東方庇護録(旧作)   作:まほろばのーぶる

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第29話:胡蝶の夢~砂上の楼閣~



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夢違えて。

 

幻であった、朝露(あさつゆ)の世界の記憶は。

現(うつ)し世では、崩れゆく砂の上に。

 

垣間見えた古(いにしえ)の幽玄(ゆうげん)の世界の歴史は・・・

空夢(そらゆめ)であったのだろうか・・・

 

・・・白日(はくじつ)は、幻想の世界を、照らしてゆく。

 



 

『いよいよもって暗くなってきたし、お目当ての逢魔が時が近付いてきたよ。』

『そ、そうね・・・』

『メリー?大丈夫?顔色悪いしすっごい震えてるけど・・・もしかして怖くなっちゃった?』

『ち、違うわよ。た、ただちょっと肌寒くなってきたから震えてるだけよ・・・』

『あははは。メリー?私はこのままでも嬉しいんだけどそんなに引っ付かれたまま歩いてると2人まとめてドミノ倒しみたいに転けちゃうよ?』

『こ、これは、け、決して怖いから蓮子に引っ付いてる訳じゃなくて・・・』

『ははは。分かってるよ。肌寒いから人肌で暖めて欲しいんでしょ?意外とメリーはむっつりさんだからな〜』

『ち、ちがっ!?う、うぅ〜、ぜ、全然分かってない!!』

 

日が落ちて薄暗くなってきた細道を2人の少女が和気あいあいとお喋りしながら歩いている。

 

『先生は大丈夫ですか?』

『先生!私はむっつりなんかじゃ無いですからね!!』

 

イチャイチャと仲が良さそうな2人の少女は私の方に振り返って声を掛けてくる。

 

『私は今日もイチャイチャしてる百合っ・・・お2人を見れて幸せに浸っていますよ〜』

『ち、違っ!?先生!?な、何を言ってるんですか!?』

『先生!?な、何言っちゃってんの!?』

 

声を掛けられた私は正直に自分の心情を吐露する。

イチャイチャしていると言われた仲良しな2人は2人ともに顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。

あぁ、2人とも超可愛い・・・

 

 

今回、私達3人が向かっているのはとある有名な僧侶が埋葬されていると言われている墓地。

 

何故薄暗い夕暮れ時にそんな薄気味悪い墓地へ向かっているのか。

私達を客観的に見れば、怖いもの見たさに肝試しをしようとしている人のように映るだろう。

 

でも、ただの肝試しの為に行くわけでは無い。

言うなれば、冥界との交流を本気で考える肝試しをする為に私達は墓地に向かっているのである。

 

先頭を歩く黒髪の少女が振り返り、私と金髪の少女に話しかける。

 

『冥界という場所は、確かに存在するんだよ。そこでは、彼岸で閻魔様の裁きを受けて罪の無かった死者が成仏するか転生するまでの間を幽霊として過ごしているのさ。』

 

今、私達3人がここにいるきっかけを作った、凄まじい行動力のある黒髪の少女が興奮したように、早口で捲したてる。

 

興奮しすぎているのか、白いリボンがくるりと回って結んである、特徴的な帽子が少しズレている。

 

余りの早口に苦笑し、ズレた帽子を直してあげながら、言葉を返す。

 

『・・・面白いですね。輪廻転生だなんて、御伽噺(おとぎばなし)の中での話かと思いましたよ。』

 

空は茜色に染まり、地上に咲いている美しい彼(・)岸(・)花(・)達を更に美しく赤に染め上げる。

 

季節は1(・)1(・)月(・)。

肌寒くなってきた秋の季節、冷たい風がひゅるりと私達3人の間を通り過ぎ皆ぶるりと震える。

 

秋空の今日は空が暗やむのは、恐らく早いのだろう。

もう夕焼けを通り越して、子焼けになった空の下で、楽しくおしゃべりしながら墓地への道のりを楽しむ。

 

