膝枕してくれて優しく撫でてくれた・・・

 

いつも私達に優しい微笑みを向けてくれた・・・

 

 

・・・。

 

・・・ふふふ。

 

・・・困ったなぁ・・・。

 

 

・・・悔いなんて・・・無かったはずなのに・・・。

 

 

私にとって幸せだった記憶の想起により、私の最期の思考に悔いが生じる。

 

 

 

まだ・・・アズール様達と・・・一緒に・・・暮らしたかった・・・な・・・

 

 

 

 

そうして、死が私に追いつき、魂の力が尽き、私の妖怪としての生に幕が下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

《貴方達は必ず護ります。》

 

《過去の過ちは、絶対に繰り返しません》

 

《だから、ほら。目を開けてご覧?》

 

《この美しく、優しい世界は、貴方をまだ歓迎しているのだから》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

異変に気付いたのは魔法使いの少女の拳が私の身体を貫き、その破壊の力が私の命を奪ったと認識したその瞬間。

 

目の前まで迫っていた死が突然消失した。

 

そして、まるで今までの怪我が嘘のように消失する。

 

まるで、死なんて、なかったかのように身体に生きる力が戻ってくる。

 

「なっ!?い、一体何が起こっているんだ!?」

 

驚愕の声をあげ、私の身体から拳を引き抜き、魔法使いの少女は大きく距離を取った。

 

 

「間一髪間に合いました。」

 

 

力が入らずへたり込んだ私の耳に届いたのは、聞くだけで安心感を与えてくれる優しい声。

 

私と魔法使いの少女の間に私を庇うように立つ、いつもの大きな外套を羽織った小さい背丈の私の主の姿。

 

顔だけで私の方に振り返り微笑みを浮かべる。

 

あ・・・あぁあ・・・アズール様・・・っ!?

 

「ヴァルター、良く頑張りました。後は私に任せてください。」

 

アズール様が指をパチリと鳴らすと私の身体は瞬時に月光館の結界内に転移した。

 

アズール様の今の心情を垣間見た私は茫然自失となり思わず固まってしまう。

 

「ヴァルタァァ!!うぅぅ。良かったあぁ。良がっだよぉ。」

 

呆然とする私にルーミアさんが泣きながら抱きついてくる。

 

「大丈夫?ヴァルター?け、怪我は?」

 

そうルーミアさんが心配して声を掛けてくるが、私は何も反応できずにいた。

 

「ア、アズール・・・様?」

 

 

魔法使いの少女に向き合うアズール様の様子はいつもと変わらない、優しげな雰囲気。

 

 

しかし、微笑みを向けられた瞬間、私の能力で垣間見えたアズール様の心情はまるで、暗闇のように黒く、夜空の様に深い。

 

 

罪悪感という一つの心情に染まり尽くされていた。

 

 

 

 


Asyl(?) perspective

 

 

「・・・き、君は一体何者なんだい?」

 

そう怯えたような声を発する少女に目を向ける。

 

「・・・何者、ですか・・・まぁ、そうですね、今の私はアズール。月光館の主、吸血鬼のアズールを名乗っています。貴方は?」

「・・・君が月光館の主か。私の名前はキルケー。教会のトップの教皇をしている。」

 

そう言うとキルケーさんは拳に霊力、魔力を集中させ始める。

 

「なるほど、で、穏健派で知られる教皇の貴方が何故私達に積極的に攻撃を加えてきているのですか?」

 

そんなキルケーさんに言葉を続ける。

 

「組織の長というものは、時に全ての責任を背負い、勝てない負け戦にも挑まないといけないのさ。」

「・・・貴方はもう限界以上に力を使ってしまっているようです。魂の限界を越えた力の行使の代償として、今貴方には気が狂いそうな程の苦痛が与えられているはずです。これ以上力を行使すれば精神まで消滅して死んでしまいますよ?」

 

私が認識できる、魂の残り火を見れば彼女に死が迫っている事が分かる。

 

「そ、それでも、例え私という存在がいなくなってしまうとしても、親は子を護る者。子供達の為なんだ・・・これくらいの苦痛耐えれられない訳ないだろ!・・・わ、私が子供達を護らないといけないんだ!」

