東方庇護録(旧作)   作:まほろばのーぶる

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※妖怪についての独自解釈があります。


第3話:狼男は檻の中~哭いて、縋って、諦めた~

Fallen werewolf perspective.

 

「お前をここから追放する」

 

まるで小さな子供の様な、あどけない可愛らしい声が部屋の中に静かに響き渡った。

私の行いに対する審判が下されたようだ。

その審判は私にとっては絶望的であり、異議を唱えたくなるものであったが、今までの事を思い返して必死で口を噤む。

 

そして、諦観に似た感情のままに、全身から力が抜けるかの様な虚脱感と共に前方、声の主の方にゆっくりと視線を向ける。

 

そこには、薄い青紫色の柔らかそうな髪を靡かせた見目麗しい少女の様な姿の子供が、跪いている私を美しい真紅の瞳で見下ろしていた。

その子供の背中には大きなコウモリのような翼が威圧的にはためいている。

 

一見10台前半の少女のようにも見える目の前の子供ではあるが、実際は私より遥かに長い年月を生きている大妖怪である。

 

その子供は見た目にそぐわない(おごそ)かな雰囲気で、ある意味死刑宣告とも取れる言葉を私に投げかけたのである。

 

いつもはお優しいこの方が追放するとまで言っているという事は、私はとんでもない事をしでかしてしまったようだ。

 

バラバラに散乱した紅い宝石が、跪く私の周囲でキラキラと瞬いている中、私の頭の中では今まで妖怪として生きてきた軌跡がまるで走馬灯の様に流れ始めていた。

 

 

 

 




 

 

 

私は遠い昔、満月の日に狼男としてこの世界に生を受けた。

 

満月の日に自然発生する妖怪の、狼男である私は直ぐ様、他の狼男達と共にとある集落で保護された。

 

狼男とは満月の月の魔力を数十年の年月浴びることで力を得て、〖人狼〗という妖怪に進化していく妖怪である。

人狼に進化した狼男は人間に化けて人里で暮らすか、私達を保護した集落のように人狼同士のコミュニティに参加し群れを成すか、大体はどちらかであるのだが、そもそも実際は人狼に進化する前に妖怪退治を生業とする人間達に退治されてしまう為、人狼に進化出来る狼男はほんのひと握りだけである。

 

その為、種の存続の為にも人狼達は私達狼男を保護し、妖怪退治を生業とする人間達から守っているのである。

私もそんな人狼達に守られる狼男の1匹であったのだが、私の運命は生まれてから初めての満月を目にした日から狂い始めた。

 

初めての満月の日、満月を目にした狼男達が力をつけていく中で私だけは、どうしてか月の魔力から少量の力しか得られなかった。

次の満月の日も、そのまた次の満月の日も、次の日も次の日も次の日も・・・ずっと。

私と一緒に生まれた周りの狼男が満月から力を得て人間に近い姿を得ていく中で、私は、私だけは原始の獣の姿のまま。

 

そうして何時まで経っても原始の狼男の姿のままである私は、同族から落ちこぼれのレッテルを貼られ、迫害を受けることになった。

 

そんな私を人狼達が受け入れてくれる訳もなく・・・

私は、檻の中に監禁され、首輪で繋がれ、生きる為に必要な最低限のものだけ与えられながら、生きていくこととなった。

 

首輪をはめられて身動きが取れなかった監禁生活は本当に辛いものであったが、1番辛かった事は誰にも必要とされなかった事。

一族の誰もが私を必要としてくれず、私の事を邪魔物として扱い、時には殴る蹴るなどの暴行を加えられる事もあった。

それでも、私は希望を捨てず、人狼になる事を諦めずに、檻に僅かに入ってくる月の光に縋り、誰かに必要とされる日々を夢見て生きてきた。

 

そして、監禁されている檻に射し込む満月の光を幾度となく見てきて、長い年月が流れた事を知った。

世代がいくつも変わり、新しい人狼達が次々に生まれていく中で私の姿は変わらず獣のままだった。

人間の姿の欠けらも無い、原始の狼男の姿のまま。

 

私の後に生まれた世代の狼男達が、落ちこぼれの私を(あざけ)りながら何世代も人狼へと進化していき、各々の道へと自由に生きていくのを何度も見送った。

その都度、『何故、私は人狼になれないのか。』『そんな事では狼男として生きている意味なんて無い』と自分を責めてきた。

何度も死にたい、消えていなくなりたいと思っていたが、同族達は残酷にも私を無意味に生かし続けた。

私が夢見た希望が絶望へと変わっていき、心も暗く、深く沈んでいった。

 

そうして、諦観(ていかん)だけが私の頭の中を支配し始めた頃。

生きる気力も無く、ただ漠然と生きていた私に転機が訪れた。

 

 