今から向かう先が、墓地だと分かっているからか、余り乗り気じゃなさそうな金髪の少女が黒髪の少女に言葉を返す。

 

『ある国の思想では、限りなく生と死を繰り返す輪廻(りんね)の生存を苦と見て、二度と再生を繰り返すことのない解脱を最高の理想とすると言われているのよ。』

 

肌寒くなってきたからか、彼女は暖かそうなふわふわした服装を着て、まるでドアノブカバーのような、特徴的な帽子を着ている。

 

乗り気じゃなさそうな彼女も、やっぱり皆で探検に行くのが楽しいのか、年相応のワクワクしてそうな顔をしている。

 

いつもは大人しいこの子も、今の面子では少し声色高くおしゃべりを楽しんでいるようだ。

 

『なにそれ?メリーはいつも難しい事言ってばっかりだね。』

 

黒髪の少女は話に興味が無い、といった様子で手をブラブラと振る。

 

『もうっ。蓮子も、ひもばっかりにかまけてないで、精神学を嗜(たしな)んでみなさいよ。』

 

自分の話を無下にされた金髪の少女は、むっとした様子で口を尖らせて文句を言う。

 

『ひもなんて、勘違いしそうでややこしい言い方しないでよ!超弦理論!!!・・・簡単に言うとね、物理学を極めていくと最終的には弦(ひも)にたどり着くの。時間の最小単位である、フェムトあるいは須臾(しゅゆ)っていう言葉があってね、須臾っていうのは・・・』

『はいはい!分かったわ!蓮子!話しすぎよ!次は私の番。さっきの思想の話なんだけど、つまり簡単に言うと二度と世界に戻れなくなる事がその国の思想的には最高の思想だという事よ。』

 

少女達はやいのやいのと言い合いを始める。

自分達の専門の話をお互いがするもんだから、話は合っていないように見える。

それでも不思議とお互いの話が合致しているような気もするし、言い合ってるけどお互い楽しそうだ。

 

私には余り、学がなかったからか、2人が話している内容は正直ちんぷんかんぷんだ。

・・・でも、そんな仲良く言い合っている2人を傍観するだけでも、私は満足だ。

 

『ますます、意味が分からないよ。思想なんて、他者が決める事じゃない。自分の、自分だけの思想をもたなきゃ。』

 

『・・・まぁ、そうなのだけれどね。そういう話じゃなくって。』

 

ワイワイ言い合いをしている2人を見て、私は微笑ましく思い、苦笑いしながら会話に混ざる。

 

『でも、世界に二度と戻れなくなるのは嫌ですね。来世があるのなら、こうして2人がイチャイチャしてるのをどうか来世でも見守っていたいものです。』

 

そんな言葉にワタワタと慌てた2人が恥ずかしそうに声を揃えて答える。

 

『『もうっ。先生ってば、そんなんじゃないって!!』』

 

空が茜(あかね)色に染まる中、その時の2人の顔も真っ赤に染まっていた。

 

 

・・・もう、本当に、この子達は愛らしいですね。

ついからかいたくなってしまう。

 

『さて、2人とも。そろそろ目的地の〖蓮台野〗ですよ。あ、でも、私一応引率みたいなものですし、簡単な注意をしておきますね・・・。1つ、周りに迷惑が掛からないように話し声は小さく、2つ、ゴミは持って帰るように、3つ、墓地はなるべく荒らさないようにしてくださいね。でなければ〖西行法師〗さんが化けて出るかもしれませんよ〜』

 

一応、2人に墓荒らしをしないように注意する。

 

『先生。その忠告の仕方だと、私達には逆効果ですよ。私達は色々な秘密を暴く活動をしてるのだから。幽霊なんてどんと来いですよ。ね?メリー?』

『うぇ!?・・・う、うん。そうね・・・ゆ、幽霊なんてこ、怖くないわ!』

 

行動力の塊の蓮子さんには、この忠告の仕方は駄目だったかな?

