東方庇護録(旧作)   作:まほろばのーぶる

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第5章:夢幻の世界~胎児よ胎児よ何故躍る~
第34話:賢者の思惑、強者の心~神隠しの主犯と眠れる恐怖~



Yuka perspective

 

森羅万象、所持万端(しょじばんたん)

この世の生きとし生けるありとあらゆる存在は、往々(おうおう)にして時間という水を得て、命を芽吹かせ、やがてはつぼみを経て、花を咲かせる。

 

そして、美しく世界に愛嬌(あいきょう)を振り撒く花達は皮肉にも、与えられる水によってジワジワと枯れていく。

 

どんな花も、全てが等しく世界から命が与えられ、皆が与えられた命を大事に背負い、そして最期には儚く美しく散ってゆく。

 

遥か昔から何度も何度も繰り返されてきた儚くも美しい花達の物語。

 

私は、そんな美しくも儚い花達の物語を見守る事が好きだった。

 

 

今まで色々な花を見てきた。

 

グループから(はぐ)れ、主からも捨てられて、つぼみのままに枯れゆく花。

適度に肥料と水をあげると、愛おしく綺麗な花を咲かせてくれた彼岸花。

 

生まれた時から忌み嫌われ、孤独に苛まれ、つぼみのままに枯れゆく花

友人の見様見真似で温もりを与えつつ水をあげると、愛おしく綺麗な咲かせてくれた胡桃の花。

 

自分の世界に閉じこもり、外の世界を恐れ、つぼみのままに咲き誇っていた2輪の花。

でも、私はそのエーデルワイスの花達が、1歩1歩着実に外へと踏み出そうとしている勇気を秘めている事を知っている。

 

 

そして、最近になって初めて出会った、見た事も聞いた事もない可愛らしい白い花。

その少女は私に向かって、こう言った。

 

ーーーじゃあ、私達お友達ですね。

 

初めて会った私に向けて、満面の笑顔を咲かせてくれた不思議な花。

 

その言葉と不思議な温もりの気配で、はたと気がつかされた。

 

 

私も、また皆と同じ花なのだと。

 

 

はるか昔から、途方もない年月をかけてゆっくり・・・ゆっくりと。

 

知らず知らずの内に枯れかけていた私に不思議な温かい水をくれた不思議な少女。

 

少女と一緒に居た時間は少なかったけど、不思議とそれだけで私の魂に得体の知れない温かな何かが浸透していき、乾いていた魂に潤いを取り戻す事ができた。

 

そんな不思議で得体の知れない少女は、美しくも、それ以上にとても不思議な雰囲気を纏っている・・・長い年月を生きてきた私ですら今までに見た事もない花だった。

 

その花の纏う温かで得体の知れない雰囲気はまるで、常に枯れているような、いつ枯れおちてもおかしくない様な危なげで儚い雰囲気で・・・。

 

 

ゴフッ

 

 

突然純白の花が、鮮血に染まってゆく。

鮮血の紅に染まった彼女は驚く私と吸血鬼の友人に向けて、取って付けたような仮初の笑顔を咲かせた。

 

ーーー別に大した事じゃありません。私が血を吐いたということはつまり、大した事じゃなくなって一安心といったところです。

 

彼女は、静かにそう言った。

 

・・・正直、その時の私はその言葉の意味をまったく理解する事ができなかった。

 

どうして、血を吐いて苦しそうにしているの?

 

どうして、そんな仮面の様な笑顔を咲かせるの?

 

どうして、今にも泣き出しそうな悲しげな声をしているの?