今まで、人間の襲撃が無く平和であった人狼の集落に突然、妖怪の根絶を目論む人間達の集団〖教会〗が攻め入ってくるという情報が入ってきたのだ。

教会に所属している人間達は人並み外れた力を持った者が多く、その力は人狼を遥かに上回るものであったため、自分たちだけでは集落を守れないと悟った人狼達は強力な妖怪に助けを求める事になった。

 

元来、力の弱い妖怪が強力な妖怪に自身らの庇護を求める際には貢ぎ物として同族を〖生贄〗と称して捧げる風習があった。

生贄として選ばれたものは、その強力な妖怪達の食事になるか、研究材料になるか、実験の被検体になるか、使用用途は様々らしいがどれもろくな物ではなく、大体が死に至るようだ。

 

もちろん満場一致で、生贄として私が選ばれた訳である。

 

この時の私は、生きる気力も無くなっていた為、生贄として選ばれた時も、特に何も思わず、やっと死ねるのかと少し安心感すら抱いていた。

 

そうして、私が生贄として捧げられたのはこの辺りでは最強の妖怪〖吸血鬼〗

 

そうして庇護を求めた吸血鬼はここら辺一帯を支配しているかなり位の高い吸血鬼であった。

 

かつて、かなりの数の人間や同族の吸血鬼までもがその吸血鬼の住まう館に侵攻したようだが、生きて帰ってきた者は誰一人としていないそうだ。

 

妖怪退治の集団〖教会〗からも、禁忌として、不可侵と指定されている程の妖怪側の大勢力だ。

 

そんな大妖怪の庇護のもと、妖怪退治の人間からの保護を求める為、私は手足を縛られ、その吸血鬼の目の前に生贄として差し出された。

 

実際にその吸血鬼を目にして、私は内心でとても驚いた事を覚えている。

見た目は完全に見目麗しい少女なのだが、その存在感は長い年月を生きた大妖怪そのものであったからだ。

そんな大妖怪の存在感に恐れおののいたのか、私を運んできた同族が文字通り尻尾を巻いて逃げていった。

人狼たちも私みたいな出来損ないを生贄として献上したとしても、吸血鬼は受け入れてはくれないのだろうと半ば諦めていたのか、清々しいほどの逃げっぷりであった。

 

そして、四肢を縛られて身動きが取れない私は、なすがままに無抵抗のまま、その吸血鬼にこう言った。

 

『何の役にも立たない愚かな私ですが、最期に貴方の役に立って死ねるのなら良いです。どうぞ、私の身体から魂に至るまで全てを差し上げます。』

 

そう言ってその吸血鬼の方を見上げる。

 

すると、私が持つ呪われた〖能力〗により、吸血鬼の顔色を伺った私にその吸血鬼の心情が流れ込んできた。

好奇心、不快感、そして少しばかりの同情心。

 

その吸血鬼が私に興味を持っている事に呪われた〖能力〗によって気が付いた私は驚きのあまり目を見開いて固まっていた。

今まで、人から好奇な目で見られる事はあっても、興味を持ってくれた事なんてなかったから、初めて受けた他者からの興味の心情に訳が分からずに混乱していた。

 

そんな私の呪われた能力は私が生まれた際に頭に浮かんだ自身の能力。

それを言語化したものが〖機微(きび)を悟る程度の能力〗。

 

この能力は他者の心の表面上では分かりにくい、微細(びさい)な心情を察する事の出来る能力だ。

 

何を考えているのか、全ての事が分かるわけではない。

でも、言葉に出していない他者からの誹謗中傷等、聞きたくないものまで聞こえてしまう、そんな能力である。

私はそんな、他者からの悪感情を察してしまう自分の能力を呪っていた。

 

そんな能力で垣間見えた、その吸血鬼から私に向けられた心情は今まで誰からも必要とされてこなかった私にとっては初めてのもので・・・

 

『我が館の番犬としてお前を雇おう。衣食住の面倒は見てやる。それと、たまに残念な悪魔の世話をしてくれたらそれで良い。』

 

そんな吸血鬼からの申し出に戸惑う。

 

『えっ・・・あ、私を雇ってくれるのですか?私を実験材料やご飯にするのでは・・・』

『何故そんな事をしなければならないのだ・・・。まぁ良い。もうお前は人狼達の庇護の対価として捧げられたのだ。何もしておらぬのに尻尾を巻いて逃げられては少しばかり不快ではあるが・・・。お前に拒否権などない。今日からお前は我が館〖紅魔館〗の番犬だ。我の事はスカーレットと呼ぶが良い。』

『か、かしこまりました、スカーレットお嬢様。』

 

そうして、私はまるで運命を操作されているかのごとく、不思議と抵抗なく紅魔館の番犬としての新たな運命を受け入れた。

 

『・・・我はお嬢様ではない。男だ。スカーレット伯爵と呼べ。』

『え!?っあ、はい。申し訳ありません。スカーレット伯爵。』

 

そうして、私はその日から、スカーレット伯爵が住まう()()()と呼ばれる館の門番の番犬として生きる事になったのである。

 