 

逆にマエリベリーさんには効き過ぎたみたいで、平気な振りしながら、少し震えて顔を青ざめさせている。

・・・ちょっと脅し過ぎちゃったかな。

 

『マエリベリーさん。ごめんなさい。そこまで怖がらせるつもりじゃなかったのですが、言い過ぎてしまいました。』

『え!?い、いや、・・私は怖がってなんかいませんけど!?・・・ほら、先生!蓮子!時間に間に合わなくなっちゃうよ!早く行きましょ!』

 

そうして、足早に進むマエリベリーさんに、蓮子さんと私は肩をすくませてニヤニヤと微笑みながら一緒に歩き始める。

 

この探検は彼女達の〖眼〗が無ければ成立しない。

だから私はただ、2人を傍観しているだけだ。

 

今までも、これからも変わらずに・・・

 

 

そして、その日、〖蓮台野〗で、私は彼女たちの目を通して初めて幻想を見た。

 

 

マエリベリーさんが蓮子さんに驚かされて錯乱し、彼岸花に囲まれた墓石が動く。

 

その瞬間にこの世のものとは思えない程に幻想的な桜の景色を垣間見た。

その桜は現実には存在し得ない大きさの桜であり、とても美しい桜だった。

 

一瞬だけだったが、垣間見(かいまみ)えた、その桜は、桜から溢れていた〖死の気配〗共々凄く幻想的で、感動した事を私はずっと覚えている。

 

 


 

 

そんな思い出深い墓荒らしから、幾つかの月日が経った頃。

本格的に寒さが猛威(もうい)を振るうようになってきた時分(じぶん)。

紅葉も、もう終わろうとしていた、そんな時。

 

また、蓮子さんに集合をかけられた私とマエリベリーさんは待ち合わせの場所で彼女を待っていた。

 

私とマエリベリーさんは待ち合わせ時間の10分前までには集合するのだが、集合をかけた本人が待ち合わせの時間に遅刻するのは良くある事だし、もう慣れっ子だ。

 

『遅くなってごめん!』

『2分19秒遅刻。』

 

慌てた様子でやって来た蓮子さんにマエリベリーさんは、ジトっとした目を蓮子さんに向ける。

 

『ごめんってば・・・っと、そんな事よりメリー!先生!』

『そんな事って・・・』

 

切り替えが早い蓮子さんに、マエリベリーさんは呆れ顔、私は苦笑する。

 

そんな私達に、蓮子さんは1枚の写真を見せながら提案してくる。

 

『今度は博麗神社にある入り口を見に行かない?』

 

 



 

私は幸せだった夢を見続ける。

 

この夢は夢か現か。

それとも砂上の楼閣なのか。

 

それでも、ただ目が覚める、その時まで。

私はこの胡蝶の夢を楽しもうと思う。

 



 

 

『・・・そうそう、それでね。昨日はこんな夢を見たのよ』

 

いつものごとく集まった私達3人の中で、マエリベリーさんが、話を切り出す。

今日は珍しく、蓮子さんではなく、マエリベリーさんが、集合を掛けていた。

 

『・・・って、また夢の話なのぉ?』

 

蓮子さんが嫌そうに、苦虫を噛み潰したような顔で、ぐたりと机に倒れ掛かる。

 

『・・・ねぇ、メリー。他人の夢の話ほど、話されて迷惑な物はないわよ?』

 

顔を伏せながら言う蓮子さん。

 

私は、夢の話をするマエリベリーさんを不思議に思っていたが、彼女が真剣そうな顔をしている事に気付き、黙って話を聞く姿勢になる。

 

『どうしたの?メリー?』

 

顔を上げた蓮子さんも、マエリベリーさんの顔を見て心配そうに声を掛ける。

 

そんな言葉にマエリベリーさんは言葉を返す。

 

『お願い、貴方達に夢の事を話してカウンセリングして貰わないと、どれが現の私なのか判らなくなってしまいそうなのよ。』

 

 


 

 

その後、語り始めた彼女の夢の話は凄く幻想的で、不思議なくらいに現実味を帯びていて、聞いていて、少し怖かったのを覚えている。

 