 

疑問は浮かぶが、その疑問を彼女に問いかける事は出来なかった。

 

そして、彼女が居なくなってすぐ。

 

世界が突如、少女の纏っていた得体の知れない不思議な温もりに包まれた。

 

母も知らない妖怪であるはずの私が、まるで、母の温もりを感じるかの如く。

そんな、得もいえない不思議で得体の知れない感覚。

寸刻もすれば、消え失せてしまったけれど、確かに感じた絶対的な抱擁感。

 

今まで見た事ないくらいに、慌てる友人の吸血鬼とともに、彼女が向かった館へと向かう。

館に到着して目に映ったのは地面に横たわる、先程の可愛らしくも儚い花。

そして、横たわる彼女の周りで泣き崩れている小さな花達。

 

そんな花達が彼女の名前を叫ぶ様に呼んでいるが、ついには彼女が目を覚ます事はなかった。

 

 

それからは、慌てふためく吸血鬼夫婦や悪魔達が、深い眠りに落ちた彼女を救う為にありとあらゆる手法を用いて尽力した。

 

状況証拠から分かった、彼女が為し遂げようとした事。

 

そして、絶対的で恐ろしく、同時にとても悲しい彼女の能力。

 

その全てを理解し、得体の知れなかった純白で不思議な儚い花が狂気に支配されている事を知った。

 

どんな花も、全てが等しく世界から命が与えられ、皆が与えられた命を大事に背負い、そして最期には儚く美しく散ってゆく・・・と思っていた。

 

でも、彼女は違った。

 

与えられた命を、全て等しく世界に還元し、常に儚く散り続けている。

 

まるで散る事が自分の運命だとでも言うかのように、自身の命を軽々しく他者へと運ぶ。

 

 

どうして?

 

なぜ?

 

湯水の如く湧き出る疑問は尽きる事を知らない。

 

私は足(しげ)く、眠っている彼女の元に通い、時には彼女の周りに咲く小さな花達に肥料と水をあげながら彼女を待ち続けた。

 

自分の内で燻る疑問の答えを彼女に問う為に・・・

 

でも、肝心の彼女はいつまで経っても目を覚ましてくれない。

 

まるで、夢の世界で迷子になってしまっているかのように・・・

 

 

 


 

 

 

「幽香さん。今日はチルノ達の修行の日なのです。私も久しぶりに幽香さんとお手合わせしたいのです。」

「うぇ〜。よく言いますねぇ、くるみちゃんは。私は絶対に嫌です。」

「あら、良い機会ね。くるみとエリー、2人まとめて相手してあげるわね。」

「やったのです!」

「うぇ!?な、なんで私まで巻き込まれてるんですかぁ!?」

 

彼女が眠りについてから5年の年月が流れた。

その日はいつものように、くるみとエリーを連れて、彼女がいる月明かりが消えた館に向かっていた。

 

ほのぼのとした、会話の花を咲かせながら進む楽しかった夜の空。

 

 

ふと、闇夜の空がいつもよりも低く、そして深く、濃い事に気が付いた。

 

 

「・・・2人とも、地上に降りて離れていなさい。」

「えっ?突然どうしたのですか?幽香さん。」

「良いから、早く離れなさい。」

「・・・分かりました、幽香様。ほら、くるみちゃん、行くよ。」

 

私の纏う妖力が少しばかり緊張しているのを察した様子のエリーが、(いぶか)しげなくるみを連れて私から離れ、地上へ降りていった。

 

そしてしばらくして、2人が私から離れたのを見計らったかのように。

 

 

夜が降りてきた。

 

 

久方ぶりに感じる気味が悪い力の波に、ふと懐かしさを覚える。

 

突如、私を取り囲むように、空間に亀裂が入り、その亀裂から凄まじい力の圧とともに数多の瞳が私を見据えてきた。

 

その亀裂の中の1つから、姿を見るのも懐かしい旧友がするりと現れた。

 

「ご機嫌いかがかしら?夢幻の妖怪さん?」

「さっきまでは、良かったのだけれど、今すこぶる悪くなったわ、隙間の妖怪さん。」

 

・・・何百年振りだろうか。

旧友の隙間妖怪、八雲紫が突然私の前に現れた。

 

私を囲うように、周りに展開しているスキマから感じる妖力を見れば、どうやらおしゃべりしにきたわけではなさそうだ。

 