 

 

〖護る〗という言葉に私の魂がピクリと反応する。

 

 

・・・あぁ、そうか。

 

この人も護る者か。

 

 

だったら、救いの対象だ。

 

 

フラフラと飛びかかって来たキルケーさんの拳をひらりと回避し魔法を行使する。

 

「〖ラオムフェスト〗」

「なっ!!か、身体が動かない!」

 

空間ごと固まったキルケーさんは抜け出そうともがくが抜け出せない。

私はそんな彼女の頭にそっと手を置き、優しく撫でる。

 

「な、何を!?」

「貴方も辛い思いをしてきたのでしょう?あとは私に任せてゆっくりとお休み下さい。目が覚めたら全て終わっていますから・・・」

「え?・・・あっ」

 

傷付き壊れかけていた彼女の魂が、まるで何事も無かったかのように元通りとなり力が戻っていく。

 

「・・・あ・・な・たは・一体・・何・・を。」

 

力が戻っていくと同時にキルケーさんは昏睡し動かなくなる。

懐かしい力の行使に思わずクスリと笑ってしまう。

 

 

私の身体には()()()()使()()()()()により膨大な苦痛が蓄積されていき、魂が悲鳴をあげ始める。

 

・・・でも、今はただ、この苦痛が、酷く、心地良い。

・・・自分の魂の悲鳴に安寧さえ感じられる。

 

 

ふと、ヴァルターや、ここにいる皆を見回して見る。

 

ルーミアちゃんは普段、あまり涙なんて見せないのに、涙でいっぱいの悲しそうな顔で心配そうにこちらを見ている。

 

美鈴さんは外傷は無いが、霊力で縛られていた影響で動けずにいる。

 

そして、ヴァルターは弱々しく座り込み、こちらを唖然とした目で見ている。

 

先程までルーミアちゃんは自分の命を投げ出してまで、ヴァルターを助けようと結界から出ようとしていた。

 

先程まで美鈴さんは全身に痛々しい傷を負っていた。

 

それに・・・ヴァルターは、見るも無惨に大怪我を負い、胸を貫かれて・・・一時は死んでいた。

 

 

全ては私の失態だ

 

 

この不幸せな展開は全て私の慢心が招いた予定調和(モナド)だ。

 

 

責任を取る必要がある。

 

 

「・・・貴方達の物語は幸せでなければならないのです。」

 

 

私が犠牲になれば不幸せな物語が無くなると言うのなら、私は喜んでこの身を差し出しましょう。

創造されてしまった予定調和(モナド)を修正する為に喜んで(いしずえ)となりましょう。

創作されてしまった不幸せな物語を改稿する為に喜んで生贄(いけにえ)となりましょう。

 

 

なら、()()は今からでも遅くないはずだ。

 

 

()()()()()とこの世界での経験が、苦痛に躊躇う私を後押ししてくれる。

 

 

さぁ、1歩踏み出せば・・・

 

 

ほら・・・不幸な物語なんて・・・

 

 

どこにもありませんよ?

 

 

「だから、皆さん、幸せに生きてください。」

 

 

私の()()が正しく世界に適応されていく。

 

絶えず流転する時間に逆らってゆっくりと、着実に世界が改変されていく。

 

世界のありとあらゆる不条理が私の能力により、()()()()()()へと運ばれていく。

 

 

その瞬間、まるで心臓に杭を打たれたかのような激しい痛みを伴い、私の心が冷たく、重くなる。

 

 

・・・だが、何も問題はない。

 

 

・・・もし、これで私の心が壊れてしまったとしても、問題なんてあるはずがない。

 

 

だって・・・

 

 

この世界は・・・

 

 

こんなにも美しいのだから・・・

 

 

 

 

その日、その時間、その一瞬

 

世界から

 

ありとあらゆる不幸が消失した。

 

 

 

 

不幸な運命にあった人間、妖怪、全ての存在たちが等しく不条理から救われ、ありとあらゆる不幸が消失し、世界に幸せが生まれ始める。

 