深い緑の向こうにあった真っ赤なお屋敷。

そのお屋敷の周りの、深い緑色と、白く輝く湖。

 

微妙に傾斜がついている平衡感覚を狂わせる竹林を走る夢の中の彼女。

 

そんな竹林で見た、全身が炎に包まれた女の子。

その女の子の体からは深い紅色の炎が斜め上に広がって、まるで羽を開いた鳥の様に炎が形を持っていたらしい。

その女の子は凡(およ)そ人間ではないのだろう。

 

そんな、幻想的な風景を見た彼女の眼を羨ましく思いながらも、またいつもの、ただの夢なのだから、そんなに真剣になる事だろうか、と疑問に思う。

 

すると、彼女がその疑問の答えを提出した。

 

『これが、紅いお屋敷で頂いたクッキーと、竹林で拾ってきた天然の筍(たけのこ)よ』

 

それらの夢の中から、彼女が持ち帰ったらしいクッキーと成長し過ぎて、硬くて食べられないだろう筍を持ち出して机の上に置いた。

 

ん?

夢の話じゃないのですか?

 

『うん? 夢の話じゃなかったの?メリー?』

 

私と同じ疑問を蓮子さんが問いかける。

 

『夢の話よ。さっきからそういってるじゃないの』

『・・・夢の話なのに、何でその夢の中の物が現実に出てくるの?』

『だから、貴方達に相談してるのよ』

 

・・・つまり、夢の中で手に入れた物を現実に持ち帰ってしまって、今が、夢か現か分からなくなってしまっていると言う事なのかな?

 

勿論、今マエリベリーさんと相対している私は現実の私・・・のはずだ。

それなのに彼女の手にあるのは幻想のはずだった夢の中の産物。

 

 

蓮子さんと顔を見合わせて考えてみる。

 

 

私達が彼女へのカウンセリングとして考えられる手段は二つ。

 

夢の中から持ち帰った幻想の産物を全て捨てて、完全に夢、幻であったと思いこませる方法。

夢と現、幻想と現実は別物なのだと伝え、夢から目を覚まさせる方法。

 

もう一つの方法は、その夢の世界は夢ではなく、実際に別の世界にいるのだ、と強く意識させて、幻想を現実だと意識させ、幻想の現実の中で目を覚まさせる方法。

ただ、この方法だと、夢の世界から現実の世界へと帰れなくなる可能性もある。

 

どちらを選ぶべきか。

 

 

私は、蓮子さんの判断に全てを委ねた。

私は悪魔で、傍観者。

この子達を見守りはすれども、その在り方に手を出してはいけない。

 

 

そして、彼女達が選んだ道は・・・。

 

 



 

夢違えて。

 

幻の紅の屋敷の美しい色彩(しきさい)は。

現し世では、崩れゆく砂の上に。

 

聞いていた、古の美しき都の御伽噺(おとぎばなし)は。

空夢であったのだろうか。

 

白日は、幻想の世界に沈んでゆく。

 



 

 

『自己犠牲もいい加減にしてください。』

 

マエリベリーさんが目に涙を溜めて、怒っている。

普段、声を荒らげて怒る事なんて一切なかった彼女の言葉に少し驚く。

 

マエリベリーさんがきめ細かな美しい金髪を揺らして再度口を開く。

 

『・・・ごめんなさい。先生は何も悪くはないんです。・・・私と蓮子が先生を危険に巻き込んでしまった。・・・こんな事になってしまった責任は、全て私達にあるんです。・・・この運命は本来は私達だけが背負うべきなんです。・・・だから・・・』

 

そんな彼女の言葉に私は言葉を返した。

 

『マエリベリーさん。貴方達は子供で、まだまだ知らない事だらけなんです。子供がしてしまった事の責任を取る義務があるのは、大人です。・・・そして私は貴方達の先生、つまり大人です。だから、全て私に任せて下さい。』

 