その後、私を生贄に捧げた同族達は、スカーレット伯爵の庇護を受ける前に、教会の人間に襲撃され、集落は壊滅し狼男達は一匹残らず退治されてしまったようであるが・・・まぁ、私にとってはどうでもいい事である・・・。

 

 

番犬としての生活は今までの生活を考えると、とても待遇がよかった。

 

侵入者は皆無だし、食事は3食出るし休みもある。

私にとってはとても過ごしやすい居場所だった。

なにより、私に番犬という役割まで与えられたのだ。

他者に必要とされたかった私にとっては幸せな毎日だった。

まさしく、スカーレット伯爵と出会った、あの日は運命の日だった訳である。

 

 

 

しかして、運命は(めぐ)る。

 

 

 

私が紅魔館に来て60回目の満月の日。

 

与えられている部屋で休息をとる私のもとへ、スカーレット伯爵が来られた。

突然の訪問にビックリしたがすぐさま跪く。

 

「休んでいるところすまないが地下の書庫に行って、魔導書を取ってきて欲しい。」

 

・・・魔導書を取りに行く事くらい普段なら伯爵自らが行く事が多いのだが、どうしたのだろうか?

 

疑問を持つが、スカーレット伯爵には私を拾って下さった恩がある、断るなんてする訳がない。

 

すぐさま「かしこまりました」と了承(りょうしょう)し、持ってくる魔導書を聞き、書庫へと向かう。

 

紅魔館の書庫は所狭しと並ぶ、魔導書などの本に埋もれた少し大きめの部屋だ。

 

そこには紅い髪色の残念な悪魔が司書(ししょ)として居るのだが、今日は珍しく留守(るす)のようだ。

 

頼まれた魔導書を自前の空間倉庫にしまう。

 

空間倉庫とは魔法の1種で自らの魔力で別空間にスペースを作り、そこに物などを収納する魔法だ。

 

たまに番犬の様子を見に来る、書庫の司書である紅い髪色の残念な悪魔に教わった。

 

その代わり、耳としっぽを馬鹿みたいに()でられるが……。

 

まぁ、他にも色々と魔法を教わったため、良しとする。

 

頼まれていた魔導書を全て空間倉庫にしまい伯爵の元に帰ろうとした時、ふと視界に紅い綺麗な宝石のような物が映り、足を止めた。

 

その宝石に近付いて、よく見てみる。

・・・とても綺麗だ。

 

不自然に置かれている宝石に疑問を持つことなく見惚(みほ)れる。

 

自分事ではあるが、私は紅い色が好きだった。

 

だから紅い色を基調とした紅魔館は私にとって居心地の良い場所であったのだ。

 

気付いた時には、紅い宝石に手を伸ばそうとしていた。

 

「何をしている?」

 

突如後ろから聞こえた声に、心臓が跳ねる。

 

ガシャン

 

ビックリした拍子に満月の日で少し力が増していた私は、誤って宝石に手が……というか肉球が触れ、宝石が派手に吹き飛んだ。

 

やってしまった。

 

そう思い、伯爵の方を伺う。

伯爵は別段驚いたりすることはなく、口を開いた。

 

「それを壊した事は見逃してやる。だが……、お前をここから追放する」

 

紅い宝石がとても大事なものであったようで、スカーレット伯爵は淡々と魔法の詠唱(えいしょう)を始める。

 

急な展開にビックリしたが、その詠唱を聞き、転移系の魔法である事に気が付いた。

 

そうして自分が追放されるのだと、改めて認識する。

 

「では、何か言い残す事はあるか?」

 

スカーレット伯爵は詠唱を終え、私に問いかける。

 

やっぱり、私は足でまといで何処までいっても落ちこぼれ。

誰もこんな私を必要だなんて思ってくれるはずがない。

 

でも・・・

 

「今まで、お世話になりました」

「 ……ほう。(いさぎよ)いな。てっきり理不尽な追放に、恨み言を言われるかと思ったが……」

「スカーレット伯爵には、身寄りのない自分を拾って頂いた御恩(ごおん)があります。感謝しても、恨むなんて事はございません」

「加護が届かない地で死ぬかも知れぬのだぞ?」

「それでもです」

「……ふむ。やはり、お前は面白いやつだな。拾って得をしたな。安心せよ。お前の運命はこれからも明るくなっていくぞ。」

「えっ?伯爵様?」

 

何故か、面白がっているかの如くニヤニヤと笑みを浮かべている伯爵。

 

伯爵の言っている言葉の意味が分からず、混乱する私に、転移魔法が発動する。

 

「では、お前のこれからの運命に期待している」

 

伯爵の最後の言葉に乗せられた心情は、どこか嫉妬や期待が入り交じったかのようでいて、心情を読み取った私にも言葉の真意はさっぱり分からないままであった。




すみません。
改稿の結果、文字数が多くなりすぎたため、急遽話数を変更して新規に1話挿入しました。
ややこしくてすみません。
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