私には世界を不条理、不幸から護り、世界に幸せを創造する為の素晴らしい、都合の良い能力がある。

 

 

 

(かば)う程度の能力

 

 

 

この能力を使えば、私が、私だけが犠牲となれば、全てを救う事ができる。

 

しかも今生の私の身体は死を中々受け付けない便利な身体だ。

 

通常なら気が狂う程の莫大な苦痛にもある程度耐えてくれる。

 

本当に都合が良い。

 

 

苦しい

 

悲しい

 

寂しい

 

怨めしい

 

妬ましい

 

殺意

 

怨恨

 

怨嗟

 

悔恨

 

憎悪

 

 

エトセトラ

エトセトラ

エトセトラ

 

世界のありとあらゆる負の感情が私の心に流れ込んでくる。

 

 

もう、自分が持つ感情なんてわからなくなるくらい、心が黒く染まっていく。

 

 

・・・でも、これで良い。

 

これ以上、不幸な物語なんて生まれさせない為にも、私は喜んでこのまま世界の不条理を背負い続ける()()となろう。

 

私は大罪人で、この世界にとってはただの無価値な()()()なのだから

 

 

これだけが私に残された唯一の贖罪なんだ・・・

 

 

今度こそ・・・最期までやりきらなければ・・・

 

 

そんな黒に染まった心から流れ込んでくる暗い思考に従って、さらに能力の適応範囲を広げ続けようとした私に不意に背後から声が掛かった。

 

 

「自己犠牲もいい加減にしてください。」

 

「あっ。」

 

背後から言葉を掛けられると同時に不思議な力に全身が包まれて意識が暗闇に落ちていく。

 

完全に意識が闇に閉ざされようとする刹那、ボヤけた視界に映ったのはとても懐かしい姿。

 

亀裂が走った空間から現れた彼女は美しい金髪に()()()()()()()()()()()()()をかぶっている。

 

いつも微笑んでいた優しげな彼女の顔は悲しそうに歪み今にも泣き出しそうだ。

 

「・・リベリー・・・さん・・・。」

 

そんな悲しそうな顔に懐かしさを覚えながら、私の意識は完全に闇に閉ざされた。

 

 




【後書き】
サブタイトル《Self-Sacrificing Asylum》は自己犠牲の庇護録と読みます。
さて今話は東方庇護録の一区切りのお話でした。

突然ですが、この東方庇護録、およびアズールのキャラ作りの参考にさせていただいている東方原曲があります。

それは『ヒロシゲ36号 ~ Neo Super-Express』です。
優しげでワクワク感もあり、哀愁も感じるこの名曲は、この物語を創作するにあたって作者にものすごく影響を与えています。
是非聞いてみてください。

今話はこの物語の根幹を担うもの。
プロローグとさせていただきました。
3章終幕でプロローグとは、どういうことだと思われる方もいらっしゃるとは思いますが、ご容赦ください。

そしてついに、主人公の能力が判明しました。

『庇う程度の能力』
この能力の詳細は後話で解説しますが、世界の改変を伴う非常に強力な能力です。
しかし、自身の利となる能力ではなく、誰かを護ることに特化した能力です。
八雲紫さんが考察していた『和ませる程度の能力』はブラフです。
ちなみに気付いている方がいるかも知れませんが、この能力のせいで、アズールは死神に狙われています。
実はそれ以外にも理由がありますが・・・
そのあたりの話も後ほど登場すると思われるのでお楽しみに。

さて第3章:夢幻館編はこれにて終幕です。
第3章の後半は少しシリアスが多めで、作者はシリアスアレルギーなので血反吐を吐きながら執筆していました。
後編からはまた、ほのぼのとした話がしばらく続くと思われます。・・・多分。

また、活動報告に今話の作業用BGMのプレイリストを作りました。
まあ今話は先程の『ヒロシゲ36号 ~ Neo Super-Express』Onlyですが神曲だらけなので是非聞いてみてください。



次は第4章に移る前に1度、これまでに登場したキャラクター詳細などの、補足をはさみます。
1週間以内には投稿できると思います。
これからもよろしくお願いいたします。
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