そんな私の言葉に、もう1人の黒髪の少女が声を大にして叫ぶ。

 

『待って!・・・先生だって、私達とそんなに歳変わらないじゃん!やめて!先生、私達はこうなる覚悟も出来てたんだよ。その覚悟に先生だけが責任を取る必要なんかないって!』

 

蓮子さんの言葉にニコリと微笑みで返事をする。

 

『私はただ、貴方達2人にどんな世界でも、いつか必ず再会して、仲良く生きていて欲しいだけなんです。〖傍観者〗である私が望むのはただ、それだけ。・・・さぁ、良い子は寝る時間ですよ。後のことは私に任せて、少しばかり悠久の時間をおやすみなさい。』

 

スっと2人の頭に優しく手を乗せて、ゆっくりと撫でながら、能(・)力(・)を(・)行(・)使(・)す(・)る(・)。

 

撫でるに従って、2人はまるで、抗いようのない睡魔(すいま)に襲われるが如く、フラフラと足元がおぼつかなくなり、瞼(まぶた)が閉じてゆく。

 

『貴方達は私が護りますから、だから、ゆっくりと寝ていて下さい。起きる頃には全て終わっていますから。』

 

『い、嫌・・だ。先生は、絶対に失いたくない!』

『くっ、メリー!能力を!早く!』

 

マエリベリーさんが、何かしらの能力を行使しようとする。

 

『な、な・・んで、の、能力が上手く・・・』

 

マエリベリーさんの能力による干渉は私にその効果を及ぼさずに失敗する。

 

傍観者である私は、能力による直接的な干渉を受け付けない。

 

『そんな顔しないで?・・・大丈夫。大丈夫。私に任せて、良い子だから、みんなおやすみ。』

 

『くぅ。・・・だめ・・・意識が・・・。』

『メリー!・・・くっ!・・・先・生!』

 

2人は、襲い来る睡魔に意識を保つのは、もはや限界のようだ。

・・・そうだ。

別れの挨拶をしないと・・・。

 

『私は貴方達の居場所を、時間を、世界を護ります。だから、さようなら。元気でね。』

 

『ま、待って、せん・・・せ・・・おね・・がい、生き・・・て・・せん・・せ・・。』

 

『くぅ、せんせ・・い。あな・・たは、わたし・たちに・・とって・・大切・・・な、・・・だから・・生き・・・て。』

 

そう言う彼女達の顔は涙に濡れ、悲しい顔をしていた。

 

そんな、途切れ途切れに、確かに聞こえる私を擁護(ようご)する言葉。

そんな言葉に絆(ほだ)される、私を、私自身が許さない。

 

 

許されるわけがない。

 

 

崩れ落ちた2人を優しく支え、そっと床に寝かせる。

 

2人とも、体の端々から光の粒子が、まるで体から抜け落ちるかのように飛んでゆく。

 

まるで、この世界の、この物語のキャストから、儚(はかな)く消えてしまうかのように。

 

まるで、世界に存在を確立させる事が、困難になるかのように。

 

存在が抜け落ちるかのように、徐々に光となって空へと消えてゆく。

 

たくさんの小さい綺麗な光が瞬(またた)いている。

 

そんな、綺麗な光達に包まれて、私は、世界に乞(こ)い、願う。

 

ーーーーーー。

 

そんな願いは、私が手に入れた、もう1つの能力を正しく世界に適応させていく。

 

私の周囲で瞬く光が一段と数を増す。

 

それに従って、この世界での、私の記憶が、泡沫(ウタカタ)のように、浮かんでは、消えてゆく。

 

私の視界が暗転してゆく。

 

 

そうして、舞台からキャストが全員居なくなり、私の物語は幕を下ろした。

 

最後には3人ともに居なくなってしまった、この物語。

 

それでも、この物語はハッピーエンドで終幕となったのだと思う。

 

世界からの粋な計らいか、来世で、彼女達が再会し、幸せになったのだと、幻視できたのだから。

 