「この度は貴女にお願いがあってお邪魔させて頂きました。」

 

ちらりと、離れたエリーとくるみの方を確認する。

2人とも心配そうにこちらを見ている。

 

「・・・お願いとは、唐突だわね。こんなに、敵意剥き出しでするお願いだなんて、物騒な話になりそうね。」

「内容が内容ですので、これから話す事は他言無用でお願いします。・・・つまりは正しく言えばお願いというよりかは、警告になりますわね。」

「・・・聞くだけ聞いておくわ。」

 

ふと、紫の顔を覗くと、そこにはいつもの胡散臭そうな薄ら笑みを貼り付けた表情ではなく、珍しく真剣な表情をしている事に気が付いた。

まるで、心に余裕がなく切羽詰まったような表情。

 

「話とは、あの方・・・アズールさんの事です。」

 

唐突に出てきたアズールという名前に少し身体が強ばる。

 

「・・・あの日、あの時、あの方、アズールさんが何をして、何を為そうとしたのか・・・。その記憶は封じる必要がある。・・・貴女も、心の中にアズールさんの真実を留めておく必要があるの。」

 

紫は一言一言、ゆっくりと要求を私に伝えてくる。

 

つまり、あの日、あの時の彼女の儚い思い、記憶を封じろと・・・。

 

「・・・納得いかないわね。紫が何を思おうが、あの子の記憶は本来あの子だけのものなのよ?それは、私達がおいそれと手を出してはいけないもののはず・・・。」

「それでも、彼女はあまりにも危険だわ。それも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「・・・」

 

 

そんな紫の言葉に、1つの疑惑の答えを見出した。

 

 

「っ!!」

 

パキパキパキパキパキパキ

 

紫の展開していた隙間の結界が音を立ててあっけなく崩れ落ちていく。

危険を察知したのか、紫が少し後ずさる。

 

 

普段は周囲の花達へ影響を与えないように抑えていた自身に眠る妖力を解放する。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

空気は震え、空間にヒビが入り、全ての法則が少し狂う。

 

そして、世界に影響を与える程の妖力同士がぶつかり合う。

 

「・・・おかしいと思ったのよ。・・・自称魔法の祖とまで言う、悪魔の最高位である、あの子達が予測するよりもずっと、封印期間が長い事に・・・」

「・・・世界に異物が混入したら、排除しなければならないのです・・・。貴女が私の要求を飲まないのであれば、仕方がありません。力ずくで貴女の記憶を封じさせて頂きます!」

 

そして、膨大な妖力同士を衝突させていた私達2人の世界に突如として、静かに境界が引かれた。

 

「『深結界-夢幻泡影(しんけっかい むげんほうよう)』」

 

私を捕らえたのは様々な境界が操られた何重にも重ねられた結界。

そんな、とてつもなく霊力がこめられている結界は正真正銘、本来力を見せたがらない紫が本気で私と対峙する気である証明。

 

「・・・私は今の紫を信用し認める事はできないわ。かかってきなさい、境界の()()()八雲紫!」

 

そんな言葉を皮切りに、結界内に紫の境界を操る理不尽な力が解き放たれた。

 

「っ!!」

 

現実と幻の境界を操られる事によって、急速に私の存在値、妖力が削られていく。

削られていく妖力以上に莫大な妖力を練り上げて、すぐさま純粋な破壊の力を乗せた妖力の塊を結界の外の紫に向けて放つ。

 

「『マスタースパーク』!!!」

 

「っ!!『四重結界』・・くっ!!」

 

私を捕らえる結界を壊す為に放った私の攻撃を、紫は四重の結界によって防ごうとする。

だが、その破壊の光は、私を捕らえる結界ごと、全ての結界を破壊し、そのまま紫も破壊の波に飲まれていく。

 

「『魔眼ラプラスの魔』」

 