私は安心して、身体も魂すらもなくなった〖無〗を受け入れる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『早く・・・起き・・・・・・・』

 

無を受け入れ、静かに眠っていた私に声が聞こえてくる、

誰かの、泣いている声が聞こえてくる。

 

「寂しい・・。寂しいよぉ。・・・・様ぁ。」

 

誰だかは分からないけれど、その女の子は心の底から悲しそうに泣いている。

・・・なんとかしてあげたい。

 

不思議と、この子が泣いているのを聞くと、どうにかして泣き止ませてあげたい、という気持ちが強くなる。

 

でも、私には身体は無いし、抱き締めてあげることもできないんだ・・・。

 

だから、目も見えないのに、傍観するしかないんだよ・・・。

 

ごめんね。

 

『うぇ・・・うわぁぁぁん、アズール様ぁ。』

 

勢いを増していく、女の子の泣き声。

 

・・・泣きついているのはアズールという人なのだろうか。

 

偶然にも、彼女達に名付けてもらった、オンラインゲームで使っていたアバターの名前と同じ名前だ。

 

アズール・・・アズール・・・アズール。

 

その名前を何度も心の中で繰り返す。

 

・・・アズール。

・・・私はアズール・・・なの?

 

アズールとして生きてきた幻想の世界の記憶が徐々に想起されてゆく。

 

垣間見えた古の幽玄の世界の歴史。

聞いていた、古の美しき都の御伽噺。

 

私が見ていた空夢が、現であったのだと、認識する。

 

認識してから、急速に現へと五感が戻ってきた。

 

 

でも、記憶だけは、まるで、私とアズールでとりかえっこするかのように、先程まで追体験していた、前(・)世(・)の(・)記(・)憶(・)が消えて、アズールの記憶が戻ってくる。

 

ピシピシピシピシ

 

完全にこっちの世界に帰ってきた私が、まず初めに考え、行動した事。

 

パリパリパリパリ

 

それは、泣いている女の子を慰める事だった。

 

ぺたりと床に座り込んで、泣きじゃくる、私の執事を優しく抱き締めて言葉を掛ける。

 

 

「そんなに泣いて。どうしたのですか?」

 

 

 


It was Asyl? point of view

 

 

 

 




〖後書き〗
という事で、シリアスパートが2話連続で続いてしまい、シリアスアレルギーの作者は蕁麻疹が出そうです。

今話は今までで、1番難解であった話ではないでしょうか。
作者も、今話を執筆するに当たって何度も改稿を繰り返し、いわゆる難産と言うものでした。

皆さん、ここまで、読まれた方はもう察してはいるとは思いますので、ぶっちゃけて言いますが、庇護録の物語にある、根幹は『秘封倶楽部』にあります。

今話はそんな原作に準拠する内容がちらほらと、ある話でした。
途中、東方原曲の中で唯一歌詞のある秘封倶楽部の神曲『童祭 ~ Innocent Treasures』の歌詞内容から引用させていただいた言葉があります。

本当は楽曲コードなど、載せるべきなのでしょうが、JASRAC様にもNexTone様にも、見当たらない為、この場で紹介させていただきました。

さて、今話での、作業用BGMには、先程挙げた、
東方アルバム:夢違科学世紀 ~ Changeability of Strange Dreamより
『童祭 ~ Innocent Treasures』。

DOVA-SYNDROMEより
しゃろう様が手掛けるフリーBGMから『神隠しの真相』を作業用BGMに使用させていただきました。

どちらも、感傷に浸れる素晴らしい神曲ですので、是非聞いてみて下さい。
活動報告にプレイリストとそれぞれの曲についての簡単な自己解釈や、感想を書きますので、よければ、見ていってください。

あと、通算UA15000、お気に入り登録200件突破しました!!!
ありがとうございます!!!
たくさんの方に見てもらえて、作者は喜びのあまりゲロ吐いてはしゃいでました(実話)。
これからも、庇護録の物語は続いていきますので、どうか宜しくお願い致します。
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