光に飲まれたはずの紫が無傷で光から出てくる。

紫に向かう力が全て捻じ曲げられ、逸らされていく。

まるで、襲い来る全ての力の動きを把握して操っているかのように紫に攻撃が届かなくなる。

 

「『ドップラーエフェクト』」

 

紫が握りこぶしを作り、反対側の手を引く。

すると、私の身体が正体不明の引力によって紫の元へと瞬時に引き寄せられた。

 

「・・くっ、ぐう!!」

 

そのまま、引き寄せられた勢いのままに紫から強烈な右ストレートをもらってしまった。

 

凄まじい速度で殴り飛ばされるも、すぐに体勢を整える。

 

・・・紫が体術で攻撃してくるとは予想外で、反応が少し鈍ってしまった。

 

でも、裏を返せばそれ程までに紫は焦っている。

どんな手段を用いても、私に勝つ為に。

 

「『飛光虫ネスト』」

 

殴り飛ばされた私に向かって、まるで、花に群がる羽虫のような、凄まじい数の妖力弾が追撃として放たれた。

 

その弾幕に真っ向からぶつかり、身体に鋭い妖力弾が何度も突き刺さりながらも、瞬時に紫に近付き、膨大な妖力を篭めた拳を紫に向けて放つ。

 

「くっ!!!~~ぐぅ!!」

 

バキバキバキバキ

 

私の拳に篭められた妖力は、大気を破壊しながら紫に衝突する。

拳を直接受けた紫ははるか後方にあった山に吹き飛ばされていき、衝突したのちに、ぶつかった山が弾けて消えてなくなる。

 

だが、しかし・・・。

 

・・・手応えは・・・軽い。

 

恐らく何かしらの境界を操られて衝撃等が軽減されている。

・・・やはりやりづらい。

私と紫の能力の相性はとてつもなく悪い。

私の与えるダメージはほぼ全てが世界の法則に則ったダメージだ。

だから法則を境界によって操る紫には私の攻撃はほとんどいなされてしまうのだろう。

 

「本気で殴り飛ばしたのに、ダメージがそんなに少ないだなんて・・・本当に紫は殴りがいが無いわね・・・」

 

見えなくなるくらい吹き飛ばされていた紫がスキマを通って帰ってきた。

 

どうやら、ダメージは軽減されているが、紫はかなりの力を失っている様子だ。

息を荒らげて、私を睨んでくる。

 

「はぁ、はぁ。・・・相変わらず、貴女は理不尽な妖力をお持ちですわね・・・。」

 

恐らく、私が放った莫大な妖力のエネルギーを完全に無効化しきれずに少しばかりはダメージが入ったようだ。

 

「・・・それは、こっちのセリフだわ。紫の能力は抵抗できないし、やっぱり理不尽で腹立たしいわね。」

 

私も、初めの紫の体術によるダメージと妖力弾によるダメージが蓄積されている。

 

個々のダメージは大した事なかったが、攻撃には紫の特殊な能力も付与されていたようで、様々な境界が捻じ曲げられ、思ったように妖力を練り上げる事ができない。

 

全ての現象に干渉する紫の能力は何者にも抗うことを許さない。

まるで、世界の理を司る神の如き能力だ。

 

そんな能力に対抗できるのは、同じく世界に影響を与える、神の権能の如き力だけである。

 

「・・・今更だけれど、聞いても良いかしら?・・・どうして今まであまり現世に干渉してこなかった紫があの子に限ってはここまで干渉しているのかしら?」

「・・・月に叢雲花に風・・・。あの方は月のように温かな光であり、花のようにあらゆるもの達を惹き付ける。その光は厚い雲で覆い、花は満開となる前に剪定しなければ世界にとって、あの人にとっても災厄の存在となるの。」

「・・・貴女はあの子がどういう存在なのか理解しているのかしら?」

「・・・えぇ、()()()()()()()()()()()。・・・あの人は言わば憑坐(よりまし)。夢と現の間。幻の中で常に迷っている心優しい怪物・・・。」

「・・・憑坐?・・・怪物?・・・それってどういう。」

 

酷く悲しそうな表情で語る紫の姿に驚くとともに、その言葉の真意が分からず呆然としてしまう。

 

「この()()には既存の森羅万象、所持万端の(ことわり)の境界の外側に、()()()()()()()の貴女達には理解し難い概念が隠されているという事よ。」

 

紫はそう言うと、初めの結界とは比べ物にならない程に強力な結界を私の周囲に展開する。

 

「『深結界-夢幻泡影薤露蒿里(しんけっかい むげんほうようかいろこうり)』」

「っ!!?」

 

紫の理不尽な能力によって、とてつもない死の気配を感じる結界に囚われる。

 

すぐさま莫大な妖力を篭めた拳を、最大限効率的に術を発動する為に結界内にいる無防備となった紫に最大速度で突き出す。

しかし、紫は術を解除せずに結界を維持する。

どうやら被弾覚悟で私を結界内に封じたいらしい。

 

そうして、私と紫の最後の攻撃がお互いに衝突する直前。

 

 

「『炎剣レーヴァテイン』」

「『神槍グングニール』」

 

 

2つの小さな影が、私達の間に割って入った。

 

とてつもない力を発する炎の剣は、紫の強固な結界を易々と切り裂き、世界樹(ユグドラシル)の聖なる力を放つトネリコの槍は私の拳を止める。

 

「双方、鎮まるんだ!・・・これ以上の君たちの衝突は世界のバランスに著しく影響を与えてしまう。調停者としては看過できない。まだ、暴れ足りないというのなら、僕達で制圧させてもらう!」

「ゆかちゃんもゆーかちゃんも、本気の喧嘩はダメでしょ?皆で仲良くしましょう。」

 

調停者である2人の吸血鬼が、各々凄まじい力を発する武器を構えて、私達の間に並び立つ。

 

グニールが持つ聖なる力を放つ、神樹で出来た槍に目をやりながら冷や汗をかく。

 

・・・っく。

・・・あの槍はやはり苦手だわ。

 

そうして、調停者のスカーレット達によって仲裁された私と紫は一息吐いて各々纏っていた力を落ち着かせる。

 

そうして落ち着いた紫が口を開く。

 

「・・・調停者であるあなた達2人を相手にするのは、今の弱った状態では難儀だわね。・・・ありがとう伯爵、それにレーヴァ。おかげで少し頭が冷えたわ。」

「誰にだって暴走しちゃう事もあるわ。私もグニールと喧嘩する時はついつい本気で暴れちゃう時もあるからゆかちゃんの気持ちも少しは分かるわよ?」

「・・・君は日頃の鬱憤を僕をサンドバッグ代わりにして晴らしてるだけなんだけどね・・・。ま、まぁ、それは置いといて・・・。紫?やっぱり君はアズール嬢の秘密を色々と知っているようだね。・・・無理に詮索はしないけれど、君の行動からして彼女を害するつもりは無さそうだし、僕達調停者は静観する事にするよ。・・・幽香にも力で言う事を聞かせようとせず、言葉でお願いしてみると良いと思うよ。」

「・・・ありがとう、伯爵。・・・私は、少し焦ってしまっていたようね・・・。幽香。あの方の封印については、あと25年程待って欲しいの。・・・理由は・・言えないわ・・・。けれど決して私はあの方に危害を加えるつもりなんて無いし、そんな事は絶対にありえない。・・・言葉だけの薄っぺらい約束で申し訳ないのだけれど、信じて・・・。・・・それと、先程はごめんなさい。」

 

落ち着いた様子の紫が私に頭を下げてきた。

それと同時に私を蝕んでいた紫の権能が解かれる。

・・・私に素直に頭を下げた紫に正直に驚く。

 

「・・・まぁ、今回はスカーレット達に免じて許してあげましょう。それに、私も、紫の真意を土足で探る様な真似をしてしまったわね、ごめんなさい。・・・紫にも何やら事情がありそうだし、とりあえず不用意にあの子の記憶に関しては関わらないようにするわ。・・・ただし、25年後までに封印が解かれなければ、容赦はしないわよ。」

「感謝するわ、幽香。伯爵達も、迷惑を掛けたわね。・・・でも、あの方。アズールさんは、記憶を思い出すべきではない。詳しくは言えないけれど、それがあの方の為にもなるし、この()()のためにもなる。・・・それに、私は決してあの人の敵にはなり得ない・・・絶対に。それだけは言っておくわ。」

 

そう言葉を残して、紫はスキマへと消えていった。

紫がスキマへと消えていく刹那、ちらりと見えた紫の表情はまるで、幼い少女が不安で泣き出してしまうかのような悲しそうな表情をしていた。

 

 


 

「・・・ふぅ。迷惑を掛けたわね。私が言えた立場じゃないだろうけど、調停者としてご苦労さま。後始末も頑張ってね。」

 

私もそう言葉を残して、心配気に私を見ていた、くるみとエリーを連れて当初の目的通り月光館へと向かう事にする。

 

「皆、またね〜。・・・じゃあ、あなた、後はよろしく〜。」

「え、ち、ちょっと待ってよ・・・。」

 

後に残されたのはあちこちの空間にヒビが入り、荒地となり、ぶつかり合った莫大な妖力の残滓から原初の妖怪達が生まれ始めた魔境に、ポツンと1人残された伯爵だけとなった。

 

「・・・ふぅ。調停者は辛いよ・・・」

 

そうして、世界の修復を始めた伯爵の言葉は誰にも届かず、虚しく虚空に静かに響いた。

 

 

 




〖後書き〗
どうも、仕事休みが取れて時間があったので1話書けて、やったと喜んでいるまほろばです。
休みの間に狂ったように三月精を読み漁るぞー、と本をAmazonで購入したは良いものの、本に傷を付けたくなくて、恐る恐る、ちょびっと開けて読んでます。

それは、そうと32話です!
今話は、裏で起こった、幽香さんと紫さんのガチ喧嘩回です。
ちなみに前話で出て来た、聖教会の禁域指定に関しては、この出来事が発端だったりします。

伯爵は泣く泣く、周辺の吸血鬼などの妖怪の動向を監視しながらも、魔境となった紅魔館、月光館、夢幻館周辺の修復もするという多忙っぷり。
幽香さんと紫さんは自分たちが原因であるのに、これを無視。
夫人もさっさと、旅に出掛けてしまいました。
可哀想な伯爵、グニールくんは今日も不憫です笑

そして。今話から突入した第5章ですが、章タイトル通り、あの悪魔姉妹が再登場して暴れちらします。
少し、原作にoriginalな要素を追加しているので、読んでいて解釈違いなどあるかもですが、ご容赦ください・・・


さて、恒例ですが、今話での作業用BGMを勝手ながら紹介させていただきます。
まずは、東方原曲から
東方Project第13弾『東方神霊廟 ~ Ten Desires.』のEXステージ道中曲。
『妖怪裏参道』

そして、2008年7月3日にスクウェア・エニックス社より発売されたニンテンドーDS用のソフト『ナナシ ノ ゲエム』より。
『ナナシ ノ テエマ』を作業用BGMに使用させていただきました。

これらの神曲を今話の作業用BGMに使用した理由や、感想など、活動報告にあげさせていただきますので、宜しければ御覧になってください。

最近、あぱ様の『毛玉さん今日もふわふわと』や松雨様の『目覚めたら、レミリアとフランの妹になっていました』の更新が多くて、嬉しいと同時に、2作品ともに読み返しているので、時間が溶けていきます笑。
どちらも後書きでは語りきれない程の名作ですので、まだご覧になられていない方は、是非ご覧になってみて下さい!

庇護録もまだまだ続きますので、これからもよろしくお願いいたします!!
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